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「Roman」:複雑にして純粋な音楽 [音楽]

 去年の年末以来、深くはまっているアーティストSound Horizonの、メジャーアルバム第3弾にして、5th Story CDと銘打たれた「Roman」が発売されました。どうして第3弾なのに5番目なのかというと、同人(インディーズ)で発売した分のアルバムがあるからです。
 タイトルである「Roman」は作中で主に「物語」の意味で使われていますが、「其処にロマンは在るのかしら?」という繰り返されるフレーズには、「生まれてきた意味」というニュアンスもありそうです。さらに「嘘をついたのは誰か」という謎かけからは、「真実」という意味も含んでいるようです。


 Sound Horizonの音楽を語ることは難しいのです。
 民族音楽的でありメタル的でありゲームミュージック的であり、次々と転調を繰り返すのに聴きやすい音楽。固定されたメンバーは、作詞作曲者でありミュージックプロデューサーである"領主"Revo氏だけで、あとはそのつど編成を変えていく幻想楽団。メジャーになり予算が増えるにしたがって、数十人規模へと果てしなく膨らんでいく音の編制。事情により歌い手を失っても、新しい歌い手を複数迎え、さらに語り手として有名声優までも多数加えて、彼彼女らを使いこなしてみせるスケール。
 1曲1曲が深い物語性を秘めながら、さらにアルバム全体でそれらが複雑に絡み合って一つのサーガとなっていく構成。歌詞カードに書かれた言葉が曲中では違う言葉で歌われ、さらに書かれていない語りの部分があり、ジャケット絵までもが解読を要し、以前のアルバムとも絡み合って、読み解き作業は果てしない。
 以前から公表されていないボーナストラックは当たり前のように存在していましたが、今回は歌詞カードの末尾に書かれたURLに飛んで、歌詞カードを解読した言葉を入力するとボーナストラックが落とせるという・・・そこまでやっていいのかという仕掛けもあります。truemessageと名づけられているように、ボーナスというよりもこちらが完成品の曲なので・・・いいんでしょうか。さらにもう1曲あるし。

 別の面からは、Sound Horizonの、ネットで個人的に音楽を公開していたところから、コミケでCDを売るようになり、ついにはメジャーデビューを果たしたという異色の経歴も語れるでしょう。そのせいか既存の枠組みでは語れない方法論を持っており、先述したように曲の中で物語を歌い、さらには語りもどんどん入るという、ミュージカル的でオペラ的な曲風です。
 おかげで事務所もいまだにこの音楽をどう売っていいのか試行錯誤している面が見て取れ、今回も普通に(ポップスとして)名曲というものがあるのに、Revo氏自らが「濃い方の曲」という7分近くの長大な曲にPVを作成し、さらにそれを作っているのがスクリーミング・マッド・ジョージ氏というアーティスト。彼はハリウッドで特殊メイクの世界で名を売った方で(ちなみに日本人です)、なんというかチープにしてアーティスティック、金と手間はやたらかかっていそうなのに、それがちっとも豪華には見えないという素晴らしい演出をなさる方なのです。・・・いや、私は好きですけど。どーみても、メジャーに売る売り方ではない・・・。


 導入だけでこれだけの解説がいるあたりがすでに敷居の高さを物語りますが、私がそもそもSound Horizonの曲にはまったのは、公式サイトで公開されている短い試聴曲がどうしても頭から離れず、ついCDを買ってしまっただけです。今もって、私が他者にこの音楽を進めるとしたら、試聴してみたら?以外に語る言葉は持ちません。→というわけで、公式サイト

 さてそれでどのように語ろうかと悩みました。いくらでも語れることはあるのですが・・・それらはどうも本質的ではないように思うのです。歌詞の分析も、それはそれで楽しいのですが、たぶん答えは用意されていない。良い意味で遊びにすぎない気がします。
 脚本家の三谷幸喜さんも古畑任三郎シリーズにて、1シーズンの中で放映順と実際の劇中時間の流れをシャッフルするという遊びを仕掛けていましたが、あれも古畑の面白さの本質とは何の関係もありません。ただ脚本家がそういう遊びを好む人であるということは、確実に作品に影響してはいるのですが。
 つまりは楽しむものであって、悩むものではないのです。

 では私はSound Horizonの何が好きなのだろうと考えました。おそらくそれは、純粋さなのです。歌詞も構成も曲も歌い手も、すべては音楽に奉仕するパーツにすぎないように思います。Revo氏が実現したい音楽のための。なにか、そういったシンプルさを非常に感じるのです。そこが好きなのです。
 音楽とは音の楽しさであり、語源をたどれば神との対話であり、中世においては世界の調和を知るための探求だったそうですが、ここでは「Roman」という言葉を使うのが適当でしょう。つまりは「物語」であり「生まれてくる意味」であり「真実」。語りたいこととはそれ。
 考えれば考えるほど、答えは明白かつ自明に目の前に示されているように思います。


 ところで答えも出たところで、そんな複雑な曲をあえて無理やり読み解いてみます。なぜならそれも楽しさですので。

1. 朝と夜の物語
 オープニング曲ということで、包括的な問いかけがなされます。生と死の意味を問いながら、朝と夜を往復するようにその過程を歌う歌であるように思います。つまり、生きる=僕達は行く。それがこのアルバムのテーマであり、すべての曲、あるいは最初と最後をつなぐ接続詞でもあるのでしょう。
 ところでいきなり謎の歌い手が歌っているのはどーなのか。

2. 焔
 独断と偏見によれば、焔とは生のメタファーであるように思います。歌詞は毒を含み死も暗示しているのですが、曲の明るさのほうが印象に残ります。それがつまり、生きる力ってことなのかなと。

3. 見えざる腕
 謎のPVがついている「濃いほうの曲」です。それだけに物語はしっかり語られています。二人の騎士が戦って一人は片腕を失って酒におぼれて恋人は出て行って、かと思うとばったり仇敵と再会してしまってどうなるのかと思ったら第三の人間がさっくりと。さらに少年がそれを見ていた。
 呆然とする気持ちと葡萄酒の注がれる音が妙にはまるのです。また軽やかな笛の音色が癖になります。これだからSound Horizonはやめられません。

4. 呪われし宝石
 抽象度は高めの歌ですが、基本は30ctの呪われたレッドダイヤモンドにまつわる物語。掘り出されるところから断片的に語られる経緯と、一方でおそらく宝石を意味する「彼女」の魔性が歌われます。
 透明度の高い美しい声と低い声のナレーションのコントラストがたまりません。毒々しさよりも美しさが印象に残ります。危険です。

5. 星屑の革紐
 星の名を持つ視力の弱い少女と、彼女を支えた犬の物語。少女というのはSound Horizonが中心にすえる題材の一つですが、歌い手が変わったことでまた新しい少女像が出てきたように思います。若さや軽やかさといったものでしょうか。
 と油断していると、いきなり最後で地平線(=アルバム)を飛び越えるダイナミズムがたまりません。これがあれにつながるのか!という。

6. 緋色の風車
 先行したタイアップシングルに収録されていた曲であり、さらに前にはライブで披露されて話題にもなった曲です。実在した酒場ムーラン・ルージュをモチーフにしながら、非常にシンプルな悲劇が語られます。シンプルなだけに歴史の中で何度もあったことなのだろうと思いつつ、当事者には忘れられない傷痕であり、そういった思いが歴史を作り変えていくのだろうなと。

7. 天使の彫像
 一人彫像を掘り進める男の、捨て去った多くのものとそれでも渇望する光の物語。ただ問題は、歌い声が胡散臭いことです。それでもサビの部分は、なんともいえない中年男の哀愁が漂っていてたまらないのですが。中年男に限らず人一般の悲しみが。

8. 美しきもの
 ヒーリングミュージック的で、ちょっと異色な曲です。やっぱり人は死んでいるあたりが油断できませんが。美しきものは生きる意味でありロマンに通じるのですが、それは本当に手に出来るものなのか。どうしても何か毒を探してしまうのは、(Sound Horizonの)日頃の行いのせいでしょう。うん。

9. 歓びと哀しみの葡萄酒
 葡萄園に生きた一人の女性の、壮大な人生を描いたロマン。父親の権威主義と継母の浪費で政略結婚させられそうになって、何か壮絶な逃亡があった挙句、もう誰も愛さないし愛する資格もないといって、ただ人々に飲まれる葡萄酒を自分の子供のように手塩にかける彼女。狂気と紙一重の大地を踏みしめる生の強さが印象的です。

10. 黄昏の賢者
 決め台詞の存在により、ライブで歌われたら滅茶苦茶盛り上がるに違いない曲。全体から見ても少しはみ出した感のある立ち位置です。この後の曲と続けて、アルバム最高の盛り上がりを作ってくれる曲でもあるのですが。
 彼は実際のところ何も答えを出していないのですが、悩んだときは確かにこういう人に話を聞いてほしい。たしかにそれこそ賢者です。紙一重で胡散臭いですが。

11. 11文字の伝言
 この曲は・・・はっきり言ってものすごく泣けるのですが、アルバム収録バージョンではなくパスを入れてダウンロードしてくるバージョンが正式です。前曲とこの曲のつながりは、女性なら心に刺さらずにはいられない。男性の場合は「男はみなマザコンだ」理論により泣けるはずです。
 生命を産み出すことの重さと価値を感じます。この11文字は、確かに言って欲しいです。そしてまた、自分が母なら思うだろうなという言葉です。けれども何よりも、それが伝言としてつながることに、(ロマンの)意味があるのかなと。

 全体として非常に食べ応えのあるアルバムであり、お腹いっぱいです。初めて聴いたときはこんなの絶対消化できないと思うものの、いつの間にか頭の中で鳴り止まなくなっており、気がつくとリピートし続けていつの間にかきっと全部覚えてしまうに違いない。恐ろしい話です。
 しかしとてつもなく幸福な話でもあります。

5th story CD「Roman」

5th story CD「Roman」

  • アーティスト: Sound Horizon
  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 2006/11/22
  • メディア: CD

公式サイト(試聴曲あり):


Sound Horizon「Roman」シリーズ
 「Roman」:複雑にして純粋な音楽 / 06.11.25
 Sound Horizon Concert Tour 2006 『Roman ~僕達が繋がる物語~』 / 06.12.8
 Sound Horizon Concert Tour 2006-2007 『Roman』追加公演 / 07.1.7
 「Roman」ブローチコレクション / 07.1.7
 「Roman ~僕達が繋がる物語~」:違う道を来たりて至る / 07.5.5


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コメント 8

レイ

はじめまして。
蒼天航路で検索していてたどり着いたのですが、Romanの記事を見つけてこちらに書き込ませていただきました。

ボーナストラックあったんですね・・・まったく気がつきませんでした。落としてきたので後でじっくり聴きたいと思います。

星屑の革紐の彼女が地平線を越えて・・・言われて見ると確かにそうなのではないかと思えてきますね・・・やはりSound Horizonは深いなぁ。
歓びと哀しみの葡萄酒の彼女ですが、Elysionの彼女のその後なのではないかと思うのですがどうでしょう?
色々と物語に繋がりがあるのではないかと考えるのもSound Horizonの音楽の楽しみ方の一つですね。
by レイ (2006-11-25 18:48) 

Aa

はじめまして、レイさん。
蒼天航路からとは、どこで何がつながるか分からないですねー。
私の場合はただの雑食ですが、蒼天航路とサンホラが同時に好きというのは、カッコイイ気がします。
ちなみに今なら「ヨルムンガンド」もお勧めでございます(揉み手)。あの画力の素晴らしさが理解でき、濃いキャラクターの群像劇が楽しめる方ならばっ。系統的には「ガンスリンガー・ガール」や「ブラックラグーン」、絵柄は「ピルグリム・イェーガー」に通じるものがあります。

ボーナストラック、2曲あるのですが、分かられましたか?
「黄昏の賢者」でアナグラムするのですが。
まったくのノーヒントだとやっぱり見落とす方も多いような気がするんです。そこがちょっと心配なのです。私も2曲目は人に聞かないとわかりませんでしたし。
領主が公式で、ヒントなりとアナウンスしてくださるといいのですがー。

星屑はあそこにつながるのか!となると、何か別の問題が発生する気がしてなりませんが、あのバイオリンはぐっと来ます。ライブで2曲続けてやってくれたら、もうたまりません。きっと。
葡萄酒の彼女もそれっぽいですね。あの後どこに行ったのかと思えば、そういうことになっていたのか、とか。
今回、記事を書くために歌詞カードを見直していて、また新たな発見をたくさんしました。面白いです。
コメント、どうもありがとうございました。
by Aa (2006-11-25 20:47) 

レイ

おぉ、もう1曲あるってなんだろうと思っていたんですけど、それだったんですか、普通に1曲で満足してました。
どうにか解読して2曲目も入手してきました、アドバイスありがとうございました。
by レイ (2006-11-26 00:09) 

白

初めまして。通りすがりで気になる物(ボーナストラック2曲目)を見たので書き込みさせて頂きます。
おかげさまで見落とさずにすみました。ありがとうございます。

所でこの2曲目を聞く限り「嘘」が含まれていると言うことになります。
僕には皆目見当がつきません・・・


蛇足ですが、2曲目の焔。
某A嬢へ対するラブコールに聞こえるのは気のせいでしょうか・・・
by 白 (2006-11-26 00:50) 

Aa

こんばんは。
今頃、東京ではコンサートが開場しているんですね。
いいなー。大阪には行きますけれども。
ところで、公式が更新されて、ロマンの携帯着信音が配布されています。
油断も隙もありません。

>レイさん
私もうっかり見落とすところだったのです。
これだけで通じるところに、サンホラー的喜びを感じます。
しかしいつも思うのですが、ご領主は一体どういう順番でこの仕掛けを作っているんでしょうか。一度頭の中をのぞいてみたい・・・でも死屍累々な予感がしてちょっと怖いです。

>白さん
はじめまして。
今回は僕たちが繋がる物語ということで、このご縁もなんらかのお役に立てたなら幸いです。
「嘘」は・・・。人間、自分の人生語るときには、多かれ少なかれ嘘が入るものさと、早々に投げました・・・。分からないー。でもいつか、ふと気がつくのかもしれない。それでいいような気がしています。

あらまりさんのことについては、やっぱりいろいろ事情があったんでしょうし、難しいですね。
私は今でもあらまりさんが出ているコンサートDVD大好きですし、二期の歌い手さんたちにもどんどん愛着が増しつつあります。
結局、それだけのことしか言えないし出来ない・・・ちょっと悲しいですけれども。
by Aa (2006-11-26 17:41) 

NO NAME

はじめまして。Sound Horizonの曲はストーリー性が豊かでいいですよね。
1期(あらまり嬢)の時と2期(KAORI嬢)の曲の関連性もあってとてもいいです。
関係ないと思いますが、見えざる腕の登場人物について語りたいと思います。
最初の歌いだしありますよね?「眠れる夜は屋根裏の~。」って奴。
あそこではもう戦争が終わって、荒れている金髪ローランを指すんでしょうね。そしてそこから過去を語りだすと。(何言ってんだ俺。)
そして歌詞に出てきたアルヴァレス将軍って1期の聖戦と死神シリーズにそんな人物が出てきたような気がします。
この曲はPV通り、金髪のローランさんを主軸として動いてるので、金髪さんがアルヴァレス将軍の部下か何かだったのでしょうな。
そこで敵国(?)の赤髪ローランに出会います。
そして戦争故に戦います。しかし金髪のローランは腕を失いました。
ようは負けたってことですな。
腕を失ったことによって、戦場から離脱させられてしまう金髪さん。片腕がないことによって、職にも就けず、挙句の果てに彼女に八つ当たり。そして彼女は子供を身ごもったまま逃げてしまいます。
そして金髪ローランさんの元には何もなくなってしまいました。
自分をここまで堕とした赤髪ローランに憎しみを持ちます。
そしてサビ(?)の部分。「馬を駆る姿、まさに悪夢。」
あそこは赤髪ローランに対する憎しみを増幅させるために勝手に妄想したのかもしくは赤髪ローランの顔を思い出すために頭の中で考えたことかもしれません。ようはあのサビもとぎのとこは赤髪ローランの犯行なんですな。
そして金髪ローランは赤髪に復讐するために赤髪を捜しに行きます。
そしてやっと赤髪を見つけだしたけれど、赤髪はすでに薬中にしてアル中となってしまっていた。金髪が見た赤髪の姿はすでにそこにありませんでした。
そして第三者が出てきた。ロランサンですな。俺の妄想(!)だと、ロランサンとは、緋色の風車の少年だと思います。
緋色の風車のストーリーは何かに街が巻き込まれ、女の子を連れて逃げるっていうストーリーです。
もしかしたらその街は見えざる腕の戦争に巻き込まれたのかもしれません。そして何者かに見つかって男の子だけ逃げました。女の子を捕まえたのが他でもない赤髪ローランなのかも・・・。そして少年ロランサンは女の子の仇といわんばかりに赤髪ローランを殺すため、彼を探して、見つけたからザシュゥッ!ということではないでしょうか。
そしてもう1説、「天使の彫刻」のオーギュスト・ローラン=金髪ローランという説が流れているそうです。実際どうなのでしょうね?
長々と申し訳ありませんでした。これで失礼します。
by NO NAME (2007-06-25 21:00) 

Aa

はじめまして。
お説、伺いました。私はこういうものに正解はない(例えRevoさんの中にあったとしても、公開しないと決められている以上は「ない」が答え)だと思っていますが、考えるのは楽しいのでしょうね。
by Aa (2007-06-26 04:31) 

ありま

はじめまして。

僕は最近「Ark」を聴いてサンホラの世界に惹かれたました。それでCDを購入したいと考えているのですが、メジャー作品から聴いても差し支えないのでしょうか? インディース時代から聴きたいのですが、入手が難しようなので、メジャー作品から聴きたいと思っています。

まだまだ、サンホラ初心者で恥ずかしい質問なのですが、よろしくお願い致します。
by ありま (2008-03-21 22:59) 

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