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再処理で放出されるクリプトン85について [社会]

スパイラルドラゴンさんから,クリプトンガスの性質に付いての記述を付け加えてみてはとの提案をいただきましたので,少し調べてみました.クリプトン85の生体への影響などの詳しいデータは,ふつうの放射線の本などにはほとんど見られません.国際放射線防護委員会(ICRP)の77年と90年の「勧告」にも見つかりませんでした.公的な文書の中でようやく見つけたのが,ヨーロッパ議会が2001年に発行した「セラフィールドおよびラ・アーグの再処理施設からの有毒物による効果の可能性」の第4章です.
http://www.wise-paris.org/english/reports/STOAFinalStudyEN.pdf

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以下が該当部分の翻訳です.末尾に原文を付けます.またその後ろには,核データなどを付記しています.

4章 放射性物質の排出によるリスクの評価
4.2. 集団線量
4.2.4. 再処理プロセスで放出される重要な放射性核種
4.2.4.2. クリプトン85
 クリプトン85は半減期10.7年の,強いベータ線・ガンマ線の放射能である.これは核分裂生成物であり核燃料の内部に留まっているが,再処理プロセスで放出される.大気中に放出されたクリプトン85は,ベータ線により皮膚への外部被爆を,またガンマ線による一様な全身被爆を起こす.クリプトン85の一個の崩壊による線量は小さいが,放出されるクリプトン85の量は非常に大きく,再処理で放出される核種のうちで最大である.したがってクリプトン85からの線量は相当なものになる.クリプトン85は放出から数年で地球大気中に一様に分布してしまうので,クリプトン85による集団線量は重要である.
 クリプトン85は不活性ガスで,現在のところ,ヨウ素129や炭素14とは異なり,生命サイクルに入り込んだり,生物相に取り込まれたりすることはないと考えられている.クリプトン85による線量の評価は,実験データではなく理論モデルに基づいている.一時的,非定常的な被爆に関するデータは極めて少なく,それらから長期間の被爆量を信頼性を持って見積もることは困難である.

以下,文献情報と原文です.

Publisher: European Parliament
Scientific and Technological Options Assessment
Title: POSSIBLE TOXIC EFFECTS FROM THE NUCLEAR REPROCESSING PLANTS AT SELLAFIELD AND CAP DE LA HAGUE
Authors: WISE - Paris,
Date: November 2001

4. RISK ASSESSMENT OF RADIOACTIVE RELEASES
4.2. COLLECTIVE DOSES
4.2.4. Important Radionuclides in Reprocessing Releases
4.2.4.2. Krypton-85 (85Kr)
Krypton-85 is a strong beta-gamma emitter with a half-life of 10.7 years. It is a fission product retained in reactor fuel until released during reprocessing. Krypton-85 released to atmosphere exposes people to external beta irradiation of the skin, and to uniform whole body gamma irradiation. Although the dose from a single decay of krypton-85 is small, the amounts of krypton-85 discharged are very large − the largest of all nuclides emitted by reprocessing. Accordingly doses from krypton-85 are appreciable. Krypton-85 distributes uniformly throughout the earth’s atmosphere within a few years after release, so collective doses from krypton-85 are important.
Krypton-85 is an inert gas and is currently not thought to enter life processes nor be incorporated in biota, unlike iodine-129, carbon-14 and tritium. Krypton-85 dosimetry is based on theoretical models rather than experimental data. The little data which exists refer to acute, non-equilibrium exposures: it is difficult to estimate long-term doses reliably from such information.

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核データ,化学データ
クリプトン85は1崩壊あたり,99.6%の確率で最大エネルギー0.69メガ電子ボルトのベータ線(ガンマ線なし),0.4%の確率で最大エネルギー0.17メガ電子ボルトのベータ線と0.51メガ電子ボルトのガンマ線の組,を放出します.
典拠 http://t2.lanl.gov/cgi-bin/decay?203,3646
   http://t2.lanl.gov/data/decayd.html

1401577.gif核データリンク更新('13.10.28)
崩壊図式(基底状態から)放出放射線詳細
何れも米国核データセンターより.

化学便覧によると,クリプトンの水に対する溶解度(詳しくはオストワルド溶解度係数)は,20℃で0.067です.(ちなみに炭酸水やサイダーでおなじみの炭酸ガスの溶解度は同じ温度で0.94です.)


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コメント 2

Hal♪

はじめまして!
六ヶ所村再処理工場に関する記事を書いていて、クリプトン85の検索結果から参りました。
リンクさせていただきますm(__)m
by Hal♪ (2007-11-13 16:26) 

yamamoto

コメントありがとうございます.TBしました.
by yamamoto (2007-11-13 17:45) 

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