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We get requests/The Oscar Peterson trio(ウィ・ゲット・リクエスト/オスカー・ピーターソン) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 たまたま私のレコード棚をかき回していて、オスカー・ピーターソンのレコードがどれくらいあるのかを数えてみたら17枚あった。
 ピーターソンはキャリアが長く多作でもあるので、この所有数は特段多い方ではないのかもしれない。正直なところ、私自身、ピーターソンの熱心な聴き手だったとは言えないところがある。だが、大して熱心に聞き込んでいたわけでもないプレイヤーのレコードが17枚というのは私の持ち物の中では多い方だ。

 周辺を見渡す限り、オスカー・ピーターソンは少々風変わりなところに位置するプレイヤーだと思う。まず、最大公約数的に語られるのはそのテクニックに対する賞賛で、何と言ってもアート・テイタムの衣鉢を継ぐピアニストなのだからプレイヤーとしては問答無用の大物である。
 演奏家としての知名度もジャズメンの中ではピカイチだろう。さほど熱心にジャズを聴くわけでもない人でもピーターソンの名前を知っていることは割と多い。
 しかし、ディキシーから始まってフリーフォームに至るまでのジャズの歴史、その発展や変化の流れにあってオスカー・ピーターソンの存在がクローズアップされることはない。むしろそういうムーブメントとは無縁な場所で悠然とキャリアを積み上げてきた感がある。
 ここで長年ジャズを聴き続けてきた、所謂コアなジャズファンのほうに目を転じると、何故かピーターソンが猛烈に好きで。極端な話、全部のレコーディングをコンプリートしてやろうという気概に燃える人にはまだ一人も会っていない。
 私のように屈折を重ねてきた者だからそう見えるのかもしれないが、オスカー・ピーターソンというミュージシャンは喩えて言うと、帝大を卒業した公益企業の総務部長みたいなイメージなんである。言うことやること全て当たり障りがなく無難でど真ん中の正論ばっかりというか。
 この人の音楽は、或いは銭湯のペンキ絵を連想させる。今ではもう見かけることもないだろう、砂浜に松林、遠くに富士のお山が描かれているあれだ。書き割り。およそ現実味はないのにいかにもありそうな風景。

 逆説めいているがこれは批判ではない。私のようなひねくれ者のこういういささか意地の悪い見方に耐え、なおかつレコードを買わせ続けるというのはピーターソンの芸風がそれだけ揺るぎない強度を持っていることの証拠だ。王道とはひねこびた批判を受け入れながらも普遍性を持つから王道なのだ。
 そして王道の最たるものはこういうレコードだったりする、

We Get Requests

We Get Requests

  • アーティスト: Oscar Peterson
  • 出版社/メーカー: Verve
  • 発売日: 1997/07/29
  • メディア: CD

 ちょっとしたオーディオファイルで、ジャズはあんまり聴かないけれど何枚かはソースがあるというとき、かなりの確率でこのレコードは出てくる。言い換えると、門外漢がつまみ食いをしてみたくなるときの筆頭候補とも言うべき人であり音楽なんである。どこからどう切り取ってみても円満で破綻がなく、棘も毒もない。ほんとに書き割りを見ているような見事さ、堂々たる芸風、いや、嫌み抜きにたいしたもんだと思う。
 本作は選曲のバランスが良く、余り長いアドリブパートがないので誰にでも取っつきがよろしい。おまけに録音がよいので再生機器のテストソースに良く用いられたのだそうだ。
 しかし、テストソースたる条件とはまず第一に音楽の内実であって録音の善し悪しはこれに付随することで始めてそのソースはテストソースたり得るのだと私は考えている。
 よって本作、We get requestsが私の再生装置のテストソースだったことはない。
これは本作の価値を貶めるものではなく、むしろ保証している。私のようなひねくれ者がこういう屈折して嫌味がかった文章を書きたくなるほど本作は真っ当で健全で完成度の高い音楽なのだということをこのテキストは表しているのです。


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