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「和傘を作る(2)後編」 [作品制作のはなし]

今日は前日に傘骨に貼った平紙などを折る作業「紙折り」です。

空気も乾燥していることもあり、
前日に紙を貼った傘もしっかり乾いておりました。

最初は、手元ロクロに差し込んであった竹の「くさび」を外し
作業台に置いたままで、
こうして軒に近い骨の先を左手で持って

右手の親指と人差し指の腹で骨をつまむようにして
折りグセを中置紙付近まで、骨に沿ってつけていきます。
(中置紙の部分には糸が通っていますから、指の腹の感じで分かりました)
この時に中心へと移動した指はUターンして
また軒先へ戻ってこないこと。
戻ってくると紙の性質上、変なしわが寄り、グシャグシャになるそうです。
この作業をぐるりと一周行います。

次は、作業台から傘をおろして、半分ほど傘をたたんで
天井付近の親骨と親骨との間に指を1本滑り込ませながら
押さえるように全体に折り目をつけ、傘が閉じるぐらいまで
紙を折り込みます。
この作業もぐるりと一周行います。

これができたら今度は骨と骨の間に折り込む平紙を
きれいに二つ折りにしていきます。

これは骨を2本、軒の方できっちりと合わせて
外から左手の指で持ち固定します。
そして、右手で軒の方の紙をきれいに内側に二つ折りしたら
その折った状態を保ちつつ、中心へと手を移動。
自然にきれいな二つ折りができます。
中置紙の部分まで手を移動したら、中置紙がシワが寄った状態で
折り込まれないよう、1本の指で丁寧に押さえつけ、
二つ折りになるようにします。
この作業もぐるりと一周行います。

ここまでできたら、今度は、
軒先が左手に来るように自分の膝の上に置いて
左手で外から骨を4本ほど持って、
さきほど内側に二つ折りした平紙を
自分の方へ倒れるように折りたたんでいきます。
これを繰り返すと、柄の方からのぞくと、右回りの渦のような
折り込みができあがります。

先生に見てもらったところ…
『少しね、きれいに内側に折れてなくて、
 まるで葉脈みたいに筋が入っているところもあるけど、
 平紙の貼り方が上手くない人はこれが1周、全部に入るからね。
 他の所は、きれいに二つ折りになっているから…
 初めてにしては、よく貼れてますよ』とのこと。

頭ロクロの歯が1本折れたおかげで親骨が2本、
落ちかけていたところについては…
やはり、落ちかけている分、折り畳むと骨が周囲よりも凹みがちに。
でも、先生は
『これから先生達がきちんと輪をかけて締めてくれるから…
 それでだいぶ落ち着くし…心配ないですよ』とのこと。

ほっとひと安心です。

という訳で、あとは先生にお任せすることに…

竹のヘラを使って

親骨の部分をはさみ、きれいに折りをつけたら…

竹の皮に和紙を巻いたリング状の固定する輪(金輪)

これを傘にはめながら、少しずつ傘を絞って細い状態にしていきます。

安定感のある大きな角材に傘を押し当ててころがしながら
表に出ている親骨の部分がなめらかになり
少しずつ、傘の太さも細くなっていきます。

黄楊でできた「ヘラ」で、先生は自分の頭を少しなでて
親骨と親骨の間にある、わずかな隙間を「へら」で丁寧に整えてくれました。

「このヘラはねぇ、こうして作業していると…
 油が足りなくなると『キュッキュ』と鳴くんだよね。
 で、滑りも悪くなるから、こうやって時々、
 頭の油をちょっと足してあげてね、作業をするの」
だそうです。うむ、職人の技ですねぇ(^^)

そうこうしているうちに、私の傘も開いていた状態からは
想像できないほどすっきりとしたシルエットになりました。

柄の方からのぞくと…きれいな渦巻き状に紙も折りたたまれています。

先生いわく
『この傘は太い細いでいったらちょうど中間ぐらいかなぁ』とのこと。
実は、今回のこの傘骨。受講生が作業がしやすいように、
できるだけまっすぐな竹が選ばれたそうで
200本近くある竹の中から、精鋭の20本が用意されたとのこと。
あわわ。本当に和傘振興会さんのサポートには頭が下がります。

先生のお話では…
『1本の傘の骨が1本の竹からできている上に、
 比較的まっすぐな竹が使ってあるから…
 こうして仕上げている時も本当に作業がしやすいんだよね。
 事実、そういう骨を使わないと、初心者の方には大変ですからねぇ。
 だけど、普通の売り物用は、そこまでできないから
 職人さんの腕でカバーして、まっすぐな傘に仕上げる訳ですよ』
だそうです。本当、そう考えると職人さん達の腕は、本当に素晴らしい。

他の受講生さんの傘を仕上げている間に先生も
傘にまつわるいろいろな話しをしてくださる。
私達が何枚にも分けて貼った「平紙」も職人さんの手にかかれば、
たった4枚で1つの傘の平紙を貼りあげるとのこと。
もちろん効率重視ということもあるけれど、
これも腕がなければ、できない仕事。
面積が大きくなればなるほど、それだけ誤差が許されない訳です。
あとは
『柄の部分にある「はじき」の部分が木製となっている
 和傘はその分手間がかかっているからお値段がお高い』とか
(今回の私達が講座で製作した和傘の「はじき」は針金になっていました)
最後の仕上げに親骨の部分に塗る漆の話とか
(ツヤ消し、ツヤ有り、そして色も白と黒などがあるそう)
舞踊用の和傘は小ぶりで軽く、絹の生地を使って作るとか…
他の受講生さんも、今日の作業がほぼ終わり、ほっとしたせいもあってか
先生達の楽しいお話に時折、笑いながら耳を傾けていらっしゃいました。

そう話していると傍らにいた和傘振興会の会長さんもお話を始める。
『岐阜の和傘は全国生産の八割を占める和傘の生産地でありながら…
 京都と比べるとそのロケーションの違いもあってか、
 なかなか多くの方の目に触れていただけないのが寂しいところですねぇ』
とのこと。

そういえば…
美の壺でも、和傘の特集で最初に登場したのは「京都」でしたねぇ。
確かに宝鏡寺の境内にたくさん並ぶ和傘は絵になりますけど…(苦笑)
http://www.nhk.or.jp/tsubo/arc-20070518.html

そう。この番組で「参のツボ 内なる別世界を楽しむ」で登場している
藤沢健一さんが、何をかくそう今回の和傘講座の立て役者である
和傘振興会の会長さんであります。

うむむ…やっぱり寂しいですよね。
こうした素敵な工芸品が地元から生産されているということを
多くの人が知らないというのは…
そう考えれば…私も縁あって、岐阜に嫁いでこなければ
岐阜が和傘の生産地だなんて全然知らなかった訳ですよ。
こういう形だけれども、知る事ができた自分は
良かったなあとこの日、しみじみ思いましたね。

さて、受講生全員の紙折りの作業も無事に終了。
これで2週間ほど休ませた後、
和傘振興会の方々の手により
「軒切り」、「止め釘打ち」、「糊引き」、「下地塗りすり」、「油引き」
「天日干し」、「漆かけ」、「藤巻き」、「石突き付け」、「カッパ付け」
までの作業をしていただき、残る作業は次回2月24日(日)の
小骨の補強と装飾を兼ねた糸をかがる「かがり」の作業のみです。

『遅い、早いはありますが、次回のかがりは手順通りにやれば
 どなたでもきっちり仕上がりますから…大丈夫ですよ。
 とはいえ、女性の方は針と糸を持ち慣れていらっしゃいますし
 指も男性の方と比べて細いですから…
 比較的早く仕上げられる方が多いですけどね』
とのこと。

糸はどの和傘の色にも合うように、基本的には黄色の糸を使うそうですが
会長さんからは
『お好きな色の糸を使いたいのであれば木綿糸を持ってきてください』
とも言われました。

とはいえ、私の傘の色は「新橋(青紺)」
色彩の差がはっきりとした色合わせが好きな私としては
「青紺と黄色の補色対比はきれいになるなぁ」と思い立ち
「やっぱり黄色ですよね」と、次回の「かがり」の作業に
思いを馳せるのでありました。

いやはや、次回の完成が楽しみになってきました。


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tanuki

あざやか!!!
まさに、職人技を間近で見られるのが素晴らしいですね♪
竹の曲がり方と職人さんの技とで多くの傘が作られているとは、本当に細やかな作業が要求される仕事なのですね~!和傘の奥の深さをあらためて感じました。(^^)
かがりの作業も楽しみですね。
補色対比とは、さすがデザイナーのユキヲさんですね♪
by tanuki (2008-01-22 12:11) 

ユキヲ

>tanukiさんへ
nice&コメントありがとうございます。
今回の講座を通して、職人さんの技を間近で見る事ができたことは
本当にありがたかったですね。
基本的に岐阜の和傘作りは分業制なので、
先生も「ここの作業は○○さんに」という具合に
たくさんの振興会の方に代わる代わる教えてもらったせいか
「講座」というイメージから考えるととても新鮮でしたね。
かがりの作業…
見本を見せていただいたのですが、
まさに和傘ならではの小骨の補強という「実用」の部分と
装飾という「美」の部分があいまった素敵な仕上げだなぁと
しみじみ思いました。
実は…紺色と黄色という対比は学生の頃の作品にも使った
思い出の色合わせなんです(苦笑)
(たぶん、学生時代の同級生なら「あぁ!」と思うはず…笑)
もともと、はっきりとした色合わせが好きというのもありますが…
今回は立体ですからね。どういう具合に色が重なるのか
そう考えると今から1ヶ月後が、とても楽しみです(^^)
by ユキヲ (2008-01-22 23:07) 

mie

おひさしぶりでーす。
いいなぁ、和傘作り・・・東京でもそんな体験講座あるかなぁ
私はありがとうの会に引き続き、染織の旅SPに行ってきましたよ~
写真アップしたので、良かったら見に来てくださいね
by mie (2008-01-27 16:12) 

ユキヲ

>mieさんへ
コメントありがとうございます。
和傘…
うむむ、この講座は、やはり岐阜ならではかもしれませんね(^^)
お!染織の旅SP、お出かけされたんですね。
私は名古屋の方へ行くつもりですけど…
見れば見るほど『?』な漢字達を知り
ようやく、やる気になっています(笑)
テストに合格すると素敵なものがいただけるんですね。
(縮緬系の小物はかなり私のストライクゾーンです)
あ、でも、名古屋でも同じものとは限りませんよね(-公-;)
適度に期待して漢字を勉強しまーす(^^)
by ユキヲ (2008-01-27 23:00) 

mie

あ。残念ながらあれは参加賞であって、合格記念品ではないんですよ。
まとめ髪のゆずのは試供品で、東京だけなんだって。名古屋でもステキなものいただけるといいですね~
漢字検定がんばってくださいね!
あ。そういえばジュニアマスター検定はいかがでしたか?私は合格しました~^^
by mie (2008-01-28 12:03) 

ユキヲ

>mieさんへ
再びコメントありがとうございます。
そうなんですか!さすが東京!参加賞も豪華!
以前、紬の一日大学に参加した際の名古屋での参加賞は
ストラップで…個人的には「微妙…」だったんですよね…(苦笑)
だから今回もどうかなぁと。
まあ、本来の目的は、たくさんのお着物を見て目を肥やすこと
ですから…別にいいんですけどね(^^;)
漢字…昔は結構好きだったんですけどね…
最近、本当に本を読まなくなってきている上に
パソコン生活なので(爆)…
危機感を感じて、通勤時間に図書館で借りた本を読んでます(笑)
ジュニアマスター…正式な書面での結果はまだなんですけどね。
ネットに名前があがっていたのでどうやら合格みたいです。
by ユキヲ (2008-02-01 22:22) 

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