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「あえぐ夢」 懐かしき私の昭和 序章-1 [思い出]

目の前が真っ白だ。朝靄がかかったように。何も分からないまま、黙々と前へ進んでいく。暫くすると少しずつ、その中にうっすらトタンの垣根で囲まれている家が見えてきた。小さな平屋造りだろう。低い屋根だけが見える。真ん中あたりに、木の合わせ目がずれてしまい、中が覗けてしまう、今にも壊れそうな引き戸の門がそこに現れた。その門の左、一間半ほどのところに人影が…目を凝らして見ると、女の子が立っている。おかっぱ頭の可愛い子だ。短いスカート、指を口に銜えてこちらをじっと見ている。

私が近寄ろうとした途端、彼女はその家の門に駆け込んだ。素早かった。私は追いかけた、門に向かって。吸い込まれるように。
「待って」と言いたかった、だが心の中で叫んでいるだけのようだ。自分で発している声が聞こえないし、私自身の体は見えていない。丁度カメラのファインダーを覗くように移動している。

次の瞬間、シーンが変わってしまった。床がスノコだ。大分時間が経ったそれは端にコケが生えているように見え、ヌラヌラと光っている。視線が上がってゆく。私は風呂場にいた。湯気が凄い。透明な湯の中に先ほどの女の子が入っている。あちら側の淵に腕を掛けて私を見て笑っているのだ。「明日香!」そう、私の幼馴染みの。湯の中で足をばたつかせ片手を伸ばした。その方向から視界に女性が入ってきた。
豊満な乳房とビーナスのように女特有の尻から足のふくらみが眩しい。裸だ。彼女も風呂に身を沈めた。明日香の母親、「夏江おばさん」だ。二人で戯れている。ついたてもないその場所は右を見ると土間と繋がっていて、かまどからも湯気が立っている。手ぬぐいを姐さんかぶりした「ばあちゃん」が夕方の飯の支度をしているところらしい。背中を見せているのに誰だかが分かる。

風呂の先を見ると窓、外には木戸が見え、今まさにそこを開けて「じいちゃん」が帰って来た。昔の荷台が大きい重そうな自転車を引っ張って庭に止めている。後ろからは「博おじさん」が続いて入ってきた。皆揃ったのか、一同で笑っている。音は聞こえなかった。
ひときわ大きな声で笑った気がして風呂場から、かまどのほうへと振り返った。誰もいなかった。再び木戸から続く家への入り口を見るとそこにも誰もいなかった。景色がグルグルと回る。誰もいない。皆、掻き消えてしまった…どこに。


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少し以前の失敗談 tom room:「悲しき軽運送屋の顛末記」


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