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看護師の機転が救った命 [救急医療]

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心筋梗塞という病気は、死と常に隣り合わせの怖い病気である。しかも、突然に発症して、突然に死亡することも多く、時間外診療に携わる医療者にとっては、地雷そのものである。心筋梗塞の診断を短時間の診療で確定できるかどうかは、一例一例千差万別であり、容易な場合から非常に困難な場合まで幅が広い。たった一枚の心電図で、心筋梗塞をほぼ確定できる所見がある。ST上昇型心筋梗塞(STEMI)と判断できる所見だ。その所見の詳細はここでは割愛するが、STEMIの場合は、非専門家であっても、診断だけでなく、迅速な初期対応が要求されるのである。その迅速な初期対応のキモは、カテーテル治療を行う事が可能な循環器チームへ可及的速やかにアクセスすることなのである。例えば、院内にそのチームがある施設ならば、STEMIの心電図を見た時点で、即専門医コール。カテーテル治療ができない医療施設ならば、近隣の治療な可能な施設への即転送の便宜をはかることである。転送が遅れるだけでも医療者側が敗訴してまう厳しい時代となってしまったので、なおさらだ。

そんな厳しい医療事情の中ではあるが、本日はあるすばらしい対応をしてくれた看護師の話を紹介する。文中の( 分)で示した時間経過にもご注目下さい。

症例  75歳男性   主訴 2時間前から続く胸痛

その日は、忙しいある土曜日の夜だった。スタッフ当直は私だった。その日のERは、徒歩来院や救急車来院で、外来ブースも経過観察室のベッドも、患者でごった返していた。そんな最中、ある老女性が、救急外来のカウンター越しに、忙しいそうにしていたK看護師に声をかけた。

「あの~~、うちのだんなが胸が痛いっていってますの」(-8分)

忙しい最中でもあり、看護師にトリアージの意識が薄ければ、次のように対応していたかもしれない・・・・
「そうですか。受けつけを済ましてカルテができたら、診察しますので、受付へいってください」 と。

ところが、そのK看護師の対応は違った。すぐに、その患者の元へ走ったのだった。患者は、病院正面玄関の息子が運転してきた車の後部座席にまだ座っていた。

「まだ、痛みますか?」
「は・・・は・・・い」とだけ患者は答えた。

K看護師は、その患者をすぐに車椅子に乗せ、空いていた救急処置室のストレッチャーにのせて、すぐに12誘導心電図をとった

「先生! 胸痛の患者です!!」
と大声を出しながら、スタッフルームに飛び込んできた。たまたまスタッフルームで調べ物をしていたときだった。

「はい心電図です」(0分)と手渡された心電図は下図のとおり。

「STEMIだ! 発症は?」 と私も顔色が変わった
「2時間前」って言ってましたとK看護師。

すぐに患者のベッドサイドへ行った。バイタルを確認した。

「H先生。発症2時間のSTEMIの患者。75歳男性です。」(2分) と循環器当直医のH医師を私がすぐにコール。

コール後、モニタ装着、ライン確保、酸素投与、バイアスピリン投与など。

H医師登場(4分) すぐに心電図を確認し、彼もSTEMIと判断した。

私は、ちょっとだけ患者から離れたところにおいてあったモニタ付除細動器を患者のベッドサイドにこっそりと動かしておいた

H医師は、本人に声を軽くかけた後彼は、家族へ治療のための説明を行い始めた。緊急カテーテルへむけて着々と準備が進み始めた。

そのときだった。
「うううううう・・・・・・」(10分)と患者のうめき声があたりに響いた。同時に、全身を震わせ痙攣

心室細動(VF)だった

H医師の顔色が変わった。「おまえら~、はやく心マせんかあ!」と通りがかりの研修医に雷を落とした。(心マ=胸骨圧迫)

私が除細動をかけた。360Jで2回行った。(11~14分)

PEAに変わった。懸命に胸骨圧迫を研修医が行った。

脈が触れ始めた(17分) 同時に意識が戻った。完全にクリアであった。

心カテ室スタンバイの連絡が入り、H医師は患者をつれてERから去っていった。(30分)

緊急カテーテル治療は、合併症なく終了。後日、患者は独歩退院した。

K看護師の初期対応がなかったら、まず、間違いなく、カルテ作成の事務手続き中に、患者はVFになっているところでした。下手すれば、院内発症とは言え、対応が後手後手にまわり救命できなかったかもしれなかった症例でした。私は、自ら患者の元へ走ったK看護師のファインプレーが患者の命を救ったのではないかと思っています。

このようにSTEMIの患者は、いつ急変してもなんら不思議なことではありません。ですので、医療者は、STEMIの患者に遭遇したら、いつ急変しても対応がベストにできるような根回しを直ちに開始しなればならないのです。

本日の教訓
STEMIの患者に遭遇したら、とにかく急げ!急変への根回しも!

 コメント一覧
マスコミは、搬送が遅れて死亡、とかいうのは、大きく取り上げて記事にしますが、うまく対応できて救命、というのは、わたしたち医療者が「これはお見事」と思うようなケースでも記事にはなりにくいですね。
うまくいって助かった、という記事をもっと載せて、それが、いかにラッキーで、多くの医療関係者の配慮に由来するものか、を解説するべきだと思います。また、それが解説できる人こそ、プロの医療担当記者でしょう。
医療や医者を糾弾することが、医療担当の仕事だと勘違いしてる記者が多いですね。
written by moto / 2007.05.22 12:25
すばらしい看護士のスタンドプレーとER、CCUのチームプレーですね。
written by doctor-d / 2007.05.22 12:30
「私は、ちょっとだけ患者から離れたところにおいてあったモニタ付除細動器を患者のベッドサイドにこっそりと動かしておいた。」
このさりげない書き込み最高です。
NSの機転とそうするように、日頃からさりげなく指導していた「なんちゃって救急医」先生の診療姿勢の賜物ではないでしょうか。
written by ミヤテツ / 2007.05.22 14:26
皆様コメントありがとうございます。

moto様
同感です。ファインプレーは記事になりません。自分たちでいうしかないですねえ

doctor-d様
普段のコミュニケーションが上手くいってはじめていいプレーができるような気がします。

ミヤテツ様
絶妙のお褒めのお言葉、○○の穴がかゆくなりました・・・
ありがとうございます。


written by なんちゃって救急医 / 2007.05.22 20:44


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