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ゲント美術館名品展 [05展覧会感想]

「ヨーロッパの薫り、花の都から ゲント美術館名品展-西洋近代美術のなかのベルギー」を観に行きました。この展覧会は、ゲント美術館の所蔵するフランス、イギリス、オランダ、ドイツなどの画家とベルギーの画家、彫刻家の作品125点によって、19世紀から20世紀にかけての美術の流れをたどるものだそうです。

~展示構成~
Ⅰ新古典主義 Ⅱロマン主義 Ⅲバルビゾン派、自然との出会い Ⅳ呼応するベルギー Ⅴレアリスムから自然主義まで Ⅵ印象主義 Ⅶ新印象主義 Ⅷ象徴主義 Ⅸアンティミスム Ⅹフォーヴィスムの諸傾向 ⅩⅠ表現主義と構成主義 ⅩⅡシュルレアリスムと魔術的レアリスム

まずは、ダヴィッドの弟子である フランソワ=ジョゼフ・ナヴェ《ミラノの聖女ヴェロニカ》から。展示室の照明が暗いこともあり、とてもひんやりとしていて、厳かな感じ。手にしているいばらの冠はとても生々しく、三人の悲壮感の漂う表情はとても写実的で目を背けたくなる。にもかかわらず、訴えかけるようなその眼差しに、つい見入ってしまう不思議な作品。この展覧会においては数少ない宗教画のひとつ。この作品はダヴィッド晩年のスタイルの影響が明白だそうで、特に顔の表現にその特徴が窺われるそうだ。

ヤン=フランス・ヴェルハス《お絵かき上手》はテーブル(机)で子供たちがお絵かきをしている場面の絵。中心の子のほっぺがぷくぷくでとても可愛い。テーブルに映る積み木や鉢植えは意図的に置かれて(描かれて)おり全体的に装飾的で、サイズも112×188cmと見応えがある。(ちなみに、この作品の縮小版が2004年にロンドン市場に登場したそうです。)シャルル・メルテンス《画家のアトリエ》は芸術家のアトリエがとても写実的に描かれているもの。画家は筆を手にしているが、絵を描いている途中だろうか、それとも描き終えたところだろうか、ふぅ~っと、ため息をついているかのようで、だら~んとした重さが感じられる。アトリエには、とてもひんやりとした空気が流れているような感じがする。

グスターヴ・デン・ダイツ《冬景色》は、とても興味深い作品。まず、手前の葉が落ちて枯れ木同然の木の枝にはポチッとした赤いものがある。木の実だろうか、それとも蕾だろうか。次に、日差し(多分、夕日)は厚い雲に覆われていて、ほとんど届かない。雪に覆われた大地は冬の厳しさを強く感じさせる。雪の上に残る足跡が、とても淋しい。一見すると穏やかな冬の景色にも見えるが、じっと見ていると、佐藤哲三《みぞれ》美の巨人たち)を思い出した。《みぞれ》のような荒々しいタッチではないが、空の赤く焼けるような色合いから冷たく刺すような冬の厳しさを実感する。(この日も寒かったけど・・・・(--;))

アンデルス・ソルン《お母さんと一緒に》は、ソルンの典型的な作品の一つで、《はじめの一歩》と題された作品の続編だそうで、裸の親子が海へと入る場面を描いたもの。柔らかい色彩で優しい。この作品はホイッスラーを思い出させるそうだ。(*^m^*) ムフッ

エミール・クラウス《晴れた日》は、明るい色彩の印象派の影響を強く受けた作品。木々の間から光がさす様子はとても綺麗で緑が優しい。クラウスの影響を受けたアンナ・ド・ウェールト《6月の私のアトリエ》《8月の朝》はいずれも優しい光の描写と明るい色彩が特徴。アンナはルミニスム(光輝主義)の主要人物だそうで、《6月~》は、アンナの光と自然に対する愛情が溢れた優しく温かい作品。《8月~》は、夏の朝のスッキリとした空気が感じられる、爽やかな作品。モネの積みわらと比較すると面白いかも。ジェニー・モンティニイ《庭師》は、179×244cmととても大きな作品。自分が花畑にいるかのよう。アンナ・ド・ウェールトの作品と共にソファーにでも座りながらのんびりと堪能したいところ。

図録の表紙に用いられているレオン・デ・スメット《室内》は点描を駆使し、幻想的でありながら装飾的な不思議な作品。図録の解説によると、「レオン・デ・スメットは、通常エミール・クラウスの追随者と位置付けられている。この《室内》も確かに同様の色調、筆遣い、構成を示しており、空間と光の中に醸し出されたものを正確に把握している。しかしながら、この作品は、ルミニスム(光輝主義)のテクニックを超えて、巨匠のスタイルに達している。《室内》は、デ・スメットをおそらくアンリ・ル・シダネルやアンリ・マルタンの親密な象徴主義の近くに位置付けるオリジナリティーを持った作品であると言えるだろう。レオン・デ・スメットの作品の中でも、《室内》は間違いなく傑作に属し、その静けさに満ちた詩情という性格が存分に発揮されている。」とのこと。

そのアンリ・マルタン《谷あいの黄昏》は点描による細かい描写で、ボヤボヤとした感じが画面全体を覆っていて幻想的な作品。「男女による労働と活動は、アンリ・マルタンの作品に繰り返し描かれたテーマであるが、《谷あいの黄昏》の前景も、農民の男女が働いている姿が見られる。神秘ともの悲しさが画面から発散されており、ピンク、紫、黄、それみ緑の筆触の混合が、その雰囲気を出すのに役立っている。深淵な存在に関わっているのが、斜めにそそぐ光であり、その光は、森羅万象の根底にある静けさと穏やかな関係を現している。前景に描かれている人物(農民であることが重要なのだが)は周囲の大地と解け合い、全体の一部を担っている。」とのこと。また、アンリ・ル・シダネル《ホワイト・ガーデンのテーブル、ジェルブロワ》も緻密で幻想的。とても綺麗で部屋に飾りたくなる。テーブルには花瓶やポット、ティーカップがあるが、人の気配がしない。無機質で冷たい感じ。アルベイン・ヴァン・デン・アベーレ《シント=マルテンス=ラーテムの茂み》、フェルナン・クノップフ《フォッセ風景》といった風景画もチョット霞みがかって幻想的な作品。こちらも無機質で孤独、人を寄せ付けないような冷たさを感じる。これらの作品は色彩は暗くはないものの、やはり象徴主義的な要素があるのだろう、神秘的で不思議な感じがする。

アルベール・マルケ《ラ・ロシェルの港》は優しい色だけどなんか冷たいんだよなぁ~というのが第一印象。「ぎりぎりまで簡略された手法と柔らかで穏やかな色合いによって、マルケは見事に港の雰囲気を浮かび上がらせている」作品だそうだ。ん~~、確かに。「落ち着いた穏やかな色調のパレットを駆使した精妙な色彩の対照によって、生き生きとした大気の雰囲気がかもし出されている。」とのこと。生き生きとした大気の雰囲気ねぇ・・・ふぅ~ん。それはともかく、ソファーでくつろぎながら遠くから眺めていると、とても穏やかな気持ちになりました。

『抽象芸術、それは絵画や彫刻の様式ではない。それは、生きる方法であり、どのように古い現実を若いやり方で経験するかということである。』

1955年セルヴランクスは、彼がたどってきた芸術的な奇跡を集約して上記のように述べたそうです。ヴィクトール・セルヴランクス《港-作品番号2》は、とても不思議で面白い抽象画。「・・・冷たい抽象には関心がなく、むしろ、抽象的な構成のなかに空間や事物、雰囲気を暗示し、少しだけ感傷的な気分を喚起することを好んだ。《港-作品番号2》では、初期にみられたかたちの厳格な扱いから少し離れ、想像力を自由に発揮して、より叙情的に解釈するようになっている。・・・セルヴランクスのかたちの使い方は機械仕掛けの世界を連想させるが、色彩とかたちのハーモニーこそがもっとも重要なのである。」とのこと。抽象画はよくわからないけれど、殺風景で冷たいものより人間的な温もりや空間的な広がり感じることのできる作品のほうがいいなぁ。(例えばカンディンスキーとか。)こういう作品は観ていてとても楽しいので、大好きです♪

ルネ・マグリット《パースペクティヴⅡ:マネのバルコニー》は、エドゥアール・マネ《バルコニー》の構図をもとに描かれたもの。ただし、人物は棺に置き換えられている・・・(ーー;)《バルコニー》のモデルはベルト・モリゾ。モリゾさんは棺桶となってそこに佇んでいました\(〇O〇)/ NO! 売れれば何を描いてもいいのかよっ!!と突っ込みを入れたかったのですが、「・・・単純で明快な画面構成に、非常に複雑な重層的意味を驚くほど巧みに結合させているため、鑑賞者は絵画を完全に把握しようとしても、決してそれができない。・・・『・・・何一つとしてぼんやりしたものはない。架空(イマジネール)の世界を想像(イマジーヌ)する精神を除いては』とのこと。o(__)o~† パタッ

ポール・デルヴォー《階段》は、ひんやりとした冷気(霊気?)が漂い、透明感を感じるものの、とても不思議な空間構成でなんと表現したらよいものか・・・でも好きです。この不思議な感覚に魅了されるんですよね~。そもそも、この展覧会はデルヴォーを観るために来た(常設展示を含む)といってもいいくらい。デルヴォーの描く女性は、透明感がありすぎ生気が感じられない。(人形のようなロボットのような・・・)この作品でもそう。それとは反対に、この作品では抱き合う二人の女性の白い彫刻が、何故かとても生き生きとしている。そして、この不思議な空間。青いカーテンが透明感を出しつつ、一層、冷たい空気を感じさせる。異次元に迷い込んだかのようだ。(#^_^#)ぽっ

新古典主義から始まり、時代の変化と共に絵画の技法や光の捉え方がどのように変化していくのか、フランス近代絵画がベルギーにおいてどのような影響力を及ぼしどのように取り込まれていったのか、流れのあるとても興味深い展覧会でした。ベルギーの画家はほとんど知らなかったのですが、変化、影響という視点から作品を捕らえることが出来、絵画の発展、進化を辿っているみたいでとても楽しかったです。また、展示室の照明の明るさも作品の時代等を考慮していたようでナイス!!

この展覧会は人を集めるための目玉というものが特にあるわけでもなく、夏に世田谷美術館で開催されていたということもあり、人が少なくじっくりと堪能することができました。別に聞き耳を立てていたわけではないのですが、世田谷美術館で鑑賞した方が、こちらにも観に来たというケースが意外と多いらしいです。世田谷では混雑していてゆっくりと鑑賞できなかったということも一因のようですね。やはり、展示方法がかわると展覧会の雰囲気もガラリと変わるようです。私も両方鑑賞したかったのですが・・・残念。

  • 図録:2300円

埼玉県立近代美術館(http://www.momas.jp/

 

 表裏

表裏

【高松展】 高松市美術館:2005年4月15日~5月29日
【東京展】 世田谷美術館:2005年6月11日~9月4日
【福島展】 いわき市美術館:2005年9月10日~10月23日
【埼玉展】 埼玉県立近代美術館:2005年10月29日~12月25日


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りんこう

りゅうさん。こんにちは!
「ゲント美術館名品展」行きたかったんですけれどね。
埼玉県人なのに、行けませんでした…。
マネの「バルコニー」は好きな絵なんで、マグリットのも観たかった…。
来年もたくさん美術鑑賞できるといいですね。よいお年を!
by りんこう (2005-12-31 09:54) 

りゅう

>りんこうさん、こんにちは。
nice!&コメントありがとうございます。
なかなか、面白い展覧会でしたよ~♪
めちゃくちゃ空いてるし・・・ププッ ( ̄m ̄*)
来年もたくさん美術鑑賞しましょう!!
りんこうさんの独特の切り口、結構好きですヨ!!
サブちゃんの「赤ふん」大爆笑でした~(*^m^*) ムフッ
来年もよろしくお願いいたします♪ ぺこ <(_ _)>
by りゅう (2005-12-31 11:25) 

TaekoLovesParis

りゅうさま、トラックバックの2つ目はURLがだめなので、消しておいてください。
この展覧会、知らなくて行けなかった。。。(涙)
くわしく書いてくださっているのを読めば読むほど、残念さがつのります。
私もエミール・クラウスとデルボーの絵をのせていますので見てくださいね。
by TaekoLovesParis (2006-01-20 22:50) 

りゅう

>TaekoLovesParisさん、こんにちは。
nice!&コメントありがとうございます。
観に行くことの出来なかった展覧会の評判が良かったり、
自分の好きな作品が含まれていたりすると余計に悔しいですよね。
年末に皆さんのブログ等でベストテンなどランク付けを見て、
「知らなかったもの」「逃したもの」がたくさんあり、かなり凹みました。
(情報収集って大事ですね・・・)
そうそう、今年は『ベルギー王立美術館展』が上野で開催されるそうです。
クノップフ、アンソール、マグリット、デルヴォーの作品が来るとのこと!!
by りゅう (2006-01-21 11:58) 

TaekoLovesParis

りゅうさんのブログを見ていると、りゅうさんがとっても絵画好きなことが
よ~く伝わってきます。そして、ていねいにご覧になっていらっしゃるから
同じ絵でも私が見逃していることをちゃ~んと見ていらっしゃる。
そうですよね~情報はだ・い・じ。
「ベルギー王立美術館展」楽しみです。
4年前にブリュッセルでこの美術館に行きました。
カタログ買っているので、今度、ブログにのせますね。
by TaekoLovesParis (2006-01-21 21:48) 

りゅう

>TaekoLovesParisさん、こんにちは。
(=^_^=) ヘヘヘ 気分転換・息抜きが主な目的ですよ。
嫌な事があったり、煮詰まったり・・・
特に感情的になっている時など、頭の中の整理という感じです。

現地での鑑賞、羨ましい限りです。
建物や展示室の雰囲気、照明・・・作品をより良い環境で愉しむことができるのは、その場所にあるからであり、そこへ行った者のみが許されること。
巡回展では、展示場所や照明、作品数等に限界がありますね。
(ちなみに新宿の美術館は「エレベーターに乗らないから」ということで、大きな作品は展示できないそうです・・・(>_<))
by りゅう (2006-01-22 15:03) 

naonao

私もこの展覧会行きました。世田谷美術館で見ましたよ。ベルギーには行ったことないので見るものは初めての絵ばかりでした。
by naonao (2007-02-17 22:05) 

りゅう

>naonaoさん、nice!&コメントありがとうございます(^o^)丿
世田谷で鑑賞された方も埼玉に来ていたようです。
展示場所がかわると作品のイメージも大きく変りますからね。
世田谷では混雑していたようですが、埼玉ではスカスカでした・・・(^_^;)
鑑賞するにはいいけれど、営業的には・・・ウーム (; _ _ )/
by りゅう (2007-02-18 15:27) 

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