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『わが命つきるとも』(フレッド・ジンネマン監督、1966年、イギリス) [歴史映画]

【映画について】
 英国テューダー朝第2代ヘンリ8世(位1509~1547)と彼の離婚にあくまで反対する大法官トマス・モア(1478~1535)を描いた作品。第39回アカデミーで、作品賞、監督賞(フレッド・ジンネマン)、主演男優賞(ポール・スコフィールド)、脚本賞(脚色部門:ロバート・ボルト)、撮影賞(カラー部門:テッド・ムーア)、衣装デザイン賞(カラー部門:エリザベス・ハッフェンデン、ジョーン・ブリッジ)の6部門を獲得した名作。『全訳世界の歴史教科書シリーズ イギリスⅢ』では、ヘンリ8世について書かれた章に「ヘンリ8世とサー=トマス=モアの関係をテーマにしているロバート=ボルトの『わが命つきぬとも』〈Robert Bolt's A Man for All Seasons〉の映画か舞台をみることにしなさい」という課題があげられているほどの作品です。ローバト・ボルトはデヴィッド・リーン監督の『ドクトル・ジバゴ』『アラビアのロレンス』で脚色を担当した人で、この映画では彼自身が自分の戯曲を映画用の脚本に書き改めています。モアを裏切るリッチ役は『エレファント・マン』(主役)、『エイリアン』(ノストロモ号の一等航海士ケイン)、『コレリ大尉のマンドリン』、『ハリー・ポッターと賢者の石』(オリバンダー老人)等のジョン・ハート。トマス・ウルジー役で、オーソン・ウェルズも出演しています。英国映画協会(BFI:British Film Institute)選定ベスト100作品の第43位。

【ストーリー】
キネ旬DB
http://www.walkerplus.com/movie/kinejun/index.cgi?ctl=each&id=9987

【見所】
 教科書に出てくる首長法制定の場面が興味をそそられるところですが、実は忠実に再現された服装や小道具こそ、この映画の見所という気がします。冒頭トマス・ウルジー枢機卿が、モアへの手紙を出す際に使用しているシール(seal)や、モアが大法官に就任した際に首からかけられているペンダントの「テューダー・ローズ」、それに国王が乗る船に掲げられた旗(スタンダード)に注目しましょう。なかでも「ここまでやるか」と感心したのが、ヘンリ8世の coat of arms(紋章)。モアを裁く法廷で背後の壁に掲げられている大紋章ですが、テューダー=ローズの背景に、ガーター勲章(「それを悪しと思う者に禍あれ」という文章も正しく書かれていました)、そして縦の部分は第1・第4がフランスのユリ、第2・第3がイングランドの「3頭ライオン」と、現在とは異なるヘンリ8世の紋章が忠実に再現されています。モアが、ワイロの例として「coat of arms」をあげているのも興味深い。法廷で偽証するリッチが首からかけているウェールズの印綬が「赤いドラゴン」なのも、正確です
 テムズ川を使った交通の様子も面白いですね。川を上るとき船をどうやって運んだんだろうと今まで疑問だったのですが、下りと同じく漕いでいくとは驚きです。「国王よりも金持ちだった」ウルジーが建てたハンプトン・コートの横をテムズ川が通っているのも、当時テムス川が重要な交通手段であったことを物語っています。モアが住んでいるチェルシーの邸宅もテムズ川沿いです。ヘンリ8世の寵愛を失ったモアが、船頭から船の利用を拒否されて徒歩で帰宅する場面は象徴的ですね。
 映画の冒頭で、『ユートピア』を紹介しているモアが、ウルジーの出自をあげつらう場面がありますが、彼の出身身分が低かったのは事実。
 モアとクロムウェルの会話の中に、ヘンリ8世がルターを批判する『七つの秘蹟の擁護論』を著して教皇レオ10世から「信仰の擁護者」(Defender of Faith)の称号を授かったという話がでてきます。これも有名な話です。「信仰の擁護者」は、ラテン語で「Fidei Defensor」と表記しますが、この称号を得たことで、現在に至るまでイギリスの硬貨には「FID DEF」ないしは「F D」という称号が刻まれることになります。ちなみに教皇レオ10世はイタリアのメディチ家出身で、聖ピエトロ修築のために贖宥状を売り出した人物として有名です(ラファエロによる肖像画も残っています)。




ジョージ6世の2シリング(左)とエリザベス2世の2シリング。どちらのコインにも「FID DEF」の文字と、中央にテューダー・ローズが見えます。

 この時期のイングランドにおいてさまざまな動きを見せるのが、モアの友人で筆頭公爵のノーフォーク公。この作品に登場するノーフォーク公は、トマス・ウールジを失脚させた第3代のトマス・ハワード(1473~1554:先代の2代目も同じ名前)です。トマスの妹エリザベスの娘がアン・ブリーンであり、さらにヘンリ8世の5番目の妻キャサリン・ハワードは、トマスの弟の娘にもあたります。つまりヘンリ8世の2番目の妻アンと5番目の妻キャサリンは、ノーフォーク公からみればどちらも姪ということになり、アンとキャサリンはノーフォーク公を介して従姉妹同士だったわけです。映画のラストで紹介されるように、キャサリンの処刑後ロンドン塔に収監されたトマスは処刑の前日にヘンリ8世が死去したため(1547年6月28日)、処刑を免れました。なおケイト・ブランシェット主演『エリザベス』に登場し、反逆罪に問われたノーフォーク公は、第3代の孫で第4代ノーフォーク公となった、これまたトマス・ハワードであり、この映画のノーフォーク公とは別人です。  モアを審問したカンタベリー大司教はトマス・クランマー。彼はヘンリ8世と最初の妻キャサリン・オブ・アラゴンの結婚を無効として王の再婚を確認した人物ですが、映画のラストで紹介される通り、1556年にメアリ1世から処刑(異端ゆえ斬首ではなく火刑)されます。またトマス・クロムウェルは、 4番目の妻としてアン・オヴ・クレーヴズとの結婚をすすめますが、この結婚を王が気に入らなかったために失脚、処刑されます。  ラスト、モアの処刑のシーンも印象的です。マスクをした執行人に許しを与え、贈り物を与える(多くは指輪)のは当時の慣習どおり。辞世の言葉「私は王より神のしもべとして死ぬ(I die His Majesty's good servant, but God's first.)」に、一徹な彼の姿勢がよくあらわれています。

わが命つきるとも

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  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
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