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目を惑わす心電図 [救急医療]

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時間診療にとって、心電図の判断は、きわめて重要である。その判断によって、今すぐに循環器の専門診療につなげなければならないのか(診療の場によって、それが、転送であったり、循環器オンコール呼び出しであったり、院内循環器当直コールであったり、様々)が決まるからである。

悲しいことにこんな報道もある。具体的な心電図が提示されていない以上、この事例を私は評価することができない。 専門家の目から見ても、すぐに心筋梗塞と確診できないものすごく悩ましい心電図所見も存在することを私は知っているからだ。

心電図読み間違える 84歳男性死亡、賠償1500万円/
200X.XX.XX  (全316字) 
S県S市のS病院(XXXXX院長)で今年Y月、医師の誤診が原因で患者が死亡する医療ミスがあり、同市はXX日、ミスを公表するとともに、遺族側に千五百万円の賠償金を支払うことで示談が成立したことを明らかにした。同病院によると、Y月XX日、市内の無職の男性(当時八十四歳)が「胸が苦しい」と訴えて訪れたが、
診察にあたった内科医長(39)は心電図を読み間違え、実際は心筋こうそくの兆候が見られたのに、狭心症と誤診。薬を処方しただけで男性を帰宅させた。男性は約五時間後に自宅で倒れ、同病院に運ばれた直後に心筋こうそくで死亡した。病院側は死亡の当日、男性の遺族に医療ミスを認めて謝罪し、YY月に示談が成立。病院は医長に口頭で厳重に注意した。
読売新聞社

こんな叩かれ方したくないですねえ・・・・。
時間外診療の場では、たとえ自分が専門外であったとしても、緊急性のある心電図所見は、正しく読めるようになりたいものです。それが、患者の救命につながることでもあり、私たちの訴訟回避(地雷回避)にもつながると考えるからです。

では、私が、だいぶ前に経験した症例を提示します。(一部フィクション交えてます)

症例 78歳 男性

夜間10時ごろ、安静時の胸痛が出現。自制内。家族の車で、某市民病院の時間外外来を受診。その市民病院は、急性心筋梗塞の緊急治療には対応している。 来院時には、症状持続。 バイタルは安定、意識クリア。すぐにとった心電図はこれ。

この心電図を最初に見たのは、一年次初期研修医のN。 狭心症かなと思い、ラインを確保し、採血データなどをチェックする方針を立てながら。ニトロ舌下で症状と心電図が回復するかどうかを試みた。

一時間後・・・・・、採血が出た。 その間に、このまえ、習ったばかりの狭心症の問診の取り方を駆使して、我ながら立派な病歴ができたと、ちょっと、自信あり・・・みたいな気持ちになっていた。

循環器当直医のH先生を、N先生はぼちぼちとコールした。
そして、H先生が救急外来へやってきた。

Dr.N 「78歳男性、不安定狭心症の患者です。・・・・」
Dr.H 「おい、N。心電図をみせろ。」 
Dr.N 「あ、これです。最初のやつです。症状ありです。」
Dr.H 「・・・・・・・。で、患者はいつ来たの?」  
Dr.N 「はい、一時間ほど前です。その間、病歴はしっかりと私が取っておきました。」

もともとも、怒りっぽいキャラのH先生の顔色がみるみるうちに変わった。怒り爆発寸前の状態である。
そこをぐっとこらえて、H先生は、患者の元へ行った。

循環器の先生方は、なぜH先生がこんな気持ちになるかは、すぐわかりますよね。
研修医の先生方、他科の先生方、なぜ、H先生はこんな気持ちになったのでしょうね?

(10月3日 続きは後日)  ※お願い 専門の先生方、正解コメントは少し待ってあげてくださいね。

(10月5日 追記)
皆様、ありがとうございました。pulmonary様のコメントを引用します。

ST低下は誰でも見える
ST低下を見つけたら、他の誘導でST上昇を探し続けること!!

私のまさに言いたかったことを、コメントでご指摘いただきました。ありがとうございました。

しかしながら、仮にST上昇がない(わからなかった)としても、この年齢で、症状が持続しており、有症状の際の心電図で、明らかなST低下があれば、それでもって、すぐに循環器の専門医コールで、十分にaceptableな初期対応であると思います。そういう意味で、hiropon様のコメントを引用します。

MIとUAPは区別できないので何にせよACS→緊急CAGと思います

実に、実際的な的確な対応だと思います。ありがとうございました。

では、話を続けます。

なぜ、H先生は、切れそうになったのでしょうか? 答えは二つです。

1) 来院時のECGは、明らかに、ST上昇の心電図である。 aVLに注目!明らかにST上昇しています。 Iも微妙だが、上昇と取れそう。他の誘導のST低下は、reciprocal changeと考えても矛盾はしない。  ⇒ N医師は、ST上昇の所見に気がつかなった。
   
2) ならば、STEMI(ST上昇型心筋梗塞)として迅速に対応すべきである。 ⇒ N医師は、迅速な対応が出来なかった。

にも関わらず、N先生は、一時間も無駄に過ごしてしまった。その間に、VFなど起きれば、全ては後手後手に回り・・・下手したら、それで患者を失うリスクがある。
さらに どうせ再灌流するなら、残存心筋をできるだけ多く残したいので、可及的速やかに、血管造影をして、再灌流に成功したい。だからこそ、STEMIの診断がついたら、躊躇することなく、循環器医師をコールしてほしい。

多くの循環器医師はこのように考えているはずです。熱いキャラのH先生は、その熱い思いがついつい怒りに転換されてしまうのです。 皆さんの周りにもこんな先生いませんか?大目にみてあげましょうね。

過去のエントリーでも、STEMIに遭遇したときのことを書いています。 どうぞご参考ください。

看護師の機転が救った命  
⇒ STEMIの患者は、いつ急変するかわからない。その状況を書きました。
引き算診療という考え方   
⇒ STEMIの患者は、どうせ見つけるなら、早いほうがいい。
     じゃあ現場でどうしたらいいのかを書きました。
消化器疾患?実はAMI   
⇒ STEMIの患者を転送する際、いかに、急いで対応するのかについて、その状況を書きました。

さて、この患者であるが、H医師の手によって、血管造影が行われた。左回旋枝の根元(#11)が、完全閉塞(#11 100%)であった。直ちに、カテーテル治療(PCI)が行われ、無事に合併症なく終了した。 後日、患者は無事退院した。 

まとめます。 本日の教訓は、そのまま引用させていただきます。

本日の教訓
ST低下を見つけたら、他の誘導でST上昇を探し続けること!!

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コメント 6

コメントの受付は締め切りました
元脳外科専門医

Ⅱ、Ⅲ、aVFのST低下、陰性T、Q波認めず。下壁の心内膜下梗塞の可能性はいかがでしょうか?
by 元脳外科専門医 (2007-10-03 17:30) 

こんた

自分は研修医の時
APの心電図は上下反転して裏から見てみろ
と習いました
by こんた (2007-10-03 19:20) 

pulmonary

研修医の頃、ボスにST低下は誰でも見える
ST低下を見つけたら、他の誘導でST上昇を探し続けること!!
と耳にタコができるほど教えられました
by pulmonary (2007-10-03 22:48) 

hiropon

いつも楽しく拝見させていただいています。勉強になります。
 
 下側壁梗塞で側壁が大きかったりするとホントはⅡ、Ⅲ、aVFが上昇するのにreciprocal changeの方が大きくてdepressionとして現れたりする、みたいに教科書的な記述には書いてありますねー。よく見かけます。
また
 後壁梗塞はV4-6のST低下かV1R波の増高と言われST上昇とも限らない。
 でやっぱり
 根本的にAHAの分類でもそうですが、STEMIとUAP/NSTEMIの二つに分類するようにMIとUAPは区別できないので何にせよACS→緊急CAGと思います。勿論症状の持続性で判断はするでしょうけれど。
by hiropon (2007-10-04 17:00) 

マルモ院長

LMT関与では?
by マルモ院長 (2007-10-05 08:19) 

元なんちゃって救急医

皆様コメントありがとうございました。ここでのポイントは、派手なST低下より、わずかなST上昇に着目しましょうというのが、メッセージでした。
by 元なんちゃって救急医 (2007-10-05 22:43) 

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