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椿三十郎 [2008年 レビュー]

椿三十郎」(2007年・日本) 監督:森田芳光 脚本:菊島隆三、小国英雄、黒澤明

 至福の映画館はしご2本目はコレ。
 
 オリジナル版「椿三十郎」を観たとき、僕は「文句なく面白い」と書いた。
 リメイクを仕掛けたのは角川春樹。撮ったのは森田芳光。
 脚本の変更は一字たりとも許されないという条件の下、リメイクが許されたと聞く。
 本作はそれが仇になった。
 一番被害を被ったのは主演の織田裕二だ。
 そもそも“椿三十郎”というキャラクターは、1961年に公開された「用心棒」の“桑畑三十郎”を継承したキャラクターである。このキャラクターを作り上げたのは紛れもなく三船敏郎であり、菊島隆三たちは“三船桑畑三十郎”をイメージしながら「椿三十郎」の脚本を書いた。
 つまり変更の許されない「椿三十郎」の脚本は、三船敏郎のための脚本であって、織田裕二のための脚本ではないのだ。
 三十郎のセリフを見ると良く分かる。
 やたらと連発する「~だぜ」という言葉尻を三船敏郎は得意としたが、織田はまったく使いこなせていない。しかしそれも当然。60年代の日本映画ではよく聞く言葉尻だが、少なくとも今の言葉じゃないのだ。せめて織田には自分のセリフに直す権利を与えてやりたかったと思う。

 三船敏郎と織田裕二の“器”の差は比較しようが無い。
 しかし僕はこの仕事を引き受けた織田裕二はエライと思った。
 椿三十郎のキャスティングがどういう経過で進んだのかは知らないが、仮に僕がキャスティングプロデューサーならこんな候補を挙げるだろう。
 浅野忠信、阿部寛、市川海老蔵、市川染五郎、大沢たかお、オダギリジョー、佐藤浩市、中村獅童、反町隆史、本木雅弘、役所広司、渡辺謙。
 「日本には役者が少なすぎる」と嘆きたくなる数だが、それでもこの顔ぶれでさまざまな三十郎がイメージ出来るはずだ。
 では僕がそれぞれの役者のマネージャーだったらどうするか。
 少なくとも躊躇すると思う。
 オリジナルは黒澤作品の傑作。しかも「世界のミフネ」と謳われた人が演じた役である。気になる脚本は契約の関係で手が加えられないと言う。そう聞いたら誰もが腰が引けるはずだ。
 織田裕二も決してすんなり決めたわけじゃないだろう。いろいろ考えることもあったと思う。しかし結果として織田裕二はこの仕事を引き受けた。“火中の栗を拾う”とはまさにこのこと。「織田裕二は男だな」と思った。

 オリジナルで仲代達矢が演じた室戸半兵衛は、可哀相だけど豊川悦司では力不足。
 豊川は声を張り上げるとキーが高くなるのが難点で、室戸のようなドスを効かせる役は似合わないのだ。
 ここは伊原剛志、真田広之、香川照之といった“重し”となる人たちにやってもらいたかった。
 加山雄三が演じた井坂伊織は松山ケンイチ。…誰か他にいなかったかなあ(笑)。
 千鳥の鈴木杏も個人的には趣味じゃなく、腰元の1人で森下千里が出てきたときには「志村けんのバカ殿」かと思ってしまった。

 さて「椿三十郎」と言えば、知る人ぞ知るラストシーンが最後の見せ場なんですが…正直ガッカリです。
 織田裕二が頑張ってきた110分のすべてをブチ壊したラストです。
 オリジナルを観た人で、これからリメイクを観ようと思っている人。ここだけ諦めて下さい…。
 どういう理由があったか知りませんが(R指定にしたくなかったんだろうな)、一言だけ言っておきたいと思います。
 森田芳光のバカ!

 未見なら、ぜひオリジナル版を観てください!

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  • 出版社/メーカー: エイベックス・エンタテインメント
  • メディア: DVD


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コメント 15

魚河岸おじさん

ヤッパリ、ラストはねぇ~
ソコはガッカリでしたが
ボクは普通に楽しめましたけど・・・・
黒澤作品に触れるきっかけになってくれればよいかと・・・
by 魚河岸おじさん (2008-01-06 16:54) 

mouse1948

こんばんわ。
三船の「椿三十郎」はとても面白く楽しい映画でした。
織田裕二は好きな俳優の一人です。
でもリメイクで脚本の一言も変えられない、とは厳しいですね。
私は織田裕二がどこまで三船に迫れるか期待したましたが、駄目でしたか......。
またその他のキャスティングの全てに駄目だしをしていますが、そんなに酷いんですか?
そもそも完全主義者の黒沢明の監督作品はリメイクは無理ですね。

まだリチャード・ギアの「シャルウィーダンス」がまし?
by mouse1948 (2008-01-06 18:25) 

きりきりととと

これも観ようと思っているんです。
良いこと聞いちゃいました、オリジナルを観てから行ってきます。

だけどね、織田裕二、ジャニーズ系のほらあの方、とライバルだからさw
お仕事お仕事。
by きりきりととと (2008-01-06 19:13) 

きりきりととと

追伸

kenさんのキャスティング、僕も多いに共感です。
by きりきりととと (2008-01-06 19:17) 

ken

>魚河岸おじさん
 これが逆効果になって、黒澤映画を観ないってことにならなきゃいいけど。
 ラストはナシでしょ。これ。

>mouse1948さん
 織田君は頑張ってましたよ。
 でも豊川さんはミスキャスト。本人も可哀相。
 リチャギの「Shall We Dance?」は良かったと思います。
 nice!ありがとうございます。

>hyperbomberさん
 オリジナル観ちゃってください。出来たら「用心棒」から。
 J系と張り合ってもしょうがないと思いますけどねえ。
 Jよりは全然、織田君の方がマシだけど。
 nice!と追伸ありがとうございますw
by ken (2008-01-06 19:41) 

こんばんは。
オリジナルのラストを忘れちゃってるんで、別に何とも思わず観てしまいました^^;これは、オリジナルを観なければ。
織田さんが三船さんになる必要も、トヨエツさんが仲代さんになる必要も無い気がするので、このキャストも良かったと思います。
色気があると言う点で、椿に気がある室戸はこの人でしょう(笑)。
>「織田裕二は男だな」と思った。 にnice!を山ほど差し上げたいです。
by (2008-01-06 20:06) 

ken

>織田さんが三船さんになる必要も、トヨエツさんが仲代さんになる必要も無い

もちろんそうなんです。
だから脚本の変更が出来なかったのは不幸だなと思うわけで。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-01-06 20:10) 

ばぁつん

私はまだ織田裕二版は観ていませんがオリジナルの「用心棒」「椿三十郎」何度も観てその痛快さ豪快さのファンです。あれを超えるのはやはり難しいですよね。
by ばぁつん (2008-01-06 23:46) 

ken

リメイクの意義はオリジナルを超えることではありませんが、
どうしても比較してしまいますからね。
僕も記事を書いたあとで、黒澤版の「椿三十郎」と「用心棒」を
Amazon.comにオーダーしてしまいました(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-01-07 01:18) 

ちゅうちゃん

こんばんは。、お久しぶりです。
織田版「椿三十郎」は予告を見てガッカリしたので、
見ないことにしたのですが、トヨエツ(個人的には好きなんですが・・・)の
声が高くなっちゃうとか
森田芳光監督のバカ(この方の作品はいつもラストがいやだ)とか
まさに私が見ない理由にどっぷりハマっていますです。
by ちゅうちゃん (2008-01-08 23:12) 

ken

ははは。
ちゅうちゃんさんと趣味が一緒だったってことになるのですね(笑)。
でも、ちゅうちゃんさんの観た感想も聞いてみたくなりました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-01-08 23:24) 

あきこ黒澤

こんにちは。すばらしい文章に拍手です!
この映画のひどさは、ラストの決闘にもはっきり出ていましたね。
あと、ファーストシーンもひどかった。ヘンテコ演出の極みです。
(だからと言って、他シーンが良いと言うわけではありませんよ)
三十郎の登場シーンから すでに間違い!(情けない)。
「……暗闇から男の声。 9人 驚いて身構える。
ちょっと間があって、暗闇からのっそり姿を現す三十郎………」
となっているから面白いのに……声と同時に姿を現す織田裕二。
(ああっ!)危うく 「早い!」 と叫びそうになりました(笑)
登場時にフライングを犯し 「せっかちな男」と思いきや、あとは
なぜかノロノロと徐行。 あれだけ囲まれても まだのんびり。
運びにテンポがなく時間だけがどんどん過ぎて、もはや9人が
隠れる余裕なんかありません。とにかく、あまりの運びの悪さに
“やきもき”の連続で……何というか、若葉マークの冷や冷やする
運転に付き合ってる感じ、とでも申しましょうか……。
あの包囲から逃げられたのは奇跡に近いはず。それを信じさせる
だけの高度な“運び”が求められるシーンで、この“ていたらく”。
無神経にもほどがあります。
黒澤はストップウォッチ片手に、秒単位の演出をしたのですが……
森田はあまりに映画を知らな過ぎます。
もはや 「怖いもの知らず」で済む年齢ではないですし、彼の名前は
早急に「大予算で撮らせてはいけない要注意監督リスト」に載せる
必要があるようです。
おっしゃる通り、キャスティングも ひど過ぎました。
数少ない女優陣についても “手抜き”して欲しくなかったです。
入江たか子の家老夫人役は「八千草薫」に、と書いたブログもあった
のですが、私は「余貴美子」に50歳のメイクを施し(オリジナル同様)
お歯黒をさせ(彼女ならやってくれそうですし)……などと考えました。
いずれにしても、余計なことばかり考えさせる、非常に欠点の目立つ
映画だったことだけは確かなようですね。
(元映画批評家の73歳です。親族の代筆ですが御容赦下さい。)
by あきこ黒澤 (2008-01-13 11:25) 

ken

あきこ黒澤さん、ようこそ。
椿三十郎の脚本、僕も読んでみたくなりました。
リメイクはオリジナルをなぞる必要は無いと思いますが
オリジナルのリズムって意外と観客の体内に残ってるものですからね、
違和感を感じさせてしまうのは、リメイクの宿命なのでしょう。
「余貴美子さんにお歯黒…」というアイディアは、なるほど!と思いました。
by ken (2008-01-13 12:17) 

あきこ黒澤

先日はご丁寧なお返事、ありがとうございました。
ゆくゆくは一冊の本にもすべき質と量を誇る貴ブログであると
拝察いたします。
その意味でも、「珠にキズ」から 「キズのない珠」にしておいた
ほうが良いと思い、迷ったすえ、文字通り“老婆心”ながら、
ひとつだけ本文の誤りを訂正させてください。
もちろん、読まれたら消してくださって結構です。

(誤)「豊川悦司では役不足」

「役不足」は、「貫禄不足」・「力不足」の対義語です。
歌舞伎において、主役級の役者に、軽すぎる役や端役を当てた
時に使われました。 どうぞ お調べください。
by あきこ黒澤 (2008-01-26 16:42) 

ken

あきこ黒澤さん。ご指摘ありがとうございました。
調べてみたら仰るとおり。
しかも「最近は逆の意味で誤って使われることが多い」という記述も見ました。
まさに僕のことでしたね(笑)。
コメントは残したまま、本文だけ訂正させていただきます。
by ken (2008-01-27 00:50) 

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