Vol.5 住宅ローン、繰上返済の落とし穴って?
住宅ローンの将来の支払利息を軽減できるため、貯蓄で利息を増やすよりも効率的といわれることもある繰上返済。ただ、その繰上返済にもデメリットがあることに注意。より安心できる返済プランを考えるには?
繰上返済というのは、通常のローン返済のほかに、臨時に借入元金部分の返済をすることです。図1と図2のように、返済期間をその分短くする期間短縮型と、毎回の返済額を軽くする返済額軽減型がありますが、臨時で返した元金に対応する支払利息分が節約できるのが魅力といえます。しかも、繰上返済をする時期が早ければ早いほど、節約利息の効果が大きいので、貯蓄で利息がほとんど付かない今、どんどん繰上返済しようという人も多く見かけます。
ちなみに、同額を繰上返済するなら、表3のように期間短縮型のほうが、支払利息の節約効果が高くなります。しかし、ここで、安易に繰上返済の期間短縮型を実行しすぎたために、次のように壁にぶつかった人も増えてきています。その問題点をしっかり整理しておきましょう。
繰上返済をすればそれだけ手元資金が減ってしまいますよね。特に期間短縮型の場合は、毎回の返済額が変わらないので、負担が軽くなったと実感できるのはまさに完済したときといえるでしょう。
実際に、繰上返済で期間短縮した後に、収入がダウンしたり、教育費などの支出が膨らんでしまって、家計収支が非常に厳しくなってしまったという人も、最近よく見かけます。
よって、病気などによる収入ダウンや緊急支出も加味して、預貯金は最低、生活費の半年分は残して、余裕資金の範囲内で行うようにしましょう。
繰上返済で期間短縮をした後に、家計収支が厳しくなって返済を軽くしたい場合は、返済期間を延長したり、より金利の低い住宅ローンへ借換えしたいと考えるでしょう。しかし、期間延長は、公的ローンでも所定の条件のもとで手続きが必要で、民間ローンでもそう簡単なことではないのが実情です。
また、借換えも現状の残りの返済期間内で、借換え後の期間を設定する金融機関が多いので、先に期間を短くしてしまうと、借入期間が十分にとれず、結局毎回の返済額が年収に対して膨れてしまい、借換えが厳しくなったケースも非常に多く生じています。
将来の家計収支に変動要素があったり、より有利な住宅ローン商品への借換えを考えるなら、安易に期間短縮はしないほうが得策。
金利が途中で変動するタイプの住宅ローンを利用している人の中には、金利変動が怖くて、少しでも早く借入元金を減らしておこうと繰上返済を急ぐ人もいます。堅実な人ほど、そうした行動に出ることが多いようです。
しかし、次の図のように、繰上返済の期間短縮を早めにやったことで、残高が減っても、期間が短くなっているために、金利上昇時に返済額が大きくアップしてしまうこともあるのです(図1参照)。しかも既に預貯金も減っているので、家計負担はかなり厳しくなる可能性すらあります。
一方、繰上返済するタイミングを金利上昇時まで待てば(図2参照)、そのときの金利状況を見極めて、金利上昇幅が小さければ期間短縮型で、金利上昇幅が大きければ、返済額軽減型で、などと臨機応変に対応することができるでしょう。
このように、繰上返済は、通常いわれるように支払利息の節約効果というメリットばかりではなく、使い方を間違えると、家計のやりくりの選択肢を狭めてしまうというリスクがあることをよく理解した上で、活用していただきたいと思います。
(ご参照:より詳細やこの他のケース検証などは、吹田朝子 共著「『住宅ローン』賢い人はこう借りる!」(PHP研究所)にもまとめていますので、ご参照ください。)
・繰上返済は、貯蓄が十分に(少なくとも生活費の半年分以上は)ないうちは、慌ててやってはいけない
・安易に期間短縮をしてしまうのではなく、将来の家計収支の変化や借換えの選択肢も考えてから
・金利が途中で変わるタイプのローンは、低金利のうちは様子を見ながら貯蓄を貯め、金利上昇幅に応じて繰上返済をどう行うか判断をしたほうが、家計管理がしやすい
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