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スウィート・サッカー・ダンス 3 [s o c c e r]

  • 1982年のワールドカップの期間中、ぼくは恋に落ちていた。つまり、好奇心のつらい衝突に悩んだというわけだ。ぼくは高校の最上級生で、望んだわけではないが童貞だった。ぼくのガールフレンドは──ここではレナータとしておこう──高校を卒業したばかりで、医学部の入試に備えて勉強していた。勉強の手伝いを口実に、ぼくは彼女の家に入りびたった。彼女は父親と統合失調症の兄と一緒に暮らしていた。彼女の部屋で、ぼくは主として生物に関するニセのテスト問題を読みあげ、やがてぼくらは、徐々に、ホットに、青年期生物学の理論から実際的問題へと移っていった──この頭のなかの熱はどこから来るのか? ホルモンに突き動かされたこの熱しやすい体をどうすべきか? 生物の教科書は投げ捨てられ、部屋に入ってきて目撃しろと彼女の父や兄を挑発するかのように、ぼくらは野性むき出しで抱きあい、生物の研究に没頭し、きわめてヘヴィーなペッティングにいそしんだ。ときに部屋には息苦しいほどの興奮がこもり、窓を開けてサラエヴォの小鳥やミツバチと分かちあわなければならないほどだった。/ セックスとサッカーの両立は難しい。
    アレクサンダル・ヘモン 『世界の作家32人によるワールドカップ教室』

  • △ ドイツ 1(PK 4 ─ 2)1 アルゼンチン(6/30 ベルリン)
  • W杯ドイツ大会の準々決勝4試合はキックオフ前に「SAY NO TO RAICISM」宣言の声明文を両チームの主将が読み上げた。ヨーロッパでは依然としてアフリカ系選手への人種差別的な暴言が相手クラブの選手やサポータから浴びせられる。謂われのない偏見や差別は、かつて帝国主義が「奴隷」として使役して来た暗い過去の「恥の上塗り」に等しい。欧州vs南米という対戦は、最初から険悪なムードに染まっていた。アルゼンチンの遅攻、ドイツの速攻は中盤での潰し合い(ミスパスは命取り!)を産む。後半4分、MFリケルメの右CKからDFアジャラが渾身のヘッドを決めてアルゼンチンが先制。誰もがドイツ危うし!‥‥と思ったけれど、FWクローゼの「跳びヒザ蹴り」で左脇腹を痛めたGKアボンダンシエリが26分に負傷退場。控えのGKフランコに急遽交代せざるを得なかった。

    アルゼンチンは貴重な交代選手枠を予期せぬアクシデントで1つ使ってしまう。しかも逃げ切りを図ってか、27分リケルメに代えてカンビアッソを、34分にFWクレスポに代えて長身FWのクルスを投入‥‥。その直後、左サイドからMFバラック→ボロウスキ→FWクローゼの高速ヘッドがネットに突き刺す。交代枠を使い切って守備的布陣を敷いていたアルゼンチンに、FWメッシやサビオラという切り札を起用する術はなかった。PK戦はドイツ選手4人がキッチリ決めたのに対し、アルゼンチンはGKレーマンの用意周到な読みが悉く当たって好セーヴされる。PK戦後に両チームの選手が入り乱れて小競り合い(殴り合い?)。試合に出場していない選手(DFクフレ)が終了後に「レッド退場」という前代未聞のオチまで付いた、笑うに笑えない後味の悪い試合だった。

  • ○ イタリア 3 ─ 0 ウクライナ(6/30 ハンブルク)
  • 絶不調のFWジラルディノを外してトニ&トッティの2トップで臨んだイタリアが完勝した。前半4分MFカモラネージ(イタリアの青き侍?)のドリブル突破。6分トッティのヒールパスを受けたDFザンブロッタがドリブル〜DFの股抜きシュートをゴール右スミに決める。1ー0となれば、イタリア伝家のカテナチオの出番だ。ウクライナは前半にDF2人を交代。後半攻勢に出たものの、14分トッティのショートCKからのクロスを頭で合せ、24分にはザンブロッタの左クロスを左足でシュートと、トニ──NHKアナは何故「トオニ」、ブラジルのカカを「カカア」と実況するのだろうか?‥‥国際映像が観客席のVIPを抜いてもシカト状態、アナによっては妙に相撲臭かったりするのよね──に2発決められて4強を逃す。初出場のウクライナを率いてベスト8まで導いたシェフチェンコは完敗を率直に認め、ドイツ大会から去った。

  • ▲ イングランド 0(PK 1 ─ 3)0 ポルトガル(7/1 ゲルゼンキルヘン)
  • 4ー5ー1の1トップ布陣を敷くイングランド、果敢にドリブル突破を試みるポルトガル。両チーム共に決め手を欠き、0ー0のまま後半へ突入(睡魔に勝てず、前半終了後のハーフタイムにベッドで仮眠‥‥目が醒めたらベッカム様もルーニー君もピッチから消えていた)。後半6分に右脚を負傷したMFベッカムが無念の交代、13分にはボールの奪い合いで縺れ合ったルーニーがDFカルバリョの股間を(故意に?)踏み付けて一発レッド退場。1人少なくなったイングランドは後半20分に長身FWクラウチを投入するものの、延長でも決着が付かずにPK戦へ雪崩込む。両チームのキッカー9人中5人がPKを失敗するという乱戦の殊勲者は、MFランパード、ジェラード、DFキャラガーの3本のシュートをファインセーヴしたGKリカルドだった。

  • ● ブラジル 0 ─ 1 フランス(7/1 フランクフルト)
  • 前大会の優勝国と前々回の王者が闘う事実上の決勝戦?‥‥。勝敗を分けたのはセットプレーの一瞬の集中力の差だった。王国ブラジルは「魔術的カルテット」の1人、FWアドリアーノを外し、ロナウドとロナウジーニョを2トップに起用。しかし、その布陣が裏目に出る。MFマケレレとヴィエラがブラジルのパスコースを完全に遮断。後半12分、MFジダンの左サイドからのFKを最後尾のFWアンリが右足ボレーで華麗に決める。それにしても不可解なのはブラジルDF陣‥‥オフサイドの掛け損ないなのか、DFラインが2列に割れてしまった。フランス選手をマークしないで棒立ちのディフェンダ‥‥DFロベルトカルロスに至っては両手を膝に当てたまま身動きしない(代表引退のコメントを考えるのに忙しかったのだろうか?)。後半18分にアドリアーノを入れて点を取りに行くが、怒濤の攻撃も実らず、タイムアップ。ブラジルまさかのベスト8敗退。国歌斉唱の際に「黒トカゲ」のように舌舐めずりするロナウジーニョ(43分のFKは惜しかった!)の睛も悲しげに映る。

                        *

    「侍ブルー」が1次リーグの第3戦、対ブラジル戦に1ー4で敗れ去った後の川淵Cの行動は素速かった。「ジーコ、ジーコ」と、あれほど親密さをアピールしていたのに、日本代表の敗因も検証せずに「次期代表監督」という目眩ましで争点をズラす。あのオシム発言(口滑らし)は自分の責任問題へ波及するのを躱すための「サル芝居」ではなかったか。クロアチア戦はドローで良かった。決定的なシュートを外したFW柳沢を責めるよりも、PKを阻止したGK川口を誉めようよ。一部のサッカー音痴と素人サポータを除き、誰もブラジルに勝てるとは思っていない。ピクシー(ストイコヴィッチ)も言っているように、初戦の対オーストラリア戦がすべてだった。「魔の6分間」に一体何が起こったのかを冷静に分析解明しない限り日本サッカーの未来はない。川淵Cは「次期代表監督」問題ヘ情報シフトし、ジーコは早々と日本から脱出した。誰も責任を取らない無責任体制社会の中で、唐突な中田英寿の「引退」表明は(たとえ半年前から決まっていた個人的なことだったとしても)、ヒデらしい責任の取り方だったのではないか。

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  • ● ドイツ 0 ─ 2 イタリア(7/4 ドルトムント)
  • MFピルロのスルーパス、ペロッタのドリブル突破‥‥準決勝第1試合はイタリアの優勢で進む。前半34分MFシュナイダーのシュートはクロスバー上に反れ、後半18分FWポドルスキの反転シュートはGKブフォンに阻まれる。延長戦前半1分、FWジラルディノのシュートが右ポストを直撃、2分にはDFザンブロッタのミドルが右クロスバーを叩く。殆どの観客とTV観戦者がPK戦を覚悟した延長戦終了間際──PK戦なら有利という慢心がドイツ(クリンスマン監督)になかったか?──、CKの零れ球をピルロがノールックパス→DFグロッソの左足から放たれたボールはゴール左上隅に美しい弧を描く。その直後のカウンター‥‥DFカンナヴァロ→トッティ→ジラルディノがディフェンダを引き付けて、走り込んだFWデル・ピエロにラストパス。ゴール右上隅に吸い込まれて行く技ありループも鮮やかだった。

  • ● ポルトガル 0 ─ 1 フランス(7/5 ミュンヘン)
  • ポルトガルは準々決勝の対オランダ戦で不本意な退場を宣告されたMFデコが復帰。FWC・ロナルドとフィーゴが左右から得意のドリブルで切り裂くが、点に結び付かない。前半33分、DFカルバリョが空振り、アンリの足を引っ掛けてPK!‥‥ジダンが左隅に冷静に決めた。ポルトガルに有利な笛を吹かない主審‥‥というより露骨なシュミレーションが多すぎた。フランスは2枚目のイエローを恐れてか(もう1回警告を受けると決勝戦に出場出来なくなる選手が6人いた)、無謀なタックルを自重した消極的なプレーが目立つ。後半33分、C・ロナルドのFKをGKバルテズが、お手玉‥‥ゴール前に詰めたフィーゴのヘッドは浮いてしまう。虎の仔の1点を守り抜いて勝つ、試合内容より「勝利」を優先する老獪なゲーム。試合後、お互いのユニフォームを交換するフィーゴとジダンの姿が印象的だった。

  • ○ ドイツ 3 ─ 1 ポルトガル(7/8 シュツットガルト)
  • モチヴェーションの低下などの理由から不要論さえ囁かれる3位決定戦。事実、バラックの負傷欠場、フィーゴを先発から外す采配もあったが、レーマンの控えに甘んじていたGKオリバー・カーンや得点王最有力候補のクローゼの出場、そして決勝リーグ初の日本人審判(上川主審)の起用など、見どころは少なくなかった。お互いに速い攻防、ゴール前のFKの多いスリリングな展開。延長PK戦に縺れて堪るかという闘志が漲っていた。ゲームが動いたのは後半11分、途中出場のMFシュバインシュタイガー左から中へ切れ込んでドリブル・シュート。16分にはFKからMFペティトのオウンゴールを誘い、31分に1点目と同じようなミドル‥‥シュート回転したボールは右に曲がりながらGKの手を掠めてサイドネットへ消えて行く。終了間際の43分にポルトガルが意地を見せる。後半31分ピッチに入ったフィーゴの精確無比なセンタリングを、同じく途中出場のヌノゴメスが捨て身のダイヴィングヘッドで合わせ、カーンの牙城を切り崩したのだ。

  • △ イタリア 1(PK 5 ─ 3)1 フランス(7/9 ベルリン)
  • 決勝戦は最初から不穏な空気に包まれていた。激しい当たりとタックル‥‥開始早々にアンリが脳震盪を起こして意識朦朧状態に陥る。前半7分の幸運なPK──DFマテラッツィがペナルティエリア内でMFマルダと接触!──をジダンが決めて(GKブフォンの裏をかくループシュートがクロスバーを叩く)フランスが先制。しかし、この伏線が決勝戦を後味の苦いものへ変えて行く。前半18分、今度はピルロの右CKをマテラッツィが打点の高いヘッドで、ご破算にする。延長後半には派手な肘打ちで出場停止明けのMFデロッシが逆にヒジ鉄を喰らって文句を一言も言えない失笑場面もあったけれど、延長後半5分、決勝戦で得点したキープレーヤ2人の確執、ジダンがマテラッツィの胸に怒りの頭突きを見舞う一発レッド退場劇が待っていたのだから、サッカーの先は読めない。マテラッツィはジダンに一体どんな「暴言」を吐いたのか?‥‥異様な昂奮とブーイングに支配された試合はPK戦に縺れ込んだ末に、FWトレゼゲ(蠍座の男)が外して、イタリアが1982年以来24年振り4回目の栄誉に輝く。サッカーに「優勢勝ち」があったなら、間違いなくフランスの優勝だったけれど。

                        *

    • ジダンの「ラスト・ダンス」はビター・スウィートでしたね。〆切りに追われて書く記事が、こんなに難儀だとは思いませんでした。本、音楽、映画etc.の感想文も、最低でも1週間以上経たないと上手く書けません。W杯担当の新聞記者やスポーツ誌の編集者やライターさんの労苦が身に沁みます

    • 次回は〈猫のスリスリ〉を予定しています‥‥タイトルに騙されないでね(笑)

                        *



    世界の作家32人による ワールドカップ教室

    世界の作家32人による ワールドカップ教室

    • マット・ウェイランド、ジョージ・ウィルシー(編)/ 越川 芳明、柳下 毅一郎(監訳)
    • 著者:ニック・ホーンビィ、ロバート・クーヴァー、ティム・パークス、ベン・ライス ...
    • 出版社:白水社
    • 発売日:2006/05/25
    • メディア:単行本
    • 目次:まえがき / 序論 / ワールドカップ 2002 総括 / Group A(ドイツ / コスタリカ / ポーランド / エクアドル)/ Group B(イングランド / パラグアイ / トリニダード・トバコ)Group C(アルゼンチン / オランダ / コートジボワール / セルビア・モンテネグロ)


    Sambadelic

    Sambadelic

    • Artist:Rica Amabis
    • Label:Stern's Brasil
    • Date:2000/09/19
    • Media:MP3
    • Songs:Samba Tal Saba / Interlude - O Samba : Sargentelli / Mulata Assanhada / A Falsa Baiana / Vozes Da Seca / Marcio Leonardo E Telmo / Terra Em Transe 2 / Interlude - O Samba : Fred 04 / Esquema Freestle / Uba / Noel / Repente / Drum'n'sambass / Steve Austin

    タグ:SOCCER world cup
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    コメント 6

    モバサム41

    すっきりしない幕切れでした。
    真相が気になります。
    「サナバビッチ氏」とか言ったのかな(イタリア語では不明)
    イタリアの優勝取り消しとか…は無理か(笑)
    by モバサム41 (2006-07-12 20:15) 

    こにゃ

    こんばんわ♪
    「ハ○」だと思います(爆)ジダンの後姿、悲しかった~。
    まわりでは、フランスに賭けていた人が多かったのですが・・・。
    中年軍団の渋さが好きでしたわ^^
    by こにゃ (2006-07-12 21:24) 

    sknys

    モバサムさん、コメントありがとう。
    まさか最後に、あんな退場劇が待っているとは夢にも思わなかったので、
    記事を書くのに腐心しました。
    もっと愉しいサッカー記事にしたかったのに‥‥。

    でも〈Sweet Soccer Dance 1〉から通して読むことで、
    アルジェリア生まれのカミュ〜移民2世のジズーという共通底流が、
    「流れる水の面の底の石頭のように、その存在を際立たせる」のでは?
    by sknys (2006-07-12 23:22) 

    sknys

    こにゃさん、ハ○コメントありがとう。
    「ハ○」なら毎日10回くらい頭突きをしなくちゃ(笑)。
    ジダン本人以外に対する侮蔑・差別的な発言でしょう。

    MFマケレレ、DFチュラム、GKバルテズの親父トリオですね。
    星占いで先発メンバーを決めているという噂のドメニク監督や、
    タヌキ爺ぶりを遺憾なく発揮したシラク大統領も笑えます。
    by sknys (2006-07-13 00:20) 

    miron

    見事なサッカー猫ですね。
    額の三日月がまたカッコいいです。
    by miron (2006-07-22 11:19) 

    sknys

    mironさん、猫コメントありがとう。
    額の「流星」(当初は「三日月」だったのだ!)がオシャレでしょ
    ‥‥というキャッチコピーです。
    全く意識していませんでしたが、そう言われればサッカーボールの
    色・柄(白黒)に似ていますね。
    どこか高貴な感じがエリクソン監督(イングランド)にソックリだなぁ
    とは思っていましたが(笑)。
    by sknys (2006-07-22 23:08) 

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