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「アンタッチャブル」:まだ新聞屋が帽子をかぶっていた頃 [映画]

 映画「アンタッチャブル」をDVDで鑑賞しました。某氏にお借りするにも郵送費がかかる、それならばいっそ・・・ということで、DISCASに加入して初めて借りたDVD。私のような締切期限恐怖症にとっては、月会費を払っていればいつまでも借りていていいこのシステムはありがたいです。
 これは有名な名作ですが、ちゃんと通してみたのは今回が初めて。あの高名な階段シーンなど、TVで何度か見た記憶があるんですが、これがこうなってこう繋がっていたのねと、今回初めて理解できました。

 まずは画面の格調高さに驚きました。ホテルの床の美しい寄せ木細工。そして男性たちが着ているスーツの仕立てのよさ。この頃はまだ吊るしではなく、仕立てが主流だったんだなと一目で分かります。それほど社会的階級が上の人間でなくても、身体の線にぴったりあったスーツを着ているのですから。さらに、帽子もかぶっている。
 特ダネを狙いアリのように群がる新聞記者たちは今も昔も変わりませんが、その彼らも仕立てたスーツを着て帽子をきちんとかぶっている。・・・なるほど、と思うわけです。
 何がなるほどなのか。一言で言えば「今はもう失われたもの」の具象・象徴ということでしょうか。

 話自体は西部劇を思わせる作りです。悪徳に冒された街で、たった一人正義のために戦いを挑む男。やがて少数の、しかし頼もしい仲間が集まり、そして・・・。最後に守ったものに裏切られる哀愁までも、西部劇そのままです。まさに古き(良き)アメリカ。
 この直前が、映画「シカゴ」の時代なんですね。私は最初順番を間違えていて、禁酒法が廃止されて「シカゴ」の時代になったのかと思ったんですが、逆でした。「シカゴ」が禁酒法本格施行前の最後の「お酒とジャズ」の輝きで、その後にこの「アンタッチャブル」の少しくすんだトーンの時代が来る。そういえば「シカゴ」でも、「全ての悪徳は酒のせい」という運動がちょっと顔を見せていました。
 時代が少しずつ移り変わっていく流れを感じます。「シカゴ」の映画本編では削られた未公開シーン「Class」で「気品のかけらもない世の中」などと歌われていましたが、いやいやどうしてまだ気品は残っていたよ、と後世の私などは言いたい。現代のシカゴの街というと、私はドラマ「ER」の画が思い浮かぶのですが・・・。

 時代は変わっていきます。今はもう分かりやすい悪党は消えて、世の中はどんどん複雑に薄汚れていく。もはや身体の線にぴったりあったスーツを着た男は貴重品で、帽子をかぶっているとなると骨董品。
 古き良き時代と一言で片づけることには抵抗があるのですが、何はともあれ今はもう失われたものであることは確かです。良い悪いは相対的なもので、昔が良かった今は悪いなんてナンセンスもいいところですが、ただなくしてしまったものがあることには少しの寂しさを感じます。そしてこれからも失われていくのだろうなと考えると、多くの不安も湧いてきます。
 ですが、アンタッチャブルの時代に戦った男たちがいたように、今の時代も戦っている人々はいて、悪党がいればそれに対峙しようとする正義もあるのだということは、きっと変わらないのです。ただ悪党が分かりにくくなっている世の中では、正義も分かりにくくなっているだけで。分かりにくいからといって、「無い」と簡単に見捨ててしまうことは危険です。

 1987年に映画「アンタッチャブル」が撮られてからもう18年。それでもこの映画の輝き、画面の美しさや話のキレのよさは変わりません。たぶん20年後も、もっと先も、この映画は名作でありつづけるでしょう。
 そしてこの映画を名作だと感じ、不正に立ち向かった男たちを格好いいと思う人間がいる限り、きっと消えないものはあるのです。たとえ見かけの何かは失われても、失われないものはあるのです。

 失われゆくものと、失われないもの。その両方を見せてくれた映画でした。

アンタッチャブル スペシャル・コレクターズ・エディション

アンタッチャブル スペシャル・コレクターズ・エディション

  • 出版社/メーカー: パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン
  • 発売日: 2004/10/22
  • メディア: DVD

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