作品050
正月二日の朝、木下郷子は、星形住宅の四階の部屋で、朝陽の眩しさに目をさました。ガラス戸の桟の影が、くっきりとカーテンに際立って落ちている。おまけに見ていると窓の手すりに雀が来てとまった。やさし..
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作品049
当節、本当の恋愛などというものが果たしてあるのだろうか。勿論、若い人たちの間には、恋愛もあるに違いないけれど、少しでも年をとってしまうと、もう恋の話など、てんで耳にしない。もうだめである。それ..
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作品048
四十五にもなる私が、今さら自分の色恋の話などするべきものでもございませんが、私の名前は上野愛子と申します。神田の方の相当有名な出版社につとめておりまして、もうこれで十年以上になります。年も年で..
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小説『夏の庭』　湯本香樹実
湯本香樹実さんのデビュー作で、世界各国で翻訳され舞台や映画化もされている作品です。 「人の死を見てみたい」という好奇心から小学6年生の木山、山下、河辺の3人は夏休みに町外れに住む一人暮らしのおじ..
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作品047
今日、日南田寛の娘、朝香と、桜井周との間の婚約式が行われる。何という強靭な若い人たち！あんなにいろいろな出来ごとがあったというのに、彼らは強引そうに見えていてその実無邪気に、でなければ、反抗的..
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作品046
三村葉子が、藤原満という一人の園丁の半生にふれたのは、ほんの偶然のめぐり合せからである。三村葉子は、ここ数年来、三浦半島の三戸海岸にある、汐入別館という小さな宿で、夏の半月ほどを過すことにして..
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作品045
娘たちは前後して洗面所に入った。髪をとかすためである。ここでも沈黙の規則が守られているので生徒たちは無言の行であった。もっとも禁を犯して小声でお喋りするのもいる。また靴下吊を使っている子など殆..
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作品044
野田家の門を入ったのは、夜であった。私は今でもよく覚えている。私は黒い厚いカーディガンをはおっていたが、風はその編目から刺すように吹き通っていた。サンチアゴの十月は、春の筈であったが、この町は..
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たくましいなぁ・・・
「たくましいなぁ、ホント余計な事だったかも知れへんゎ～」そう思ったのは写真のセミを見てからだった。 以前、セミの事を書いた。木のないところに歩いていた、そして木に移した。と・・・が、木がなくても見事..
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作品043
その夕方、宮寺幸吉は、神戸監獄の壁が見え出す坂の手前で父の定吉に追いついた。「父ちゃん」幸吉は、低い声で父を呼んだ。鉄道の制服を着た父は、手に持った弁当箱の包を、抱くようにしながら、後をふり返..
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作品042
昭和二十三年二月一日の夜、戸田小雪は、布団の中で、翌日に迫った夫の岩男との再会の瞬間のことを考えていつ迄も寝つけないままでいた。夫が応召で出征したのは、昭和十八年の冬、十七歳の小雪と結婚式をあ..
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作品041
私が、ミス・バーバラ・フォースターと呼ばれる、中年の、太った、陽気なオーストラリアの婦人に出会ったのは、もう二年ほど前のことになるだろうか。その頃、私の友人の松本雪子は、東京の港区にある、ジョ..
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