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「モーセの口」を名乗るクァルテット [弦楽四重奏]

結局、昨日はカザルスQのチケット、出ませんでした。お聴きになられたかた、どうだったか教えてちょ。

さても、数日前に勝手に言い立てた「大江戸クァルテット祭り」http://blog.so-net.ne.jp/yakupen/2007-11-17、川向こうのご近所様からコメントをいただき、そこで「アーロンQってなんでっしゃろ」と記されておりました。コメントに返す形でもいいんだけど、せっかくだからミューザ川崎のために宣伝してあげましょ。

アーロンQは、小生がまあ商売の中心にしてるいろんなクァルテットとの出会いの中でも、ちょっと変わってます。というのも、このヴィーン在住の4人の男共、結成はまだ10年くらいなんだけど、もうみな40代半ばくらい。つまり、「学生の頃に出会って、学校でクァルテットをやって病気になり、そのまま病状が悪化の一途を辿り、コンクール出てみたり、マスタークラス受けに行ったり、病硬毛、クァルテットで喰おうなど神をも畏れぬ愚挙の遂行に人生を狂わせることになってしまった」可哀想な若者じゃあない。30代半ば、ヴィーン室内管だかの連中がおもむろにクァルテットを結成し、勉強を始めた、ということ。日本で言えば、そう、Qエクセルシオとかアルモニコじゃあなくて、巖本真理QとかゼフィルスQとかみたいな結成のされ方ですね。

結成直後に、なにやらメンバーがオケの仕事などで東京を訪れ、あちこちの音楽事務所まわった挙げ句に、解体騒ぎが始まる直前のカザルスホール企画室アウフタクトにもノコノコ資料と音もってやってきて、チェロ連続演奏会やら、始めようと考えていたクァルテット・シリーズの担当になったばかりのうちの嫁さんに売り込みしてきた。ヨーロッパ関係は日本から渡ったロータスがシュトゥットガルトにいて、スイスにカルミナがいて、ミュンヘンにヘンシェルがいたけど、ヴィーン系はポリティカルに面倒くさいし既得権も多い世界なんでカザルスホール企画室はあんまり積極的じゃあなかったので、逆にこのくらいの世代と付き合ってみるのが良いだろうなぁ、などと考えたようで、比較的前向きに検討しましょう、という感じでした。そのときに持ち込まれたデモCDRは、今も佃オフィスのどっかにあります。

ま、ご存じのように、その後、カザルスホール騒動と世間で呼ばれたことが起き、国有化後の長銀から不採算部門の有無を言わさぬ打ち切りを命じられた親会社の決定で企画室が解散になったために、アーロンQの話は小生の周囲からは消えました。その後、カザルスホール・アウフタクトが始めようとしていたクァルテットのシリーズは晴海のSQWに姿を変えるわけだが、以前のような私企業丸抱えの金銭バックアップは不可能なNPOとなったため、シリーズの性格が大きく変わり、無名なれどヴィーンの団体の招聘なんてことはとてもじゃないけど出来なくなった。で、こんなもーからないジャンルに手を出すまともな音楽事務所などあり得ないわけだから、アーロンQの来日もずっとなかったわけです。

こういう裏話は、どーでもいいといえばどーでも良いことなんですけど、こんな個人電子壁新聞にでも記しておかないと永遠に数人の関係者しか知らないことになってしまうわけで、まあそれでいいといえばいいんだけど、勿体ないから記したわけですわ。

さて、今年の始めだか昨年暮れだか、ミューザ川崎が室内楽シリーズを始めた。あのタイプのホールは、空間の割に客席からの距離が近いので、オーケストラ用大ホールと室内楽用小ホール、リサイタルホールを兼用出来るんですね。このことは案外だれも指摘しないんだけど、意図的にそういう造りになってるんでしょ。で、その利点を利用したシリーズがやっと始まって、日本ではちょっと独特の招聘がされているヴィーハンQなどが登場した。その演奏会の当日配りものの中で、07年暮れにアーロンQをやります、なんてさり気なく書いてあって、おおおおおおぃ、とビックリしたのでありました。http://www.kawasaki-sym-hall.jp/calendar/detail.php?id=eb464eec9087fb512cf8f66be50d2567

慌てて関係者に話をきくと、どうやらこのミューザ川崎の出し物の中身を決められる立場にある某氏が、ヴィーンでこの団体を聴いていたくお気に召し、ほぼ独断で招聘を決めたとのこと。無論、ミューザ川崎には招聘業務はできないから、神奈川の某音楽事務所さんに頼んだそうでありました。で、今回の鎌倉建長寺での演奏会、なんて突拍子もないものが入ってきたみたい。

なんであれ、ベルリンフィルのスター・クラリネット奏者のバックバンドみたいな扱いであるにせよ、やる曲がシェーンベルクの3番とかツェムリンスキーの2番とかじゃないにせよ、ともかくこの連中がやっと東京近郊の室内楽好きに紹介されたのはよろしーことであります。遅くなりましたが、公式ホームページはこちら。じっくりご覧あれ。いきなり「死と乙女」の頭がじゃあああん、って鳴りますので、気を付けてください。http://www.aronquartett.at/

この団体、一昔前のヴィーンの団体とは一線を画し(って、今やもう「一昔前のヴィーンの団体」なんてありませんけど、音盤ファンの方はまた違うお考えだったりしますから)、妙なポルタメントとか、独特の臭いリズムとか、そういうところで売る団体ではありません。ま、名前からして明らかでしょう。団体の経歴としての最大のポイントは、かのヴィーンのシェーンベルク・センターでレジデンシィをしていること。具体的には、あの三角形の建物の中にあるシェーンベルク・センターで毎月1回くらいやってる演奏会に、年に3回くらい登場してます。クァルテットとして出るだけじゃなくて、いろんなアンサンブルもやってるみたいです。小生はシェーンベルク・センターでの演奏会には行き当たったことはないんですけど、他にも直ぐ裏のコンツェルトハウスの室内楽シリーズで年に1回くらい弾かせて貰えたり、近くは今月末頃にムジークフェラインのブラームス・ザールでも演奏会がありますね。これ。

小生は、ライブは一昨年だかグラーツのコンクールに行く途中に数日ヴィーンに立ち寄った際に、コンツェルトハウスで「死と乙女」とかショスタコの9番なんぞを聴きました。ショスタコはいかにも9番らしい精密さとエネルギッシュさを兼ね備えた熱演で、好感度高かったですね。ええ、「死と乙女」は、終楽章でちょっとビックリするような破綻をやらかしてくれて、へえええええあの場所で崩れるんだぁ、なんて些か趣味の悪い勉強をさせてもらった記憶があります。

ヒンクQやらキュッヒルQなどヴィーンフィルのクァルテットを別にすれば、アルバン・ベルクQ以降のヴィーンベースの常設団体は、そう、アルティスQが世間で知られるくらいじゃないかしら。10年くらい前に若手のホープで、一頃今井信子さんが熱を上げてたフーゴ・ヴォルフQは、どうももうひとつ出てこないし、仕事が多い街なだけに、中堅どころで常設は難しい環境みたいですね。うんと若手のミネッティQなんぞの前にいる貴重な中堅どころ、それも「20世紀ヴィーンの音楽」を本気でやる気がある大事な団体として、アーロンQは期待される存在であります。

というわけで、皆様、アーロンQをよろしく、という勝手連作文でした。音もシューベルトとシェーンベルクが正規盤としてあり、前者はかのクァルテット博士幸松さんが「どくとくですねぇ」と仰ってましたよ。

ちなみに、うちの奥さんがこの団体に興味を持った最大の理由のひとつが、アーロンQという大胆不敵な命名にあったそうな。シェーンベルク財団の関係してる団体が敢えてこの名を名乗るんですから、当然、かの「モーセとアロン」のことは頭にないわけがない。「自分らは人々に音楽を伝える口であり、それで良いのだ」という開き直った根性が伝わってくるじゃあありませんか。


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