モーツァルト「フィガロの結婚」ザルツブルク音楽祭2006年 [オペラ映像]
白黒の簡素な舞台なのが新国立劇場の「フィガロの結婚」と似ています。でも、物理的にではなく、とにかく暗い。特に1幕は慣れないせいか、私の側に問題があったのか、とっても疲れました。
各所に、どうも気色悪いというか、心理的に抵抗のある場面があるのですが、怖いもの見たさも手伝ってか、慣れか、とにかく退屈はしません。知らず知らず引込まれてしまいます・・・。
違和感ありの部分をいくつか。
終始、黙役の天使、いたずらキューピットが登場します。お小姓ケルビーノと同じ格好。天使には翼があるけど、ケルビーノにはないだけ。背格好が天使のほうがぐんと大きいのに意味があるのかないのか。この辺、キューピットとケルビーノの表裏一体だけを意図したのなら、サイズも合わせてもらいたいのですが、オペラだから、その辺があいまいで、わかりません。
1幕フィナーレのあの有名な「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」の場面は、酷い。暗澹として気が滅入りましたし。いわゆる「いじめ」や当然のように行われてきている「イニシエーション」は、人間のねたみ心のあらわれではないかと思います。この心理はたしかに強烈だとは思いますが、喜劇の中で、あそこまで深刻に見せつけられるのは相当きついです。キューピットもあきれて飛んできてケルビーノを救出するほどですけど、時すでに遅し。なんとも可愛そうなケルビーノです。
この天使くんが登場人物達を操っているという設定なのは良しとしても、物理的に激しく絡むのが、うるさいです。まさに五月蝿い。例えば、3幕での伯爵に対する絡み方は度を越しています。
あるいは、やはり1幕、車椅子のバルトロが、車椅子から落っこちる姿はいくらなんでも悲惨すぎ.....。でも、次の幕では杖ついて歩いてるし、最後には杖なしだったから、これも詐病とまでは言えないけど、体調によってか、心理状態で歩けたり歩けなかったりするってことなのかしら・・・ ドン・クルティオ(判事)は丸い黒めがねに白い杖で、盲人らしいのですが、なんだかピノッキオに登場するキツネとネコの悪者コンビを思い出してしまいました。このキツネとネコって、偽障害者でしたっけ?
ところが、フィナーレ、伯爵が夫人に許しを請うところでは、こういう胸が塞がるほど暗くて苦い気分が前面に出ているような部分はどこかに吹っ飛んで、素直に胸がいっぱいになります。ほんとにあそこの音楽は人間性の最善の姿を映しているようです。好き嫌いは別として、これはこれでおもしろい「フィガロの結婚」と言えると思います。喜劇の中に隠されてきた人間心理の醜い部分を赤裸々に見せてしまわざるを得ないような現代社会を反映しているのでしょうか。ほぼ15年前の、沸き立つような生命力があふれる、明るく肯定的な「フィガロの結婚」は影も形もありません。
モーツァルト:フィガロの結婚
ニコラウス・アーノンクール指揮
クラウス・グート演出
2006年 ザルツブルク音楽祭
伯爵:ボー・スコウフス
伯爵夫人:ドロテア・レシュマン
フィガロ:イルデブランド・ダルカンジェロ
スザンナ:アンナ・ネトレプコ
ケルビーノ:クリスティーネ・シェーファー
マルチェリーネ:マリー・マクローリン
バルトロ:フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ
バルバリーナ:エヴァ・リーバウ
※こんなサイトがあります。全部見るのは至難の技のようですが・・・
これも前回の記事の《コジ》同様、リアルタイムで頑張ったんですが、2幕まで観て挫折しました(^^;
途中までしか観てないのにいうのもなんですけど、
> いたずらキューピット
が、けっこう邪魔かなって(物理的にも心理的にも)思いました。
マクローリン、相変らず艶っぽい美人だし、お芝居も巧いですよね。
2幕まで観た感想としては、これが一番印象に残っていたり…^^;
by ヴァラリン (2007-02-27 19:13)
あ~
皆さんこれご覧になったのですね!
私はブログ立ち上げのせいで見逃しました。
そうですか・・・
なんとなく想像しちゃいました。
お話の仲間に入れなくて残念。
アーノンクールだから沸き立つような音楽は期待してないですが。
by ななこ (2007-02-27 20:01)
私はヴァラリンさんと逆で、2幕の終わりごろから思い出して見ました。そんなわけで、私も途中からしか見てないのになんですけど、
>天使くんが登場人物達を操っているという設定なのは良しとしても、物理的に激しく絡むのが、うるさい
私もあそこまで直接的に触れなくても良いんじゃないかと思いました。特に伯爵のアリアの場面は、肩車されたり蹴ったりほんと文字通り「五月蝿い」(^_^;)もう少し笑える感じの絡みにしても基本的な演出コンセプトは伝わると思うんですけどね。
>人間心理の醜い部分を赤裸々に見せてしまわざるを得ないような現代社会を反映
ドイツ語圏ではオペラをシリアスに意味深に読み替えるのが流行ですよね。今回のはわざと笑わせない演出だったと思いますが、やっぱり「フィガロの結婚」は伯爵の空回り具合を笑わせて欲しいです。思いっきり笑わせながら暗部に気づかせるような演出が理想的です~。
おそらくBS2にもそのうち登場するでしょうから、見逃した部分を今度こそしっかり見たいと思います。シェーファーのガキっぷりと、スコウフスの後頭部と滝のような汗も再確認したいですし(^^)かなりギスギスしていて「好き!」とはいえないけれど、興味深い演出でした。
by Sardanapalus (2007-02-27 20:56)
edcさん、TBありがとうございます。TB返しさせていただきました。
最近の上演は、「黙役」を使うのが流行っているのでしょうか。
2,3年前のスポレート歌劇場の引越し公演の「フィガロ」でも、黙役がちょろちょろとでしゃばっていました。
モーツァルト/ダ・ポンテ三部作は、笑わせながらも、しっかりと人間の悪魔性が描きこんいるので、ことさら強調するような演出しなくても…と私は思っています。
でも、わかる人だけわかるというのではなく、目に見える形=演出で前面に出さなければいけないのが、現代なのでしょうか。
それでも、不快さは拭えなかったものの、私も観てよかったと思っています。
by なつ (2007-02-27 23:11)
レポートを読む限り何かすごく変わった演出で余り笑えるようなところなさそうですね。けど説明されてたような解釈も興味があります。アメリカは残念ながらオペラのテレビ放送は殆どないので4月DVDが発売されてから観るつもりです。特にネトレブコ好きの自分には見逃せないので。
by 蘭丸 (2007-02-28 01:38)
>スコウフスの後頭部
あれはごく自然な老化現象ではないかと思いました^^;
バルトロのはカツラでしょう。しかも、懐かしの?バーコードm(_ _)m
>滝のような汗
3幕のアリア中、ずっと天使に集中攻撃されてましたからねぇ.... よく我慢したものです。それはともかく、これも好みは別として、独特の伯爵像として存在感抜群。今まで映像でみたスコウフスの中で、一番気にいりました^^! ネトレブコも昨年の椿姫より好きです。こちらも他の素敵なスザンナたちとはまた違うタイプの魅力的なスザンナでした。二人に限らず歌手は全員ほんとうに自然な感じで役にはまってたと思います・・・
by euridice (2007-02-28 06:08)
>とにかく退屈はしません。知らず知らず引込まれてしまいます・・・。
演出に関しては同感です。
壁に字や木の葉が投影されるところとか、簡素でもちょっとした工夫があって、そういうのはいいなと思いました。
というか、最低限そのくらいはやって欲しいな、と。
by わびすけ (2007-03-01 07:01)
わー、これ録画しただけでまだ見てないんですよ~。
音源はわりと気にいって聞いているんですが、
・・・見ないで聞くだけのほうがシアワセでいられるかな、どうしようかな、
と、迷い中です(笑)
by (2007-03-01 21:57)
えうりでぃちぇさん、
はじめまして。前からちょくちょく覗かせていただいていましたが、当方でも「フィガロ」の記事を載せましたのでTBさせて頂きました。
確かにこの演出、暗いですね。僕も好みではありませんが、何だかんだ言っても引き込まれてしまいました。出演者の魅力?音楽の立派さ?でも、シェーファー登場場面以外は繰り返し見ようという気にはなれません。
これからも寄らせて頂きますので宜しくお願い致します。
by YASU47 (2007-03-03 22:10)
YASU47さん、コメントありがとうございます。
>何だかんだ言っても引き込まれてしまいました。
好き嫌いは別として、同感です。
おじゃましてみたら、おもしろいブログ名が記憶にありました。私も以前にもおじゃましたことがあります。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします。
by euridice (2007-03-03 23:09)
りょーさん
>迷い中です(笑)
よくない先入観をあたえてしまってごめんなさい。でも、見たほうがきっとおもしろいと思います^^;
by euridice (2007-03-03 23:12)