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さらば賢人ロハン・デ・サラム [弦楽四重奏]

ちょっと寂しいクリスマスプレゼントです。

アルディッティ弦楽四重奏団の創設初期からのメンバーで、カサドに学び、プエルトリコのカザルスに習ったこともあるチェリスト、ロハン・デ・サラム氏が、2005年12月でアルディッティQを引退します。http://www.ownvoice.com/ardittiquartet/

今後の活動については判りませんが、なんにせよ、あのアーヴィン・アルディッティ社長の無茶に嫌な顔ひとつせずに付き合い続け、アルディッティQのもうひとりの中心人物としてこの団体の特殊な活動を可能にしていた賢人が、舞台を去るわけです。下の写真右端がロハン。2001年5月末、オタワの国際弦楽四重奏シンポジウムで開催された「スコア・リーディング」なるセッションの様子。左端の眼光鋭いアーヴィン社長が、若い学生の新作総譜にビシバシ文句を言い、ズタボロにする図。

個人的には、小生が最初に本格的なインタビュー仕事をさせていただいた人のひとりなんです。カザルスホールでの初来日のときに、その後は「カザルスホール騒動」で廃止された企画室アウフタクト事務所になり、今は日大の事務所になっている喫茶店の奥で延々と話をしていて、担当プロデューサーのO夫人に「いい加減にしろ」と叱られたっけなぁ。

年に1度くらいは世界のどこかで顔を合わせるアルディッティQだけど、弦楽四重奏業界や現代音楽界では(影響力が大きいだけに)いろいろ言われることも多いこの団体が、最終的には信用に値すると感じさせてくれていたのは、「アルディッティQの良心」と呼ばれたロハンの存在のおかげですもんねぇ。

ひとつの時代が終わった、という感じ。先週のフルネ引退興行の熱気の中、この盛り上がりにはついていけんなぁ、と感じていた冷酷な小生ですが、アーヴィンより世代が上のロハンの引退は遠くなかろうと感じていても、これだけショックを受けられるのだから、まだ辛うじて人間性は失っていないのかな。

さて、クセナキスの「テトラス」でも聴きましょか。それとも、とっておきのヴィヴァルディを引っ張り出そうかしら(そんなとてつもないディスクがあるんだぞぉ!)。

アマデウスQのチェリスト、ロヴェット氏の夫人も先日お亡くなりになったとか。ロンドンのチェロ界、この冬は寒そう。

最後に、ロハンとのインタビューで最も印象的だった部分を抜粋しておきましょう。サンタの着ぐるみを被ったやくぺん先生から、音楽を愛する人たちへのクリスマスプレゼントです。もう15年も前のインタビュー原本だし、媒体の「カザルスホール・フレンズ」もとっくに存在していませんから、問題はないでしょ。スリランカ出身のチェリストとして、カザルスと音楽の普遍性を語った部分。

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「カザルスのやり方に戻りますが、彼のやり方が気に入らない人はいました。ですが、私は基本的な考え方を学んだ。それは、全ての音楽に利用出来る。つまり、ある種のフレージングとか、ある種のやり方など、普遍的に変換出来る。これが彼がこれほど偉大な名声を得ていた理由だと思います。指導そのものはとても細かいものでした。
彼の指導は、自然の法則に基づいていた。彼はいつも「自然であれ」と言っていた。でも私たちの理性は、私たち理性的な世代は、では「自然とはなんなのか?」と尋ねるますよね。で、自然とは、私たちが求めて得るものなのである。人類に関して、全くの自然などない、ということはすぐ解ります。しかし様々な面から、彼が「自然であれ」と言ったのは、「自らを信じろ」、「自らの内的直感を信じろ」ということなのです。これが私がカザルスから習った重要なことの一つです。
彼とは全く違う直感かもしれない、だけども、自分の内側の確信を信頼しなければならない、そして、貴方が他の部分を見ない限りは、常にその内的確信を信頼せねばならない。いま、私たちはその後の世代に生きているのですが、しばしば内的確信を疑ってしまいます。なぜなら、私たちはどうするかの多くの考え方を持っている。例えばテンポの問題とか。私は年がら年中、時にクァルテットの中で議論します・・・議論の仕方自体の問題は現在までには完全に解決していますが。そんな中で、私はカザルスは全く正しかったと思うことがある。正しいテンポというものは本当に存在するのです。メトロノームに関係なく、完全に納得した演奏をする為に、作品の内部から感じ取れるのです。そして良い作曲家の場合、バルトークなどそうですが、記されたメトロノームは感じ取れるものと殆ど違っていない。
なぜならば、人類には本質的な所で類似性があるからです。つまり、インド人が言う様に、私たちはすべて同じ素材から発生してる・・・インド人は様々な種族や、様々なブラフマン(神)を持っているのですけどね。そして私は、人類は奥深い所では同じことをすると、本当に信じています。」
(アルディッティ弦楽四重奏団チェロ奏者 ロハン・デ・サラム談/1990年3月7日/お茶の水スクエア内カフェ・アウロスにて/インタビュアー:渡辺 和)


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