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アポロ月着陸はなぜ成功したか(その3) [宇宙村]

「アポロ月着陸はなぜ成功したか」も3回目(その1その2もよろしく^^)。今日こそ「なぜ成功したか」の問いに対する個人的見解を述べて、本テーマの記事を締め括りたいと思います。ちょっと長めの記事になりましたが、どうかお付き合いください...(^◇^;)

さて、アポロ月着陸の成功要因は、「その幸運さ」を除けば下記3項目に集約できるでしょう。

  • ゴールが単純・明確に示されたこと。
  • ゴールの難易度が適切であったこと。
  • 段階的な開発計画が可能であったこと。

1. 「ゴールが単純・明確」について

故ケネディ大統領の「1960年代末までにアメリカ人宇宙飛行士を月に着陸させる」宣言は、非常に単純・明確です。この様な単純・明確なゴール設定は、NASAの活動を、「期日内に自国飛行士を月面に送る手段を確立・実行する」の一点に集約させる効果があります。

その結果、アポロ計画における「先進性」,「経済性」,「科学的意義」は大きく後退しましたが、「全体システム,プロジェクトの複雑化,長期化」や「マンパワー,予算の分散」などによる計画失敗・中止のリスクも減りました。

2. 「ゴールの難易度が適切」について

宣言に先立ち、故ケネディ大統領は、月着陸の実現性についてブレーンやNASAに諮ったはずです。ただ、政治的が強い「月着陸一番乗り」計画だけに、技術的難易度を軽視した宣言になった可能性もあります。

例えば、大統領が「1960年代末まで」ではなく、「1960年代半ばまで」と宣言していたらどうなっていたか。...多分、性急な開発計画により大事故が続発、予算も大幅超過して月着陸計画は失敗・中止になっていたことでしょう。

3. 「段階的な開発計画」について

その2で述べた様に、NASAは月着陸に至る研究開発を段階的に実施しました。その結果として、期日までの月着陸が実現したのです。その様な開発計画を遂行できた背景として、莫大な宇宙開発予算があったことは言うまでもありません。

ここで、宇宙開発には「莫大な開発予算」が必要である…なんて主張する気はありません。言いたいのは、「目標」と「予算」のバランスです。技術者の工夫にも限界があります。予算に見合った目標設定、これが重要なのです。


↑月の水平線の彼方に浮かぶ地球(NASAのサイトより)


翻って、現シャトル計画をどう評価すれば良いのでしょうか。実は、現シャトルの当初計画(1980年頃)では、1フライト10~20百万ドル(現在の貨幣価値で100百万ドル=約100億円)の見込みでした。ところが、実際には何と1フライト500百万ドル(=約500億円)という5倍の経費が掛かっています(参考サイト)。

二度の大事故に加えて、このフライト経費に関する当初計画と実際の大幅乖離。アポロ計画を成功させたNASAが、どうしてこんな袋小路にはまったのか。その原因について、先ほどの月着陸成功と同じ視点で評価すると、下記の様になります(あくまでも、私の個人的見解ですが)。

1. 「ゴールが単純・明確」だったか?

アポロ計画終了後、NASAは「宇宙ステーション」「スペースシャトル」「スペースタグ」から構成されるポスト・アポロ計画を立案しました。しかし、米国政府はシャトル計画のみ予算認可。その結果、「宇宙ステーションまでの往復便」のみ担うはずだった現シャトル計画は、キャンセルされた他2計画の機能の一部(無重量実験や大型衛星の軌道投入能力など)まで背負わされて、その開発目標は複雑かつ不明確なものになりました。

2. 「ゴールの難易度が適切」だったか?

この件については、「二度の大事故」と「フライト経費に関する当初計画と実際の大幅乖離」が総てを物語っています。

3. 「段階的な研究開発」だったか?

1960年代前半、NASAは極超音速実験機X-15を飛ばしています。でも、その最高速度はマッハ6。一方、シャトルはマッハ23で大気圏に再突入、減速・降下して地球に帰還します。このシャトル帰還時の飛行技術を事前評価する有翼型実験機の開発を、なぜNASAは怠ったのでしょうか。

サブスケールの有翼型実験機による事前評価を済ませた後、現シャトルの最終的な設計に入っていれば、コロンビア号事故やフライト経費の大幅超過が防止できた様な気がしてなりません。


まもなく、コロンビア号事故以来止まっていたシャトルの運航が再開します(現在、5月22日以降の予定)。そして、現在3機のシャトルは2010年まで宇宙ステーション組立てに用いられた後、2014年頃には新しい米国の有人宇宙機CEV(Crew Exploration Vehicle)にバトンタッチされます。

私の予想では、CEVには「リフティングボディ形状のカプセル」方式が採用されるでしょう。ただ、この方式だと現在ロシアが開発中の「Klipper」と似た形状になるので、米国にとって嫌な選択肢かも知れません。...いずれにせよ、現シャトル計画の二の舞とならない様、新しいCEV計画ではNASA及び米国政府の適切な目標設定,計画立案を望むばかりです。

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コメント 2

す

しかし 人が宇宙目指すのって
母なる処に帰ろうとしてる本能の表れなのかな
by す (2005-04-23 12:23) 

ブリザド

>母なる処に帰ろうとしてる本能
そうかも知れませんね。宇宙から降ってきた隕石に付着していた細菌
から、地球上の生命が発祥したんじゃないかという説もありますし~^^

ところで、私は、宇宙開発の究極の目的は宇宙移民じゃないかと思います。
いや、地球を食いつぶして新しい星に移ろうって言うんじゃなく、人類滅亡の
リスクを分散させるために~^^;
by ブリザド (2005-04-23 14:52) 

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