お前の番だ！ 61
　廊下から師範控えの間に近づいて来る足音が聞こえるのでありました。次第に大きくなるその床を踏む音は如何にも堂々とした足取りを想像させるもので、これは一般稽古を終えた鳥枝範士が道場から控えの間に戻って来..
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お前の番だ！ 60
　万太郎は直ちに木刀を左手に、道場中央に立つ是路総士に走り寄るのでありました。 「では先ず、相打ち返し、と、逆打ち返し、から」 　是路総士はそう云うと万太郎と二間の間合いで向きあって木刀を正眼に取..
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お前の番だ！ 59
　この間に万太郎は見所に上ろうとしている是路総士の傍に趨歩して、総士愛用の木刀を恭しい仕草で手渡すのでありました。是路総士は木刀を受け取ると興堂範士と伴に見所に座って、自分の右横に木刀の刃側を自分に向..
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お前の番だ！ 58
　それでは何故に板場は万太郎にあのような事を訊いたのでありましょうか。外には表わさないながら、威治教士に対する陰れた忠義立てと云うつもりなのでありましょうや。 　万太郎は下座隅に座るのでありました。..
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お前の番だ！ 57
「いやもう、本当に全く、個人的な理由で交代したのです」 　万太郎は側頭部にかかる視線の圧力をふり払うかのように、顔を板場の方に向けて彼の顔を見上げるのでありました。 「ああそうかい。それなら別に良..
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お前の番だ！ 56
「善は急げ、なんぞと云いますから、早速明日から稽古にいらっしゃいますかな？」 　是路総士は今万太郎が書いた誓紙と万年筆を文箱に仕舞いながら訊くのでありました。 「勿論そのつもりでおります。明日は日..
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お前の番だ！ 55
「ああそうなのですか」 　万太郎は相槌を打つのでありました。歳はそう違わないだろうと思っていたのでありますが、同い歳でしかも同じ大学四年生、･･･いやいや、彼はもう大学を止めていると云うのだから、こ..
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お前の番だ！ 54
　あゆみが下がると万太郎は是路総士の口述通りを書面にして、これも貸してもらった朱肉で親指腹を朱く染めて爪印するのでありました。昔は親指に傷を入れて血判を捺していたと云う事でありましたが、終戦後はその様..
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お前の番だ！ 53
　しかし是路総士の指示とあらば従うしかないのでありました。万太郎は是路総士と自分の木刀を抱えて、道場に足取り重く向かうのでありました。 「おい、折野君」 　万太郎の後ろから一緒に道場に向かう、板場..
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お前の番だ！ 52
　万太郎が前紐の締め具合を訊ねるのでありました。 「腰に木刀を差すかも知れんからもそっと緩めに」 「押忍」 　万太郎は片結びを一旦解いてやや緩めた状態に前紐を巻き直すのでありました。是路総士の好..
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お前の番だ！ 50
「ところでそこの若い衆」 　興堂範士が廊下の万太郎に声をかけるのでありました。「ちょっとこっちにおいで」 　万太郎はそう云われて是路総士の顔を窺うのでありました。是路総士が頷いたのを確認してから、..
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お前の番だ！ 48
　鳥枝範士はそう云うと是路総士に一礼後、部屋を出ていくのでありました。 「まあ、もっと近くにお寄りなさい」 　是路総士が手招きするのでありました。 「失礼いたします」 　万太郎は正坐の儘座卓の..
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