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番外編その3 Mのマスターズ観戦記 [週替わり日記(2006-2007)]

 ご無沙汰しております。J.D.三年生のMです。実は先週、ゴルフのマスターズトーナメントを観戦に行ってまいりました。そこで、今回は少し趣向を変えて、ロースクールの勉強の合間にこんな楽しみもありますよ、という意味で、観戦記を書いてみたいと思います。卒業に必要な残り単位数も少なく、特に今学期は授業を週の前半に固めているため、学期の途中でもロースクールの授業を休むことなくマスターズに行ってくることが可能でした。また、渡米以来のこの三年間弱、出不精と忙しさで、一時帰国とNYCでのインターンシップを除いてはナッシュビルに閉じこもっていたため、ナッシュビルの外に旅行をしに行く絶好の機会となりました。

 マスターズは、ゴルフの4大トーナメントの一つで(他の3つは、全米オープン、全米プロ、全英オープン)、招待資格を満たす名手(マスター)たちしか出場できないことから、「ゴルフの祭典」として人々に最も敬愛されていると言われています。また、他の3つのトーナメントでは毎年開催コースが変更されるのに対し、マスターズは毎年ジョージア州オーガスタにあるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブで開催されています。

 トーナメントラウンド(木曜~日曜)のチケットは、いわゆる「パトロン」という会員しか購入することができず、「パトロン」になるためのウェイティングリストさえも1972年、2000年の2回募集がかかったのみでした。よって、一般の人がトーナメントを見ようと思ったら、「パトロン」の持っているチケットを個人や市場を通じて買うしかなく、原価175ドルのチケットが数千ドルから時には10000ドル近くまで跳ね上がることもあります。私は幸運にも信頼できる業者を通してチケットを1枚手に入れることができたのですが、やはり相当な価格で、一生に一度の観戦の機会だと思って、思い切って購入しました。ちなみに、練習ラウンド(月曜~水曜)のチケットは一般に抽選で販売されるのですが、こちらはトーナメント開催の半年以上前に既に完売しています。


左が練習ラウンド、右がトーナメントラウンドのチケット

 さて、オーガスタは我がロースクールのあるテネシー州のお隣のジョージア州にあるのですが、隣といっても東海岸寄りで、かつサウスカロライナ州との州境にあるため、ナッシュビルからは車で5時間強かかります。水曜日の昼前にナッシュビルを出発し、オーガスタに到着したのは午後5時過ぎでした。この水曜日のチケットは持っていなかったのですが、私はあえて会場に向かいました。と申しますのも、マスターズは観戦のルールが非常に厳しく、特にトーナメントラウンド期間の写真撮影は一切禁止されているため、私にとってオーガスタを写真に収めるチャンスはこの日しか無かったのです。

 会場に向かうと、既に練習ラウンドや名物のパー3コンテストは終わっており、会場からは次々と観戦を終えた人々が出てきていました。会場の外で人のよさそうなおじさんがいすに座って休憩していたので、だめもとで「今日のチケットを譲ってもらえませんか」と丁重に聞いたところ、「ああもう見終わったから只であげるよ」とのこと。勇んで会場に入ると、イベントは全て終わったにもかかわらず、かなりの数の人がコースを歩いたり、日光浴をしたりしていました。私はテレビでしか見たことの無かったオーガスタの美しさに魅せられながら、18コース全てを歩いて周り、沢山の写真を撮りました。


やってきましたマスターズ


クラブハウス。花壇には、おなじみの黄色のロゴマーク


この日のイベントはすべて終了したので、人もまばら。
トーナメント期間中は5万の観客で埋め尽くされます。


明日のトーナメント開始にそなえて、一斉整備をしています。

 翌木曜日のトーナメント第一ラウンドでは、まず1~9番ホールを片山晋吾・セルジオガルシアの組について回りました。ガルシアはスペインのスーパースターで、ギャラリーを大勢引き連れています。身長は平均的な日本人程度ですが、コンパクトなスイングから強烈なショットを放ちます。3番ホールでガルシアが私のほうに突然ボールを放ってきたのですが、うまくキャッチできず、右隣の男性に奪われてしまいました。しかし、どうやらガルシアは私の左隣にいた美人に向かって投げていたようで、周りのアメリカ人も「あいつはよくこういうことするんだよ」といっていました(もっとも、別のホールでは小さな子供にもあげていました)。

 やや歩きつかれたので、今度は9番ホールのティーグランド近くに折りたたみ椅子(後述ポイント④)を置いて定点観測をすることにしました。9番ホールは観戦用のロープがティーグラウンドすぐ近くに張られているので、目と鼻の先でプロのスイングを見ることができるのです。選手は3人ずつ、10分程度の感覚で次々とやってきます。タイガーウッズのスイングは速すぎて全く見えず、耳をつんざくような破裂音だけが響きました。前年優勝のフィルミケルソンはとにかく体が大きく、丸太のような腕(と腹)から300ヤードを軽く超えるビックショットを放ちました。

 プロをこんなに間近で見るのは初めてでしたが、面白いのは、ミケルソン、オラサバル、ビョーンといったおじさん世代の選手はみなプロなのにお腹が出ていることです(それでもスイングはものすごいのですが)。一方で、タイガー、アダムスコット、ジャスティンローズといった若い世代はみな引き締まったアスリート体系で、全身のバネを使ってボールを思いっきり引っ叩くといった感じです。

 2日目、3日目はドライビングレンジやアプローチ練習場でプロの練習を間近でみたり、コース脇に設置された観戦用のスタンドで次々とやってくる選手のプレーを観察したり、売店でサンドイッチを買って芝生の上で日光浴をしたり、来るべき最終日に備えてのんびりと過ごしました。


13番ホール 通称Azalea(ツツジ)


タイガーが最終日イーグルを出した15番ホール 通称Firethorn(イバラ)


16番ホール 通称Redbud(アメリカハナズオウ)


18番ホール右ドッグレッグ 通称Holly(セイヨウヒイラギ)

 そしていよいよ最終日、わたしの究極の目標は最終18番ホールで優勝パットを間近で見ることでした。18番ホールには観戦用のスタンドが無い代わりに、折りたたみ椅子をグリーンの周りに置いて場所を確保することが許されていました。そしてその場所の争奪戦は夜明け前から始まるのです。最終日の朝、午前6時に起床した私は、この日だけ会場から徒歩圏内に確保したモーテルから、真っ暗な中を歩いて会場に向かいました。気温は0度。セーター・フリース・ウィンドブレーカーを着込んで万全の体制です。もしかして一番乗りか?などと思いながら正門前に午前6時半に到着すると、そこには既に50人近くの人が行列を作っていました。

 午前8時にやっと第一ゲートが開き、荷物検査場までたどり着くことができたものの、私の並んでいた列の検査員がバックの隅々まで念入りにチェックするおじいさんで、後から来た別の列の人たちにどんどんと抜かれてしまいました。他の列の検査員はみなが急いでいる状況をわかっていて簡単な検査だけですぐに通すのですが、私のいた列だけは全く動かず、その検査員は大ブーイングを買っていました(彼は「まあまああせらず、急がせるとなかなか終わらないよ」と皆に呼びかけて追い討ちをかけ、暴動寸前になりました)。

 やっとのことで検査場を抜けたものの、コースに下りた霜のため、コースに入る直前の第二ゲートは一時間後の9時まで開かないとのこと。第二ゲートはさしずめ競馬のスタート地点のように小さなゲートがいくつも並んでいるのですが、検査場で手間取ったため18番ホールに近いゲートには既に多くの人が群がっており、しかたなく一番端のゲートで大外から回り込むような形になりました。9時に一斉にゲートが開き、人々はほとんどダッシュに近い全力のはや歩きで(走るのは禁じられています)18番ホールを目指します。私も大外からかなり挽回したのですが、18番ホールに到着したときには既にグリーンを囲む椅子の列が3列ほどできており、私は4列目になってしまいました。18番グリーンの周囲に置くことのできる椅子は8列程度で、場所を確保できなかった人々はその外側で立ち見になってしまうのです。今度テレビで18番ホールを囲むギャラリーをごらんになったら、「ああ大変な苦労した人たちなんだな」と思ってあげてください。

 その後は、各ホールを回ったり、練習場を見たりしてゆっくりと過ごし、選手が18番ホールに到着する頃に確保した地点に戻りました。18番ホールは打ち上げのパー4になっており、第二打を打ち終えた選手が太陽を背にしてゆっくりと丘を登ってくるのを、スタンディングオベーションで出迎えるのです。どの選手も4日間の激闘を終えようとしている満足感に溢れているのですが、プレーは真剣です。賞金や来年度の出場資格がこのホールの一打にかかっているからです。

 また、18番の脇には、上位選手の各ホールの動きがわかる掲示板が設置されています。タイガーが15番でイーグルを取ったり、優勝したザックジョンソンが2ホール連続でバーディーを取ったりといった情報が次々と入ってきて、観客の興奮も頂点に達します。タイガーを3打リードしていたジョンソンは17番でボギーをたたき、18番の第二打目もグリーンをはずしてしまいました。しかし、初出場ながらもジョンソンは堂々として落ち着いており、難しいアプローチを10センチの距離に寄せる神業を見せ、優勝を決定付けました。

 そんなこんなであっという間に終わった興奮の4日間でした。そこで私が得た、マスターズ観戦をより楽しいものにするための7つのポイントをお話したいと思います。

① ホテルの確保: とにかく早めに

 マスターズはチケットの確保も困難ですが、ホテルの確保も並大抵ではありません。マスターズ以外にはほとんど何も無いオーガスタという小さな田舎町に、一日5万とも言われる観客、それに加えて選手や関係者が集まるため、宿泊料金は普段の4倍から5倍になり、そしてそれでもめぼしいホテルはほとんど1年前に埋まってしまいます。そこでオーガスタだけでなく、車で30分ほどのアイケン、1時間ほどのコロンビアといった町に宿泊する人も多くいます。

 私の場合はホテルの予約で出遅れてしまったのですが、直前まで毎日ネットでキャンセルの出るホテルをチェックしていた結果、幸運にも会場から車で15分ほど、隣町のノースオーガスタにあるSleep Innを確保することができました。価格は普段の4倍程度でしたが、建物が新しく中もきれいで、十分満足できる質のホテルでした。また、最終日の前日は、朝早く会場入りするために、会場から徒歩圏内にあるRoadway Innを確保しました。普段は35ドル(今回はその6倍)のモーテルですから質は推して知るべしですが、とりあえず寝るには困りませんでした。

② 渋滞対策: Washington Roadを絶対に避ける。抜け道を使う。

 会場の正門前を走るWashington Roadは、マスターズ開催期間中恐ろしく渋滞します。歩いたほうが早いくらいです。ネットで親切な人が教えてくれたところによると、Augusta Nationalの南側を通るWanton Wayを使い、西側ゲートに面しているBerckman Roadに出るのが一番良いとのこと。その通りにした結果、車を使用した木から土の三日間、ほとんど渋滞にあわずに会場入りすることができました。Berckman Roadをしばらく走ると、道路わきにおじさんが「Parking $10」などといった看板を持って立っています。これらは近所の住民が自分の家の庭や空き地をこの期間だけ駐車場にしているものです。より会場に近い場所だと値段も20ドルに上がりますし、空いている保証もありませんので、10ドルの場所に停めて歩いて会場入り(西側ゲートまで徒歩5分ほど)するのがお勧めです。

③ 防寒対策: 軽くて暖かく、脱ぎ着のしやすいものを

 Augustaの朝晩の気温は0度近くまで下がり、一方日中は日照りも強く30度近くまで上がります。先週は特に米国全体の気温が低く(NYでは雪も降りました)、初日こそ半そでで快適でしたが、三日目四日目はフリースとウィンドブレーカーを重ね着しても震えるような寒さでした。ニット帽、手袋、ホッカイロなども持参すると便利です。ちなみに靴については、相当な距離を歩きますのでスニーカーもしくはスニーカータイプのゴルフシューズ(雨の日は芝生がすべるのでこちらがベター)を履くべきです。サンダルで来ていた女性もいましたが、自殺行為です。

④ 携行品: 折りたたみ椅子と小さなポーチを持参

 コースへの持込については大変厳しいルールが適用されており、カメラ(トーナメント期間)・携帯・30×10×10インチ以上のバックなどの持ち込みは禁止されています。持ち込めるバックは非常に小さく、ウェストポーチ程度です。一方、肘掛のない折りたたみ椅子と双眼鏡については、手で抱えて持ち込むことが可能です。折りたたみ椅子は市販のものでもかまいませんが、売店でマスターズのロゴ入りの椅子を29ドルで売っており、持ち運びがしやすくお土産にもなりますので、これを買うことをお勧めします。椅子は一人一台のみ、場所取りに使うことが許されています。なお、飲食物も一切持ち込むことができないため、会場内の売店で飲み物やサンドイッチを売っています。コカコーラが大スポンサーになっているのですが、会場内で商標を使うことはできず、コーラは「ソフトドリンク」という名称で売られています。


マスターズ特製ミネラルウォーター 1.5ドル

⑤ 観戦: 選手に同行する、定点観測をする、練習を見る、の3パターン

 まずは、好きな選手について18ホール全てを回ってみることをお勧めします。ただ残念ながら、フェアウェイの周囲にはロープが張られており(その外でしか観戦できない)、また人気選手は多くのギャラリーを引き連れているので、必ずしも選手の一挙手一投足はわかりません。そこで、様々な選手のプレーをじっくりと見ることができるのが定点観測です。前述のように、折りたたみ椅子で場所を確保することもできます。また、各所に設置されているスタンドが満席の場合でも、並んで空くのを待つことができます。さらに選手の技術的な点を学びたい場合は練習場がお勧めです。特にアプローチ練習場は奥にあるので観客席も比較的空いており、プロの神業を間近で見ることができます。

⑥ お土産: 2日目までに買う

 3日目の土曜日になると、売店のお土産はだんだん売り切れてきます。最終日にはほぼ空っぽになります。お土産は比較的良心的な値段で、全てロゴが入っています。個人的には、ボール、マーカー、グリーンフォークなどがコンパクトでデザインも良いのでお勧めです。

⑦ やはり最終日は18番ホールで: 体力・気力・運の勝負

 前述のように、18番ホールの観戦場所確保は体力と気力と運を必要とする大変な作業ですが、特に最終日はぜひとも確保されることをお勧めします。感動が違います!

 マスターズのチケット 数千ドル
 ホテル代(4泊) 千ドル以上
 最終日の開門 2時間半待ち
 18番ホールで優勝を決める一打を見られたこと プライスレス


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