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悲しき軽運送屋の顛末記-16 [顛末記]

今まで愚痴ばかり書いてきたこのブログ、「悲しき…顛末記」なのだから当然と言えばそれが当たり前なのだが、楽しいことが無かった訳ではない。勿論、金を取ることに楽なことは無い。諸兄にはこんな出来事ぐらいはどこにでも転がっている話、当たり前だと言うことだろう。軽運送をやる前のバブルの時の「本業」がスムーズに行き過ぎて余計に苦渋を感じるのかもしれないが。

スポットをやり始めると金と言うよりも、私の性格に向いている仕事だと思い始めた。空港での人間関係は楽しいものではなかったが、どこにもでもある摩擦である。しかし、荷積みして一歩そこから出れば時間以外の制約は受けず、誰にも気を使わず走る事の楽しみが得られた。毎日違う場所へ向かうのも面白いし、初めての土地と言うものは新鮮な気分にさせてくれた。ものは考えようだ、観光をしながら収入がある。と思えばたとえ夜中に寝ずの走行をしても気分が軽くなる。
もう一つは、多分運送業に携わっている殆どの人が感じる配送先のお客の「ご苦労様」とか「有難う」「気をつけて帰ってください」などの笑顔で見送ってくれる瞬間である。頑張って良かったと思うのは私だけだろうか。


★Photoはイメージです

[こんなことがあった、その9]
空港からの仕事は3年間続いた。その間いろいろな方面に行ったが、その中のベスト3の感激した今も忘れられない情景がある。

●冬だった。空港の貨物地域にはその当時、余り遮蔽物が無かった。特に待機している場所には。空っ風に震えて仕事が出るのを待つグループが一つの塊になっていた。車の中でエンジンを掛けヒーターで温まっていれば良いのだがガソリンもかかるし、一人で待つより人と話をしていたほうが気が紛れる実は孤独な男達なのだ。私の順番が来て行き先は宮城県、仙台だった。この時期の北国に行くのは皆、嫌がる。当然道路の凍結や通行止めなどの困難が待っているからだ。一番恐いのは大型のトラックの荷台から飛んでくる雪の塊である。結構大きなものだ、それが道路上に落ちていても事故に繋がりかねない。しかし、仕事である。ここで次の会員に譲ることも出来るが、それは弱音を吐くことになる。
「意地でも行ってやる」と心に誓って荷積みにいく。荷物は大学の研究施設に運ぶ機材。ちょっと重い(これが後で功を奏したのかもしれない)。
とりあえず、湾岸から首都高、東北自動車道と乗り継いでいく。半分も来た所で雪が舞い始める、それがある地点から横に線を引いたように急に積もっているのだ。
すると、側道に止まる車が列になる。チェーンを着装するためだ。一般車は勿論、大型の四輪駆動車まで停まり始める。「えっ、雪に強いんじゃあないの?その手の車は…」で、私の軽自動車はメーター読み130kmで軽快に飛ばしていく。最初の資金を紹介した時に車の購入価格がチョット高いと思った諸兄は正解。実は四輪駆動仕様なのだ。しかしノーマルタイヤ、チェーンはチャント用意はしてきていたが不安が無い。ランクルとかサファリは重過ぎるのだ。一度横滑りしたら止まらなくなる。それに比べたら我が愛車自体は軽い。しかし、荷台の真ん中に重い荷物が載せてあるのでバランスが良いらしい。まずはこれがなんとも言えない優越感。「そんな馬鹿な」と思われるかもしれないが、良くテレビで放映されている四輪駆動車のトライアルレースなどでジープタイプの中、ジムニーが優勝することでも、実は車体が軽いほうが上手くトルクを使えば扱い易いと言うことなのだ。結局往復ともノーチェーンで走破してしまった。
仙台到着。目的地まではもう少し、「松島」を通っていくルートだ。しかも雪が降っている。観光者はまずこんな天候の日には行かない。だが、これが非常に綺麗!!、地元の人間しか見られない風景だ。勿論観光船は係留されたまま。無粋な観光バスもいない空いた道路をその景色に見とれながら大学へと…なんともメルヘンチックだ。休校だった閑散とした研究室に搬送し終わった時には晴れ間が出てきた。配達終了、帰路につくとまたまた違った松島が見えてきた。今度は島々に雪が積もり海にポッカリ浮いているように見える「白い松島」。その間に日の光が光っている。私は思わず車を停めて見入ってしまった。雪の日の神経を使う運転を忘れさせてくれる、こんな特別な風景を見られてなんだか得をした仕事であった。

●それは深夜に呼び出された。以前の顛末記で書いた「名古屋行き」の便である。そう、例の赤字になった配送、2ヵ月後の入金ではがっかりさせられたこの仕事もまた違った楽しみがあった。
午前零時を回った平日の東名高速道路は99%大型のトラックばかりである。1%が私なのだから前後左右をこの怪物に囲まれる。この仕事をしていなければ経験しないかもしれない。
やはり冬の初めで、その日は晴れていた。途中のサービスエリアで休憩を取りながら眠気と戦いながらの運転だ。一晩中の運転に疲れが出始めたその時、一瞬「夢だ」と思った。東名高速が浜名湖をぬうように走っている。私は目を見張った。夜明けの瞬間だ、今までにも地元では何度も夜が明ける風景は経験している。だが、ここのは違う!! 湖は「インディゴブルー」に静まり返っている。私の車の音だけが響く…ような雰囲気なのだ。周りの地平線はまだ夜の「黒」に沈み、その上の空の一部が鮮やかな「藍」に染まっている。さらにその上部は一線を画して「朱」から「白」にグラデーションしている。しかし、自分の周りはまだ闇だ。遠くの明度とのコントラストが素晴らしい。まるで印象派の絵画を見るような本当はあれは夢だったのではないかと思えるほどの心に残る風景だった。

●ベスト1の場所は静岡県掛川に行った時のことだ。行きは勿論東名高速、深夜から出発して朝一で品物を届ける。走りなれた道になった。完了したところで一眠り…なんて出来るわけは無い。即空港へ帰ればもう一仕事あるかもしれない。しかし、高速は使わない。ひたすら一般道(国道1号線)を急いでいた。とはいっても流石に疲れが出てくる。腹も減ってくる。どこか車を停められるところを探していると、目の前に「道の駅」の標識が。暫く行くと小さな(名前は忘れたが)平屋の建物と数台しか入らない駐車場が見えてきた。私は前夜に握り飯を作ってもらっている。いちいち外食をしていては出費がかさむ。個人業は節約なのだ! 車を降りて建物の中へ、そこは土産物屋である。片隅に軽食が出来るところがある。私は疲れのため少しうつ向き気味で行動していたのだ。そう、下を見ていた。柱には「屋上に上がれます」と書いてある。どうせ朝食を食べるなら明るいところが良いかと、折角のお誘いに上がる事にした。重い足取りで急な階段を登って行った。そこはタイル張りの床に、背もたれも無い木のベンチがあるだけ。下の国道では車の音が煩い。早速弁当を開いて一口頬張ったが、なんとも車の行き来が激しく(丁度通勤ラッシュだった)排気ガスがなんとも嫌になった。そこで後ろを向くことにした。裏は住宅街…と思って振り向いた瞬間、私の握り飯を食べている口が止まった。そこにあったのは画面いっぱいの「富士山」………なんともいえない荘厳な景色! 頂上には雪を被り山肌が深い青で朝日にキラキラ輝いている。バックの空は真っ青、他に何も見えないがその存在感の大きいこと。新幹線などで何度か見た富士山は通過の一瞬のだ。その時は額に入らないほどの壮大な絵画である。当然感激で後ろの車の音も掻き消えていた。

この出来事からは、もう十数年たっているがいまだに目の奥に焼きついている思い出である。

面白い話をひとつ。
私の話ではない。D社の会員ではあるが。仕事が出た、結構遠方への配達だった。場所は確か新潟か秋田あたり。季節は初夏、ドライブには丁度良い陽気だ。土曜日に積み置き、月曜日の朝一に配達という悠長な仕事。間の日曜日はお休み…ってこのチャンスを彼は逃さなかった。家へ帰ると自家用車に荷物を載せ変えた。今は下火になったが当時はワゴンタイプの車が流行っていた。荷物は充分積めるスペースがある。そうして日曜日の早朝出るのだ。助手席には奥さんを、勿論後ろの席には子供たちを乗せて。一泊二日の家族旅行に出発である。聞いた話なので詳しくはわからないがおそらく配達ルート途中の温泉場へ。
勿論、白ナンバーで客の荷物を運ぶのは違反だ。しかし、自家用車に荷物を積んで走っていても誰も咎めない。事故を起こさなければである。何事かあれば貨物保険も出ないし、おそらく営業権も取り上げられてしまうかもしれない。原則的に配達完了した空車は空港に戻らなければならな、定時までに帰れればである。だが、道路が渋滞しているとか、道に迷ったとなれば定時に帰れない場合もある。そんな時は当然直帰でよいのだ。空港に来ても誰もいないのだから。なので、彼は月曜の朝一に配達場所から少し離れたところに車を停め、台車に荷物を積んで歩いて受付へ。その後完了の連絡を入れれば日曜日から月曜日は家族団欒である。昼過ぎあたりに混雑していて帰れないと携帯電話すればノンビリ家に到着だ。
良い悪いは別として、たまにはこんな余禄もあってよいのではないだろうか、普段下請けとしてさげすまれている軽運送屋のささやかな仕業である。
勿論、次の日に出てきた彼の手には会員のためのお土産が握られていた。
上手く仕事が回れば結構楽しい、面白い仕事ではあるのだが。


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幼い時の私的思い出 tom room:「あえぐ夢」 懐かしき私の昭和


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