大きな栗の木の下で 76
　そう云う風に子供と云うものを軸に考えれば、御船さんにも沙代子さんの矢岳と云う男に対する変貌が、なんとなく素直に理解できるのでありました。ま、少なくとも、矢岳と云う男の本性に沙代子さんがやっと気づいた..
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大きな栗の木の下で 75
　それは、あたしが腹を立てるのも身勝手かも知れないけど、だからって矢岳君の身勝手の方が重要度が上だってことにはならないでしょう。その時あたしは、そう思ったの。だから思いっきり顰め面して矢岳君を睨んだの..
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大きな栗の木の下で 74
　あたし、なんか苛々してきてそう云ったんだけど、それはまるで詰問口調になっていたと思うのね。あたしどうしてだか、急に苛々してきたの。 「そうだったかな」 　矢岳君は持って行こうとしていたデモの入っ..
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大きな栗の木の下で 73
「いや、恐らく、･･･」 　御船さんはそう云って沙代子さんを見るのでありました。「沙代子に気持ちの強さや勇気があったとしても、それにずるくてもずるくなくても、矢張り沙代子の気持ちがその矢岳と云う男か..
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大きな栗の木の下で 72
　御船さんは草を多目に毟って、それを力いっぱい前に投げるのでありました。それを見て、沙代子さんが聞くのでありました。 「あたしのこんなつまらない話、御船君、もう聞きたくなんかないでしょう？」 「い..
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大きな栗の木の下で 71
　でも、結局矢岳君はそれが出来なかったの。ううん、要するに、しようとしなかったの。あたしと赤ちゃんは、自分の音楽や、音楽で身を立てようとする志とは対立するものだって、そう見做すしかなかったのよ。屹度成..
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大きな栗の木の下で 70
　おっと、自分は今、ややこしい思索の領域に足を踏み入れようとしているようだと、御船さんは秘かに眉根を寄せるのでありました。そこいら辺に思惟を致すなんと云うものは、御船さんとしてはどちらかと云うと不得手..
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大きな栗の木の下で 69
　矢岳君は次の日の昼過ぎに一端帰って来たの。でもなんか譜面とかノートとかそんなものをかき集めて、次のレコードの打ちあわせで今日も帰れないかも知れない、なんて云ってすぐにアパートを出て行ったわ。赤ちゃん..
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大きな栗の木の下で 68
　海からの風がまた御船さんと沙代子さんの前髪を乱すのでありました。 「案外肝が太いのかも知れないな、その矢岳と云う男は」 　御船さんが前髪を掻き上げながら云うのでありました。 「お父さんの借金や..
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大きな栗の木の下で 67
　沙代子さんは顔を上に向けて古木の下枝の暗がりを見上げるのでありました。 「矢岳君のお父さんは横浜の方で、輸入食材を扱う商社を経営していたの。お父さんはかなりの遣り手で、事業は順調に推移していたんだ..
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大きな栗の木の下で 66
「合気道の大物？」 　沙代子さんが云うのでありました。 「いやあ、合気道を知る以前から描いていた見取り図のことだけどさ、それは。第一、合気道は知れば知る程、俺は端っこの方で地味に地道にやっていく方..
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大きな栗の木の下で 65
　自分は未だフォークシンガーとして大成とは云わないまでも、地歩も固めてもいないと云うのに、そんな折りに、もっともっと先に予定していた筈の自分の子供が誕生するなんて云う事態は、俄かには容認できない事柄だ..
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