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「古畑任三郎FINAL 今、甦る死」:2つの意味 [テレビ番組]

 お正月の古畑三連作の第1作、期待通りいえそれ以上に面白かったです。今まで古畑というと最初に犯人が分かっているので、あまりミステリの謎解きをしようと思って見ることはないのですが、今回はかなり真剣に可能性を検討しながら見ていました。結果、古畑はミステリドラマとしても一流である事がよく分かりました。三谷さんの意地を見た感じです。
 今夜はこの番組についての記事がたくさんあがると思いますが、私としてはそういう観点から語ってみようかなと。

 以下、トリックも含めてネタバレしておりますのでご注意下さい。


 公式サイトなどから、藤原竜也さんと石坂浩二さんのダブルゲストで、古畑初のフーダニット(犯人当て)に挑戦するというで、最初からかなり画面を注意して観ていました。
 私が考えた犯人・犯行の可能性は以下の通りです。

・藤原さんが石坂さんを操って殺人をさせる。
・石坂さんが藤原さんを操って殺人をさせる。
・主犯が藤原さんで、石坂さんは証拠隠滅などの従犯を行う。
・双方に犯行可能であった状況があり、古畑さんは犯人決定の決め手を探す。
・15年前の殺人および2日前の殺人は石坂さんのもので、今回の藤原さんの殺人と合わせてわらべ歌殺人事件は連作。
・大吉さん殺人の後、藤原さんをかばう(捜査の目をそらす)ために石坂さんが新たな犯行を行う。

 ま、中に当たりがあったわけですが、2つの合わせ技だとは思いませんでした。あと後半になるとかなり明確になってきましたが、「石坂さんが藤原さんを操って・・・」の可能性は前半でリビングに居た時、なかなか鎧を入れた箱が落ちる音がしないことに藤原さんが苛立ち、それに気付いた石坂さんが叔母さんを引き留める時点で考えていました。

 それなりにミステリを読んでいると、犯人の可能性というものは純粋な推理とは別の部分で分かってくるものです。ある種の法則性というか。今回でしたらどうしても藤原さんと石坂さん以外に犯人はいないわけで、しかもダブルゲストなのですから両方が犯行に荷担しているか、二人同時に疑われてどちらかが黒でもう片方が白というドラマの作り方しかないのですから。


 けれども舌を巻いた部分もあります。まず藤原さんが殺されてしまう可能性は考えていませんでした。あと、今回の事件では石坂さんを罪に問うことは出来ないという点で「これほど完璧な殺人を私は知らない」であり、それでも逮捕するための決め手として15年前の殺人が出てくるというドラマの組み立ては、その劇的さに感嘆しました。
 ドラマが始まった時点で私が一番考えていたのは「藤原さんが石坂さんを操って・・・」だったのですが、逆だったのもささやかな驚きでしょうか。これは役者さんの力も大きいと思うのですが、あの藤原さんのぞくぞくする笑顔と、石坂さんの(大河の)佐久間象山とはまったく違った好々爺ぶりにしてやられました。

 ミステリ読みの話に戻りますが、推理というものは可能性をまず並べていって、それを消去法で消していくものです。少なくとも私はその観点でこのドラマを見ていましたが、その点でもこの作品は実によく出来ていました。隅々にヒントが散りばめられ、それを拾い集めていって可能性を絞る一方で、藤原さんを心配そうにかばったり(お祓い儀式の時)、逆にみすみす追い詰める(角砂糖の話をあっさり喋ったり)石坂さんに翻弄されてみたり。
 これはミステリであると同時にドラマでもあるのです。ミステリの犯行というものは理屈だけではなく犯人のキャラクター、人間性とも深く関連しています。
 藤原さんが演じる音弥の子供っぽさ、彼ならあっさり人を殺してしまいかねないと思う一方で、最初は自信満々に古畑さんに挑戦していくのが、終盤意外な脆さを見せる部分。いやよく考えると序盤の時間どおりに鎧の箱が落ちなかった時点で、石坂さんに気付かれるほどうろたえていた事。また先述したような石坂さんの藤原さんに対する態度と、事件(ドラマ)全体において華やかで活動的な藤原さんの背後にすっと隠れているようなトーン。理論詰めの推理を行う一方で、そのようなドラマとしての魅力もじっくり堪能させていただきました。

 三谷さんというのはもともと伏線張りが大好きかつその回収も実に上手い脚本家さんなのですが、思えばこれはミステリを書く上ではこれ以上ない才能なわけです。おまけに深く人間というものを観察するコメディ作家でもある。ああ、あらためてすごい人なんだなと感動しました。
 いや本当に、ミステリとしても一流のドラマであったと思います。私が可能性に気付いていたことなど些細な事です。可能性だけならいくらでも考えられます。けれどもそれを一つのドラマに仕立て上げる事。それこそが一番難しい事なのです。殺人計画なら誰にでも作れても、実行するのは何より難しいように。

 最後に一つ。タイトルも秀逸でした。「今、甦る死」。これは藤原さんの殺人計画ノートのことであると同時に、石坂さんの15年前の殺人でもあったわけです。でも最後までそれは分からなかった。
 いやまったく、素晴らしい作品を見せてもらいました。ビデオで見返す必要もないくらいに集中して観ましたけれど、それでもまた、もう一度日を改めて観てみたいと思います。
 第1夜目からこれなんて、この先どうなるのか楽しみで仕方ありません。明日はイチローさんですし、最終話はまた凄いトリックが仕掛けられているらしい。目が離せないとはこのことです。

公式サイト:http://wwwz.fujitv.co.jp/furuhata/


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