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オペラ「1984」(1) [オペラ(実演)]

ロンドンのロイヤル・オペラハウスで月曜日に見てきました、ロリン・マゼール(Rolin Maazel)作、話題(?)のオペラ「1984」

結論としては、批評家がこき下ろす理由は分かったけど、1幕目の長さも気にならなかったし私は面白い(楽しい、ではない)オペラだと思いました。

長くなるので、こっちにはまずそれぞれ100点満点で各部分の感想を述べてみます。こまかいツッコミ点とか印象とかは(2)の方で。


音楽:60点
幕が上がると早速始まる「2分間憎悪」は人間の醜悪な部分を表した音楽として迫力もあったと思います。全体的に音楽の流れが途切れることがなく、希望の見えない反逆行動が日常生活の中でじりじりと(破滅に向かって)進んでいく緊張感をうまく支えていたと思いました。まあ、悪く言えば盛り上がりの無い音楽なわけで、批評家から「映画音楽のようだ」と評されるのもそこが原因かと思います。全体的なトーンは好きな部類ですが、指摘しだすと「?」もいっぱいです。主役のウィンストンはバリトンの音域ですが時々かなりの高音が入っていたり、ジュリアのパートもかなりの高音が続いたりして、そんなに奇抜なメロディにしなくても…という部分があったし、盛り上がるべきところで肩透かしのような「BGM」と化した音楽が流れてきたりして「あら~?」というところも結構あったし(苦笑)、何故か歌詞の単語を繰り返すことが多いし…。いや、まだ「why?」とか、「hate!」とかなら「強調」していると考えれますけど、「ルーム ワン・オー・ワン、ワン、ワン!(Room 101、1、1!)」なんかは「一体何号室なのよ!」とツッコんじゃいましたよ。(本当は101号室(Room 101))折角の緊張感溢れるシーンが台無しなので、こういう繰り返し部分は削ってもらっても良いかと思います。それから、「『オペラ座の怪人』からもってきたようだ」(The Times)と言われてしまった主人公二人のデュエットですが、ロイド=ウェーバーなら「アスペクツ・オブ・ラブ(Aspects of Love)」の中にもっと似たような雰囲気の曲があったような気がします。(このCDを持ってないので確信は持てませんけど、少なくとも「オペラ座の怪人」のイメージは出てこなかったなぁ。)更に言ってしまえば、ロンドンで上演されていないのでイギリスでは知られていませんけど、シルヴェスター・リーヴァイ(Silvester Levay)作曲のミュージカル「エリザベート」の「夜のボート」とか1幕の最後とかの曲の方が似ていたと…(笑)テンポとか、音符ののばし方とか。

脚本:80点
あのどんよりと暗い小説を、うまくまとめていたと思います。話の本筋は変わっていないし、「舞台化」するのならこんな感じでしょう。50年前に書かれた話を現代でも可笑しくならない設定にうまく組み替えていました。「あれ、これが抜けてるの?」という部分は特に拷問シーンでのオブライアンの言葉に多いのですが、まあ彼ばっかりしゃべっているので仕方ないことかもしれません。どちらかといえば管理国家の恐ろしさを言葉で説明するよりも、実際どのように国家が人間を管理するのかをウィンストンとジュリアの体験で見せる、という方向性だったと思います。オペラ化にあたっては、これは正解でしょう。説明のセリフが多いと普通に演劇でやった方がいいんじゃない?ってことになるし。

演出・美術:95点
流石金をかけただけはある(笑)巨大な円筒のセットは開演前からその不気味な姿を表しています。開演までは定期的に一筋の明かりが灯台のように回っていて、「監視」されている気分を観客に与えていました。あらゆる部屋にあるテレスクリーン(監視&洗脳テレビ)は、舞台に使える映写技術を駆使してましたね。現実感がありすぎてかなり怖いです。基本的に巨大な円筒のセットが中心で、ウィンストンの住む集合住宅になったり、職場になったり、骨董品屋になったり、様々に形を変えて大活躍してました。暗転が少ない場面転換で物語が流れるようにどんどん進むので、後戻りができない感じが良く出ていたと思います。さすがはシルク・ド・ソレイユのショー等の演出で世界をうならせるロベール・ルパージュ(Robert Luperge)ですね。色彩感とかセットの金属質な感じが物語の暗い雰囲気をよく体現していたと思います。唯一の難点は、部屋の仕切りになっている金網の目が細かすぎて、その奥で何をやっているのか良く見えないことです。時々その「向こう側」で重要なことが起きていたりするので、小説を読んでない人は「?」というところもあったと思います。ということで、マイナス5点。

歌手(俳優):100点
このプロダクションは本当に素晴らしい歌手達が揃っています。声は勿論、それぞれの雰囲気が役にとても合っていました。その筆頭は、やっぱり主役のウィンストン・スミス(Winston Smith)になりきった熱演を見せてくれたサイモン・キーンリーサイド(Simon Keenlyside)でしょう。爆風に飛ばされたり、拷問を受けた後にバッターン!と音がするほどの勢いで倒れたり、101号室でパニックに陥って上れない壁を登ろうとしたり、彼にしか出来ないんじゃないかと思うシーンも多々ありました。特に2幕はほとんど拷問を受けているか、ぶっ倒れたまま歌ってるかのどっちかなのに、声の勢いや表現力に全く影響が無いのは凄いですね。「彼が舞台上にいる間は目が離せない」(Londonist)と言わせるだけのことはあります。他の主要キャストも、ウィンストンの恋人で、ウィンストン同様「治療」されてしまうジュリア(Julia)の自分に正直で素直な性格と包容力を兼ね備えたナンシー・グスタフソン(Nancy Gustafson)、よく響くヘルデン・テノール(重めのテノール)の声で無表情で元部下を拷問するオブライアン(O'Brien)の冷酷さをよく表していたリチャード・マージソン(Richard Margison)、頭のキれる「ニュースピーク(New Speak)」開発者サイム(Syme)の高音アリアをコミカルにこなすローレンス・ブラウンリー(Lawrence Brownlee)、体操のお姉さん(Gym Instructerss、つまりは国民体操の指導員)では体操しながら超高音のコロラトゥーラを響かせ、酔っ払いのおばさん(Drunken Woman)では酔った年寄りの娼婦を怪演していたディアナ・ダムラウ(Diana Damrau)、とまあ、このメンバーじゃなきゃどうなっていたことやらと思うほどでした(笑)


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euridice

はじめまして。関連記事を辿っておじゃましました。
この小説、1984年になるはるか前、1964年ごろに読みましたが、恐い小説でした。その後、カンボジアをはじめ、同じような国家が後をたちません。ジョージ・オーウェルはすごいと思います。オペラ化されたとは驚きました。キーンリーサイド、主人公にぴったりでしょうね。私のイメージ通りのような気がします。グスタフソンも。
by euridice (2005-05-18 13:47) 

Sardanapalus

euridiceさん、はじめまして、こんにちは!
あわわ、実はこっそりとよくブログにお邪魔させていただいていたり…。いつも興味深い話題で読みがいがあるので、楽しみにしています。コメントありがとうございます。
そうなんです、あの「1984」がオペラになっちゃったんです。今回は、国家による統制といったものがあまり意識されていない、もしくは国民が「自由」だと思っている西欧諸国やアメリカ、そして日本のような国々でも国家の「管理」は行われている事実を前面に押し出した演出になっていました。どこでも起こりうる話ということからか、地下鉄の監視カメラ、公営の集合住宅、警官によるストライキの管理などの写真がパンフレットに取り上げられていて、日本からもラブホの部屋案内と、警察の東京「監視」板が載っていました。そういった意味では小説の話と現代の状況の相違点より類似点が気になって、よけい怖くなりましたよ~。
by Sardanapalus (2005-05-18 19:25) 

euridice

Sardanapalus さん
お返事ありがとうございます。
>実はこっそりと
あら、そうなんですか。どうも、ありがとうございます。(ちょっと恥ずかしい・・)

>国民が「自由」だと思っている
ああ、やっぱりそうなんですね。わざわざオペラ化するには、やはりそういう問題意識があったのではないかと思ってました。じわじわとゆっくり優しく進む管理・・・感じてしまう今日この頃です・・ No.2も読ませていただきますね。
by euridice (2005-05-18 23:04) 

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