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「ダニー・ザ・ドッグ」:無知であることの悲しみ [映画]

 昨日(4/1)はふと気がつくと映画の日(ファーストデイ)だったので、これを観に行ってきました。今は映画館に通いやすい環境にいるためか、ほとんど正規料金(1800円)払って映画を観ていません。レディスデーかレイトショーばかりです。久しぶりに正規料金で観たのは、先週のスターウォーズ先々行上映でした。それはさておき。

 この映画は脚本がリュック・ベッソンで主演がジェット・リー、競演がモーガン・フリーマン。
 粗筋は、感情を知らず話すことを知らず、首輪を付けられ戦うための犬として扱われてきた青年が、音楽に触れ家族をを得て、少しずつ色んなことを知っていく過程で、やがて自分の本当の過去を知りたいと願い、そして犬であった自分の過去とも対決するという話。
 アクションを「マトリックス」や「グリーン・ディスティニー」のユエン・ウーピンが担当していますが、ワイヤーアクションというよりは(ワイヤーも使っていますけど)、リアルな中国武術、どちらかというと香港アクション系の格闘シーンが楽しめます。
 しかしアクション映画というよりは、やはりヒューマン系といったほうが適切なんでしょうね。ジェット・リーの表情、最初は無知というよりむしろ白痴状態の自失している表情から、徐々にふっと感情を表出し、でもそれは安心よりはむしろ怯えという面の強いものであり、それでも段々と心が解放されていき、最後になお足りないことを知る。様々な無知であることの悲しみの表情が印象的でした。
 最初はとにかく、純粋に無知であることの悲しみ、次には無知であるものが社会に触れていくことの悲しみ、そして自分が無知であることに気がつく悲しみ、最後には、無知であった自分の過去と対峙する悲しみ。

 ああ、すごいなあと思いました。こんな表現(表情)の出来る人が、同時にこんなアクション俳優でもある。この映画のアクションシーンは、それ自体を期待していったら物足りない面もあるかと思うのですが(純粋に、アクションしていない時間の方が長いので)、でも確実にアクション要素はこの映画の重要な一部分として機能していたと思います。
 非ハリウッドな飾られていない格闘シーン、生身と生身がぶつかり合うショッキングさ、動作があまりに素早いので何が起こっているのか把握しきれないという点でリアルな戦闘シーン、それは何故か、子供の喧嘩を思い起こさせました。小さな子供がいじめられている相手に向かって、泣きながら両手を振り回してぶつかっていく、そんな印象を受けました。だからこそ手加減なく、そして悲しい。

 モーガン・フリーマンは相変わらず堅実なケレンミのない演技を披露しています。彼は黒人、娘は白人、そして彼らに拾われるダニー(ジェット・リー)はアジア人。見事にばらばらだなと、そんなところにも感心していましたが、欧米人種と比較するとアジア人は童顔に見える、そのこともダニーの無知さをビジュアル的に表現するスパイスとして面白く機能していたと思います。
 さらに舞台はグラスゴー(スコットランド)。この多国籍性は、この映画に地球上のどこでもないかのような奇妙なファンタジー性をも与えていました。まあ、いかにもリュック・ベッソンが好きそうな要素ではあります。

 リュック・ベッソンといえば、私はいつもこの人の映画を観た後には、「何かひと味足りないスープを飲まされた」ような感覚を受けるのです。この映画自体も、傑作になる要素はいくらでもあるのに、やっぱり何か最後のひと味が足りていないんですよね。だからといって悪い映画であるわけではないんですが・・・ただどうしても「惜しいなあ」と思ってしまうのです。それは力不足で到達できなかったのではなく、わざとやっている気がします。そういう点では、一部の日本人監督(や表現者達)に通じるものも感じます。
 「レオン」ではむしろそれが作品自体の持つ無情性として、また観客に多くの想像の余地を残す要素として(奇跡的に)ポジティブに働いていましたし、「TAXi」シリーズではひと味足りない気の抜け具合が、ちょうど作品自体のおマヌケさと相乗効果になって、いいバカ映画(褒め言葉)を創り出していました。でも他の作品では、どうもそれで失敗しているものも多くあるような気がします。
 どうしてなんでしょうね? とはいえ別に斜に構えた表現者って珍しくないし、後一歩のところで逃げ出す臆病者も珍しくはないですけど(←暴言)。でもなー、逃げてるとも何か違う気がするんですよね。いや、逃げてはいるんだけど(どっちだ)、本人はそのことに対して全然後ろめたさがないように感じられるというか。

 というわけで、この映画も、「なんでこんなにいい映画なのに、後一つ足りていないんだろう」という実に不思議な後味感を残してくれました。俳優陣は文句なく素晴らしいですし、企画(脚本)もツボは押さえているし、映像も悪くない。それなのに、何故か傑作にはなり得ていない。
 もっとも、こういうのが好きな人はある意味中毒なまでに好きになりそうな要素でもあります。押井守監督のことも、ちょっと思い出したりもしました。

 色んな雑感を残してくれた面白い映画でした。私なら後ひと味に何を加えるだろうかってことも、一生懸命に考えてみたりもしました。でもどうにも思いつかない。いっそ根本から作り直すしかないな、というのが私の結論でした。ということはやはり、後ひと味足りてないことも含めて完結している作品なわけです。
 ・・・リュック・ベッソン、つくづく不思議な人です。

公式サイト:http://www.dannythedog.jp/


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