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大学の中の村社会 [イギリス論]

オックスフォードは美しい町である。13世紀頃から建てられはじめたオックスフォード大学のコレッジ群が街中に溢れている。それらのコレッジが高い塔を持っているため、「the city of dreaming spires 夢見る尖塔の町」と呼ばれてきた。 ここは大学町でありながら歴史遺産の町でもある。しかもその歴史遺産は今でも生きている。見世物として残っているわけではない。現在も大学の施設として使用されている。

 

オックスフォードという大学はコレッジと学部の二重構造になっている。学生は46あるコッレジのいずれかに所属し、原則としてコレッジの中に住む。教員もコッレジの中に住む。学部生はチュートリアルと呼ばれる少人数での対話式教育をこのコレッジの中で受ける。教員一名に対して学生一から三名程度のグループを作りディスカッション形式で教育が行われる。コレッジは言ってみれば大学内に存在する個々の村社会である。学生、特に学部生(院生ではない学生)の場合はコレッジに対して非常に強い帰属意識を持ち、同じコレッジ所属の学生との間に共同体意識が生まれる。

これは一番古いマートン・コレッジ

 

古いコレッジでは食事も皆で食べる。ダイニング・ホールと呼ばれる立派な部屋があり、そこでの食事が学生生活の重要な要素となっている。

これはクライスト・チャーチというコレッジのダイニング・ホール。ホグワーツ魔法学校の食堂として映画「ハリーポッター」の撮影にも使われた。壁にはこのコレッジで数学教授をしていた「不思議の国のアリス」の作者、ルイス・キャロルの肖像もある。

 

一方、学部では研究と授業が行われる。学生はチュートリアル以外の教育を学部に出向いて受けてくる。ここでは大人数でのマスプロ教育が行われる。日本の大学教育に近い形式である。院生の場合、チュートリアルもこの学部の建物で行われる。したがって、院生にとってコレッジは主に生活と社交の場ということになる。

この大学では学生が自己紹介するとき、必ず「**コレッジ、**学部所属の**です」と言う。そして必ずコレッジ名のほうが学部名よりも先にくる。それだけコレッジというものが重要視されているということだろう。

中世のヨーロッパにはこういったコレッジ制度を持つ大学が多数あったと言われている。しかし次第に廃れていき、現在このシステムを厳格に維持しているのはオックスフォードとケンブリッジだけになってしまった。他に同じ英国のセント・アンドリューズ大学やダラム大学でも、もう少し緩やかな形でコレッジ制度が残っているらしい。

このコレッジ制度、維持するのに膨大なお金がかかる上、個人主義がはびこる現代においてあまり価値を認めない人もいる。大学外部からは「オックスフォードとケンブリッジは金食い虫だ」との批判もある。しかし個人的には、こういうユニークな制度が残っているのはイギリスならではで面白いことだと思う。

 


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コメント 6

HANA-P

私はコレッジ制度の肝はアイデンティティの複数化だと考えてます。
コレッジ、インスティテュート、デパートメントなどの複数の所属の場を持つ事で、学問をするということがタコ壷式の職業訓練ではなく、人間性の中に陶冶されていくのではないかしら。社交能力も磨かれるし。どっちにしろ古めかしい制度ですわいな。
by HANA-P (2005-04-19 05:49) 

しょちょう

HANAさん
アイデンティティーの複数化というのは当初思いつかなかったのですが、良く考えてみるとまさにそうなのかもしれません。いいアイデアです。
一つの大学にいながら複数の世界を持っているというのは学問的にも社交面でも望ましいことですね。特に「エリート養成」というこの大学のミッションに沿った制度だと思います。
こんな贅沢なシステムを維持できたのも、ひとえにこの国の階級制度と植民地から吸い上げた富のおがげでしょう。日本ではありえないことです。
by しょちょう (2005-04-19 08:50) 

yoshizawaむつみ

96年9月学生生活最後の旅でたずねました。オックスフォード懐かしい!はるか離れたところに鉄道の駅があり、そのわけは学生が遊びに行くのに不便になるためだったとか。2階建てバスの上階で観光しました。イヤホーンの日本語テープの録音が擦り切れそうなほど悪く、英語のテープほうがまだ聞き取れるほどでした。Aliceのものばかりのおみやげやさんが楽しかった。また行きたいところのひとつです。 
by yoshizawaむつみ (2005-04-19 19:32) 

しょちょう

むつみさん、こんにちは。
私も96年が学生生活最後の年でしたが、北海道と信州を放浪してました。笑
学生を遊ばせないためにあそこに駅があるんですか?それはいいことを聞きました。たしかに私もあそこから遊びに行ったことはありません。不便ですから。
またぜひいらしてください。
by しょちょう (2005-04-19 20:03) 

チョムプー

昨年夏、家族(娘と夫と3人)でオックスフォード行きました。ほんとうに、あんなに古いままで、金色とは知りませんでした!エクセターカレッジの前のB&Bに泊まりました。ボードリアン図書館やクライストチャーチ、C.S.ルイスのモードリンカレッジ、植物園など、ファンタジーの旅をまんきつ。感激したのは、私はトールキン直筆原稿。娘は、クライストチャーチのダイニングにふみこもうとしたら、イギリス人の青年が、ハリーポッターの映画のとおり「トロール・イン・ザ・ダンジョン!」といいながらころがりこむマネをしているのを見たこと。ああ、娘も私もオックスフォードに今もホームシックです!
娘よ留学するのじゃ・・・ああでも頭わるい・・・
by チョムプー (2005-04-19 20:57) 

しょちょう

チョムプーさん
そうですか、いらしたことがあるんですか。楽しんでいただけたみたいでよかったです。
ハリーポッターがお好きでしたら、ここは楽しい場所かもしれません。ホグワーツ魔法学校でどの寮に所属するかが大事なように、ここではどのコレッジに所属するかが重要です。ホグワーツとオックスフォードとの最大の違いは所属先が魔法の帽子によって決められるか入試委員によって決められるかという点ですね。笑
by しょちょう (2005-04-20 01:11) 

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