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パプリカ [2007年 レビュー]

パプリカ」(2006年・日本) 監督:今敏 脚本:水上清資、今敏 原作:筒井康隆

 一瞬、「絵がストーリーを追い越した」かと思った。
 “夢探偵”という設定を使った瞬間から何をしてもOKとは言え、人間は「何をしてもいいよ」と言われると意外と何も出来ないものだ。100万円をポンと渡されて「何を食べてもいいよ」と言われても、結局自分の経験でしかその選択肢をイメージできないのと同じ。そう思うと今敏の“引き出し”はなかなか奥深い。こういう人を世間は「天才」と呼ぶのだろうか。
 しかし「絵がストーリーを追い越す」ことなどやはり無いのだ、とも思った。
 本作は「あわや、追い越しそうになっている」からこそ、劇映画としての面白さにはいまひとつ欠けている気がした。映像の魅力は一朝一夕には語り尽くせないが、脚本は意外と底が浅い、というのが僕の正直な印象だ。今敏はこの映画で何を語りたかったのだろう?(これ以上ここでは突き詰めないけれど)。

 かたやアニメーションというジャンルの新たな可能性は強烈に感じた。
 僕は今年「トランスフォーマー」を観たとき、「CGを使った実写映画はいよいよ限界に来たな」と思った。それは「スター・ウォーズ エピソード2」のときから薄々感づいていたんだけど、「もはやCGに不可能などない」が常識になりつつある今、描き込まれた精巧な“絵”に驚いている時代は確実に終わったのだ。
 それだけではない。デジタル技術の進歩は、実写にしか見えないロケーションも「実はCGかも知れない」、という疑心暗鬼まで生んでしまった。これはリアリティの崩壊を意味している。だからこそ僕は本作にアニメーションの可能性を感じたのだ。
 その最大のポイントは「ディフォルメ」が可能だということである。
 裏を返せば「アニメーションにはリアリティがなくても許される」ということでもある。だからホンの少しでもリアルさがあると「アニメーションなのにスゴイ」という評価になる。かつて大友克洋の「AKIRA」が高い評価を得たのも、アニメーションには必要ないとされたリアリティをあらゆるシーンで追求していたからだろう。そんな背景に「鉄雄」というアニメーションにのみ許された究極のディフォルメキャラクターが登場するのだから、これがウケないはずがないのだ。
 
 精巧に描き込まれた背景を行く、ディフォルメされたキャラクターたち。
 アニメーション映画としての構造は「鉄板」である。
 ただし、「パプリカ」は脚本にパワーが無かった。
 どんなに優れた映像があっても、そこに伝えるべきものが無ければそれは「映画」ではないのだ。
 限りなく「惜しい!」1本。

  • パプリカ

    パプリカ

    • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
    • メディア: DVD

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コメント 4

きりきりととと

原作は好きだったんですけどねー。
by きりきりととと (2007-11-10 09:34) 

ken

原作は「絵」じゃなく「ストーリー」ですからね。
僕も読んでみます。
朝早くからnice!ありがとうございます(笑)。
by ken (2007-11-10 10:04) 

わたしの第一印象は「絵の洪水」でした。
それに圧倒されてスゴイと感じましたが
言われてみれば確かにそのとおりかもしれません。
by (2007-11-10 12:57) 

ken

パプリカの魅力が生きていたかと言われれば、
「100%じゃないかも」と言う人は多いと思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-11-10 23:42) 

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