誰も知らない [映画関連]
巣鴨子供置き去り事件を元にしたフィクション。
冒頭から、妙な現実感があって目が離せなくなる。脚本には台詞が無く、撮影時はシチュエーションの説明だけですべてアドリブ芝居だっただけあって、会話が非常に自然かつリアル。子供を置き去りにする母、YOUがとくにすごい。子供への言い訳の仕方、ずるい言い回し、微妙なだらしなさ、どこをとっても絶妙に生々しい。カンヌで最優秀男優賞を獲った主演の柳楽優弥の存在感は本当に強烈。
私は実際にあった事件についての記事を読んでいるし、まだ記憶にも残っているので、ストーリィ自体の悲惨さに驚きはしなかったが、子供の目線から、日常のほんのさりげないところに現れる悲惨さがしばしば表現されるのには胸を打たれた。
雑草の種と道端の土を持ち帰り、ささやかな園芸を楽しもうとする。長男が、末妹の手を取って植木鉢代わりのカップラーメンの空き容器に名前を書いてやる姿。こういうものの積み重ねが、この映画。そして事件の報道では触れられない、子供達だけの濃密な時間なのだ。
是枝監督は撮影にたっぷり時間をかけた。映画の中で実際に子供たちは髪も伸び、背も伸び、顔も変わっている。
2時間の映画の後ろに、膨大な手間と悲惨な事件と型破りな脚本があってこそ、この濃密さを感じさせることができるのだろう。しかし押し付けがましさは殆どなく、とても繊細な映画だ。
満足。
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