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J.D.攻略法その2 受験準備編 [J.D.攻略法]

(1) J.D.入学に必要なこと—LSATとGPAでほぼ決まってしまう現実—

 前回は、J.D.とは何か、そして私がどのようにしてJ.D.を目指すことを決めたかをお話しました。今回は、そんな私と同じようにJ.D.を目指そうとしている方々に向けて、J.D.に入るためには何が必要か、どのように準備をすればよいかをお話しようと思います。

 J.D.入学には、国を問わず、4年生の大学を卒業している(ないし卒業見込みである)ことが必要です。出願にあたって要求されるのは、私が合格に最も重要だと思うものから順に、LSATのスコア、大学の成績表(いわゆるGPA)、エッセイ一通、推薦状三通、そしてレジュメ一通です。学校によっては、オプションとして別テーマでのエッセイを要求されることもあります。TOEFLを要求されることはほとんどありません。私が応募した10数校の中でも、TOEFLを要求していたのはVanderbiltだけでした。これは、J.D.はあくまでアメリカ人向けのプログラムであるから、また英語力はLSATで十分計れるからだと思います。

 ABA出版のロースクールガイドでは、ロースクールのほとんどが、LSATとGPAの組み合わせによる合格者の分布図、平均値、上位・下位25%を公表しています。
http://www.amazon.com/Aba-Official-Aba-approved-Schools-Approved/dp/0976024551/sr=8-1/qid=1170444930/ref=pd_bbs_sr_1/002-3018739-5486418?ie=UTF8&s=books

 LSATとGPAが高いほど合格率も高く、学校のランキングが高いほどそれぞれ高い数値が必要になってくるのが一目でわかると思います。たとえば、ランキング17位のVanderbiltの今年度の入学者平均は、LSATが166、GPAが3.70です。166というのは全米上位5%程度、3.70というのはほぼオールA-平均です。合格者の分布図を見れば、自分がどのくらい受かる可能性があるのかが良くわかると思います。LSATとGPAのどちらを重視するのかは、学校によって多少異なりますが、5対5と考えてもそれほど問題はないでしょう。

 やや乱暴になりますが、どのレベルのロースクールに合格できるかは、LSATとGPAの組み合わせでほぼ決まると言っても過言ではありません。ひとつの学校が何千通という応募を受けることからすると、学校がエッセイその他の資料をすべて精読して比較しているとは考えにくく、客観的な数値で表されるLSATとGPAの組み合わせでかなりの部分が決まってしまうことは容易に想像できます。また、エッセイなどの資料はみな時間をかけて書きますし、予備校の介入などどこまでその内容が本当か必ずしもわからない場合もあります。よって、極端に優れた経歴・推薦などがない限り、差はつきにくいと言えます。
 
(2) GPAはなぜ重要か?GPAが低い場合はどうすればよいか?

 GPAは原則として、Aを4点、Bを3点、Cを2点として計算します(4点満点となります)。卒業した大学のレベルによって、多少数値は調整されます。たとえば、Harvardの3.5は、無名校の4.0よりも高く評価されるはずです。日本の学校によって調整が入るのかどうかはわかりませんが、LL.M.で日本人を多く受け入れている学校では、たとえば「東大で3.5なら米国でいうとこれくらい」というようなイメージがあるのかも知れません。

 あまり勉強しない(成績をそれほど気にしない)といわれる日本の大学生に比べ、ロースクールを目指しているような米国の学生は、大学時代からいい成績を取る努力をしています。大学のトップレベルの学生は、メディカルスクール(日本の医学部に当たる修士課程)か、ロースクールに行くとも聞きます。ですから、トップ20までの学校に入るためには3点台の後半は欲しいところです(実は私はこの点、大きな例外です。この点は後ほど述べます)。

 日本の大学を卒業して数年間働いた人にとっては、やや厳しい面もあります。私もそうでしたが、何年も前の、しかも留学のことをあまり意識していない時期の成績が重視されてしまうのは、正直「なんで?」という気持ちになってしまうかも知れません。しかし、前述のように、ロースクールに入る米国の学生はみなよい成績を取っていますし、学校によっては一発勝負のLSATよりも四年間の蓄積であるGPAを重視するとも聞きます(前述のABAガイドに各校のコメントが載っていますので、ご参照ください)。GPAの低さを覆すようなすごいキャリア(たとえば裁判官を10年務めた、など)がなければ、これを現実として受け止めることが重要です。まだ学生の方は、今から少しでもGPAを上げる努力をしてください。既に社会人の方は、LSATを頑張るしかありません。

 私は日本の大学時代、恥ずかしながら、全くといっていいほど勉強しませんでした。将来留学したい、という気持ちはありましたが、どうせ働いてからだし、仕事や英語の試験を頑張れば良い、と高を括っていました。前述のような現実を知りませんでした。その結果、私のGPAは、米国のトップ20ロースクールにはとても入れない(下位25%にも遠くおよばない)数値になってしまったのです。私は卒業後6年弱働き、それなりに履歴書やエッセイに書ける内容はありましたが、特に目立った、それだけで合格を約束できるようなものは皆無でした。私に残された道は、LSATで奇跡を起こすことでした。

(3) LSATとは何か?

 LSATとは、ロースクール受験生用の共通テストのことです。ロジック・読解力・判断力などが要求される3セクションからなる択一試験で、点数は偏差値方式で180点から120点の間で示されます。具体的には、論理的な文章読解力を問うLogical Reasoningが35分×2セクション、分析能力を問う一種パズルのようなAnalytical Reasoningが35分、長文読解力を問うReading Comprehensionが35分、そしてダミーとして前3者のいずれかがランダムで出されるExperimental Sectionが35分です(これは採点されません)。また、30分間のエッセイライティングのセクションもあるのですが、こちらは点数換算されません(学校もこのライティングはほとんど見ないといわれています)。サンプルがLSACのホームページに載っています。
http://www.lsac.org/pdfs/2006-2007/TestPrep06.pdf

 学校や選択科目で多少の差異が出てくるGPAと違い、LSATは全国共通、客観的な指標で計ることができます。また、LSATで高得点を取るのに必要なのは、ロースクールでの勉強や法律家になるために必要な、ロジック・読解力・判断力といった力であり、LSATの点数とロースクールでの成績には相関性があると聞いたこともあります。トップ20くらいまでの学校に入るためには、最低165点(受験者の上位約5%以内)程度は欲しいところです。上位校の合格者平均は年々上昇しています。170点以上取れば、いわゆるトップ校であるYaleやHarvardといったところも十分圏内に入ってきます。

 LSATは6・10・12・2月の年4回開催されていますが、注意しなければいけないのは、過去の獲得スコアとあわせてロースクールに報告されてしまうことです。極端な話、一度120点を取ってしまったら、次に180点を取ったとしても、ロースクールには平均スコアの150が報告されてしまいます。そのため、キャンセルという救済策があり、試験を受けた直後に(スコアは約一ヶ月後に発表されます)感触が悪ければ、点数を出さないという選択をすることができるのです。

 LSATの難しさは、ひとえにそれがNativeの米国人対象の試験だというところから来ています。たとえばTOEFLは、Non-native向けの、母国語ではない言語としての英語力の試験です。それに対し、LSATは、米国で育ち、大学を卒業した程度の英語力を前提としています。MBA受験におけるGMATと比較されることもありますが、LSATには数学のセクションはありません。よって、英語力の影響の少ないところで点数を稼ぐ、ということもできません。

 私のLSATスコアは166点(全米上位5%)でした。当時の私の英語力を考えると、これは奇跡的な数字と言えます。LSATのスコアだけを見れば、ランキングトップのYaleは難しいものの、その他の学校には十分入学可能な数字でした。ですから、もし読者の方がNative並みの英語力を有しない、すなわち受験時の私と同じ立場であれば、LSATで高得点を取ることは簡単とは言えませんが、かといって不可能でもないのです。

(4) LSAT攻略法

 私のとった方法は以下の通りです。まず、Princeton Review(留学予備校)出版のLSAT Guideを購入して、どのような科目があるのか、どうやって対策を取るか、などの基本的な情報を得ました。練習問題がとても自力で解けるレベルではないことを悟った私は、当時日本で唯一LSAT講座を開講していたPrinceton Reviewの3ヶ月のコースに通いました。数人だけのクラスでしたが、私以外は全員日本在住のアメリカ人か帰国子女でした。
 
 基礎的なテクニックを学んだ後は、自分でひたすら過去問題を解きました。当時は過去20年~30年分、つまり100回分以上の問題が出版されていましたので、それらをすべて購入し、毎日少しずつ解きました。会社で働きながらの勉強で、夜は残業など時間が取れないこともありましたので、毎朝5時に起きて通勤前の時間を活用したり、昼休みに会議室にこもって勉強したりしました。

 LSATには前述のように3つのセクションがあります。170点以上の超高得点を目指すのでなければある程度問題を落とせますので、自分の得意・不得意分野を見極め、戦略を練ることが重要です。Logical Reasoningは全体の50%を占めるため、最も重要です。簡単に言うと、「AならばBである」という主張があって、その主張を最も強くサポートする前提は以下のうちどれか、というような問題が出ます。ある程度問題の傾向はパターン化しているものの、問題数が多く、中には超難問も含まれています。時間との戦いになりますので、ひらめきもしくは匂いで解けるようになるまで問題をこなす必要があります。本番では8割から9割の正解を目指しました。一度読んですぐに答えが浮かばない(もしくは何も匂わない)問題は全て飛ばしました。その際に、少し時間を使えばわかりそうな問題を△、全く意味不明の超難問(1セクションに2・3個含まれています)を×でマークしておき、最後まで行ったら△の問題に戻って解きました。

 Analytical Reasoningは全体の25%、「頭の体操」のようなパズル的な問題が出ますので、他のセクションよりも英語力は必要とされません。たとえば、「AさんからFさんまでが輪になっていて、Aさんは帽子をかぶり、帽子をかぶった人の正面にはひげを生やした人がいる。さてDさんの右隣はだれでしょう」というような問題です。このセクションについては、得意不得意がはっきり分かれると思います。私は昔からこの手のパズルが好きで、このセクションを最も得意としていたため、満点を目指しました。コツは、頭の中だけで考えるのではなく、必ず図や表を描いて、鉛筆を動かしながら考えることです。そして、同じ図や表を複数の小問に使うことになるため、時間をかけて丁寧に描くことも重要です。

 Reading Comprehensionは全体の25%、米国で大学を出たNativeにとっても難しい、哲学や科学などの超難文が出題されます。最も苦手としていたセクションだったので、3/4程度の正解を目指し、4問中もっとも時間のかかりそうな問題は文章を全く読まずに回答し、残りの3問に集中しました。難文に対するアレルギーを少しでもなくすよう、過去問題をたくさん解きました。最初は規定の35分間に4問中1問読めるかどうかという状態でしたが、最終的には3問ならなんとか読める状態までもって行きました。

 練習問題を解く際には、時間配分に注意してください。最初のうちはかなり時間がかかってしまうので、一つ一つの問題をゆっくり解いてもかまいません。しかし、LSATは時間との勝負になりますので、慣れてきたら少なくとも一セクション35分というまとまった時間帯を取って、その中で問題がいくつ解けるか、時間配分の訓練をすることが重要です。最終的には、集中力の持続も必要ですから、約三時間というまとまった時間を取って、全てのセクションを連続で解くようにしてください。私の場合、特に試験直前の一週間は休暇を取り、テスト本番と同じ時間に起床して問題を解く訓練をしました。

 私は入学前年の2003年の6月と10月にLSATを受験しました。6月のときは準備も不十分だったため、実際の試験の雰囲気になれるつもりで受け、点数を取れている感触がなかったのでスコアはその場でキャンセルしました。10月の試験は万全の体制で臨み、感触がよかったためスコアはキャンセルせず、1ヶ月後にスコアが送られてきました。10月の試験では、Analytical Reasoningがダミーとして出題されたという幸運もありました。もちろん2つ出題されたセクションのどちらがダミーなのかは試験中にはわかりませんが、最も得意な分野ということで体力・精神力のロスが少なかったのです。

(5) エッセイ・レジュメ・推薦状
 
 上で「GPAとLSATでほぼ決まってしまう」と述べました。だからといって、その他の書類が大切でない、というわけではありません。GPAとLSATでは甲乙つけがたい学生間では、これらの書類が勝負を決めることになるからです。留学受験予備校でもこういった書類に関するノウハウが蓄積されていますので、財布と相談しながら利用するのもよいと思います。私の場合は、会社の先輩が利用していた四谷にあるBEST英語学校というところの、通称Dr.と呼ばれる米国人のおじいさんに指導を受けました。
 
 ロースクールで要求されているエッセイは、大抵テーマは似通っていて、動機・将来の目標・乗り越えた苦難などです。そうした全てのテーマを網羅するような「核」となるエッセイを作った後、次回で述べるキャンパスビジットの体験なども含めて学校ごとにカスタマイズしました。特に、なぜ留学、しかもJDを目指しているのかを、業務を通じて出会った米国・英国弁護士との体験を交えて述べ、留学後の短期・長期的目標と結びつけました。

 推薦状は、会社の上司、大学時代のゼミの教授、取引先の英国人弁護士の3人に依頼しました。戦略としては、エッセイ・レジュメ・推薦状の三つが有機的に繋がるようにすることが重要です。私の場合、(1)上司には、レジュメで強調しエッセイで詳しく述べた仕事の成果を、(2)教授には、エッセイで述べた性格面の長所や、将来の目標を達成できるポテンシャルを、(3)英国人弁護士には、エッセイでアピールした英語での法律スキルの重要性や、それを身につける能力を、それぞれ推薦状の中でサポートしてもらうようにお願いしました。

 ちなみに、こうした書類をそれぞれの学校に郵送することも可能ですが、LSATを主催しているLSACの一元管理のオンラインシステムを使うと便利です。ほとんどの学校でもこのシステムを使うことを推奨しています。LSACに登録すると、それぞれの学校ごとにカスタマイズしたエッセイとレジュメをオンラインにアップすることができます。推薦者には推薦状を直接LSACに送付してもらいます。一枚だけ送付してもらえば使いまわしができるので便利ですが、学校ごとのカスタマイズができないのが欠点です(ただし、推薦者にカスタマイズをお願いするのはいずれにせよ難しいのではないでしょうか)。全ての資料がそろった時点で、クリックひとつで学校に書類を転送することができます。

 さて、上記のように、いかんともしがたいGPAをなんとかLSATで挽回したかに見えた私でしたが、その後の出願の道のりは決して平坦なものではありませんでした。そこで次回は、実際の出願の過程、キャンパスビジット、学校を選ぶ条件、などについて述べてみたいと思います。


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