マスコミによる人身御供 -- ＪＲ福知山線脱線事故（その１）

日本のマスコミの大衆操作には以前から頭にきていたが、今日は一言いわせてもらう。福知山線関連の報道で僕はかなり憤っている。今日の論点は二つ。一つはマスコミによる特定の会社たたき。もう一つは事故の延長で今回行われているＪＲ批判の内容だ。今日は時間があまりないので「マスコミ」とひと括りにすることには違和感を覚えるが、簡潔に述べる。

一つはまずマスコミの会社たたき。この手のマスコミの煽り体質については、いい加減頭にきている。今回のＪＲの事故では、事故原因の特定すらできていないのに、ＪＲ絡みの小さな問題を見つけてきてはＪＲ批判。この前は日本航空がターゲットになっていた。そしてその前は三菱自動車か。正義をふりかざすマスコミが、つぎに犠牲者となる対象を虎視眈々と狙っている。イラクで人質になった３人が帰国した時もそうだったが、これはマスコミの暴走ではないのか？　ある会社が起こした問題を社会に知らせることはいい。しかし、過剰に問題をほじくり出し、当該事件と強引に関連づけ、それを「会社の体質」と言い切り断罪する。マスコミが世論を導いていこうとする使命感を持つのは構わないが、対象をセンセーショナルに作り上げ、それを恣意的に批判するやり方はいかがなものか。

もう一つは上記に関連することであるが、今回の車両に乗っていたＪＲの運転士２名のこと、そして天王寺車掌区によるボウリング大会についてである。２名の運転士が事故現場を去って出勤してしまったことに対して、たとえば巨大台風が上陸しているにもかかわらず出勤を強要する会社が多くある今の日本においては、僕は特に異常な行動とは思わない。この運転士が出勤しないことで支障がでる電車の運行、そしてそれによって受けるたった何十分かの遅れこそが、日常の我々のもっとも大きな関心事ではないのか？　ボウリング大会が行われたことについても、直接事故とは関係がない。何でもかんでもＪＲの責任にすればいいというものではない。我々の住んでいる現代社会というのは、自分がそういう事故に遭遇し、または巻き込まれてしまうかも知れない危険性をはらんでいる。そして、自分がなにがしかの事件の責任を負う立場になることも十分にありうる。

僕には遺族の怒りや悲しみを煽って、より多くの人を不安にさせているマスコミには大きな責任があるように思える。事故直後にパニック状態に陥っている被害者に強引にインタビューしていた諸君、乗り合わせたＪＲ職員を責めるなら、君たちこそ救助に加わるべきではなかったのか？　被害者の心的外傷を悪化させるような質問をしている映像のあとで、君たちに「心のケア」を語る資格などない。遺体安置所で遺族や情報収集に訪れた人々がマスコミ諸君から受けるこころない取材のストレスは、最終的に君たちとの合作ですべてＪＲに転嫁させざるを得ないではないか。

マスコミは、熱狂を帯びた大衆を信者とするある種の悪魔的な儀礼の主宰者として、常に人身御供を探しだし、断罪し、中世の魔女狩りのごとく日本を支配しているように見える。その反面、意外と「マスコミとはできるだけかかわりあいにならないほうがいい」と思っている人も多いのではないか。僕はマスコミによって、毎日津波のように圧倒的な勢いで押し寄せてくるものからまず自分を守らなくてはいけない。

＜当ブログ内の関連記事＞　　 [ＪＲ福知山線事故をめぐる諸現象（その１）〜（その３）]

（その２）マスコミは大衆（我々）の何を代弁しているのか　-- ＪＲ福知山線事故に見る日本の状況　
http://blog.so-net.ne.jp/sanpeita/2005-05-06
（その３）自他の区別と境界　-- 私たちは何を求め、誰に何を期待しているのか？　ＪＲ福知山線事故　
http://blog.so-net.ne.jp/sanpeita/2005-05-06-1

コメント 16

自分で書いたのですが、やはり「マスコミ」とひと括りにするのは違和感がありますね。他にも大事なことがあるので、また今度加筆修正しましょう。いまのところはこれにてご容赦を。
by 三平太 (2005-05-05 12:38) 

コメントとトラックバックありがとうございました。
＃さきほど、間違えてトラックバックを２回送ってしまいました。
＃申し訳ありませんが、ひとつ削除していただけますでしょうか。すみません。

私もボウリングと出勤に関しては、常識的にはどうかと思いましたが、果たしてここまで大きな問題として報道することなのだろうかと首をかしげています。

＃＃今回のエントリは「マスコミ」ひと括りでもさほど問題ないように感じましたよ〜。でも納得行くまで書いてみるのも良いことではないかと思います！
by macerino (2005-05-05 14:57) 

始めたばかりのブログにTBありがとうございます。最近のマスコミには，中世の「魔女裁判」をイメージさせる様なひどさが有る様に思えてなりません。
我々も，マスコミの一方的な報道を鵜呑みにすることなく，自分自身で考えて行かなくてはいけないと思います。
by hidevoo (2005-05-05 17:23) 

私も今回の「ボウリング報道」はいかがな物かと思う。
ただ憎しみの連鎖を煽るだけで何も生みはしない。私が知りたいのは「事実」であり「原因」であって、何処でボウリングしようが酒を飲もうが知った事では無い。
今もまた「ボーリング大会参加者１３人は死者・けが人が出た事を認識していた。」とか報道されている。正直気分が悪い。
by あいみん (2005-05-05 19:08) 

初めまして。

まったくこの「マスゴミ」のやり口には憤りを覚え辟易しています。かさにかかって、いささかヒステリックなぐらいにJRを責めまくってますよね。
確かライブドアが記者クラブに加盟申請したところ拒否されたとか。彼らも既得権益に守られた保守的な体質です。

２名の運転士の方に関しては、このso-netのブロガーの中に鉄道マンの方がいらして、あのような事故の場合現場で救助活動にあたるか上司の指示をあおぐというような規則がその方の会社ではあり、予備の運転士がいるとのことでした。JR西の場合どうなのか知りませんが。それにしても彼らは上司の指示に従って行動したのであり、責められる度合いはその上司の方が大きいのではと私は考えます。
内心は残って救助活動したくても、やはり上司の命令にさからってまでできない理由があったと思うのですが。
労働組合まで２名の運転士が責められても仕方ないと
言ってるようですが、きっと裏切られた思いでしょうね。
どうしてどのマスコミもこんな風に思わないのでしょうか。

これじゃ戦前の大本営発表をそのまま流す頃とマスコミの
体質も変わっていないということになります。
嘆かわしい。
by スリム (2005-05-05 19:14) 

「マスコミによる大衆操作」ということで、別の視点からの小生の記事をTBさせて頂きました。毎日新聞の投書欄を批判したものですが。

小生、業界紙１回と全国紙の地方版の２回、新聞の取材を受けたことがありますが、全国紙の方は２回とも「これ、オレが答えたのと趣旨が違う」という掲載のされ方でした。マスゴミは最初から結論を用意していて、それにうまくつながるように「編集」（変醜と表記した方がいいかも）します。大衆操作はその延長上にあるものと言ってよいでしょう。業界紙の方は特にどうということもなく、たんたんと事実を伝えたのみです（それが当然）。

こういう経験をしているので、私は二度と新聞社の取材を受けるつもりはありません。
by フロレスタン (2005-05-05 19:28) 

この記事を書いたことで、いろいろなブログに触れることができました。多くの人がマスコミの報道について考えていることを知りました。個人個人が情報を発信して、それをつなげていくことができる、これこそがインターネット時代の幕開けなのだということを実感しています。

macerinoさん。
そうですね、たまには納得いくまで書くのもいいかも知れません。

hidevooさん
はじめまして。誰かをつるし上げることで自分たちの不完全さや不満をそらす。中国の反日デモを見て中国国内の問題の大きさを知りましたが、今回の一件では日本国内に置いても人々がいかに不満をかかえているのかを知ることになりました。

あいみんさん
憎しみの連鎖を煽るというのは本当に非健康的です。『救助に参加しなかった人に対する非難よりも、救助に参加した人に対する賞賛を多く聞きたいと思う』と言う意見がありましたが、その通りだと思います。
http://d.hatena.ne.jp/lunasette/20050504#p1
今回の脱線事故で実妹を亡くされた小寺一矢弁護士のコメントをのせているgoriさんのページもおもしろかったです。
http://www.wafu.ne.jp/~gori/diary3/000519.html

スリムさん
はじめまして。そうですよね。みなそれぞれの持ち場があり、事情がある。それを無視して一つの価値観で断罪するのは全体主義のようです。そういう意味では大本営発表を彷彿とさせます。

フロレスタンさん
ブログ拝見いたしました。マスコミ関係では大変残念な経験をなさっているよし。新聞記事に自分の意見が載る場合は、担当記者との信頼関係が重要になってきますね。
by 三平太 (2005-05-06 02:35) 

本当の意味で無責任なのはマスコミの皆さんなんでしょうね。自分達の問題には目を伏せ相手のミスには必要以上に煽るし。ＮＨＫと朝日新聞の問題はどこへいったのやら。
by (2005-05-06 02:39) 

ナイトさん、こんにちは。
しょちょうさんのブログでお名前を拝見しております。僕は今回、当初はマスコミの問題を論じようとしていたのですが、書くにつれそんなに単純な問題ではないように思えてきました。これは大きな意味での社会問題で、人々の意識の問題だと思います。問題点や批判の矛先をいくら外部に向けたとしても、さいごには一人一人の内部に帰ってくることなのではないか、と思っています。グループとしての日本人は今何に向かって突き進んでいるのでしょう？
by 三平太 (2005-05-06 02:55) 

はじめまして。先ほどトラックバックさせていただきました。
極力、冷静に書いたつもりですが基本的に同感です。
より新しい形での本質的な｢高い志｣を」目指さないと日本はいけないと実感しています。今回初めてここに来た初心者ですが、これからも覗かさせていただきます。今後ともよろしくお願い申し上げます。
by マイルス (2005-05-06 19:32) 

まいるすさん、はじめまして。「本質的な『高い志』」！　素晴らしいと思います。こちらこそよろしくお願いします。その高い志をともに作っていきましょう。
僕はその『高い志』をもつと同時に大切なこととして、「自己の承認」が大事なのではないかと思っています。そのままの自分（不完全で矛盾する自分）を受け入れ、認めてやる。それは他者に対する寛容を生みます。そのプロセスを集団的意識レベルまで高めることに成功すれば、「日本人」としてちょうど良い自己同一性の確立ができると思います。もしかするとこのプロセス自体も『高い志』の一部になりうるかも知れません。いかがでしょう？
by 三平太 (2005-05-07 00:10) 

こんにちは、はじめまして
私自身が通勤に福知山線を使っているということもあり今回の事故は非常に身近に感じています。一方で一部媒体が事故とは一見関係の無い事実を事故と結びつけて伝え、TV等で事故に関する報道を目にすることに不快感を覚えてました。私も三平太さんがここに書かれているように感じずっと悶々としてました。
不謹慎かもしれませんがこの記事を読ませていただいてスッキリしました。
by tera-youki-3710 (2005-05-11 18:12) 

結局、今回の事故や出来事は、彼らの「視聴率」や「販売数」を「稼ぐ」ためのお祭り道具なんですよね。
by (2005-05-11 18:49) 

TBさせていただきました。
JR西日本の赤字のこととか、公平に報道してほしいなって思ってます。

新幹線乗せるために快速を作らないJR東海のが
よっぽどわるいぞ！
by みつき (2005-05-11 22:08) 

初めてコメントさせていただきます。
ご意見について、私も賛同させていただきます。仕事柄、私はマスコミからの取材依頼を受けることもあり、その都度その身勝手さと、思い込みと強引な仮定を裏付けるための取材内容の強要に辟易しています。「取り上げてやるんだから、企業はわれわれに協力して当然」といった態度にもちょっと問題があります。
このところの魔女狩り傾向は、ＮＨＫにも顕著に見られるようになって来ました。この国のマスコミはどうなってしまうんでしょう。私はもし今マスコミからマイクを向けられたら拒否します。
by AURA (2005-05-11 22:40) 

初めまして。
全くその通りだな、と思いながら拝読いたしました。
マスコミは常にバッシングする側、という驕りが最近とみに見え隠れしていますよね。人として、ちょっと……と思えることばかり。
それも「業界の体質」で改善すべきだと思うんですが、誰も報道しませんよね。
だって自分に返ってくるのだもの。
by nejimaki-coil (2005-05-12 00:34)