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ブラック・スライド・マントラ ★ [笑ったり遊んだり]

イサムノグチ展に行ってきました。
ブラック・スライド・マントラの紙工作
※画像は合成写真です。

本当は、夏休みに札幌芸術の森に行って、同展を観覧したかったのですが、札幌滞在期間が短かったのです。しかたがないので、7/1のグランドオープン直後のモエレ沼公園訪問を優先させてしまい、イサムノグチ展を観ることができませんでした。今般、巡回で東京にも来てくれたので、(MOTは『エナジー・ヴォイド』の展示方法などで、札幌芸術の森とはおもむきが異なっていることは承知しつつ)、やっと観に行くことができました。いやぁ、楽しかった!

個人的には、1933年(28歳)の『プレイマウンテン(遊び山)』試作品に、大満足でした。若いころからとても長い間、あきらめずに構想をあたためて、モエレで具現化した『プレイマウンテン』。その形が、原型から変わっていないことを、あらためて確認できたことが、大きな収穫でした。本当に作りたいもの・本当に欲しいもの・心の底から願い続けることで、本当に作り出すことができる、という好例で、この偉業を思い出せば、さまざまな機会に勇気が湧くだろうと思います。

ミュージアムショップでは、「組み立てて遊ぶオクテトラ」などの紙工作のキットが、グッズ販売されていました。こういうものがプロダクトとして発売されるというのは、本当に嬉しいなぁ。紙工作万歳! ……買いませんでしたけど(自分で作れますからね)。また、展示会場では、いい歳の大人たちが、ちまちまと「組み立てて遊ぶワークシート」の紙工作アートで遊んでいたりして、子どもっぽいところもあるイサムノグチの一面を、うまく伝える好展示になっていました。

イサムノグチという芸術家については、近年のブーム(?)のおかげか、雑誌の特集などで語られることも多く、あらためて説明することもないでしょう。興味を持って調べれば、たくさんの文献や資料にあたることができます。ドウス昌代『イサム・ノグチ —宿命の越境者(上下巻)』を読めば、彼の一生について概観できますし、膨大な作品についてざっくりとまとめてあるムック本としては、『Casa BRUTUS特別編集 イサム・ノグチ伝説』が、比較的手に入りやすく、初心者でもじゅうぶん楽しめるでしょう。

イサムノグチは、意志の強い人でした。その一方で、たいへん繊細な神経の持ち主でした。晩年(1988年の一年にも満たない期間!)、札幌市と共同で、モエレ沼公園建設などのプランをすすめてゆく際に、担当者に「行政といっしょに仕事をする苦労はよく知っていますから」と、ぽつりと漏らしたそうです。自分の芸術を実現するために表現者として妥協できない点と、公共事業ゆえに妥協せざるをえない点。創造の苦しみを味わいながら、外圧とも戦いました。その結果、彼はたくさんのすばらしい作品を後生に残したのです。

ボクは、札幌で1993年(1994年?)に、テレビドラマで仲代達矢主演の『イサムノグチ』を観て、彼に興味を持ちました。仲代達矢は、イサムノグチに似ています。眼力の強さや深く刻まれたしわなど、そっくりです。名優・仲代達矢が迫真の演技を魅せた2時間特別ドラマ『イサムノグチ』は、一部ドキュメンタリータッチな演出を挟みつつ、イサムノグチの一生に迫る内容だったと記憶しています。今回、いろいろ調べたのですが、映画とは異なり、残念ながら10年以上前のテレビドラマについての資料は、ほとんどみつけられませんでした。

札幌市は、最晩年(1988年)のイサムノグチと、短くも濃密な接触をもって、彼の最後の大作『モエレ沼公園』を計画・完成させました。また、大通公園に『ブラック・スライド・マントラ』を設置することを約束し、彼の死後、4年近くの歳月が流れたのち(1992年)、彼が希望した場所に、この彫刻を設置することができました。テレビドラマは、ブラック・スライド・マントラの設置と、建設途中のモエレ沼公園を紹介して終わります。

大通公園は、碁盤の目状に広がる札幌市街地を、東西に横切って伸びる緑豊かな公園です。公園を分断するように南北方向に自動車道路が走っており、視察に訪れたイサムノグチは、散歩の足が信号機で止められるのをひじょうに残念がったそうです。テレビドラマのイサムは、とつぜん車道に飛び出し、車にひかれそうになりながら、「ここだ、私の彫刻を置く場所は、ここ以外にあり得ない!」と叫んで、市の職員を慌てさせます。

実際の行動がそんなにエキセントリックだったのかは判りませんが、いかにも彼らしいエピソードです。そんな彼の勢いに気押されたのか、最期の力をふりしぼった作品の意図を、担当職員が深く重く受けとめてくれたのか、札幌市もなかなか粋なはからいをします。実際に、道路の一本を廃して、大通公園にブラック・スライド・マントラを設置したのですから。

ブラック・スライド・マントラ(実物)
※画像は、実物のブラック・スライド・マントラ。引用元は、札幌市観光案内「ようこそさっぽろ」です。


ブラック・スライド・マントラは、彫刻作品です。しかし、すべり台という遊具でもあります。他の彫刻作品のように、美術館に据えられてロープで仕切られて、手を触れてはいけないという、高嶺の花ではありません。イサムノグチは、「どんどんお尻ですべりおりてほしい、子どもたちが遊ぶことで磨かれて100年後に作品が完成するのです」、と語っています。黒い花崗岩で形作られたのは、雪深い札幌の街で、雪の白と彫刻の黒の対比を美しく楽しんでもらいたい、という意図があったそうです。

実は、冬の間は、ブラック・スライド・マントラには近付くことができません。積雪が踏み固められて氷になって、ただでさえつるつる滑るのに、さらにすべり台で滑るなんて、危険きわまりない、というような理由でしょう。また、雪まつりが開催されて、たくさんの観光客がおとずれる大通公園は、同時に大量の雪が積みあげられる「雪置き場(雪捨て場!?)」でもあります。ブラック・スライド・マントラは、残雪と雪像のはざまに隠れて、ほとんど見ることができません。目立たずひっそりと、雪の中に埋まってるんですから、白と黒の対比、という芸術家の崇高な意図も、残念ながら伝わらないのです。

ちなみに、昔、ボクたちが雪まつりに参加して作り上げた「ダイアナ」という雪像は、ブラック・スライド・マントラのすぐ隣にありました。ダイアナという、立方体に円形の穴を空けただけの幾何学的な雪のかたまりは、ボクなりのブラック・スライド・マントラへのオマージュでもありました。ブラック・スライド・マントラは、円形の穴をくぐって階段をのぼり、頂上から滑ります。ダイアナは、円形の穴にもぐりこんで、記念写真を撮ります。どちらも触れて楽しめる彫刻作品なのです! (……本当は、雪像には手を触れてはいけなかったのですが)


紙工作でブラック・スライド・マントラの気分を味わってみましょう。
◆紙工作のブラック・スライド・マントラ(約220kb)
※PDFファイルの紙工作型紙(無料)です。転用・転売・直リンクなどはご遠慮ください。

紙工作のブラック・スライド・マントラ(正面) 紙工作のブラック・スライド・マントラ(ななめ後ろ)
※【写真左】正面から見たところ。紙工作ではすべり台の斜面をばっさり省略しました。
※【写真右】ななめ後ろから見たところ。実物よりもかなり細長く(スリムに)作っています。

紙工作のブラック・スライド・マントラ(鳥瞰) イサムノグチのサイン(偽)
※【写真左】上から見たところ。背面の丸い穴から円柱の中心(頂上)に階段でのぼって、反時計まわりに「の」の字を描いて滑りおります。
※【写真右】こだわりの、イサムノグチの(非)直筆サインもばっちり!

おまけ。
試作品
※あまり真面目に試作を作らないボクですが、この微妙なラインを出すのに手こずって、4回も試行錯誤しました。


シンプルな形状と思いきや、とても複雑な面を持つ彫刻です。最初は、少なくともすべりおりるための、らせん状の斜面くらいは、再現しようと思っていたのですが、面と面のつながりを立体的に考えると、どうせつじつまが合わなくなるに決まっているので、あきらめました。だれもがパッと見て、「あぁ、ブラック・スライド・マントラだね」と、すぐにうなずけるポイントは、巻貝のようならせんのシルエットですから、シンプルに、紙の良さを活かして作ることにしました。

ちなみに、実物よりもかなり細長く作ったのは、紙工作が見下ろす視線で見られることが多いからです。実物は巨大で、見上げる視線で見つめますから、そびえ立つような高さを感じます。そのままの縮尺で紙工作にすると(見下ろすと)、短く見えてしまい、高さを感じられません。印象を優先して、細長く、すっきりとしたシルエットにデフォルメしました。写真を並べるとぜんぜん違う別物に見えてしまいますが、卓上に飾るオブジェとしては、これくらいスマートなほうが気に入ってもらえると思います。


【追記】
「ブラック」があるなら、「ホワイト」=白いスライドマントラもあるのでは? ……するどい! アメリカ・フロリダ州マイアミのベイフロントパークに、白いすべり台彫刻が据えられています。

Isamu Noguchi's Slide Mantra
※画像は、上記ベイフロントパーク公式サイトから。

1986年に発表された作品ですから、ブラック・スライド・マントラの前身とも言える作品です。残念ながら未見(未滑り)なのですが、写真で見るかぎり、ブラック・スライド・マントラに比べて、ややずんぐりむっくりな印象で、厚み部分の縁も、いくぶん単調な面取りになっているようです。ブラック・スライド・マントラの波打つようなうねるような縁の独特の面取りは、紙で無理して再現すると、全体のシルエットを壊しかねないと思ったので、きっぱりあきらめました。……紙粘土で作ろうかなぁ。


【追記2】
モエレ沼公園については、ものすごぉくたくさん思い出があるんだけれど、また次の機会に書くことにします。入園無料である、ということが、あんまり知られていないんじゃないかと思って、それがちょっと残念なんですよね。


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ヴィトン コピー

今日は~^^またブログ覗かせていただきました。よろしくお願いします。
by ヴィトン コピー (2013-06-28 20:30) 

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