SSブログ

シンポジウム「公共文化施設はどう変わる!?」報告 [指定管理者制度]

当ブログの最シリアス路線、「指定管理者制度」シリーズである。おちゃらけ路線を期待なさっている方には申し訳ありませんです。
いつも同じ事を書いているけど、9割以上が公演の前パブ(よーするに、演奏会の切符を買って貰うための宣伝)になってしまった現在の音楽ジャーナリズムの中では、このネタを発表する場所がどこにもない。で、仕方なく、自費出版みたいな形で状況を追い続けているわけだ。
どなたか、この媒体ならなんとかなる、という意見を下さい。これ、ホントに真面目にお願いします。なんせフリーの売文業、投資資金回収のアテがないと本格的に取材などやれませんからねぇ。

◆東京芸術見本市の一部として
本日9月14日、東京芸術見本市2005http://www.tpam.or.jp/index.htmlの一環として、東京国際フォーラムガラス棟502号室で、「公共文化施設はどう変わる~市町村合併・指定管理者制度をむかえて~」が開催された。(財)地域創造と(社)全国公立文化施設協会が共催するシンポジウムである。
「世界中の文化芸術団体が東京で集約的に売り込みをする商談会」という性格が基本の東京芸術見本市だが、文化芸術団体から出し物を買う主催者として非常に大きなウェイトを占めているのが地方公共ホールの中身を運営する財団やら自治体直営やらの組織。そんな人たちが集まるわけだから、そんな人たちにとって一番問題になっていることを議論する場が設けられるのは、当然といえば当然であろう。

出席者は、吉本光宏(日生基礎研究所芸術文化プロジェクト室長で、企業メセナや自治体文化行政についての日本で一番の論客)、高橋保夫(横浜市文化芸術都市創造事業本部文化政策課、横浜市の指定管理者制度の全体像をプロデュースしている市職員さんで、なんと実質ひとりでやってるとのこと)、藤井保雄(朝来市文化会館副館長、市町村合併で市内に3つのホールが出来てしまった市の文化政策を現場で纏めている方)、中川幾郎(帝塚山大学大学院教授、公共文化行政の専門家中の専門家)。

朝の10時からのシンポジウムは、さほど広くない会場が溢れてしまうほど。芸術見本市のために日本各地から上京してきた公立文化会館関係者なら、自分のところで指定管理者制度が導入されていようがいまいが、覗きに来るのは当然だろう。一般芸術愛好家にはまるで知られていないテーマだけど、公共文化施設現場での関心は非常に高いことがはからずも証明された形だ。なんせ小生の隣の席に陣取ったのが、区の文化財団が改組されホールから離される、というこれまた面倒くさいことになった(財)足立区生涯学習振興公社の方だったんだから。いやはや。
音楽業界関係では、かつて新日本フィル運営を行い、その後は兵庫県の新しい文化センター立ち上げに関わり、今は芸大で教えていらっしゃる松原千代繁さんの顔が見えたくらい。所謂民間系の人も、地域創造のコーディネーターを務めるNPOトリトンアーツネットワークの児玉真氏程度。他はほぼ全てが公共自治体関係者である。あ、音楽ジャーナリストなどプレス関係も、どうも小生しかいなかったみたい。ううううん。

議論は以下のふたつに集約される。

◆市町村合併と公共文化施設
市町村合併の中でひとつの市に複数文化施設が存在するようになってしまうケースやら、大きな地域になったのに文化施設がひとつしかないケースやら、いろいろな問題が起きている。
具体的には、兵庫県の朝来町、和田山町、山東町、生野町が合併した朝来市のケーススタディ。まあ、これについては、報告は必要ないでしょう。3つのホールがひとつの市に存在することになったのだけど、全体を朝来市文化会館として市の企画部芸術文化課が直営で運営する、一種の市立アートセンター式のやり方を進めている、という話。ある意味で、珍しい成功例である。藤井氏という有能な市職員がいらっしゃったからこそ可能だったのだけど。

◆指定管理者制度導入を巡って~横浜市の事例
当ブログでもちょっと話題にした、横浜市の指定管理者制度導入問題について。
横浜では、22の文化施設中の17で指定管理者公募が行われる。磯子市民文化センターから始まったこのシステム、既に7つの区民センター(300から400席ほどの小ホールだが)で指定事業者が決定しており、そのうちの3つを自治体系財団ではなく、民間事業者が請け負うことになった(SPSの神奈川区民文化センター、京急の江南区文化センター、共立グループの栄区文化センター)。また、関内ホールはTVKエンタープライズが取っている。
さて、問題はここから。横浜市長の意向で、市が総合的な運営を考えていた横浜美術館、横浜みなとみらいホール、横浜能楽堂、横浜にぎわい座、これらそれぞれの業界ではメイジャーな大規模ホールが、全て指定管理者を公募することになったのである。この9月及び10月から公募要項を公表、審査が始まろうとしている。
首都圏でこれだけ大規模に、全国規模で名前を知られたホールなり美術館が指定管理者制度を導入するのは初めてのケースで、各方面から注目を集めているわけだ。詳しくは以下のアドレス参照。http://www.city.yokohama.jp/me/shimin/geijyutsu/shitei/index.html
以上が事実関係。ここで起きているいろいろな問題が、現場でこの作業を担当している高橋氏から説明され、質疑応答がされたのである。

この説明やら質疑応答やらについてレポートするべきなのだろうが、極めて専門的な話になるし、流れが見えないと判らないから、ばっさり割愛。同じく、指定管理者制度の問題点を厳しく指摘する中川先生の論も割愛。
問題点を列挙だけしておくと…コストダウンではなく自治体が持つ資産を行かせるのはどれかが問題、自治体の文化政策の有無(ミッション性の有無)に帰結する、指定管理者の選定基準はどうなるのか、議員の排除規定がない問題、結果的にダブルコストとなるけどそれでも良いのか、文化施設の評価指標がなければ困る、等々。

◆みなとみらいホールの運命は
んで、このブログ原稿をまだ読んでらっしゃる音楽愛好家諸氏よ、記憶しておいて欲しいのは以下。
「来る10月、横浜みなとみらいホールの指定管理者公募要項が公表され、来年3月には審査結果が発表されます。2年後からの5年間、指定された管理者が横浜みなとみらいホールの管理運営を行います。現在運営している(財)横浜市芸術文化振興財団はその時点までは暫定的な指定管理者ですが、そこから先は、誰が管理運営するか判りません。東急グループかもしれないし、テレビ制作会社かもしれないし、テレビ神奈川かもしれないし、サントリーパブリシティサービスかもしれないし、ことによるとどこかの大手音楽事務所がビル管理会社と組んで新しい会社を作って運営することになるかもしれません。勿論、今まで通りに市の財団が運営するかもしれません。皆さん、どうなるかご注目を。」

考えてみれば、このみなとみらいホール、民間が造ったものの運営までとても出来ないと横浜市に放り投げられたという経緯がある。なにやら既に流転のホールの運命を歩みつつあるなぁ。