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「ローマ人の物語」:天才と孤独 [小説]

 今は塩野七生さんの「ローマ人の物語」(文庫版)を読んでいます。今年の年末年始はこれで過ごすぞという予定でしたが、今日12巻まで読み終わって、今刊行されているのが16巻までなのでちょっとやばいぞと思っているところです。何がやばいって半月足らずで12冊、一冊400円としても4800円も注ぎ込んでいる自分がやばい。まだ本棚に収納する場所も確保できていないというのに。……ま、このあたりは深く考えると本は買えないので考えないことにして。(本読みの人ってみんなきっとそうですよ、ね?)。

 もちろん面白いから一気に読めるのですけど、これだけの長大な歴史を見ていくと人なんて使い捨てだなと思ったりします。次から次へと人材が現れては消えていく。皆、2000年以上後にも歴史に名を残すくらいですから、稀代の人物であるはずなのに、話に出てきた・功績を立てたと思ったら、追放されたり暗殺されたり……もちろん天寿を全うした人も多いですが、「出てきたと思ったら消えていく」には違いありません。つくづく世の無常を感じます。
 その中で今のところ印象に残っているのは、ハンニバルとヴェルチンジェトリクスかな。どちらもローマ人の敵側なんですけど…。別にローマ人が嫌いだとか共感できないというわけではありません。ま、印象を残すには敵役のほうが有利だというだけではないかと。

 ハンニバルは、いかに古代とはいえ、本国からの補給もほとんどないままに、アルプスを越え海を隔てたローマ本土に渡り16年もひたすら敵地の中で戦い続けた、その精神力がどこから来るのだろうと考えました。
 彼自身カルタゴ本国からは離れたスペインに本拠を置く身で、愛国心や祖国への危機感がそんなに強かったとも思えないのですが。ただ一つ、いわゆる動機として目についたのは、父親がやはりローマと戦って敗れており、息子に雪辱を誓わせたという部分です。
 あとは…、彼の際だった強さ、正面切って戦えば誰も勝てるものがいなかったその天才性が、返って引き返すきっかけというかすべを奪ったのかなと。ローマ側は逆にひたすら会戦を避け、周囲の同盟者や補給元を切り崩して、つまり戦術ではなく戦略や政治のレベルで勝とうとするところなど、見応えがありました。銀英伝のヤンとラインハルトを思い出したりもします(というか逆ですね、元ネタの一つがこれなのかも)。

 ヴェルチンジェトリクスは・・・、とにかく名前が長い。ことが示すように、蛮族ガリアの出身なのですが、ガリア戦記でのカエサルの敵としてとても印象的でした。
 ガリア人は個々としては強いけれども、各部族が好き勝手やっていてまとまりがない、それも民族性以前に文明レベルの問題としてそうである中に、忽然と現れた英雄として描かれています。
 強引にガリアをまとめあげ、ガリアの自由と独立を求めてひたすらにローマと戦う英雄。この書き方をするとなんだか近代的になってしまうのですがー。自由と独立というようなカッコイイものじゃなくて、南からやってきた自分たちとは習慣も違う見知らぬヤツラに、自分たちの土地で大きな顔をして欲しくないとか、ましてや影響下に入れなんてまっぴらだとか、ようするに彼らではなくて自分が支配者になりたいんだとか、本当はそういう話かと思うのですが、まあそれは単に表現の問題であって。とにかく未開の部族の中で、この長い名前の人の異質性が印象に残りました。
 これはローマ史なのでヴェルチン(短縮形)が対外的にやったことは書かれていても、具体的にどんな人物だったかは書いてないのですけど、きっとガリアの中でも孤独というか孤高の人物だったのだろうなと思います。歴史の中には何度もこういった乱世の英雄が現れますが、彼らは大抵敵と戦うのと同じくらいかそれ以上に味方とも戦っているものですし。彼もきっと孤独だったんだろう、でもそれと同じくらいに強い人だったのだろうと・・・。

 そんなこんなで、書かれていない部分にまで思いを馳せては楽しく読んでいます。ちなみにローマ人ではグラックス兄弟なども好きです(というか、きっと塩野さんはこの兄弟が好きだと思う)。
 今はユリウス・カエサルの部分で、とうとう彼が暗殺されるところまできたのですが、この暗殺の書き方もまた面白くて。塩野さんが今一番惚れている英雄、それがどのように書かれていくか、真価はむしろ死後に語られるのだろうと思いつつ、続刊を楽しみにしています。

ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上)    新潮文庫

ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上) 新潮文庫

  • 作者: 塩野 七生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/06
  • メディア: 文庫
 
 
ユリウス・カエサル ルビコン以前(下)ローマ人の物語10

ユリウス・カエサル ルビコン以前(下)ローマ人の物語10

  • 作者: 塩野 七生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/08/30
  • メディア: 文庫

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