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「poca felicita」:小さな幸せ、幸福な出会い [音楽]

 まずこの作品を語る前に言っておかなくてはならないのは、これはとても幸福な作られ方をした作品であるということです。普通、漫画(アニメ)のイメージアルバム/キャラクターソング集というものは、原作からのメディアミックス展開の中で、ある一定のファン層(購買層)が見込める事を前提に、お金を稼ぐために作られます。もちろんその結果として良質な作品が出来る事もあります。
 けれどもこのアルバムは、「Sound Horizon」というバンド(幻想楽団)を主催している新進気鋭のアーティストRevo氏が、「GUNSLINGER GIRL」という作品に惚れ込み、また原作者の相田祐氏も相手の音楽に惚れて手を取ったという、非常に幸福な出会いによって企画されたアルバムなのです。

 というわけで、これは従来のイメージアルバム、キャラクターソングとしてはかなり異色です。最初の曲はRevo氏本来の作曲に近い、イタリア語で歌われる壮大で幻想的なロックです。そのあとには、アニメでそれぞれのキャラクターを担当した声優さんたちが、再びそれぞれのキャラクターの立場になって歌う歌が続き、途中にインストゥメンタルなどもはさみつつ、最後にもう一度イタリア語の歌が来て終わります。

 この、声優さんが歌っているキャラクターソングも、かなり独特です。途中で語りが入ったり曲調がどんどん変わっていったり、なのでいわゆるサビもなかったり、歌詞も原作を相当読み込んで作ったと思われる、そのキャラクターのエピソードを網羅しつつテーマに沿って一つのストーリーとしてまとめ上げたという、神経質なまでの緻密さを感じさせる構成になっています。
 「ミュージカル風」という評がありましたが、まさにその通りだと思いました。なのでミュージカルが苦手な人には同様に合わないだろうなという気はします。


 とりあえず、「構成への神経質なまでのこだわり」は曲目一覧を見れば一目瞭然。

1.La ragazza col fucile (Vo. JOSEFA)
2.Il fratello (*inst.)
3.Lui si chiama... (Vo. 南里侑香)
4.La principessa del regno del sole (Vo. 三橋加奈子)
5.Biancaneve bruno (Vo. 仙台エリ)
6.Pinocchio (*inst.)
7.Claes tranquillo (Vo. 小清水亜美)
8.La principessa del regno della pasta (Vo. 寺門仁美)
9.Io mi chiamo... (Vo. 能登麻美子)
10.La ragazza (*inst.)
11.La ragazza col fucile e poca felicita (Vo. JOSEFA)
 
 すべてイタリア語のタイトルになっていますが、日本語訳はそれぞれの歌詞カードの中に入っているという趣向なので、それを抜き出して訳するとこうなります。

1.少女と銃 (Vo. JOSEFA)
2.兄妹 (*inst.)
3.彼の名は...
4.太陽の国のお姫様
5.褐色の白雪姫
6.ピノッキオ(*inst.)
7.おとなしいクラエス
8.パスタの国のお姫様
9.私の名は...
10.少女(*inst.)
11.少女と銃と小さな幸せ (Vo. JOSEFA)

 インストである6を中心に、上下対象になるように曲が配置されています。滅茶苦茶珍しいわけでもありませんが、凝っていることは確かです。
 特に3と9は歌詞の中にもさらに共通する言葉が盛り込まれ、こだわりがあることが感じられます。この漫画では少女と大人の担当官が「フラテッロ」として一組のチームになりますから、少女視点での歌で「彼(担当官)の名は...」と「私の名は...」と対比させていることは、それだけで意味深です。


 個人的にはどれが一番好きな歌というものはありません。聞く前はキャラクター別にそういうものが出るかなと思っていたのですが、どの歌も本当に構成に凝っていて印象的なフレーズがあって、ミュージカル風独特の麻薬があるので決められないです。

3.Lui si chiama...  ~私の大切な人...彼の名は...~
 ヘンリエッタの歌。美しく日々の小さな幸せを綴る前半から、いきなり感情が高ぶりだしてジョゼ(担当官)への強い執着がむき出しになる後半への盛り上がりが凄いです。曲調的には前半のほうがむしろ奥に強い感情を秘めたようなバラードで、後半はとてもポップでスピード感ある曲というのがまたなんとも。

4.La principessa del regno del sole  ~無邪気なお姫様~
 リコの歌。中盤に何かが欠落した楽しく美しい声で、「政治家の暗殺」とか物騒な言葉を延々並べた挙げ句、「ああそうか・・・ごめんね(パシュン←発砲音)」に至るあたりがたまりません。非道いとウツになるところで、リコなりの苦しみや叫びが入り、そして幻想的な解放へと至る。構成の妙にうなります。

5.Biancaneve bruno ~白雪姫と8人の小人~
 トリエラの歌。彼女は褐色の肌なので、「褐色の白雪姫」です。キャラクター達の歌の中では、一番普通の歌に近いというか、語りの部分さえ除けばカラオケでも歌えそうな歌です(他の歌はとても無理ー)。また、どんなに明るくてもどこか暗さや悲劇性を感じさせる他のキャラクターに比べ、不条理で無慈悲な現実を駆け抜けていくトリエラの強さと健気さがストレートに表現された歌になっています。

7.Claes tranquillo ~眼鏡と1つの約束~
 クラエスの歌。原作でも印象的な台詞だった「そして何より私は無為に時を過ごす喜びを知っている」が綺麗なバラードで歌われます。これは最初と最後で2回出てくるフレーズなのですが、その間には彼女と担当官ラバロとの物語がかなり丁寧に綴られますので、最後にもう一度聞く時には聞く側の印象も、またフレーズの微妙な高低も変わっているという仕掛けです。
 これもまた、物語構成の妙にうなる曲です。

8.La principessa del regno della pasta ~可哀相なお姫様~
 アンジェリカの歌。一番構成に凝っていて、凝るというよりもう遊びの域に入っている気がするのですが、何せ歌の中にさらに「パスタの国の王子様」という歌が入っていたりします。それをさらに、男性(担当官)の語りがつなぐという・・・一見バラバラに解体された曲なのですが、それがそのまま記憶と心を失いつつあるアンジェリカを表しているようで、凄いです。
 可愛らしい声で現実感なく夢見がちに歌われていくのですが、最後のところで担当官の語りの間に入るサビでは、「普通に歌っている声」と「(現実に対して)悲痛に叫びながら歌っている」声が重なります。ここは身震いしました。

9.Io mi chiamo... ~貴方だけの義体...私の名は...~
 エルザの歌。原作ではすでに死亡している状態で出てきて、その死の謎をヘンリエッタが解いていくというストーリーになっていました。原作からエピソードを取れる部分が少ないので、かなり抽象性が高い歌詞になっていますが、それだけに暴走した壊れかけの義体の怖さがそのまま伝わってくる歌です。
 どうしてもヘンリエッタとの曲との対象性が気になります。彼女も一歩間違えるとこのようになる(なっていた)のだろうなという気がどうしてもして。とはいえ、ヘンリエッタとエルザには決定的な違いもあるのですが。担当官がちゃんと自分の方を向いてくれているか。それはそのまま「彼の名は...」と歌うヘンリエッタと、「私の名は...」と歌うエルザに分かれます。


 とりあえずこんな感じでどの歌も興味深く、その時の気分によって色々と聞いてしまうのです。
 イタリア語歌詞の曲も美しく印象に残るフレーズで、つい聞いてしまう魅力があります。歌詞自体は短く単純なこともあって、そのうち翻訳と照らし合わせてイタリア語解釈してしまいそうな勢いです。やはりどうしても声優さんが歌っているそれぞれのキャラクターソング(キャラクターの世界)とは、次元が違うものという感じもしますが、そのあたりの緩衝剤としてインストゥメンタルが効果的に使われている気がしました。

 どう考えても万人に勧められるアルバムではないのですが、原作(ガンスリンガーガール)好きなら、キャラクターソングというだけで敬遠してしまうのは勿体ないかなと思います。とりあえずこちらのサイトで試聴してみることをお薦めします。
 この奇跡のような幸福な出会いに立ち会わないことはあまりに勿体ないと思いつつ、でもやっぱりとても小さな範囲に向けての幸せであることは間違いなく。「小さな幸せ(poca felicita)」という言葉には様々な想いが込められるのだなと、改めて思いました。

 ついでにジャケットも面白いです。中心で皆を引っ張っていくトリエラ。同じく中心(みんなの方)を向いているヘンリエッタとリコ。一人静かにピアノを奏でるトリエラ(訂正)クラエスと、やはり目を閉じて自分の世界で音楽を奏で続けるアンジェリカ。エルザが片目なのは彼女の死に様と関係しているのでしょう。

GUNSLINGER GIRL Image Album「Poca felicita」

GUNSLINGER GIRL Image Album「Poca felicita」

  • アーティスト: イメージ・アルバム, JOSEFA, Revo, 南里侑香, 三橋加奈子, 仙台エリ
  • 出版社/メーカー: マーべラスエンタテインメント
  • 発売日: 2005/12/21
  • メディア: CD

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