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中垣陽子『社会保障を問いなおす』 [読書日記]

中垣陽子著『社会保障を問いなおす』                                                  ちくま新書、2005年5月


内容(「BOOK」データベースより)
かつてのような右肩上がりの成長が見込めない現在、もはや、旧来のままでは立ち行かなくなった社会保障制度。その中で、なんとかみなが「納得できる」制度を作るにはどうしたらいいのか。年金・医療・子育て、と従来バラバラに論じられがちの諸論点を、「身の丈」「安心感のある」「公平性」「わかりやすさ」という四つのポイントで、一貫した観点からまとめて考え直し、錯綜した問題の整理と、将来へ向けての具体的な処方箋を提示する。

日本の社会保障制度はわかりにくい。年金も、医療保険も介護保険も、正直な話なかなか理解できない。これではいけないと本でも読んで勉強してみようかと思ったりもするのだが、社会保障制度を扱っている本も読んでもよくわからない。わかりにくい制度を解説している本がわかりにくいわけがないのは当然かもしれない。数年前に一度挑戦して、見事に玉砕してしまった。

仕事上どうしても日本の社会保障制度について他国の方と議論をせねばならなくなりそうな状況が秋頃に想定されるため、少しずつではあるが準備のために再び社会保障制度の勉強を始めた。ポイントは、社会保障制度は大幅な人口減少が予測される今後の日本において、現行の社会保障制度の問題は何で、それをどのように改編していくことが適切なのか、そしてその改編によって財政的負担はどの程度になるのか、その制度は持続可能なのか、といった点である。

さて本書の紹介であるが、著者は政府関係者であるため、その論調は政府の年金改革、医療保険制度改革等の方向性を肯定的に見ているように思う。勿論、ここ数年の制度改革の論議について、どの項目については問題の先送りであるという率直な指摘もあり、冷静な分析が行われているように思うし、著者の試論の提示も行われていて、単に現状を説明するだけには終っていないところも良いと思う。しかも、著者の主張を財政負担の面からもシミュレーションを行って財政節約効果がどの程度あるのかも確認している。

著者は、社会保障制度を見る視点として、次の4つを提示する。

  1. 身の丈に合ったものであること。(財政的に持続可能であること)
  2. 安心感があること。(必要なときには誰でも利用可能であること)
  3. 不公平感が少ないこと。(負担に応じた便益が得られること)
  4. わかりやすい制度であること。

そして、社会保障制度のうち、年金制度、医療保険制度、介護保険制度、子育て支援等について、現状を4つの視点から分析し、今後の制度改革の方向性を示している。特に印象に残った点を挙げてみると、

  • 我が国の社会保障給付は、2025年には152兆円、現在の1.8倍に増加するといわれている。特に増加が著しいのは高齢化の影響を受けやすい医療や介護の分野で、年金の増加は1.4倍にとどまる。
  • 療養病床では、病院から病院へと転院を繰り返している高齢者も多い(それによって医療給付負担が大きくなる)が、これは根本的には病院の外の社会が高齢者にとって暮らしやすくないことからくる問題であり、医療の世界だけでは解決できない。住宅や地域社会をはじめとする生活環境全体や介護システムの充実が必要。
  • 介護保険制度については、本来サービスを受ける必要のない人までがサービスを受けている可能性が高いという問題や、家事支援サービスを受けることで、結果としてかえって自身の身体が衰え、要介護度が悪化してしまうという問題もある。
  • また、介護保険には、施設サービスと在宅サービスの間での自己負担の差が問題になっている。医療保険における「生活費」部分(ホテルコスト)と同様、特別擁護老人ホーム等の介護保険施設に入所した場合には、生活費部分が一括して介護保険によってカバーされ、入所できず在宅サービスを受ける場合の生活費(光熱費)の負担と比べて大きな格差が生じる。
  • 1990年代後半以降の雇用情勢の悪化は、若年層に特にシワ寄せされた。若年の雇用は、労働時間が短く賃金の低いフリーターと、賃金は高いが労働時間も長い正社員に二極化し、それがそのまま、結婚や子供を持つことが経済的に難しい層と、子供が欲しくても作る時間や育てる時間のない層への二極化に繋がっている。
  • 少子化対策は、当初から、主に保育所整備を中心とした働く女性の両立支援を中心に行われてきたが、それだけでは限界があり、働き方や地域の問題も含めた、より幅の広い政策が必要だという認識が広まってきている。従って、出生率の向上のためには、単に働く母親だけを対象とした両立支援だけではなく、①労働市場の整備、②育児に対する経済的支援が重要。
  • 家庭の形や働き方に中立な、全ての育児そのものに対する経済的支援こそが最も効果的な政策である。現在の政策は、子育てへの経済的支援の規模が非常に小さく、また低所得層にメリットのある児童手当よりも、中高所得層にメリットの大きい扶養控除の方が1人当りの規模が大きい。(筆者は、「子育て支援基金」の創設を提唱し、子供が誕生から小学校卒業までの12年間、1人当り年間100万円の給付を行うことを提唱)

特に最後の「子育て支援基金」の部分は、筆者の力が入っている記述であるように思う。子供1人当り1200万円もの補助が受けられれば、子供を育ててみようかという親も増えるに違いない。出産一時金よりももっと嬉しいし、キャッシュでもらえるならそれをどのように使うか、一時保育に預けて夫婦で出かけたりするようなことも含めて受益者に選択の自由を与えてくれるなら、子育てを重荷と感じてしまう僕達の世代のガードを下げることは十分可能だろうと思う。


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