新国立劇場 オペラ「さまよえるオランダ人」 [オペラぁ!]
新製作のワーグナーに期待の高まる中、
長い前奏の間は真っ暗。
そして、
大勢の水夫を乗せた特大いかだのようなノルウェー船が下手から登場、
それに比べると立派過ぎるオランダ船は舞台奥からノルウェー船を直撃、
自動タラップから気絶したまま「さまよえるオランダ人」の登場でした。
2幕では、天井から今度は巨大みかん箱のような、
奥がすぼまった門型が下りてきて、女達の糸紡ぎ工場となります。
ちょうどゴッホ描いた簡素な部屋みたいな感じ、
そして3幕では船のシーンに戻ります。
全体に大きな枠組みのシンプルな構成でしたが、
ゼンタとオランダ人の沈黙による感動的な出会いのシーンも、
スポットライトを少し距離をおいた互いの頭越しに照らすなど、
要所で、印象深い演出になっていました。
最後はオランダ人が舞台中央で身を崩し、昇天で終わりましたが、
始まりと終わりが、同じ人の同じ姿勢なのに状況が全く違うところに、
演出の意図があるように感じました。
「スペース・トゥーランドット」につづき衣装を手掛けたのはひびのこづえさん。
いろんな柄付きの白シャツを着た水夫を並ばせて柄合わせで船を形作り、
その、はいているジーンズは水面下の部分という趣向も、
シンプルないかだ船に微笑ましいを一興を添えていました。
ゼンタ役のソプラノ、アニヤ・カンペは、
コーラスに混じるとちょっと大きい人という印象ですが、
たっぷりした体格というわけではなく、
オランダ人やエリックに張り合うには十分で、
微妙に震えのあるよく通る高音が、劇場中に響き渡っていました。
それにしても「男の救済と女の犠牲」っていうのがワーグナーのテーマなのでしょうか?
「さまよえるオランダ人」は、
パリでの成功を夢見た貧乏な若きワーグナーの意欲作でしたが、
かの地での上演は叶わず1842年、ドレスデンにて初演、
それも、大成功というわけにはいかなかったようです。
時代が違うとは言えども、
この徹底したヒロインの貞節、献身、自己犠牲は、
観ていても、その一途な想いに感情移入するのにもやや無理があり、
わがままな男が描き求める女性の理想像でしかないようで、
到底自由な気質のフランス女性に受け入れられるとは思えないし、
女性が背を向ける作品をフランスの男性が評価するとも考えられないので、
音楽的な素晴らしさをもって、
後日再評価されたのであろう事は十分納得できます。
次作の「タンホイザー」に期待したいです。
2007年3月7日 新国立劇場
「さまよえるオランダ人」 DER FLIEGENDE HOLLANDER
台本・作曲:リヒャルト・ワーグナー (Richard Wagner)
指揮:ミヒャエル・ボーダー (Michael Boder)
演出:マティアス・フォン・シュテークマン (Matthias von Stegmann)
美術:堀尾 幸男 (Horio Yukio)
衣裳:ひびの こづえ (Hibino Kozue)
照明:磯野 睦 (Isono Mutsumi)
ダーラント:松位 浩 (Matsui Hiroshi)
ゼンタ:アニヤ・カンペ (Anja Kampe)
エリック:エンドリック・ヴォトリッヒ (Endrik Wottrich)
マリー:竹本 節子 (Takemoto Setsuko)
舵手:高橋 淳 (Takahashi Jun)
オランダ人:ユハ・ウーシタロ (Juha Uusitalo)
合唱:新国立劇場合唱団 (New National Theatre Chorus)
管弦楽:東京交響楽団 (Tokyo Symphony Orchestra)
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