エピソード1-3(フィクションなので登場人物は架空の人物です) [創作]
男
あの日、不覚にも名も知らぬ武将に切りつけられそうになった。戦場では何が起こるかわからない。
槍の者二人で両側から刺し殺したまでは良かったが、突然、目の前に武者姿の子どもが現れたのには驚いた。しかも、あれはおなご。あの鋭い眼光は忘れがたい。凛として恐れを知らぬあの目つきは、戦を繰り返してきた自分に勝るとも劣らないものだと思った。だが、所詮子どもは子ども、手綱を持つ手を切りつけ落馬させた。命をとるにはあまりにも惜しいと思った気持ちは一体何だったんだろう。
その後、娘の素性、消息を調べ続けた。
実の親殺しであるからには、恨まぬはずはない。けれど世は戦国。娘も武将の家に生まれたからには、どのような運命も受け入れる準備はできているはずだ。
ハツは本名ではない。しかし、本人がそう名乗りたいのであればそうさせておこう。
男はハツを溺愛した。本来、連れて行くべきではない戦場であっても、男装させて伴った。
愛されれば愛されるほど、ハツは男を憎んだ。チャンスがあれば殺す。
しかし、心とは裏腹に身体はその男を求めていた。
ハツは男と共に城に戻り、異国から来た者と面会することになった。
異国の者たちは背が高く、鼻が高く顔つきも違っている。
「これが天狗というものですか?」と問うたハツに対して男はせせら笑い、そして毬のようなものを示して言った。
世界は丸いらしい。世界は大きく、様々な種類の者どもが住んでいる。この国はこんなにちっぽけだ。こんな小さな国取りに時間をかけていてどうするのか。人生は短いが、せねばならぬことが多すぎる。そなたは子を生め。そしてその子たちを海の向こうの王にする。
異国の者たちは神の話を始めた。
丸い世界を治めているのは唯一神であり、神を信仰していれば皆救われると言う。
ハツは救われたかった。
鬼
男は様々な身分の者に会い、話を聞くのが好きだった。戦のないときはほとんどの時間、人に会っていた。
日が暮れても、異国の者たちとの話は尽きそうになかった。ハツは自室に戻った。
大きな赤い月が庭を照らしている。不吉な色だ。こんな夜でも男は来るのであろうか。
憎んでいたはずなのに、男を待っている自分の気持ちに気づき、自己嫌悪に陥った。毒殺、刺殺、絞殺、あらゆる手段を考えていたのに、もし男を殺してしまったら、自分も生きていけないと思うようになっていた。
月が雲に隠れ、周囲は闇に沈んだ。かさこそと庭の奥から音がする。
「誰かいるのか?」ハツは低い声で尋ねた。
身なりの貧しい老婆が茂みから這い出てきた。
「久しぶりだな」
老婆はそう言うと不気味な表情でニヤリと笑った。
「獲物としては上々だな」
その声を聞いて、ハツは震えた。
「二度と現れないで」その声は懇願しているようだった。
「そうはいかない。たった二人きりの一族の末裔ではないか。共に生きよう」
ハツは恐怖で失神しそうだった。
急に波瀾万丈な予感ですねー。期待して続きをお待ちしてます。(^^)
by kyao (2006-09-02 07:26)
お待たせしています。続きますよ~
by りんたろ (2006-09-13 21:33)