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<数時間前の景色 Ⅱ (後編)>

(14)

「ゴホゴホ!!あぁ~いってぇ~・・・頭がガンガンするな・・・。」


慶二はそう呟いた。


「んん?俺は気を失ってたのか?随分時間が過ぎてるような気がするな・・・。」


真っ暗な場所で独り言を続けた。


「ってか俺思い出すの遅すぎ!!マジ死ぬかと思ったし!!」


まだ続きそうな彼の独り言を少し黙って聞いてみるとしよう。


「参った!!どうするよこれ!!一回目の今日薬品ばら撒かれてそれを思いっきり吸って体が危険を察知した瞬間ここに飛んだんだよ。うんうんそうだよ。あまりにも薬品を吸い込み過ぎたせいなのかなんなのか、気を失って、起きたら記憶がぶっ飛んでたのがいけないんだよ!!そうだよ俺のせいじゃない!!薬品のせい!!そう薬品イコール犯人のせい!!ってか俺良く生きてたな!!今思うとすげ~恐いんですけど!!俺すげ~!!でまぁそれはもうこの際隣にチョコンと置いといて、二回目の今日ホンの少しだけ進展したのは薬品を多量に吸い込む前にここに来れたせいか俺は今記憶がハッキリ残ってることです!!ワタクシ慶二はやりました!!記憶をゲットです!!地下鉄で薬品がばら撒かれて、ホームはパニックで、俺の命も危険で、ばら撒かれた場所に俺は近かった!!ほら!!言えるじゃん!!俺言えてるじゃん!!記憶バッチリ!!・・・で、どうすればいいわけ?」


よくもまぁ~ベラベラとマシンガンのように喋れるものだ・・・。


「ってか俺一回時を戻してたってわけじゃん?・・・二回時を戻した事が無いんですけどコレって何回でも戻せるわけ?どうなの?ちょっと神様聞いてます?いやそれよりもだ、戻れたとして、犯人捕まえられるの?ってか捕まえるも何も犯人の顔さえわっかりませ~ん!!これはどうしたものかしら?あはは・・・ふぅ・・・ちょっと待て待て、冷静に考えようじゃないか慶二君。」


慶二は暗闇の中であぐらをかいた。
まるで宇宙のど真ん中にフワリと浮くかのように。


「事件は8時30分犯行予定だった筈だけど、俺の予想が正しければ8時40分は確実に過ぎていた。俺が最後気を失う前の着信は親父からで俺の携帯で8時51分だから、え~っと俺の携帯の時計は3分ほど進んでるから、本当は8時48分頃が正解か?いや、断定は出来ないけど有力だな。しかも自分の近くで薬品がばら撒かれた可能性が相当高いよな。あの時地面に転がっていたモノは無かったのか!?何か手がかりは無かったのか。思い出せ。2回も見てる今日だろ。」


事件の記憶だけに神経を集中させる。


「そういや、気を失う寸前に最後に見たのは空き缶だったよな?今思い返してみるとホームのど真ん中に缶が転がってるってのもあんまり無いことだ。ゴミ箱が最近撤去されてるから捨てる場所が見付からず置いた?どっかにはあるんだろうけど、パッと目の付くとこにないと面倒なのは分かる。だとしてもあんな目立つ場所にポンとは相当常識が無い人じゃない限り置かないよなぁ。あの缶に薬品が入っていて、それをこぼしたと考えるのが妥当だと思うんだけど・・・どうかなぁ?」


慶二は自問自答を繰り返す。


「仮にだ、その缶に薬品が入っていたと考えた時、その缶を誰が持っていたかで事前に犯人を止められる可能性はあるよな?階段から降りてすぐの付近なせいで行き交う人が多いのが辛いところだが、あの缶に賭けてみないか?」


慶二は自分に同意を求める。


「そうだな。色々な予想を立てても短時間で全てを調べるのは不可能だろうし、あの缶だけに神経を集中させよう。あの缶は青色のガムテープかなんかで外見をグルグルに撒いてあったんだったよな?青い缶か・・・まぁ探しやすいかもな。で、その缶を見つける事が出来た時、俺はそれを袋に入れてどっか安全な場所に運べばいいよな。コンビニ袋じゃ・・・ダメだよな・・・。何か家に袋はあったか・・・そうだゴミ袋とかいいじゃん!!・・・は丁度使い切って今日の仕事帰りに買おうと思ってたんだ・・・。ゴミ袋を2枚重ねとかにすれば漏れないだろうし、それに缶を入れるだけでとりあえずあの事件は防げそうだが・・・俺が起きてから袋とか買ってる暇ねぇ~な・・・。あの駅に俺と同じぐらいに辿り着ける奴に頼むしかないが、そうなると・・・う~ん・・・サリしかいねぇ~・・・。サリに電話して早めに出てもらえれば一本前の電車に乗れるよな?なんせモーニングコールしてくれてるんだから。そうなれば袋も用意出来るか?こんな賭けに彼女を巻き込むのか?もしその青い缶じゃなかったら彼女の命も危険なんだぞ?」


まるで言い争うような自問自答。


「しょうがない・・・それでも彼女しかいないんだし、サリに頼むしかないだろう。サリに細かに説明してる暇はないから、ゴミ袋を少なくとも2袋持ってきてくれ!!1本早めの電車に乗ってくれ!!って言うしかないなぁ。って俺の文章に違和感バリバリだなこりゃ・・・。とにかく事情は後で説明するとして、とにかく急げと伝えるしかないよな。」


それが慶二が出した答えだった。


「あの付近で怪しい人影は見なかったが、逆に言うと全員怪しくも見えるんだよなぁ~・・・一番恐いのは缶にピントを合わせてる俺の予想がまったく外れてた時だよな・・・いや、絶対あの缶が怪しい!!怪しいってか正解だろ!!おっし、ここまでの作戦はこれでOKだな。」


やっと自問自答に決着がつき慶二は立ち上がった。


「後は俺が3回目の今日をむかえる事が出来るのかだよな。この空間にこれたって事は可能性は高い筈。よ~し覚悟を決めて落ちるとしますか!!」


その時慶二は妙な違和感を感じた。


「ってな~んか壁も何も無いように見える空間が今すっごく狭くなってるように感じるんだけどこれは何でしょうか?なんか見えない圧迫感を感じますが!?何にもないけどなんかヤバイって感じ!!理由は何よ?この闇が終わりを告げているのか!?何?この闇って時間制限ありですか?」


どこまでも続く闇が押し迫ってくる感覚・・・一体慶二が何を感じているのか私には表現のしようがないが、とにかく何か良くない事が起こっているようだ。


「闇が終わりを告げる・・・まさか今日が終わる?・・・!?」


慶二は携帯の時計に目をやる。


「携帯の時計が0時過ぎて日付変わってる!!俺の時計3分は進んでるから実際は23時58分頃ってこと!?おいおい俺は何時間気を失ってたんだよ!!ってか日付が変わると俺はどうなるんだ!?この闇と一緒に消えるの!?ちょっと待ってよ!!」


時を戻せるのはその日のうちだけなのかも知れない。


「日付が過ぎるのはなんだかヤバイよ。いや断定は出来ないけどこの圧迫感は非常に息苦しい!!急いで行くしかない!!頼むよ神様!!3回目の今日へ連れてってくれ!!」


彼はその場で目を閉じ大きく深呼吸をした。そして足元から音も無く闇に飲み込まれるように消えた・・・。

 

(15)

「慶二!!」


サリは自分の声に驚いて目覚めた。


「あぁ~夢かぁ~・・・最悪な夢だったなぁ・・・。」


サリは安心して溜息をついた。
時計に目をやるとまだ6時28分。外はすっかり明るいが、街もまだ寝ぼけ眼だ。


「こんな時間に起きちゃって偉いなぁ自分。7時には慶二にモーニングコールしないとね。どうせまた起きないんだろうけど・・・。」


サリはその後もベッドの上でウダウダしているうちに7時を少し回っていた。


「あぁもう!!なんで朝ってこんなに早く時間がすぎるんだろう・・・仕事中もこの早さで過ぎてくれればいいのに。もう7時になってたなんて・・・慶二に電話しなきゃ。」


しかし案の定慶二の携帯は留守電に切り替わる。


「ただいま電話にでれません!!用のある方も無い方も田村正和のモノマネでメッセージをどうぞ!!」


そのあまりにも能天気なメッセージにサリは負けじと返す。


「あぁ~どぅもぉ~古畑ですぅ~もうぅ~あさですぅ~・・・」


似てない。


「何やってんだろアタシってば・・・まぁいつもの事だし心配ないかな。」


そう言うとサリは電話を切り、シャワーに向かった。
時計は7時を少し過ぎた頃だった。

 

(16)

7時57分


「どう?今日?どうよ!!」


意味不明な言葉を叫びながら慶二は目覚めた。
慶二はすぐにテレビをつける。


「今日の山羊座のアナタの運勢は大凶!!そんなアナタはいらないものをゴミ袋に入れて処分しましょう♪・・・」


そこまで聞いて慶二はテレビと一緒に言い放った。


「ラッキーカラーは赤!!青色は今日は避けてね!!」


アナウンサーとまったく同じ文章だ。


「っしゃ!!3回目の今日確定でしょう!!すげ~な・・・マジすげ~な・・・この力って何回も使えるのか?・・・もっと自由に使えたら俺すげ~嫌な人間になってたな・・・。勘違いしちゃいけないのは俺はただのサラリーマンで、凄いのはあくまでこの得体の知れない能力だってことだな。」


慶二は自分の掌を眺めて呟いた。


「ってそうだよ、サリに電話しなきゃ。」


すぐにサリに繋がった。


「もしもし俺だけど。モーニングコールごめん、ちょっとおきれなかったよ。でさ、唐突で悪いんだけど、ちょっと聞いてくれ。」


サリが返事をする間も空けずに慶二は続ける。


「ゴミ袋を少なくても2袋持ってきてくれないかな。事情を説明してる暇がないから、妙な事言ってるように感じると思うんだけど、とにかくそれを持って、今すぐあの駅に向かってほしい。あの駅の最後尾の車両辺りで待ってるから、詳しくは必ず後で説明するから、今は急いでくれ。」


慶二の悪いクセだ。
焦ると文章が支離滅裂になり、人に上手く伝えられなくなる。
それでもサリは慶二の気持ちを汲み取りその意見に同意した。

 

(17)

8時0分


「おふくろ、親父は起きてるか?」


慶二は唐突に母親にそう問う。


「あらこんな時間に珍しい、お父さんならここで新聞読んでるわよ。」


そう言うと嫁は子機を私に差し出した。


「どうした?」


「親父、久々にあの能力が発動しちゃってんだけど、今回はヤバイ。」


「時が戻ったのか?」


「そうなんだけどさ、俺もうこの日を3回繰り返してるんだよ。」


「一体何が起きてるんだ?」


「時間がないから簡潔に言うと、駅に毒薬がばら撒かれて何十人もの死者が出る。それに俺も巻き込まれた。」


「おいおい、なんだそりゃ・・・で、お前はそれを止められそうなのか?」


「それが、犯人の顔が分からないんだ。分かっているのは8時40分過ぎにその事件が起きたことと、その薬品が入っている缶の色が青だったってことだけ。」


「そうか・・・俺が今から急いでそこに行ったとしても・・・間に合わんな。」


「それは俺も逆算して分かってるよ。とにかく、そう何回も時が戻せる気がしないから、もしかしたらコレが最後のチャンスかと思って。だったらこの話を理解できる親父には伝えておこうと思ってさ。」


「おいおい、縁起でもないことを言うもんじゃない。お前ならきっとその犯行を止められる。自分を信じろ。」


「あぁ、そうするつもりだよ。行かなきゃそれで俺は助かるけど、そんなん絶対後悔するからね。」


「うむ、それでこそ俺の息子だ。俺は鉄道会社にこの事を駄目元で連絡してみる。それから警察にもな。他に思い出せる事はないか?」


「えっと・・・あ、犯行声明文がバイク便で鉄道会社に届くってサリが言ってた気がする。バイク便が遅れたせいで事件の被害が拡大したんだと思ったけど。」


「バイク便か。分かった。」


「イタズラ扱いされるかも知れないし、逆になんでそれを知っていたんだって怪しまれる行動だからくれぐれも慎重によろしく!!」


「うむ、お前よりは口は達者だと思うから心配するな。とにかく無事を祈ってる。」


「ありがとう、んじゃ電車来たから行ってくる!!」


息子はそう言い残すと電話を切った。

 

(18)

8時01分


「ゴミ袋は持ったし、髪はビショビショでなんかカッコ悪いけど一本に結わいてとにかく行かなきゃ!!なんだか知らないけどワクワクしちゃってるアタシは絶対間違ってる!!でも一体何が起こるんだろう・・・。駅を綺麗にする気?ないない、そんなの慶二に限ってないよ。」


サリは不安よりも好奇心が勝っていた。
頭の中だけで柔軟体操をし、全力疾走で駅に向かう。
元陸上部のエースだった足でガードレールもハードルを越えるかのように軽々飛び越え、駅に辿り着く為の最後の信号を渡る。
その歩道には所狭しと置かれている自転車。これにサリは苛立ちを覚える。


「もう~!!すっごい邪魔なんですけど!!持っていくならアタシの自転車だけじゃなくて全部持ってってよ!!」


頭の中で彼女はそう叫んだ。
「2回目の今日」と変わることなく同じ事に憤りを覚える彼女は本当に負けず嫌いだと感じる。
定期を改札に流し込み駅のホームに着くと、都内らしく地下鉄はひっきりなしに次から次へと人を吐き捨てては飲み込んでいる。
そんな流れに逆らうことなく深呼吸を一つしてサリも電車に飲み込まれていった。
少し肩で息をしながら、景色の変わらない地下鉄の窓に映る車内の様子をぼんやり眺めていた。

 

(19)

8時30分


「分かっちゃいるけど既に犯行予告時間か・・・こえ~な・・・。」


慶二は乗り換えの駅に到着し、すぐに事件現場の駅まで向かう途中で、信じられない光景と遭遇した。
なんと百メートルほど先の連絡通路のシャッターが閉まり始めているのだ。


「ちょっと待った!!どうしてそうなっちゃうのよ!?」


とにかく全力疾走で慶二は走ったが、残すところ数十メーターのところに迫った時はシャッターはすでに50センチほどしか隙間がない。


「2回目の今日となんか違うんじゃん!!」


慶二は叫びながら自分が出来る限界の速さでシャッターに滑り込む。
軽く左肩をシャッターに擦ったが怪我と言うほどのものではなかった。


「あっぶねぇ~・・・スライディングタックルを駅でするとは思わなかった・・・。こんなキレの良いタックルしたのは初めてだよ。」


慶二は全身についた埃を手ではたきながらそう呟いた。


「2回目の今日はシャッターまだ開いてたじゃん・・・。やっぱり微妙に違うのかな・・・。」


慶二は2年前の事件を思い出していた。


「あの時、俺が見た夢も親父の見た夢と食い違いがあった。100%同じ日ってわけではないってのはあの時に理解したんだが・・・。そうなると今のシャッターが閉まるのが早かったって事は、犯行が早まる可能性もあるって事だよな?ちょっとこれは非常にピンチじゃございませんか?」


慶二は少しうろたえた。
その時携帯が震える。


「もしもし慶二?アタシ電車から降ろされちゃったよ・・・。なんでも車両故障だって言うんだけど、全員電車から降りて下さいって・・・。」


2回目の今日より1本早く電車は止められた。


「やっぱり・・・そうか、俺はその止められた原因を知っているし、今その原因の近くにいる。」


「朝から慶二変だったけど、この電車が止まるのも知ってたって事?」


「いや、それは予想外。ただ細かに話してる暇が今はないんだ。サリ、今は駅員の言う通りその駅から出るんだ。」


「・・・分かった。そこまでだったら走って行けば15分ぐらいで着けると思うから。」


「いや、ここに辿り着いても入れないよ。完全にこの駅隔離されてるからさ。それよりサリは親父に連絡をして、一緒に行動してくれ。」


「慶二はどうするの?袋は必要じゃなかったの?」


「いや、袋は死ぬほど大事だけどなんとかするから。心配しないでくれ。」


「今アタシが行っても出来る事はなさそうだし、とにかくおじさんに連絡して、後はおじさんに従うようにする。」


「おう。頼んだよ、多分もう電話に出るどころの騒ぎじゃないかもしれないし。」


「ホントちゃんと帰ってきてね?やだよ?これが最後の電話だったとか・・・。実はアタシ今日変な夢見たんだ。この光景がなんかその夢と似てるの。」


「夢は夢、現実は現実、だろ?大丈夫だから!!」


「・・・分った愛してるからね。」


「俺もだっつ~の!!じゃあ切るぞ。」


電話を切った途端慶二は頭を抱えた。


「うぉ~!!またカッコつけちゃったよ!!どうする・・・袋、袋、袋・・・。」


慶二はとにかく代わりになる袋を探して通路を走った。

 

(20)

8時05分


「どうもお忙しいところすんません。ワタクシ椎名と申します。まぁマスコミ関係のものなんですが。」


私は偽名を名乗り、ちょっと勘に触るいやらしい話し方で鉄道会社に電話をした。


「そのマスコミ関係の方がなんの御用でしょうか?」


「それがですねぇ~極秘情報を入手しましてねぇ?その真相を確かめたいんですよ。」


「と申しますと?」


「えぇ、アナタ方が運営する駅の一つにですね毒薬がばら撒かれるって話なんですが、これが事実なのかどうかと思いまして。」


「そんな話は知りませんが?この電話はイタズラですか?」


「いやいやいやいや、聞いてないかも知れないなとは思ってたんですよ。えぇ、ただですね?毒物がばら撒かれるって聞いちゃこりゃ大変だと思いましてねぇ。」


「一体何処からの情報なんですか?」


「さぁ~ワタシは裏のルートを辿って聞いたもんで、ちょっと発信源は分からないんですがねぇ。」


「何かアナタの電話を信じる証拠などはありますか?そういったイタズラも少なくないので。」


「あぁそうですよねぇ~・・・こんな時代ですもんねぇ~・・・色々イタズラも増えてるでしょうねぇ」


「証拠はあるんですか?」


「そうですねぇ~・・・バイク便ってのがあるでしょ?あれが多分おたくの会社に今向かってると思われるんですがねぇ。」


「そのバイク便が事件とどう関係があるんですか?何故それをアナタが知っているんでしょうか?」


「まぁまぁ落ち着いて下さいよ。ワタシだってそこまで詳しくは知りませんけどね。ま、後はおたくで考えて下さいよ。」


これ以上話を引っ張るのは得策じゃないと私は電話を切った。


「ふう、なんかただの酔っ払いみたな演技になってしまったな・・・でもこれで鉄道会社もイタズラかも知れないと思いつつも警戒はするだろ。少しでもあの駅にいる人の人数が減ってくれれば良いんだが・・・」


自分が向かったところで出来る事が無いかも知れないと思いつつも、タクシーで事件現場の大木駅に向かう事にした。

 

(21)

8時12分


「・・・ってことなんですがどうしましょうか?」


私と直接話した駅員は上司に報告する。


「どこまでその話を信用して良いか分からないが、万が一の事もありえる、ちょっとバイク便の会社に電話をしなさい」


駅員の上司らしき男は半信半疑ではあるものの私の話を受け入れたようだ。


「では、この会社宛の荷物をそちらの会社が預かってるのは確かなんですね?」


鉄道会社の一人がバイク便の本社に連絡をすると、確かにこの鉄道会社に荷物が運ばれようとしている。
鉄道会社の上司らしき男が受話器を部下から取り上げた。


「あぁ~もしもし、その荷物を運んでいる運転手の携帯番号も教えてもらえんかね?こっちも緊急で困ってるんだ。」


「分かりました。ではですね、名前を中谷と申しまして、番号は090-××××-××××です。時間指定に間に合わず大変申し訳ありません。」


謝罪の言葉をさえぎる様に電話を切ると直ぐにそのバイク便に電話をする。
ほどなくして繋がる電話。


「もしもし中谷ですが。」


「あぁ~もしもし、今アナタが運んでいるモノの届け先の者なんだが。」


「あぁ!!すいません!!道に迷ってしまいまして、もうすぐ着きますので!!本当にすいません!!」


「いやいや、その荷物なんだが、今その場で開けて見てもらえんか?」


「え!?開けてしまっていいんですか?」


「構わん。こっちも緊急なんだ。何が入ってるか教えてくれんか。」


「分かりました。」


そう言うと受話器の向こうからは街の喧騒とノイズが数秒流れた。


「えっとですね・・・荷物は封筒なんですが、その中には手紙らしきものが1枚だけです。」


「何と書いてある?」


「はいえ~っと・・・『私の最後の実験にアナタの会社の駅の中でも1番利用客数が多い駅を一つ借りることにした。時間は今日の午前8時30分。被害の拡大を防ぎたいならそれなりの処置をとることをお勧めする。』とあります・・・」


「なるほど。君はその封筒を持ってこっちへ向かいなさい。そしてこの事は他言しないように。いいね?」


「はい、すいませんでした。今から直ぐに伺います。」


バイク便の運転手は今自分が読み上げた文章の事の大きさよりも、本社に戻って怒られるのではないだろうかと言う不安で焦っていたようだった。
鉄道会社の上司らしき男はすぐさま今度は警視庁に電話をする。


「もしもし、うちの鉄道会社に毒薬がばら撒かれるとの情報が入った。直ぐに上のものと話をさせてくれ。とにかく時間がない急いでくれ。」


上司らしき男は警察と淡々と会話を続ける。
聞こえて来た言葉の中に、「大木町にいる乗客は犠牲にしても」と言う一節があったのが心苦しい。
受話器を置きながら上司らしき男は叫んだ。


「今すぐ各部署に連絡しろ!!緊急事態発生!!大木町へ向かう全ての電車を直ちに車両故障とでもなんとでもイイワケして運転中止にさせろ!!8時30分に毒薬がばら撒かれる恐れがある!!その際感染性のウイルスの可能性もあり!!大木町駅への連絡は混乱を招く為避け、大木町にいた乗客を誰一人外に出すわけにもいかん。大木町を完全封鎖しろ!!いいな!!」


「はい!!分かりました!!」


一斉に慌しくなる社内。
大木町以外の全ての駅に連絡が行き、電車が止められたのはそれからわずか5分の事だった。


時計は8時29分を指していた。

 

(22)

大木町は封鎖されている為、行き場を失った乗客達でごった返していた。
そんな人達をかいくぐって慶二は袋を探し続けた。


「もしかしたら、まだ駅の連絡通路の何処かにはゴミ箱が設置されてる可能性はあるよな・・・」


慶二は決められたエリアの中で行ける場所をすべて辿ることにした。
だが最初に辿り着いた場所にはそれらしき物が見当たらない。


「ない!!ここに昔は絶対あったんだよ!!ホラ、足元にゴミ箱ありましたよ~!!みたいな跡が残ってるし!!」


慶二はすぐに他の場所に向かう。
一体何箇所回ったのだろうか、やっとの事で見付けたゴミ箱は最初に探し始めた場所の近くにひっそりと置かれていた。


「あったあった!!ゴミ箱発見ですよ!!近くにあったんじゃん!!灯台下暗しって言うか・・・こんな場所に置くなよ!!ってかホント数が激減しすぎだよ!!あって良かった・・・。電車が止まったおかげでサリも巻き込まずにすんだし、グッジョブ!!でもさぁゴミ箱減った理由もやっぱり毒薬とか、テロとかが原因だもんな・・・日常生活の隣は恐い事だらけだよホント。」


慶二は自分の目の前に見えるゴミ箱に向かって全速力。


「はいはいはいはいちょっとすいませんねぇ~。別に怪しいもんじゃないんですよぉ~。」


どう見ても怪しい自分にイイワケをしつつ雑誌、新聞紙など燃えるゴミ用と、ペットボトルや不燃物などの燃えないゴミ用の両方のゴミ箱を開け、そしてその場に袋の中身を全てぶちまけた。


「何をしてるんだ!!」


駅員が駆け寄って慶二に怒鳴りつける。そりゃそうである。周りからすれば慶二はゴミ荒らしにしか見えないのだから。


「怒るのは無理ないけど、それは後にして!!意味わからんだろうけど。あ、後さ、ゴミ箱の設置数もう少し増やしたほうが良いよ!!俺の為に!!」


慶二は駅員やその周りにいた怪訝そうな顔の人達にそう言い残しホームを駆け下りた。
ホームに設置されている時計に目をやると8時35分。


「この感じだとまだ毒薬はばら撒かれてないな・・・助かった・・・。でも電車が止まるのが1本早くなったって事は事件が早まる可能性だって高いわけだし・・・こえ~・・・」


1回目の今日、2回目の今日と気を失った場所に三度立ち、慶二は足がすくむのを感じた。


「なんだか2回目の今日よりも人が多いような気がする人挙手!!」


慶二は自分に同意を求めその場で小さく手を上げた。


「とにかく犯人が青い缶をむき出しで手に持ってるとは思えないんだよな・・・って事はカバンか何かだろ?」


また自問自答が始まる。


「で、今俺の周りにはOLやらサラリーマンやら学生やら、とにかく手ぶらな人間の方が少ないわけだ。あの暗闇でも悩んだけどさ、やっぱこれ無理じゃん・・・皆のカバンを盗み見る事が不可能じゃないとして考えても、時間がなさすぎる。」


慶二は袋を一つづつ両手に持ったまま自分の周囲をグルっと見回した。
そして駅案内の看板付近に立っている、小さなカバンを肩からかけた見ず知らずの気の優しそうなおじさんを見付けた。


「あ、あのおじさん、2回目の今日と同じ位置で電車待ってるのか。いつもの定位置なのかな?被害者第一号はあのおじさんだったよなぁ・・・。」


慶二はいたたまれなくなったのか、2回目の今日と同じようにおじさんに声をかけた。


「すいません、僕今この駅についたんですが、なんかあったんですか?」


「ん~?隣の駅で車両故障があったとかなんとかで安全確認中って駅員が言ってたよ。こんな時間に困っちゃうよねぇ~。」


「そうなんですか。でもなんか駅の入口とかも閉鎖されてるみたいなんですよ。」


「あら?それはどうしてかねぇ。車両故障と閉鎖は関係ないだろうにねぇ。」


「ですよねぇ・・・」


「それより、なんで君はゴミ袋を両手に持っているんだい?とても違和感があるんだが?」


「あ・・・コレは・・・その、駅内のクリーンアップ作戦の為です。まだメンバーが揃わないうちに駅が封鎖されてしまって・・・。」


「偉いねぇボランティア団体みたいなものかね。」


「まぁそんな感じですかね。」


そんな適当な嘘で会話のつじつまを合わせた慶二は駅の時計に目をやる。
時計は8時40分を過ぎていた。


「2回目の今日毒薬がばら撒かれる時間になってきちゃったよ・・・このおじさんについてれば犯人見付けられるかもと思ったんだけど怪しい人影がないぞ・・・。」


慶二は頭の中でそう言うと、自分の周囲を気にした。


優しそうなおじさんはポツリと言う。


「喉が渇いたな。」


そう言うとカバンから何かを取り出した。
慶二はその取り出されたものを目にして驚きを隠せなかった。


「おじさん!!それ!!」


慶二は優しそうなおじさんが取り出した、ものから目が離せなくなった。


「ん?コレかね?コレはまだ何処にも売ってない発売前のものなんだよ。だから模様とかもまだ隠さないといけなくてこうやってガムテープで隠してるんだ。おじさんそういう会社に勤めていてねぇ。こうやって発売前に自分達が、一般人がとる行動やシチュエーションを用いてその味を確かめるんだよ。例えば、真昼間の会議などでスーツのお偉い方達に囲まれてビールは飲まないだろ?例え飲んだとしてもその味はきっとまったく美味しくないだろうし、その大きな会議を終えた後に飲んだビールはきっと格別だったりするだろう?そんな感じで、同じ味でもシチュエーションによって人間の味覚は変わる。やはり研究所で飲んでも冷静にその味を判断出来ないもんさ。だから最終の確認は、一般人の目線で試飲をして初めてその味に合否をつけるのさ。このシチュエーションは朝のラッシュに乗り込むサラリーマンの気持ちになっているって感じなんだよ。」


あまりに冷静なおじさんの説明に、慶二はそのものの中身が本当に毒物なのか疑問が沸いた。


「2回目の今日見た缶と間違いなく一緒だ・・・この缶に毒物が入っていたって俺の予想は外れたのか?」


慶二は自問自答を何度か繰り返し、無我夢中でとった行動はそのおじさんから缶を奪い、袋に入れ、その袋の上からまた袋を被せるという行動だった。


「君何をするんだ!!」


「おじさん、ごめん。この缶は返せないよ。」


「おいおい、何故邪魔するんだ。」


「う~ん・・・確かにコレじゃ俺ただの泥棒だよねぇ・・・。」


「当たり前だろう。私が駅員を呼ぶ前にその缶をこっちに渡すんだ。いいね?おじさんもそんなに気が長いほうではないからね。」


「分かった、ちゃんと説明するからさ。実はね、今日の運勢で俺のアンラッキーカラーは青だったんだよ。で、この缶青いでしょ?だから・・・ね?」


「馬鹿馬鹿しくて付き合いきれん・・・そんなイイワケはいらないから早く返しなさい。」


「駄目か・・・」


今のイイワケでおじさんを納得させる事が出来ると少しでも感じたこの男をある意味褒めたい。


「しょうがない・・・駅員を呼ぶから君はここで待っていなさい」


「コレ毒物でしょ?」


「・・・何を言い出す?」


今までのレスポンスよりも明らかに間があいたおじさんの声色が若干低くなった気がした。


「いや、これ毒物じゃないのかなぁ~?って言ったんだけど・・・。」


「・・・何を馬鹿な事を・・・。」


「おじさん・・・やっぱりコレ毒物だよね・・・おじさんの態度見て確信しちゃったなぁ~俺。」


ホンの少しの沈黙の後、優しそうなおじさんは喋り出した。


「・・・貴様・・・あの病院の者だな?」


先程までの優しそうなおじさんの表情と声色が驚くほど激変する。
やはり犯人はこのおじさんで間違いないと言う事が確信めいてきていた。


「病院がどうとか良く分からないけど、とにかくアナタのしようとした事は分かってる人間だよ。」


「貴様は誰なんだ!!」


大きな声で口論をしていれば周りのホームにいる人間でも流石に振り向く。
男はトーンを抑えてもう一度慶二に問う。


「貴様は誰なんだと聞いている。何故私がこの駅でそれを持っていると知っていた。」


「全然知らなかったよ。おじさんがこの缶を出した時マジでビビッタし、その後の説明があまりにも自然。すっごい綺麗に嘘つくよねぇ~・・・。」


「じゃあ何故お前はその缶を知っているんだ。」


「う~ん・・・御免。俺さぁ、そういうの上手く説明出来ないんだよね。それよりさ、この缶の中身の処理ってどうすればいいかね?」


慶二は臆する事無く、冷静を装いそう問う。


「何故お前にそんな事を説明しなければならない?」


「いいじゃん教えてくれたってさぁ~・・・。本当は処理の仕方とか知らないんじゃないのぉ~?」


「私が作った薬品の処理の仕方を私が知らないわけがないだろう!!」


「あ、コレおじさんが作ったんだ?おじさん科学者とか?あ、さっき俺に病院の者かって聞いてたからお医者さんかな?」


「そんな事はどうでもいい。」


「はいはい、じゃあもう一度聞くけど、この薬品の処理ってどうすんの?」


「・・・その薬品は大量殺戮をする為、戦争などで使用する為に私が他の国に売る為に作った毒薬だ。ただ、殺戮をした後も毒が蔓延してる地域はその後使い物にならなくなっては意味がない。建造物に被害を与えず、尚且つ人の命まで奪え、その後無害となったらどうだ?素晴らしいじゃないか。」


「おじさんさ、頭ちょっとおかしいよねぇ?素晴らしいって何が?人の命奪って土地かっさらって、わっしょいしてる連中に肩貸すのがどう素晴らしいんだか。」


「お前には計り知れない問題だったかも知れないな。」


「その、私はとっても優れてる。みたいな喋り方やめようよ気持ち悪いし。分からないけど、分かりたくないだけなのよ俺は。人殺しを理解したくないの御免ね。おじさんさ、この事知ってるの俺とおじさんだけで未遂に終わったんだからさ、まだ人生やり直せるぜ?勿論同じ事を繰り返すって言うなら俺がおじさんとっ捕まえるけど。」


「いいや、どちらにしろ私は死ぬ運命にある。」


「う~ん・・・なんだか知らないけど、おじさんの答えには極論しかないんだねぇ。死ぬか生きるかさぁ~どっち!!ってさ。」


「・・・いきなり私の目の前に現れ、今日の事を知っていて、私から缶を奪った。お前みたいな奴を世界は救世主や神と呼ぶのか?」


「呼ぶわけ無いじゃん・・・俺はただのサラリーマン・・・いやクリーンアップ団体の一人だよ。」


男はそんな慶二の嘘に納得はしていなかったが、観念したかのように自分の事を話し始めた。


「・・・そろそろワタシのPCから警視庁にデータが届く頃だろう・・・いいだろう、最後にお前に話してやろう。この大木町駅の10番出口を出て直ぐの病院があるだろう。私はあの病院の外科医だった。その昔、先輩からもっと金になる仕事があるとそそのかされた。その当時の私は駆け出しで、金もなく、だが女にはもてたいとか、外車に乗りたいとか、そこらへんの下らない男達となんら変わらなかった。だから大金を掴む為ならとその話にのったんだ。私が連れて行かれたのは、エレベーターでしか降りる事が出来ず、鍵が無ければ入る事さえも出来ないセキュリティー管理されたB1よりももっと地下の見た事もない研究所だった。エレベーターにはその階に行くボタンも無いから誰も怪しむものもいなかっただろう。そこには、救急で連れて来られ、俺も手術に携わり一命を取りとめたが、その後やはり症状が悪化して死んだと聞かされていた患者の姿や、その他にも多分世の中的には死亡したか行方不明になったか、下手すりゃどっかの国に拉致られたと言われてる人達が監禁されていた。テレビで行方不明になった人を探す番組などを見て不思議な感じだったよ。行方不明な筈の人間がここにいるんだからな。」


「ちょっとちょっと、俺もその病院お世話になった事があるんですけど?親父が地元の病院では設備が整ってないからって運び込まれて一命を取りとめた病院でもあるんですよ・・・。」


「表向きは立派な、日本でも有数のデカイ大学病院だからな。」


「うっは・・・鳥肌たったよおじさん・・・でもさ、死体がないのに死亡って親族は認めるのかね?」


「そのへんはいくらでも誤魔化せるだろう。例えば似たような体格の死体があって、誰だか分からないほどに・・・」


「あぁ~あぁ~もういいや。なんとなく想像つくや、気持ち悪くなりそ。」


「DNA鑑定の結果その人だった。最近はそう言えば素人は信じる時代になってるからな。簡単だ。まぁだからそこで数多くの患者を使い、人を生かす薬、人を殺す薬、人を自在に操れる薬、強力なドーピング剤など、人間に関わる全ての実験を行っていた。そんな中、その強力なドーピングを打った患者が暴れ出し、医者の一人の首を折り逃走した。その殺された医者が俺をそこに連れてきた奴だった。そしてそのドーピング剤・・・いや人間を殺人兵器に変えるような薬を作ったのが私とそいつもいるチームだったわけだ。だが、その薬はまだ不安定で、副作用で筋肉が収縮し血管が塞がった為に心臓発作で死んだ。だが、その死んだ場所がいけなかった。御丁寧にエレベーターに乗り込み、最終的に全裸で病院の受付の前で死んだんじゃ何も無かった事には出来ない。患者に間違った薬を投与し続けていた事に気付かず、患者は死亡したと。私がその責任者であり、謝罪もさせられ、しかも辞職までもだ。私はそのチームからすればまだ一番下の人間。いわば使い捨ての道具に過ぎない。辞職させたのは表向きで、裏では口封じの為に殺し屋までやとっていた。」


「本当にあるんだねそんな世界が・・・。」


「俺は隠れ家を一つ借り、そこでコツコツとあいつらの復讐を考えていた。そして今日がその日だったわけだ。」


「殺し屋に殺されるぐらいなら皆を道連れにして自殺しようってわけね?」


「まぁそういうことだな。」


「まぁおじさんが言ってる事は無茶苦茶だけど話は分かったよ。自首すればいいじゃん、塀の中なら殺し屋もこないでしょ。」


「お前みたいにあっけらかんとしていた時代が私にもあったな・・・」


ほんの数秒間をあけて男はこう切り出した。


「その薬品は水に溶けるとまったくの無害になる。酸素に触れないように気をつけながら水に入れるんだ分かったね?」


「おじさん・・・分かった。おじさんの言葉を信じるよ。」


「人生の最後で私は医学ではどうしようも出来ない、もっと凄い人間に出会えてしまったな・・・。私の実験なんか足元にも及ばない人間に最後に会えるとは、こんな人生でも悪くない人生だったのかも知れん・・・」


そう言うと男はその場で舌を噛み切った。


「おじさん!!なんでそうなっちゃうんだよ!!誰か!!手伝ってくれよ!!早く駅を解放してくれ!!もう毒薬の心配はないんだ!!頼むよ!!」


人間が自分で舌を噛み切る為にはホンの少しのためらいも許されなかっただろう。
男はそれほどの覚悟をもってこの日を迎えていたのだと思うと慶二はいたたまれなくなった。
人間が舌を噛み切ると、筋肉が緊張して舌が喉の奥に丸め込まれる形になり、呼吸が出来なくなり窒息する・・・。
男は数時間後、駅が開放された後に病院に運ばれたが目を開けることはなかった・・・。

 

(23)

9時05分


「また救急隊が増えたな・・・」


「そうですね・・・」


駅の外で私はサリと合流し、閉鎖された駅の付近でそう呟いた。


駅前には無数のパトカーや救急車、消防車までもが出動し道路は封鎖されていた。
あの男が言うようにデータはすでに警視庁に届き、裏医療の全貌が明らかになった為、病院の周りも警察が包囲していた。
病院からは次々に患者が運び出されては救急車で別の病院に運ばれる。
人体実験に使われた人たちも無事に救出されていた。

その時私の携帯が鳴った。


「親父、犯人が見付かったよ。」


「そうか!!それでどうなったんだ!?」


「薬品もちゃんと回収したよ。だけど犯人が・・・」


「どうした?取り逃がしたのか?」


「いや、それが・・・目の前で舌を噛み切った。」


「なんと・・・じゃあ犯人は・・・」


「間違いなく助からないと思う。なんかすげ~嫌な気分になったよ。」


「そうか、とにかくお前が無事で良かった。だけど、薬品はどうなったんだ?」


「あぁ、実は犯人が最後に俺に薬品を無効化出来る方法をなんでか知らないけど教えてくれてさ、トイレで処理してきた。」


「トイレ?なんでトイレなんだ?まさかトイレに流したのか!!」


「違う違う!!水に溶かすと毒物からただの無害な化学薬品になるみたいでさ、袋にたんまり水入れてその中で缶を開けたんだよ。
いやぁ~恐かったよ。匂いが無臭だからさ、本当に毒じゃなくなってるか吸い込んでみるしかないわけ。もう決死の覚悟でトイレの匂い嗅いじゃったもん。」


「あっはっは・・・そうか。でもお前が元気ならその方法は間違っていなかったってことだな。」


「なんか犯人の最後の言葉とその時の表情が嘘には聞こえなかったし、見えなかったんだよね。だから信じたんだけど。」


「なるほど。お前はどこまでもお人好しだな・・・で、今駅の外では駅周辺だけではなく、病院までを警察が包囲しているんだが。」


「あぁ~・・・それも今回の事件に大きく関係してるんだけど、その説明は後でする。」


「とにかくお前が無事で良かった。他に被害者はいないのか?」


「俺が知るところいないと思う。薬品以外での怪我人なら多少いるかも知れないけどね。」


「とにかくよくやった。流石俺の息子!!」


「いや、あんたの息子じゃなくても頑張ってますから・・・これが俺ですから。」


いつの間にやらいっちょ前の口を聞くようになったものだ。


「サリがもしかしたらその駅周辺にいるかも知れないんだけど・・・」


言葉をさえぎるように私は伝える。


「サリなら隣で泣いてるぞ。今かわるから。」


「え?一緒だったのか。」


私はサリに携帯を渡した。


「慶二?大丈夫?」


「おう、メッチャクチャ元気だぞ!!元気過ぎて困るぐらい元気だぞ。」


「良かった・・・夢が正夢になったらって・・・すっごい心配したんだよ?」


「だから言ったろ?夢は夢、現実は現実だって。」


「うん・・・」


「今度ちゃんと今日の出来事を俺なりに順序だてて説明するよ。サリは知る権利がある。」


「ううん。もういいよ、慶二がいつも通り元気ならそれでいい・・・。」


「あぁ~今胸がキュンとしちゃったよ。」


「からかわないでよ。」


「からかってないよ!!からかう?あぁそうそう、留守番電話の田村正和さ、超似てないんですけど!!」


「もう!!馬鹿!!」


何故か隣にいる私を叩きながら受話器に叫ぶサリに笑ってしまった。


まだ事件の解決を判別出来ない警察の隣で、私はタバコを一本吸って煙を空に吐き出した・・・。

 

 

 

 


(あとがき)
実に2年振りに短編の続編を書いたんですが、続編と言っても箇所箇所で前作と共通する場所などを出すに留まりました。

あえて説明不足な部分や、今の俺では表現しづらい部分も沢山あるし、足りない部分は皆さんが自由に想像して解釈してくださって結構です。
俺は小説家では勿論ないし、あまりにも上手い言い回しを一生懸命考えて書くのは逆にリアルじゃないと感じ、普段自分が生活の中で使うような言葉の言い回しのみで書きました。
これは前作同様なんですが、小説と言うよりはドラマなどの台本のような感じなんではないでしょうか。(って皆はドラマの台本見た事ないかな)
その昔、ドラマの主題歌の仕事をした時に貰った台本は、主人公や、それ以外の出演者のセリフだけで構築されていたんですよ。
だけど、そんな会話だけで楽しかったり、悲しかったり出来る。
それって凄いなぁ~って思ったのがキッカケだったんですよね。
作詞とはまたちょっと違った言葉達で人をワクワクさせる事が出来たらちょっと嬉しいかもって前作では感じなかった事を今回は感じちゃったし(笑)。
そんな台本に影響を受けてしまってるわけだから、俺の短編の書き方も相当セリフが多い(笑)。
前作と比べたら内容もセリフも2倍以上あるんじゃないでしょうか(笑)?
登場人物が増えれば増えるほど、シーンが増えれば増えるほど、時間軸の矛盾点が無いかの確認が大変で・・・(泣)。
また当分書きたくねぇ~!!って思えるほどの文字量を書いたと思います・・・。
小説と比べたがる人もいるでしょうが、完全な別物として、遊び感覚で読んでもらいたいですね。
最後までお付き合いくださった皆さん本当にどうもありがとう!!

2005,6,15 椎名慶治

 

 

 

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2005-06-15 00:00  nice!(3) 

もう・・・の巻 [MC号外]

ホント皆さん更新しなくて御免なさい!!
ブログに飽きたとか、ソーシャルネットワークにうつつを抜かしておろそかにしたとかじゃないんですよ?(いやマジでさ)
以前から言っている短編が、なんだか23章にも分かれた何万文字のも長編になってしまい・・・時間がかかっちゃったのさ。

でもでもで~も!!その長編が今しがた完成したんだっちゃ♪

って事でこれからはまた皆さんとここで遊べる・・・。
マジで書かなきゃ良かったよ!!短編なんてさ!!誰に頼まれたわけでもないし、何やってんだよこんな忙しい時期に!!(知るか!)
自分で自分の首絞めてお前はMか!!う~ん・・・Sだとおもうんだが・・・。(どっちでもええがな)

って事でどこかで正式に発表したいなって思ってるから書いたんだけど、その場所を何処にすればいいのかすんげ~悩んでるんですよ。
間違いなくブログにポンって載せたら重くてたまらんばいになってしまうし、だからと言ってチョコッとづつ更新すれば章の浅い方が下に来ちゃって超読みにくい。
そうやって考えるとブログにアップするのはちょっと無理があると判断。
ではオフィシャルなどにページを作るか?って事も考えましたが、オフィシャルはあくまでSURFACEのオフィシャルであって、俺個人の趣味の為の場所ではないのでこれも却下。
って事で、俺の中で有力なのはMCさんに相談しちゃおっと♪なわけです。
って事で明日相談しちゃお~☆

さぁ~話はゲロリと変わりたまには宣伝っぽい事もしてみちゃう。

6月15日の今日、実は俺達のファンクラブでは「6周年企画」と題して俺が作曲、相方が作詞、しかもボーカルは相方って言う、いわば逆SURFACEみたいな企画の曲を試聴出来るようになるんですねコレが。
コーラスで俺も参加していますので、最近表立った話が無いSURFACEに飢えた方はぜひファンクラブに入会してもらってですね、楽曲を聞いて欲しいなって思います。
なかなか素敵な曲に仕上がってると思いますよ。
相方の声が甘いこと甘いこと・・・俺あんな声でねぇ~!!

またこれから意味のないブログをガンガン更新しようと思いますんでチャックよろしく!!(またチャックかよ・・・)

あ、あとSantos AnnaのAnna Blogがいつの間にやらスタートしましたね!!俺結構BON-BON BLANCO好きですが何か?元気出ちゃいますが何か?



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