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シャコンヌ(バッハ) [バッハ(J.S.)]

その男は、12時30分に晴海のトリトンスクェアに着いた。
仕事の約束は2時だった。
「さて、どこかでランチでもゆっくり食べるか」男は、思った。
エスカレータを乗る前に一枚のチラシが配られた。
【第一生命ホールロビーコンサート 入場無料】
ふと、曲目を見ると、バッハの無伴奏パルティータの2番と書いてある。
「おおっ、シャコンヌが生で聞ける」
男は、第一生命ホールロビーへ急いだ。
そして、席につくと、演奏が始まった。
至高のひとときが、こんな時間に体験できるとは、思わなかった。
演奏が終わり、男は、とてもとても幸せだった。
「さて、今日は、すばらしい一日だ。 仕事もきっとうまくいく。」男は思った。
「思い通りにならないのが人生だ。」と感じたのは、5時過ぎだった。

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さて、上記は今日の実話である。ということで、今日は、バイオリン独奏曲の
「無伴奏パルティータ第2番」の最終楽章のシャコンヌである。

バッハのシャコンヌ。この曲は、どんな言葉で表せばいいのだろう。
マンガ[美味しんぼ]では、至高vs究極 の料理の戦いがあるが、
音楽で、至高vs究極 の戦いがあって、私が至高側だったら、
まずは、このバッハのシャコンヌのをだすだろうな。
究極側が、ベートーベンの後期弦楽四重奏をだそうが、ブルックナーの9番をだそうが、
マーラーの9番をだそうが、モーッアルトのレクイエムをだそうが・・・・
私の中では、至高のシャコンヌの勝ちである。(えっ、わかりにくい表現ですか・・・)

崇高な音楽である。一つの世界がここにはあり、なにものも寄せ付けない何かがある。
バイオリン一本で、この世界が描かれるとは、奇跡としかいいようがない。
いい加減に音楽を聴き、いい加減にピアノを弾くのも否定はしないが、(ははは、私のことだな)
この曲だけは、多くの人に真剣に聴いてほしいし、弾くのも真剣に弾いてほしい。

この曲には、他の楽器や管弦楽等への数多くの編曲がある。
ピアノ曲にも多くの人が編曲しているが、有名なのは、ブゾーニと、ブラームスだろう。

ブゾーニの編曲は、ピアノの機能をフルに活用した華麗な編曲で、対旋律も付け加え、
独自の世界を描いている。この編曲自体、私は否定しないし、ピアノへの編曲としては、
最もすぐれていると思う。しかし、問題は、演奏スタイルである。
ブゾーニの編曲では、どうしても、力まかせにこれみよがしに技巧をショーのように弾く演奏もある。
これだけは、私の趣味に合わない。だってあの崇高なシャコンヌですよ。

ブラームスの編曲は、左手一本の為に書かれており、とてもシンプルである。
クララ(シューマンの奥さんでブラームスが恋していた女性)に捧げられている。
クララが「まるでバイオリニストになった気分になれるピアノ曲」と表現したように、
シンプルだか、ブゾーニとは別の意味で、シャコンヌの精神を表す名編曲である。
(実は、この曲はクララが、右手を痛めた時に、偶然、ブラームスがクララに
 捧げたことになっているが、私はきっとブラームスはクララが手を痛めたことを
 知っていて、この曲を書いて送ったと思うなあ。たまには、ブラームスさん、やりますね)

とにかく、今日、シャコンヌの生演奏を聴けた時間は、至高の幸せだった。
たまには、こういう音楽を真剣に聴くのも悪くない。

しかし、芸術とは、既成概念を壊すことでもある。
そのうち、お茶目なシャコンヌの演奏や、ゴージャスで厚塗りのシャコンヌの演奏等も
多く出てくることだろう。

しかし、少なくとも今は、私には、それは想像したくない。


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コメント 7

nyankome

こんにちは。はじめまして。
シャコンヌは以前、ピアノ、バロック・ヴァイオリン、ギターで聴くという3回シリーズのコンサートに行ったことがあります。
勿論、ピアノのときはブラームスもブゾーニも聴けました。
どの楽器で弾くにせよ、ゴシック建築のように壮大な曲ですね。バッハは偉大です。
私はギターを弾きますが、2/3のところでレッスンをおいてしまいました。(長いんだもん。)
by nyankome (2006-06-19 22:20) 

Cecilia

「美味しんぼ」、おもしろいですよね!
みどりのこびとちゃんも結構漫画好き?
最近山岸涼子の「イシス」というのが気になって買ってみたら結構はまりました。「ツタンカーメン」も読みたくなりました。
「エマ」、いいです!
是非読んでくださいね。

バッハが好きな私ですが、「シャコンヌ」を敢えて聴くことは滅多になかったです。
崇高すぎるからでしょうか?
「小フーガ」とかも敢えて聴いてないなあ・・・。
ここら辺の曲は”モダン”な感じがします。
私はバッハは楽しい雰囲気の曲を中心に聴いているのでしょうね、きっと。



by Cecilia (2008-04-15 08:11) 

みどりのこびとちゃん

はい、結構、漫画好きですが、
家族は、娘も含めて、あまり興味がなさそうです(笑)
「エマ」は、機会があれば、読んでみます。

シャコンヌは、楽しいという部類の音楽ではないですよね
聴くのに覚悟?がいります
by みどりのこびとちゃん (2008-04-16 00:14) 

みどりのこびとちゃん

あれっ、なんで、コメントの返事を書かなかったのだろう?
nyankome さん。コメントありがとうございます。
(って、2年前のコメントに返事しています。す、すいません)

途中までても、ギターで弾けるのは、すばらしいです。

by みどりのこびとちゃん (2008-04-16 00:17) 

spectra

初めまして。

私も、バッハのシャコンヌは大・大・大好きで、
人類の宝であると思っております。

これを越える作品は、恐らく出てこないでしょう。

貴殿と同じく、何故たった一本のバイオリンで、
あのような壮大な世界観を創造できたのか、
全く凡人である私には想像もできないです。
(バッハ自身も、この曲が作曲できたのは疑問だったのでは?
と思うほどの完成度ですよね。
最早神の領域に入っていると思います)

私は中学一年にこの曲に出会い、現在28歳ですが、
かれこれ4~5千回はこの曲を聴いております。(←嘘ではないですよ)
何度聴いても全く飽きません。

バッハのシャコンヌは様々な楽器にアレンジされており、
どれも悪くはないのですが、オリジナルのバイオリンには到底及ばないと思います。

私は10数人の演奏者のシャコンヌを聴いて来ましたが、
私の圧倒的にお勧めなのは、故アルテュール・グリュミオー氏の
奏でるシャコンヌです。

技巧、表現力、情緒性、どれを取っても超一級品だと思います。
機会があれば、是非お聴きくださいな~

by spectra (2008-05-20 21:26) 

みどりのこびとちゃん

spectraさん、コメントありがとうございます。
さつそく、グリュミオー氏の演奏聴いてみます。

しかし、このバッハのシャコンヌという曲、
おっしゃる通り、バッハも、思ってもみなかった曲かもしれません。
それほど、完成度は、高いと私も思います。
というより、文章で書けないですね、この曲は、・・・
by みどりのこびとちゃん (2008-05-21 00:46) 

spectra

こちらこそ、お返事コメント有難うございます。

みどりのこびとちゃんさんの仰る通り、
シャコンヌは言葉では言い尽くせないですね…
ともかく、聴いてみるしかないですね。
それも、一度や二度ではなく、何度も繰り返し聴き続けることによって、
この作品の奥深さや真価が分かってくる、そんな曲だと思います。

しかし、私が不満なのは、このシャコンヌの知名度が
あまりにも低いことです。

先日、とあるOB会に出席しまして、出席者が150人くらい
いたのですが、シャコンヌを知っているか皆に尋ねたところ、
知っていると答えた人は何とたったの5人でした。

G線上のアリアとか、主よ、人の望みの喜びよ、とか、
小フーガとかの知名度はかなりあるようなのに、
肝心のシャコンヌの知名度の低さに愕然としました。
(もちろん上記の曲も名曲なのですが)

文部科学省は、何故小学校や中学校の音楽の教科書に、
このシャコンヌを掲載しないのか、疑問でなりません。

雑文失礼致しました。


by spectra (2008-06-16 21:20) 

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