本の紹介:チャペックの「園芸家12ヵ月」 [雑本]
今回は本の紹介。
花が好きで、ブログが好きなら、「園芸家12ヵ月」はお奨め本だと思います。
カレル・チャペックの「園芸家12ヵ月」(中公文庫)。
ふつうに本が好きで、園芸にそれほどの興味がない方でしたら、
「R.U.R」の作家としてのチャペックを記憶しているでしょう。
というか、この物語で「ロボット」という言葉をつくった作家としてチャペックは知られているはずです(まあ、失礼ながら、それ以上はあまり知らない人が多いのではないでしょうか)。
「園芸家12ヵ月」の解説によれば、チャペックは、ナチス台頭前の欧州で、自国のチェコに限らない人気を博す国際作家であって、そもそもは哲学を専攻し、ジャーナリストからはじめて劇作家、童話、いろいろなことで活躍した才人であったようです。
そして、どうやら、チャペックは園芸の魅力にはまってしまった人でもあるらしいのです。
正直なところ、この本の魅力をうまく伝える自信はないのですが、
要するに、園芸マニアの滑稽さを笑う話が最初から最後まで(12ヵ月分)綴られます。
「園芸家に休む暇はない」らしいです。
うまく魅力を伝えられないので、冒頭を引用してみましょう。
「庭をつくるにはいろいろな方法がある。いちばんいいのは本職の園芸家にたのむことだ。すると園芸家は、棒っきれのようなものや、小枝のようなものや箒の柄のようなものをいろいろ植え込んで、これがカエデで、これがサンザシ、これがライラックで、これがスタンダード、これがブッシュ、あとは原種のバラですと言う。(中略)
毎日たんねんに水をまいて、芝が生え出したら、路に砂利をしいてください、と園芸家はくれぐれも諸君に注意をする。よしきた。
庭に水をまくくらいかんたんなことだ、と思うかもしれない。ことにホースを使えば。
ところで、使ってみればすぐにわかるが、ホースというやつは、人間が手なずけるまでは非常に陰険な動物で、うっかりできない。 (中略)
とびかかって、ぐるぐる足に巻きつく。しかたがないので踏みつける。ところが、 」
このようなたわいない話が12ヶ月分です。
でも、
天候に一喜一憂し、花つくりより土づくりにはまり、冬、カタログを眺めて庭を夢見て、遅霜を恐れ、植物の名前に妙に厳格になり、育てるのが難しいほど燃える、などなど。
時代も国も違うのに、共感できる園芸の「あるある」が並びます。
そして、例えば、47ページ。3月の園芸家。
「じっさい、芽というものは、葉や花と同じくらいに奇妙で千差万別だ。あたらしい相違点を見つけていたら際限がないだろう。しかし、それをみつけようと思ったら、ほんの小さな、猫のひたいほどの地面をえらべばいい。ベネショウの町までてくてく歩いていくよりも、自分の庭にしゃがみこむがいい。その方が私の目にうつる春のながめはかえって大きい。立ち止まればいいのだ。そうすれば開いた唇としのびやかなまなざし、やわらかな指と差し伸べた腕、生まれたものの弱々しさと、生きようとする意志の不適なきらめきを諸君はみるだろう。」
ちょっと、おおげさに、ロマンチックな修辞がちりばめられております。
まあ、日本で言えば明治、大正、昭和初期の人ですから、そんなものかと。
私は、そんなのが好きでした。
私はこの本をずっと前に読んで、いま、ここに書くためにもう一度とばし読みをしているという具合なのですが。ごくありふれていながら、心動かさずにはいられない魅力的な場面が書かれていると思います。
文章を読む喜びを知っていて、小さな感動が好きな人は(ブログ好きの人の多くがそうかと思いますが)、きっと好きな本だと思います。
チェコの気候は、札幌よりちょっと寒いくらいのようです。雨は少ないらしいです。
(もし、詳しい方がいらしたら、補足コメントお待ちしております。)
しかし、この本の中に出てくる花々(280種以上だそうで)は馴染みの花たちです。
100年近い時間と国の隔たりを越えて、共感し、楽しめる本だと思います。
長新太さんを思わせるイラストが3ページに1枚ほど挿入されています。
カレル・チャペックの兄、ヨゼフの作だとか。
最後におまけ。
我が家のチューリップとスノーフレークの芽生え。
プラハでは3月ころの光景でしょうか。
まあ、たいした違いではないでしょう。
チューリップ (鉢植えの方が浅植えだから、芽生えが早い)
スノーフレーク (年々、増えてくれる。うれしい。)
いつも全部見ていただき ありがとうございました。
石のスノーフレークは分かりますが、花もあったのですね。
何月頃咲くのですか?咲いたら載せてください。
フローライトに詳しいことを知り、質問をblogに書きました。
お願いします。
by せつこ (2006-01-22 20:20)
こんばんは~♪
いつもながらの「筆まめ」尊敬いたします。
チューリップが芽を出し始めましたね!開花が楽しみ!スノーフレークも咲いたら見せてください。
お越しいただきまして、ありがとうございます。m(_ _)m
by mami (2006-01-22 20:26)
園芸家12ヶ月は、去年(かな?)図書館で読みました。
植物への愛情と、あ~わかる~!!!という共感の持てる内容が満載で、すごく気に入ってました。
いとうせいこう氏のボタニカルライフはこの本を意識して書かれたそうです。
by もも (2006-01-22 20:49)
こんばんわ。
春分さんは博学でいらっしゃるので
こちらへお邪魔すると色々教えて頂けて
とても勉強になります。有難う御座います。
by 絵瑠 (2006-01-22 22:58)
おはようございます。
春分さんの、抜書きを読んでいてつい笑ってしまいました。
園芸家に寄らず、いろんな大家は薀蓄を傾けますものね。
でも実際は園芸も自然に任せた方がいいのかも・・・
by (2006-01-23 05:29)
おはようございます。
見よう見まねでやっている、な〜〜んちゃってガーデナーには
ふむふむ。。。成る程と思うばかりです。
カレル・チャペックの「園芸家12ヵ月」読んでみます (v^ー°)
by mippimama (2006-01-23 08:45)
この年になるまで花や園芸などにまったく興味がなかったのですが、仕事を終えてから機会かあって花や植物を見るようになりました。さっそく本屋に行ってきます。スノーフレークの花、期待してます。
by (2006-01-23 14:38)
私は寒蘭作っていますが、水やりに5年、施肥に10年、うまく咲かすのに20年はかかると言われてます。
死んでしまうがな^^
by Baldhead1010 (2006-01-23 14:54)
チェコで「プラハの春」を思い出してしまいました・・・・
そんなプラハでも確実に春はやってきますね
みんな芽が出てますね
大寒を過ぎて春はもうすぐです
by アッキー (2006-01-23 15:08)
ViolaMacです。
ずぼらなので本を読むのが苦手です。
だからどうしても簡単に育つ草花に限られてきます(;.;)
スノーフレークは自然に増えてくれますか?
by Silvermac (2006-01-23 16:17)
せつこさん、
> フローライトに詳しいことを知り、質問をblogに書きました。
調子に乗って沢山回答を書いてしまいましたが、お許し下さい。
Mamiさん、
> いつもながらの「筆まめ」尊敬いたします。
ありがとうございます。しかし、本業の方が少し滞っていて、まずいです。
> ~スノーフレークも咲いたら見せてください。
がってんです。
ももさん、まずは貴重な情報に、ありがとうございます!
> 園芸家12ヶ月は、去年(かな?)図書館で読みました。(中略)
> いとうせいこう氏のボタニカルライフはこの本を意識して書かれたそうです。
どなたかは読んでいると思っていました。
「ボタニカルライフ」にそんな背景があったとは知りませんでした。
読もうと思いましたが、読まなければならない本が増える一方で、いつになるか。
絵瑠(お婆ちゃん)さん、
> こちらへお邪魔すると色々教えて頂けてとても勉強になります。
ありがとうございます。でも、ときどき間違っていますからお気をつけ下さい。
でも、今回はだいじょうぶそうです。面白い本ですよ。
Mimimomoさん、
> 園芸家に寄らず、いろんな大家は薀蓄を傾けますものね。
> でも実際は園芸も自然に任せた方がいいのかも・・・
放任主義が良い場合と目も当てられない結果を招く場合があるようですが・・・。
大家?本当にすごいのは植木屋さんとかかもしれませんね。根を見て木を当てる。
70歳でも私が1日かかる穴掘りを1時間で終える。近所にいるんですが。
Mippimamaさん、
いろいろうまく育てておられるようなのに「な〜〜んちゃってガーデナー」とはなぁ。
私の友人は奥様から「理論園芸家」と蔑まれていると嘆いていました。私もそうかも。
> カレル・チャペックの「園芸家12ヵ月」読んでみます (v^ー°)
そう言われると、面白いって言って頂けるか、どきどきします。
閑居老人さん、
> 仕事を終えてから機会かあって花や植物を見るようになりました。
ばりばり働いておられたことと存じます。
>さっそく本屋に行ってきます。
古くからある本ですので、タイミングよくあるといいのですが。
Baldhead1010さん、
> 私は寒蘭作っていますが、水やりに5年、施肥に10年、うまく咲かすのに20年は
> かかると言われてます。
> 死んでしまうがな^^
Baldhead101さんが死なないような気がするのは私だけでしょうか。
さて、しかし寒蘭趣味はいいでね。古典植物趣味はどれも魅力的ですが、寒蘭は品がいい。
褒めすぎでしょうか?裸の写真の件もあるし・・・。
アッキーさん、
> チェコで「プラハの春」を思い出してしまいました・・・・
> そんなプラハでも確実に春はやってきますね
そうですね。そう思いつつ、
「プラハの春」から「春の来ない巨人の庭」をつい連想しました。
まあ、あれも最後には春がきますけどね。
> 大寒を過ぎて春はもうすぐです
気が付くと寒中見舞いを書くのを1件忘れていました。
ViolaMacさん、
> スノーフレークは自然に増えてくれますか?
私としては「植えっぱなし植物」に分類しています。
放っておいて、毎年少しずつ増える印象です。
ゼフィランサス(玉すだれ)なんかもそうですね。
by 春分 (2006-01-23 21:36)
何も分からず、おかげで色々教えていただき助かりました。
これからも宜しくお願いします。ありがとうございました。
by せつこ (2006-01-23 22:22)
カレル チャペック と言う名、初めて聞きました。
面白そうな本ですね。
ご紹介ありがとうございます。
by たまご (2006-01-23 23:02)
せつこさん、
> 何も分からず、おかげで色々教えていただき助かりました。
いえ、いつもちょっと間違ってます。カボッションは長細い半球状で半球形というのは少し不正確な言い方です。説明が短くできなくて。
たまごさん、
カレル チャペック と言う名、初めて聞きました。
そうですか。とすれば、よかったかな。
by 春分 (2006-01-24 12:00)
カレル チャペック という人を私は知りませんでした。
引用文の中に、<自分の庭にしゃがみこむがいい。>というのがありますね。私も子供時代からこれが好きでした。つまり、庭の蟻などを足のしびれるのも気がつかず、しゃがみこんでみていました。今でもこういうクセは直らないものですね。
そうですか、本のご紹介ありがとうございました。心にとどめておきます。
by ziziblog (2006-01-24 12:56)
めぶいてるの?
by (2006-01-24 16:42)
園芸の本て読んだことがありません。
>ベネショウの町までてくてく歩いていくよりも、自分の庭にしゃがみこむがいい。
このフレーズはとっても気に入りました。めんどくさがりやだもの。
春分さんのお庭は、確実に春が近づいていますね。
山梨は、皆さまのところより、数ヶ月は遅れます。
まだまだ、春は遠いです。
by mamire (2006-01-24 22:26)
寒蘭はほんとに女性の裸が好きなようですよ。
カレンダー飾ったら、成長がぐんとよくなりますし、花色がいい。
作り主に似る?^^
by Baldhead1010 (2006-01-25 08:15)
ziziさん、
> カレル チャペック という人を私は知りませんでした。
自分の知っているとこはみんなも知っていると思い勝ちで、よく失敗します。そのような意味で、私は今回もずいぶん勉強になりました。
また、本来の文をわずかですが引用しておいてよかったと思いました。
何とか、少し、魅力が伝わったように思えました。
ふじかわさん、
> めぶいてるの?
めぶいてます!
チューリップめぶき前線トラックバック企画はすでに出遅れましたね。
mamireさん、
> このフレーズはとっても気に入りました。めんどくさがりやだもの。
そうでもないように思いますが。でも、好きなことだとまめにできてしまう方でしょうか。だとすると私と同じですが。
春は遅ければまたうれしいでしょう。
Baldhead1010さん、
> 寒蘭はほんとに女性の裸が好きなようですよ。
> カレンダー飾ったら、成長がぐんとよくなりますし、花色がいい。
超常現象ですね。面白いです。科学従事者の端くれですが、先入観なく一概には否定せずに楽しむことも大切だと思ってます。
by 春分 (2006-01-25 12:01)
おはようございます。
ホースの手ごわさ、分かります^^よくホースの攻撃にあいます。
面白そうな本ですね。
庭に出て春を知るのは、ちょっと得したような自分だけの春のようないい気分です。
チューリップ、スノーフレ-ク、この後の成長楽しみにしていますね。
また見せてください。
by トンチンカンフー (2006-01-26 09:51)
トンチンカンフーさん、
> 庭に出て春を知るのは、ちょっと得したような自分だけの春のような
> いい気分です。
冬の終わりの日に、バイクで走り出すと、風に土の香りがして、
誰よりも早く春を知ることができたと思いました。
バイクを降りて、家族ができて、ともかく暑かったり寒かったりしないなら
いいくらいに思うようになっていましたが、庭をもったら、また春が早く感じられました。
(ということで、ろまんちっくを書いてみました。)
by 春分 (2006-01-26 18:10)
この本・・・はるーーか昔に読みかけてそのまんまの一冊。
確か本棚のどこかにあるはず(苦笑)。園芸本というよりも
むしろ哲学者のエッセイのような印象がありました。
by lingnam (2006-01-27 14:03)
この本、昨年の9月に入院する時に、友人が送ってくれました。
まだ3月までしか読んでいません。
挿絵はほんとうにユーモラスで面白いですね。
by (2006-01-31 15:42)
lingnamさん、
コメント返しが遅れてしまいました。
哲学者ですか。確か、チャペックは哲学科を出たはず。するどい!
すずめさん、
いいお友達がいらっしゃる。
そして、そうかすずめさんは絵に目が行きますよね。
読みかけ本は私もいっぱいあります。なかったことにして進むもよしと。
by 春分 (2006-01-31 17:56)
園芸家12ヶ月、読んでいて楽しい本ですよね。
リズミカルに園芸家の日々を滑稽に描写している感じでしょうか。
by fuji (2006-04-01 12:13)
TBありがとうございました^^私もTBさせてください!
いい味わいの本でした。多分また読み返したくなるような予感が。。^^
私の中では「8月の園芸家」が特におもしろかったです。園芸好きの祖母に旅行中の庭の水撒きを頼まれたことがあって、、帰ってきた時の祖母の反応はまさにその通りだったのです(笑)さすがに手紙は来ませんでしたが・・・^^;
by JOY (2006-11-13 22:07)