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新国立劇場 オペラ「ヴォツェック」 [オペラぁ!]

ko_20001667_chirashi.jpgヴォツェックは、
ゲオルク・ビューヒナーの戯曲に触発されたアルバン・ベルクが、
台本と作曲を手掛けたオペラで、
1925年にベルリン国立歌劇場で初演されています。

十二音技法も取り入れた無調音楽で書かれたこのオペラは、
初演時に137回ものリハーサルが行われた程、
上演難易度の高い作品ながら、
現代オペラの最高傑作として高く評価されています。
1920年代はモダニズムの台頭により従来の価値観が崩壊し、
新しい価値観を模索する時代でもありました。

今回、新国立劇場の上演は、
2008年のドイツ・バイエルン州立歌劇場のプロダクションですが、
現代美術の巨大インスタレーションを見るような、
芸術的完成度の高い舞台・演出は圧巻です。
ただ、
台本のト書きにはあるであろう状況描写が、
抽象表現になっているため、なかなか理解しづらいところもあり、
「その精神表現を理解しろ。」という事なのでしょうが、
これはやはり、
「いくつか他のプロダクションも見てみないと。」と思わせるものでした。

そのダイナミックな舞台は、
中央に浮かんだ大きな箱の内側に簡単な室内のしつらえがあり、
内部でストーリーが展開しますが、
途中、箱ごと前後にあるいは上下に移動すると、
その下に薄く水を張った床が出現し、
第2の舞台となります。
暗く湿った地下空間を思わせる場所にたむろする貧困市民たちが、
水音を立てて食べ物に群がる様子は、
社会の2重構造を表したものでしょうか?
それに対して、最初から最後まで登場している子供は、
社会に汚されない「無垢の心」の象徴のように描かれています。

衣装によって極端にデフォルメされた登場人物も、
船越圭が作る彫刻のような虚構的美しさで、
幻覚を見ているような錯覚に陥ります。
なかでも、
異様な風船腹の大尉はサイケデリックな声でヴォツェックをののしり、
奇形なギブスを全身に付けたような医者はラップのような言葉の羅列で、
ヴォツェックを我が物のように人体実験台にし、
その容姿と共にいかれた社会を風刺しているようです。

ヴォツェック役はトーマス・ヨハネス・マイヤー、
その内縁の妻マリー役はウルズラ・ヘッセ・フォン・デン・シュタイネン、
この2人のキャスティングはとても重要ですが、
作り込む事なく個性のあるシュールな表現で作品世界を展開していました。

休憩なしで3幕、1時間半程度の作品ですが、
やはり難曲なのでしょう。
故若杉さんに代わってハルトムート・ヘンヒェンが指揮した東京フィルハーモニー交響楽団は、
開演前のピットがやけに賑やか。
気合が入っているのか、本番前の緊張か?
無調音楽とは言え?無調音楽だから?外すと相当目立ちます。

今回は聴衆もいつもと違って一癖も二癖もありそうな顔ぶれ、
皆さん3幕を通して静かに聴いていたようですが、
終わった後、ポツポツと鳴り始めた拍手が、
徐々にうねるように高まっていったのが印象的でした。


2009年11月18日 新国立劇場 オペラ「ヴォツェック」
Alban Berg:Wozzeck
アルバン・ベルク/全3幕

スタッフ
【指 揮】ハルトムート・ヘンヒェン(Hartmut Haenchen)
【演 出】アンドレアス・クリーゲンブルク(Andreas Kriegenburg)
【美 術】ハラルド・トアー(Harald Thor)
【衣 裳】アンドレア・シュラート(Andrea Schraad)
【照 明】シュテファン・ボリガー(Stefan Bolliger)
【振 付】ツェンタ・ヘルテル

【企 画】若杉 弘
【芸術監督代行】尾高忠明
【主 催】新国立劇場

キャスト
【ヴォツェック】トーマス・ヨハネス・マイヤー(Thomas Johannes Mayer)
【鼓手長】エンドリック・ヴォトリッヒ(Endrik Wottrich)
【アンドレス】高野二郎(Takano Jiro)
【大尉】フォルカー・フォーゲル(Volker Vogel)
【医者】妻屋秀和(Tsumaya Hidekazu)
【第一の徒弟職人】大澤 建(Osawa Ken)
【第二の徒弟職人】星野 淳(Hoshino Jun)
【マリー】ウルズラ・ヘッセ・フォン・デン・シュタイネン(Ursula Hesse von den Steinen)
【マルグレート】山下牧子(Yamashita Makiko)

【合 唱】新国立劇場合唱団(New National Theatre Chorus)
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)

【主 催】文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場
【共同制作】バイエルン州立歌劇場


タグ:ベルク
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コメント 4

euridice

こんにちは
本当に見応えのある劇でした。出演者も役柄に合っていて違和感がなくてよかったです。こういうオペラは、いわゆるオペラ的キャスティングずれがないので、劇として自然に鑑賞できます。

原作はおよそ200年、オペラ化もおよそ100年前ですが、昔のお話という感じは皆無なのが、重いというか・・

>聴衆も
あちらの方も目立ちましたね。

by euridice (2009-11-20 20:01) 

TaekoLovesParis

初めはあの衣装に馴染めず、違和感だったのですが、すぐ引き込まれてしまいました。社会風刺だから、ああいう衣装なんですね。
マリー役は、すっかりなりきって、声もあっていて、すてきでした。
私の記事は感想なので、きちんとレビューを書いていらっしゃる
つるりんこさんのところにリンクをつけさせてくださいね。

by TaekoLovesParis (2009-11-22 23:35) 

operaview

26日に拝見しました。りん
難解なオペラですが、また他のプロダクションでも見てみたいですね。
記事リンクさせて頂きますね~。
http://operadaily.opera-view.net/
by operaview (2009-11-28 00:11) 

operaview

26日に拝見しました。
難解なオペラですが、また他のプロダクションでも見てみたいですね。
記事リンクさせて頂きますね~。
http://operadaily.opera-view.net/
by operaview (2009-11-28 00:12) 

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