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「コンスタンティン」:善悪の狭間を生きる [映画]

 こう書くとなんだか格好いいですが、実際はそんな格好いいもんじゃない、というのがこの映画でした。
 主人公コンスタンティンは善にも悪にもどちらにも属さない人間です。この世では天使と悪魔のハーフブリードが、間接的に人間達に接触して、彼らを善や悪へと誘っているのですが、コンスタンティンは生まれながらにそのハーフブリードたちを見る能力を授かりました。しかし彼にとってそれは苦痛でしかなく、生きることの辛さから彼はティーンエイジのころに自殺を企てます。結果、コンスタンティンは天国に行けない身の上となり(カトリックでは自殺は大罪)、しかもストレス解消のために吸いまくっていたタバコのせいで30代(多分)にして末期の肺ガン、地獄行きもすぐそこ、という状況です。

 それで彼は何をするか。醜く足掻くのです。ちょっとでも善行を積もうと、下級の悪魔・ハーフブリードを地獄へと追い返す、エクソシスト的な仕事をしてみたり。天使のハーフブリードに会いに行って、どうすれば天国に行けるのかと尋ねたり。・・・でもタバコは止めない。
 ここがコンスタンティンというキャラクターの最大に面白いところです。善行を積みたいと願いながら、もっとも身近な善行は行おうとしないんですから。つまりは悔い改めるつもりなんて全然ないわけです。ただ地獄は嫌なだけ(彼は自殺で死にかけた時に、数分間実際に地獄を体験しています)。
 彼がタバコを止めないこと、それは意地なのか矜持なのか、あるいは単に中毒で止められないだけなのか、私は映画を観ながらずっと考え続けていました。私自身はタバコを吸いません。だから吸う人の気持ちというのは本当には分からないのかもしれませんが、でもこの映画の中でタバコを吸いまくる、それこそ意地のように吸いまくるコンスタンティンには何故か感情移入出来たのです。非常に苦しそうだ健康に悪そうだと思う一方、ああタバコが吸いたいなあと感情移入している自分がいました。不思議なことです。

 この映画のキャラクターは皆それぞれに魅力的なのですが、私は特にハーフブリードに代表される人間外たちの存在が印象に残りました。中性的でいかにも天使らしくナチュラルに傲慢で冷酷で、一方で慈愛の表情もしてみせることができるガブリエル。対するバルサザールはやろうとしてることの描写はあってもその動機部分が薄く、一個のキャラクターとして捉えきれなかったのが残念です。そして何より素晴らしかったのはサタン様。一見ただの顔色の悪いおっさんであり、ひょうきんで底意地が悪くて、ついでに諦めが悪い。最高にイカしてました。
 また妹の死の理由を追う女性警察官、コンスタンティンのようになりたいエクソシスト見習い、コンスタンティンと同じく人ならざるものの声が聞こえるアル中神父、悪魔払い用の道具を売りに来る男と、人間達もそれぞれにキャラが立っているのですが、彼らの中で主人公のコンスタンティンが異色なのは、「彼には動機がない」という部分だと思えました。

 ハーフブリードたちはそれぞれの目的に向かって行動しています。女性警察官もそうです。一方で「聞こえてしまう」現実から逃避する人や、むしろ「見たい」人間もいて、そんなの関係なく商売こそすべてという人もいます。しかしコンスタンティンはそのどれでもない。
 善行を積もうとしていながら、彼は女性警察官の要請をあっさり断ります。しかし完全に見捨ててしまうこともできない。とてもとても中途半端なのです。天国に行きたいわけじゃなくて、地獄に行きたくないだけで、死にたくないというよりは、地獄に行きたくないだけで。何も主体的な目的を持つことなく、彼は映画の最後まで、中途半端に足掻き続けます。最後の最後まで、神に助けを求めることも、悪魔に助けてくれということも、中途半端で。
 その理由は、彼には動機がないから。地獄に行きたくないというのは一見立派な動機に思えますが、彼はだからといってタバコをやめたりはしないのです。つまり地獄行きを免れない自分をどこかで悟りきっている、諦めきっているところがある。
 彼は地獄に行きたくないという一方で、自分が地獄行きになってしまう現実に対して、意地になっている。そんな印象を持ちました。理不尽さに意地になって反抗しているのだと、その子供っぽい反抗のしるしがタバコなのではないかと。

 ああ、悲しいなあと思いました。人間ってなんて悲しい存在なのだろうと。一方で、ああ格好いいなあと思いました。コンスタンティンっていわゆるヒーローらしいヒーローじゃないけど、格好いい男だなあって。
 中途半端に生きることは格好悪いことです。だけど、とても人間らしいことでもある。善にも悪にもなれない、相反するところにこそ、人間らしさがある。この映画においてはその象徴がタバコである。私はそんな風に思いました。善悪の狭間を生きていくのです、善にも悪にもなれずに、中途半端に、足掻きながら。

 ・・・じゃあ最後はどうなったのかって? また一歩踏み出したんですよ。それはそれで、人間らしいことです。人は成長もする。あるいは退化なのかもしれない。だけどどこかに進んでいく。それもまた、生きるということです。

公式サイト:http://constantine.warnerbros.jp/


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