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自由貿易協定(FTA) [用語解説]

2006年8月16日にマレーシアのクアラルンプールで開催された
ASEAN(東南アジア諸国連合:10カ国)と日中韓、
さらにはインド、豪州、ニュージーランドの16カ国による会議の場で、
二階経済産業大臣がこれら16カ国による広域のEPAを締結することを提案しました。
これが実現すれば、人口30億人の巨大な自由貿易圏が成立することになります。

ところで、近年メディアに頻繁に現れるFTAEPAとはどのようなものなのでしょうか。
通常は、FTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)という用語が一般的ですが、
日本がこれまで締結したものは、いずれも
EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)と名付けられています。

表:日本のFTA(EPA)交渉の状況

注:網掛けは発効しているもの。
出所:各種報道資料等より作成。

そもそも、FTAとは、WTO(世界貿易機関)の関税及び貿易に関する一般協定
(General Agreement on Tariffs and Trade; GATT)
に基づくモノの分野と、
サービスの貿易に関する一般協定(General Agreement on Trade in Services; GATS)に基づくサービスの分野の自由化のいずれか及び両方を
二国間または複数国間で自由化するという協定です。

ここで重要になるのは、どのような協定であれば、FTAと呼べるのか、ということです。
GATTの第24条(適用地域―国境貿易―関税同盟及び自由貿易地域)の8項(b)では、

自由貿易地域とは、関税その他の制限的通商規則(中略)がその構成地域の原産の
産品の構成地域間における実質上のすべての貿易について廃止されている二以上の
関税地域の集団をいう。

という規定に基づかなければならないとされています。
これにより、例えば農産品分野をすべて除外したFTAは、WTO協定違反ということになります。

さらに注目すべきは、GATT第24条8項(b)における「実質上のすべての貿易」の意味です。
WTOでは、一般に「貿易量またはタリフライン(HS(Harmonized System)と呼ばれる
関税分類コードに基づく商品分類の数のこと。日本は9桁のHSコードを保有しており、
タリフラインは8,000以上に上る)の9割以上」を対象とした協定でなければ、
FTAとはみなされない、ということになっています。

逆に言うと、FTAでは1割弱については、貿易自由化の対象外とすることができるわけです。
しかし日本の場合、農産品や繊維製品などの分野において自由化が難しい品目があり、
これらをすべて自由化対象から除外してしまうと、
GATT第24条8項(b)の要件を満たせなくなってしまいます。
ここに、日本のFTA交渉の難しさがあるのです。

一方、日本が交渉を行っているFTAはなぜEPA(経済連携協定)と呼ぶのでしょうか。
日本はFTA交渉を通じた貿易自由化にセンシティブな品目(産業)がいくつもあることから、
これらの自由化に焦点を当てすぎてしまうと、関係業界からの反発を招いてしまいかねません。
また、交渉相手国に対しても、日本が自由化に後ろ向きであるという姿勢を
できるだけ見せないようにしなければ、交渉自体がうまくまとまりません。
そこで日本政府は、本来のFTA交渉に加えて、科学技術、人材育成、観光、
中小企業などの分野における協力などを盛り込んだ、総括的な協定を締結し、
センシティブ分野の自由化への関心の集中を避けるために、EPAという表現を使っているようです。

FTAをこのような名称で呼んでいるのは、世界の中でも日本だけです。


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ジニ係数 [用語解説]

格差社会の問題を議論する際によくお目にかかる用語として、
「ジニ係数」があります。
ジニ係数は、社会の所得配分の不平等を測る指標として、
イタリア人統計学者コラド・ジニ(Corrado Gini)によって考案された概念です。

ジニ係数は、0から1の間の数値をとり、
0に近づくほど不平等度は小さく
1に近づくほど不平等度が大きいとされます。
(研究者によっては、0から100の間の数値で分析する場合がありますが、
考え方は全く同じです)

ジニ係数を具体的に計測する方法としては、
以下のような例がわかりやすいでしょう。

まず、5人で構成される国を想定してください。
(実際にはそのような小さな国はありえませんが、考え方をシンプルにするために、
あえて極端なケースを想定しています)
5人の国民に所得の小さい順に並んでもらい、
所得の小さい順にAさん、Bさん、...と名付けます。
それぞれの所得は以下のようになっています。

        所 得
Aさん     100万円
Bさん     200万円
Cさん     300万円
Dさん     400万円
Eさん     500万円
合計    1,500万円

この国の所得の総合計は1,500万円です。

次に、x軸、y軸(所得)からなる二次元平面に、
原点側からまずAさんの所得分を置きます。

次に、Aさんの所得の右側に、同じくAさんの所得を置いた上で、
その上にBさんの所得を重ねます。

このような作業をCさん、Dさん、Eさんについても行うと、
図は以下のようになります。

今回は、国民が5人という極端な国を想定しましたが、
同じようなことを正式な国民の数(例えば日本であれば約1.3億人)で実施してみると、
以下のような図ができてくると思います。

このとき、弓形になった曲線(これをローレンツ曲線といいます)の
始点と終点部分を結ぶ対角線を引くと、三日月型の部分ができあがります。
この部分の面積の大きさを「ジニ係数」と呼ぶのです。

 

もし、すべての国民の所得が同じであれば、
弓形の曲線(ローレンツ曲線)と対角線は一致することになるので、
ジニ係数はゼロになります。
実際に、同じ所得の大きさのマスを左から右に向けて
ずっと積み上げてみて、確認してみてください。

逆に、100万人の国民のうち、
99万9,999人の所得が0円、
残りの一人が100億円持っているような国を想定すると、
ローレンツ曲線は以下のような図となり、
三日月は限りなく直角三角形の形になります。

つまり、三日月の面積が大きいほど不平等度が大きく、
三日月の面積が小さいほど不平等度が小さいということができます。

言い換えると、もっとも不平等度が大きいときである直角三角形の面積を1とし、
一方で国民の所得が全く同じであり、三角形(三日月)の面積が0だとするときに、
その国の所得分布がどこに位置するのかを指標化したのものが、
ジニ係数ということになります。

ちなみに、世界銀行が毎年公表している
『世界開発報告(World Development Report)』に所収の
「世界開発指標(World Development Indicators)」をみると、
主要国のジニ係数は以下の通りとなっています。
(最大値=もっとも不平等な状態を100とした場合)

各国で調査年が異なっているため、完全な比較にはなりませんが、
日本はジニ係数が世界でも最も低い国であり、
所得格差が小さい国であるということができます。
(表に掲載していない国のなかで、日本よりもジニ係数が低い国は、
アゼルバイジャン19.0(2002年)、デンマーク24.7(1997年)の2カ国だけです)

また、日本のジニ係数を時系列に分析した内閣府の資料をみると、
ジニ係数が最近になって上昇していること、
すなわち不平等度が拡大していることが見てとれます。


(出所)内閣府「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」平成18年1月

この傾向について、内閣府は、
「高齢化の進展に伴い、所得格差の大きい高齢者層が拡大していることから、
ジニ係数の上昇が見られる。高齢化の効果を除去すれば、
所得分配の不平等度は拡大していない」との見解を示しています。


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