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『イート・ア・ピーチ』 デラックス・エディション [アメリカン・ロック]

『サンタナⅢ』のレガシー・エディションに1971年7月4日のフィルモア・ウェストのライヴが収録されたのにつづいて、『イート・ア・ピーチ』デラックス・エディションには71年6月27日、フィルモア・イーストのライヴが収められた。
これで東西フィルモア最後の日の歴史的な音源が相次いでCD化されたことになる。

   

ぼくはリアル・タイムにオールマン・ブラザーズ・バンドを聴いてこなかったのがとても残念だ。

その名前を初めて聞いたのは、ご多分にもれずデレク・アンド・ザ・ドミノスにデュエインが参加したのがきっかけだったが、当時は「愛しのレイラ」さえ、噛みつくようなクラプトンのヴォーカルに味わいがないのに落胆したぐらいで、いわゆるサザン・ロック的なものにはほとんど興味をもてなかった。

エリックのファースト・ソロや『愛しのレイラ』、それにオールマンズを聴くようになるのは80年代も終わりごろ、自分でもエレクトリック・ギターを弾くようになってからだった。

もしリアル・タイムで『イート・ア・ピーチ』を聴いたら、どんな思いがしたのだろう。

デュエインの悲惨な事故を乗り越えてとうとう新しいアルバムが出た。
前作同様2枚組で、しかも前作『フィルモア・イースト・ライヴ』に未収録のライヴ音源が3曲も収録されている。
さらにデュエインが亡くなる前に完成したトラックも3曲収められている…。
そういう情報を前にして、はやる気持ちを抑えられず、まず1枚めのA面をターンテーブルに載せて針を落とすと…
「時はもう無駄に出来ない Ain't Wastin' Time No More」の力強いイントロについで豪快なスライド。
「おお、デュエイン!
 …え?
 じゃなくディッキー・ベッツ!?
 こんなにスライド上手だったの??」

ああ、こんなうれしいような切ないような気持ちを味わってみたかったなあ…(←スミマセン、妄想に長々とお付き合いいただいて…^^;)

さて、今回のデラックス・エディション(以下DE盤と略す)は2枚組デジパックで12ページの英文ブックレットがついている。
購入したのは英文ライナーの日本語訳・歌詞・対訳のついた直輸入盤の国内盤仕様だ。
なかを開けるとオリジナルのアナログ盤とほぼ同じカラフルなイラストがついているが、残念ながら鮮明度も色も再現性は低い。

   

さらに開くとバンド全体の演奏シーン、デュエイン、デュエインとグレッグのポートレイトが配置されている。

   

まずDisc-1は1972年2月にリリースされた4枚めのアルバム『イート・ア・ピーチ』をそのまま収める。

ぼくが持っている98年の紙ジャケと比較試聴してみた。
紙ジャケも中域の充実した音でけっして悪い音ではないと思うのだが、DE盤を聴いたあとは残念ながらお蔵入り(…じゃなくてラック入り^^)だ。
DE盤は楽器やヴォーカルそれぞれにしっかりとした実在感があり、音場が塊にならずに全体の見通しがとてもよくなった。
音の傾向はやはり中域重視なのだが、高域も確実に伸びていてクリアに聞こえる。
ヴォーカルの定位もかっちりしたように思えた。

   
   (左が98年の紙ジャケ)

Disc-2は前述のとおり、フィルモア・イースト・クロージング・デイの歴史的なコンサートだ。
ここでは3月のライヴを収めた『フィルモア・イースト・ライヴ』(以下FE盤)と3曲を比較してみた。
演奏時間は(FE盤 / DE盤)の順だ。

まず冒頭の「Statesboro Blues」(4:17 / 4:29)。
典型的なブルーズなので、歌が始まるとヴォーカルとギターがコール・アンド・レスポンスを繰り返すのだが、DE盤はここからすでにデュエインのスライドが全開で空に昇りつめていく。
最初のソロはFE盤ではそのままデュエインが引き受け、DE盤ではディッキーが引き継ぐが、このディッキーのソロはまあ可もなく不可もなし、といったところ。
つづいてストップ・タイムを用いたサビのあとAメロに戻るのだが、この最初のデュエインのフレーズがまたすばらしい。
全体としてデュエインのギターは甲乙つけがたいのだが、最初からフルスロットルで飛ばしている分、DE盤に軍配を上げよう。

2曲めは「エリザベス・リードの追憶 In Memory of Elizabeth Reed」(13:04 / 12:51)を比較してみよう。
この曲、4小節の短いイントロのあと、ライヴではオリジナルにない前奏部分(イントロのあと前奏というのも変ですが…^^;)があって、ディッキーがヴァイオリン奏法(ヴォリューム奏法とも)を聞かせるのだが、もともとアドリブのようで、FE盤とDE盤ではまったくメロディがちがう。
これはもう圧倒的にFE盤がいい。
まるで哀しい恋の夢から覚めたあとの甘美な感傷のようなメロディを、ヴァイオリン奏法がじつにデリケートに表現している。
つづくディッキーのソロではDE盤にはミストーンも聞かれ、あまりよいできではない。
デュエインのソロはこちらも両者の優劣がつけがたいが、全体としてはFE盤のほうがずっといいと思う。

最後は「Whipping Post」(23:03 / 20:06)を比較してみた。
デュエインがスライド・バーを使わずピッキングでホットなソロを見せつける、おなじみのナンバーだ。
対するディッキーも負けずに熱いソロの応酬が繰り広げられる。

…聴いてるうちにどっちがどう、というようなことはどうでもよくなっていまった。
いずれも20分を超える演奏である。
まあ、どっぷりとオールマンズの世界に浸りながら至福のときを味わおう
(…なんのこっちゃ?)

ちなみに今回のDE盤、英文ライナーを読むとSuha Gurという人によってリマスタリングされたことになっているが、日本語ではいっさいリマスターにかんする表記がない。
そのあたり、もう少し配慮がほしいところだ。

追記 『レココレ』誌の表記が「デュエイン」から従来の「デュアン」にもどってしまった。
ということは、「デュアン」のほうがやはり現地の発音に近い?


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hamakaze_ataru

遼さん、こんにちは。
そちらは雨風大丈夫ですか?
今年はいつもにまして変な夏ですね。困ります。
そんな中、旬な「桃」いいですねぇ〜
タシはカリフォルニア派?なのでサザン系はチト疎いのです(笑)
なんたってオールマン初体験が「Brothers and Sisters」ですから・・・
聞く順番が狂うと気持ちの軌道修正は難しいです。
それでまた結構ディッキー・ベッツ好きだったりすると、なかなか
フィルモアあたりを理解する事って難しくて・・・
ピーター・バラカンさんのラジオでデレク・トラックス聞いてから
少しまた認識かわりましたけど。オールマン聞き直しのイイきっかけでしたね。
これからまた沼にハマり直しってとこでしょうか?
デュエインに釣られるかもしれないし・・・(笑)
「デュエイン」「デュアン」の問題ですが、カタカナ表記って難しいですよね。
このあたりの曖昧さにメスを最初に入れておきながら、いつのまにか世間一般の
読み方、書き方に直すのどうかと思いますがね。
かつて、「ジャクソン・ブラウン」は「ジャクスン・ブラウン」、
「アパルトヘイト」は「アパルトハイト」・・・頑固だった「マガジン」「レココレ」も
軟化でしょうかね。
ピーター・バラカンは絶対「デュエイン」って言ってますよね。
「ブルース」は「ブルーズ」だし・・・・

全然「桃」の話じゃなくてごめんなさいでした。
by hamakaze_ataru (2006-08-19 11:57) 

nowatts

さすがは遼さんすばやい。コレ、いまいちばんほしいCDなんですがなんせ先立つものが・・・(今月はアナログレコード買いすぎで)。今月のレココレでもさんざ書かれていますが現在のオールマンのギター二人はなかなかいいですね。とくにデレク・トラックスはデュエインよりストーンズ時代のミック・テイラーにイメージは近い気がしますがステージでもデュエインの立ち位置を任せられているだけのことはあります。冬からはクラプトンのワールドツアーに同行するとの事。ひょっとして「LAYLA」全曲を再現!・・・なんてことはないよなー。
by nowatts (2006-08-19 14:22) 

parlophone

大安さん、ご心配をおかけします。
雨は今朝方まで降り続きましたが、幸いぼくの住んでるあたりはたいした被害もなく、無事に過ごしております。
これから東北、北海道にかけても雨を降らす可能性があると思いますので、じゅうぶんお気をつけくださいね。

大安さんは『Brothers and Sisters』からですか。
もうデュエインのいない穴をディッキーがしっかり埋めていたころですね。
でもデュエインにもしっかり釣られてくださいね。
うふふ^^

>ピーター・バラカンは絶対「デュエイン」って言ってますよね

お、そうなんですか!
じゃあ、ぼくも安心してデュエインで行きます^^
by parlophone (2006-08-19 20:58) 

parlophone

nowattsさん、どうもです。
じつは岡山に里帰りしていたとき地元のタワレコに行ったら「品切れ中」!
それで福岡に帰ってきたその足で買いに行きました^^
岡山はご存知のとおり「白桃」が名産なので、文字どおり桃を食べながら聴きましたよ(笑。

上で大安さんも書いていらっしゃいますが、デレク・トラックス、すごそうですね。

>ストーンズ時代のミック・テイラーにイメージは近い気がしますが

ぼくはまだデレクを聴いたことないんですが、すごく興味を惹かれます。
折りしもクラプトンの来日が発表されましたので、ぜひ連れてきてほしいですよね!!

>ひょっとして「LAYLA」全曲を再現!・・・なんてことはないよなー。

ぎゃ~~、聴きてえ~~!
by parlophone (2006-08-19 21:04) 

nowatts

>岡山はご存知のとおり「白桃」が名産なので・・・
今年はどうもこちらのほうでは桃は不作みたいでなかなか旨いのに当たりません。葡萄は良いんですが・・・ってそういう話題じゃないですね。
>折りしもクラプトンの来日が発表されましたので・・・
えっ、ということで調べたらメンバーはこんなことらしく
Eric Clapton - Guitar, Vocals
Doyle Bramhall II , Derek Trucks - Guitar
Chris Stainton , Tim Carmon - Keyboards
Willie Weeks - Bass
Steve Jordan – Drums
で、すでにこのメンバーの「LAYLA」がこちらで見られました。
http://www.youtube.com/watch?v=dELSFBEsmPM&search=Eric%20Clapton%20Layla
S.Jordan、W.Weeksのリズム隊に若手ギター陣というのはなかなか(クラプトン以外は)ソリッドな感じでよさそうですが・・・残念ながら私の中ではクラプトン先生、もう終わっている存在なので、バックメンを見るつもりで10数年ぶりに行ってみますかねえ(笑)。先生も若手に刺激を受けてハッスルしたり、なんてのがぜひ見たいもんですが。
by nowatts (2006-08-19 22:50) 

parlophone

>残念ながら私の中ではクラプトン先生、もう終わっている存在なので

わはは、nowattsさん、「それを言っちゃあお終めえよお」(by 寅)
ぼくも60年代終わりから40年近くクラプトンのギターを聴いていますが、残念ながら最近のソロでワクワクさせられることはほとんどありません。
ただ、2001年のライヴに行ったとき「Going Down Slow」から「She's Gone」あたりはほんとうに久しぶりにドキドキしました。
しかもあのときはオープニング(か、ごく最初)で「Bellbottom Blues」をやりましたからね~^^

ところでさっそくのヴィデオのご紹介、ありがとうございました。
このメンバーで来日するんでしょうかね。

デレク・トラックス、右手の指を駆使してスライドやってましたね~。
立ち姿はなかなかデュエインを髣髴とさせますね。

それとずらりと並んだフェンダーのアンプ群も目を奪われました(笑。
by parlophone (2006-08-20 00:16) 

hamakaze_ataru

ワタシも拝見させて頂きました。
確かにアンプが目立ちますね(笑)クラプトンはやっぱツイードですね。
SGにツインリバーブのデレク・トラックス黙々って感じでカッコイイですね。デレク・トラックス・バンドのライブ音源をいくつか友人から聴かせてもらいましたが、あまりにバラエティーな内容に驚きました。ピーターさんの番組でもかかった、ちょっとインドっぽいヤツとかカッコイイ!
友人はかなりハマってますのでこれからいろいろ借りて聴きます。
by hamakaze_ataru (2006-08-20 00:50) 

parlophone

>クラプトンはやっぱツイードですね

あれはベースマンでしょうか?

>SGにツインリバーブのデレク・トラックス黙々って感じでカッコイイですね

いやあ、文句なしにかっこいいっす!

>ピーターさんの番組でもかかった、ちょっとインドっぽいヤツとかカッコイイ!

おお、そうなんですか!
ぼくはジミー・ペイジのCIAコネクションとか滅法弱いので、インドっぽいやつって惹かれますぅ~^^
by parlophone (2006-08-20 01:19) 

lonehawk

遼さん、こんにちは。
ワタシもこのデラックス・エディションを(輸入盤ですが)買いましたよ。
デュアンがいた頃の未発表音源にはどうしても気になってしまいます。
当時のライヴは聴いているうちにどんどんその世界に引き込まれていくので、これからもどんどん蔵出しして欲しいものですね。

実はワタシも今月のレココレで、デュエイン→デュアン表記になっていたのが気になっていました。
今回の記事を書く時(あ、この記事をTBさせて頂きました)は、デュアンの方が分かりやすいかなー、と思ってデュアン表記にしてみましたが、英語をカタカナ表記にするのって難しいですね。
by lonehawk (2006-08-20 12:24) 

lonehawk

遼さん、すみません。
間違えてコメントを2度送信してしまいました。
お手数ですが、ひとつを削除していただけますでしょうか。
宜しくお願い致します。
by lonehawk (2006-08-20 12:27) 

parlophone

lonehawkさん、コメントとトラバありがとうございました。
もうすでに1か月以上前に輸入盤を手にされてたんですね。
ぼくはlonehawkさんの記事をどうもチェックし忘れてたみたいで、失礼いたしました。

>デュアンがいた頃の未発表音源にはどうしても気になってしまいます

ほんとですね。
ぼくはすべてのライヴ音源を手に入れるほどのコアなファンではありませんが、こうして歴史的な録音が陽の目を見るのはやはりうれしいことです。
デュエインのギターも絶好調で、聴いているとのめり込んでしまいますね。

こちらからもトラバさせていただきますのでよろしくお願いします。
by parlophone (2006-08-20 14:34) 

parlophone

lonehawkさんがお間違えになったのなら仕方ないんですが、送信ボタンクリックしたら、「ただ今アクセスできません」とかなんとかメッセージが出たんじゃありませんか?
曽根風呂の重いの、いつまで経ってもなかなか改善されません。

とくに新しい記事を書いて「保存」ボタンを押したあと上記のようなメッセージが出ると、切れそうになります(笑。

そんなこんなでいろいろご迷惑をおかけしていると思いますが、今後ともよろしくお願いいたしますね…。
by parlophone (2006-08-20 15:00) 

Sken

こんにちは。
私も彼らのアルバムはほとんど聴いてますが、本作はいいパッケージ
ですよね。このような2枚組って。

ところで、「デュアン」の件、これで迷って私のブログにはめんどくさいんですが
人名表記を英語にしました。
バンドでも、「オーリアンズ」とか。
by Sken (2007-09-15 11:56) 

parlophone

Skenさん、どうもです。

>本作はいいパッケージですよね。このような2枚組って

オリジナル・アルバムとフィルモア最後の日って、もう願ったり叶ったりの内容ですね。

>私のブログにはめんどくさいんですが人名表記を英語にしました

ですよね~。
ロックでいえば、スティーヴン・スティルスがステファン・スティルスとか、
クラシックでいえば、アルゲリッチとかアルへリッチとか。
最近の紙ジャケでいえばフォガットは正しくはフォグハットだそうですね。

英語表記もありえるんですが、なにしろめんどくさくて…^^;
それに間違っててもぼく自身は気がついてなくて、みんな笑ってるとか
あるんじゃないかと思うと勇気が出ません^^;
by parlophone (2007-09-15 17:45) 

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