黒木和雄監督の死 [出来事]
映画監督の【黒木和雄さん】が、昨日(4月12日)急死した。
最新作「紙屋悦子の青春」が完成したばかり。
8月公開に向けて準備に入った矢先、とつぜん病に倒れ、帰らぬ人となった。
黒木監督といえば、「TOMORROW/明日」「美しい夏キリシマ」「父と暮らせば」の戦争レクイエム三部作で知られている。
だが、私にとっての黒木監督は「竜馬暗殺」だ。
出演者は、原田芳雄、石橋蓮司、松田優作、桃井かおり他。
当時は、それほど名前が知られていなかったにせよ、今思えば、なんと贅沢なキャスティングだったろう。
竜馬が暗殺されるまでの三日間がSTORY。
モノクロの画面が印象的だった。
画面全体に映し出された、得体の知れない恐怖感を今でも忘れることが出来ない。
原田芳雄演ずる奔放な坂本竜馬や、石橋蓮司の真面目な中岡慎太郎には存在感があった。
そして竜馬の殺陣には、間違いなく殺気が漂っていた。
もうはるか昔のことだから、それ以上のことは何一つ覚えていない。
それから数十年後。
2004年11月10日、岩波ホールで「父と暮らせば」を観た。
日付まではっきりと記憶しているのには、理由がある。
この映画は、7月末日から11月26日までの5ヶ月間にわたり、ロングラン上映中だった。
前売り券を買ったものの、すぐには観る気になれず、なんとなく後回しにしていた。
11月に入り、重い腰を上げた。
その日がたまたま10日、偶然にも黒木監督の誕生日だったと後で聞かされた。
会場のアナウンスで突然、黒木監督が登場し、花束を受け取った後に短いスピーチをした。
≪日本人よ、戦争を忘れるな、原爆投下の瞬間を忘れるな≫
そのような内容だったと思う。
「父と暮らせば」は、もともと舞台で何度も上演されている作品。
舞台を観た、黒木監督が映画化を作者(井上ひさしさん)に申し出て、完成した。
「父と暮らせば」 劇場パンフレット
原爆投下から3年後の広島。
原爆で死んだ父(原田芳雄)が娘(宮沢りえ)の前に幻影となって現れる。
≪あのときの広島では死ぬのが自然なこと、助かるなんてどこかおかしい、生き延びてしまって亡くなった人たちに申し訳ない≫
父や親友を亡くした、娘の叫びが涙を誘わずにはいられない。
父はそんな娘をたしなめ、そして励ます、広島弁で、ユーモアたっぷりに。
映画を観た後に、会場に用意された平和の折鶴を4羽だけ織ったことも記憶に新しい。
黒木監督に会ったのは、その日が最初で最後になった。
もう1年以上前のことである。
《今日の陸》
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