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ラジオと音楽と私とあの頃〜ECHOES〜 [映画音楽本とか]

昨日、私のiPodから、ふいに甘酸っぱくて青くさい曲が流れて来た。
それについて、書こうと思う。
おそらく興味のある方はほとんどいないと思うので、遠慮なくパスして下さい。

私の中学3年生は、確か「卒業」という曲が3つ並んだ年だった。
斉藤由貴に菊池桃子、そして尾崎豊。
私は13才頃まで、ベストテンに出てくる様なアイドルの歌ばかりを聞いていたのだが、
当時通っていたレコード屋さんの勧めで尾崎豊の「17歳の地図」のLPを購入し、
そこから歌詞重視の音楽に傾倒していった。
私には年上の兄弟もなく、また縮んでいくような小さな町だったから情報もなかった。
しかしその件があってからレコード屋さんの店員さんとも仲良くなり、よく話すようになった。
また、ラジオもよく聞くようになったのだ。

それは中学卒業間近の冬だった。
何気なく聞いていたラジオから流れる音楽に、私の時間は止まった。

“眠れない夜空を抱いて ちっぽけな悩み抱えて ラジオにそっと耳を傾ける”
“今夜こそはラジオと話したい 今夜こそは 僕の話も聞いてよ DJ”


ゆったりとしたテンポで流れるその歌は、
特徴のある声にのせられて私の耳の中に飛び込んで来た。
DJの紹介したアーティストと曲名をあわててメモして、レコード屋さんに向かった。
“ECHOES”の“ONE WAY RADIO”
それは、まだ発売していない曲だった。
仕方なく、私はそのアーティストの他の12インチシングルを購入した。
それが、“JACK”だった。

“小銭を切らせいる君も 煙草をきらせている僕も”
“身近な愛をなくしている 僕らはこの街の失業者さ”

このバンドは、今は小説家としての方が有名な辻仁成のバンド。
中山美穂の夫といったほうが通りがいいだろうか。
彼は当時、ジャックケルアックに心酔し、ビート文学に染まっていた。
そして、ジャックとその妻マルガリータを想い物語を創造したのがこの歌だ。
モッズぽいファッションにスティングを彷佛とさせるような野太いハスキーボイス。
それでいながらガラスの破片のように壊れそうな少年の面影と歌い方。
今で言うと、バンプオブチキンの初期の様な繊細なイメージ。
15歳の私は、すぐに彼らについてもっと知りたくなった。

彼らはソニーのSDオーディションで1982年、尾崎豊と同時グランプリを獲得、
そして即レコーディングに入ったものの、影のある曲調の彼らを周囲は良しとせず、
“TheMods”がそうであったように、POPなアイドルバンドとして
サザンオールスターズのようになる事を強制されたこと。
そしてそれに反発してレコーディングが無期限休止になり、3年間飼い殺しにされたこと。
ポリスが“ホワイトレゲエ”と称されたように、
彼らはアマチュア時代“イエローレゲエ”と言われていたことなど。
バンド名は、“ピンクフロイド”の“エコーズ”からだと、何かの書籍で読んだ。

それ以来、私は一途に彼らの音楽を追った。
86年の梅雨の頃、2NDの”HEART EDGE”が発売、
存在感の危うい霧がかったような曲達に、私は虜になった。

HEART EDGE

HEART EDGE

  • アーティスト: ECHOES
  • 出版社/メーカー: ソニーミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2000/09/20
  • メディア: CD


学園祭に出てくると知れば早朝に出かけて並び、高校の公衆電話からチケットを取った。
彼らを通じて他の邦楽、洋楽のアーティストについても調べるようになり、
私は邦楽のバンド達を聴きあさり、ライブに頻繁に足を運ぶようになった。
レッズ、スライダース、ブルーハーツ、アップビート、パール、ボウイ、等々。
期末試験の真っ最中でも電車に教科書を持ち込んでライブに通った。
そしてドラムの今川勉(後に甲斐ファイブ)にあこがれて、
自分達のバンドでドラムを叩いた。スタジオに通う日々だった。

しかし、彼らの音楽は途中から変遷を遂げていった。
ピンクフロイドの様な壮大なコンセプトアルバム、そして骨太なアメリカンロックへ。
金切り声の様な繊細なギターは、たくましくもメロディを奏でるギターへ。
四人で完結していた音楽が、キーボードが入りサックスが入り、ギターは二本になった。
辻仁成の声も繊細さは影を潜め、野太くよく通る声へ、歌い方は変わっていく。
誰でも、時とともに変わっていく。
イギリスの匂いのする音楽が好きだった私は当時「裏切られた」と思っていたが、
それは当たり前のことだ。
オールナイトニッポンのDJとして「アニキ」的な存在になり、またNHKの番組司会をする彼。
そして、第一作目の小説“ピアニシモ”へ。

私も大学生になって聞く音楽はかわっていったが、彼らもまた変わり続けていた。
そしてバンドの解散。辻仁成は小説家としての活動し、成功をつかんでいった。
すばる文学賞にフェミナ賞(フランス版芥川賞みたいなもの)、芥川賞作家へ。
その一方、映画監督として“ほとけ”がヴェネチアに招待される等、才能を遺憾なく発揮している。
2000年にはドラマの脚本を書き、主題歌がビッグヒットになった。

ZOO

ZOO

  • アーティスト: 蓮井朱夏, 辻仁成
  • 出版社/メーカー: ソニーミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2000/09/07
  • メディア: CD


ZOO

ZOO

  • アーティスト: ECHOES, 辻仁成
  • 出版社/メーカー: ソニーミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2000/07/19
  • メディア: CD


江國香織と綴った小説”冷静と情熱のあいだ”は映画化された。

冷静と情熱のあいだ

冷静と情熱のあいだ

  • 作者: 江國 香織, 辻 仁成
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2001/06
  • メディア: 単行本


私は、ずっと彼を見てきた。
年は流れて自分の好みも変わり、そして彼にも同じ時間は流れて立ち位置は変わったけれど、
彼なりのやり方で、今も作品を発表し続けている。
彼の作品への好き嫌いは別として、私は辻仁成の生き方が好きだ。
何にでも全力で失敗を恐れず、周りの雑音にとらわれない。
やれる所までやる。目的達成のためなら、手段を選ばずなんでもやる。
叩かれようが踏まれようが、くじける事の一切ない生き方。

今はもう、彼の音楽を聞くこともないし、小説を読むこともなくなってしまったが、
インターネットに繋いだりすると、つい彼の記事を探してしまう。
音楽雑誌や週刊誌を読む時、つい彼の名前を探してしまう。

私が思春期の頃、最も心を注いでいた音楽。
それが”ECHOES”。
その“こだま”たちは今でも、草の根となって小さいながらも活動を続けている。

BEST OF BEST

BEST OF BEST

  • アーティスト: ECHOES, 辻仁成, 今川勉
  • 出版社/メーカー: ソニーミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2000/09/20
  • メディア: CD


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コメント 10

kafukanomori

ウム('ェ')
音楽というのは文化だし…時代時代で変わっていくものですねぇ。
nalサンの思春期の頃にはそういう音楽を聴いていたんですかぁ。
σ(´∀`●)もラジオよく聴きました。
オールナイトニッポンとか・・・(´∀`●)ァハー
懐かしいなぁ・・・思春期の頃聴いていた音楽って大人になっても良いものですよね♪
by kafukanomori (2005-02-19 15:55) 

ボクのパパも中学生の頃からベースを弾いていたそうです。
会社員になって全くと言っていいほど触る機会がなくなってしまって
寂しい限りだそうですが・・・。パパのipodにもパパがベースと共に過ごしてきたなつかしの曲がワンサカ詰まっているそうです♪
by (2005-02-19 17:53) 

ルースターズ

辻仁成は、好きではありません・・・。しかし、エコーズは素敵です。
今聴いても新鮮です。でも物書きの彼には賛同できません。
でも、エコーズは好きです(笑)僕もレコードよく聴いてます・・・。
by ルースターズ (2005-02-19 19:15) 

papa007_

♪給食のパンを届けに来る
 君だけが頼り
 お願いだから
 どんなに離れていても・・・

−といったような歌詞の曲が、
確かありましたね(かなり初期の歌かと思いますが)。
エコーズというと何故かその曲が頭に蘇ります。
by papa007_ (2005-02-19 19:40) 

アキオ

思春期の頃に傾倒した音楽って
タブン一生お気に入りサウンドになると思います。
思い出とともに
by アキオ (2005-02-19 21:01) 

tera-youki-3710

bumpの文字に目を奪われ、じっくりじっくり読ませて頂きました。
いつでも自分の心を上手く表現出来ない自分がいて、でも音楽とそこに乗せられた歌詞にすごく共感してあぁこれだなぁ、って思える時が私は一番幸せだなと思います。(bump大好きなので)
by tera-youki-3710 (2005-02-19 22:58) 

nal

>カフカさん
iPod買ってからは特に、何気なくシャッフルでかかったりするので、スゴク新鮮!iPodって時間をとんでくるイメージで、すごい気に入ってます。
>たきゅたきゅさん
前の記事に書いた事がありますが、ウチには今もドラムがあります。でも、さすがに叩くヒマもなければそんな迷惑な事はできません(泣)
>ルースターズさん
に来て頂けましたか!ウレシイ!いつも拝見してますよ!
私も、小説は好きじゃないんですよ。現実感がなさすぎる、昼メロみたいな話が多くて(特に恋愛もの)あの頃はECHOES好きって言うと、けっこう変わり者みたいに思われて恥ずかしかったですよ。でも、私にとってはスッゲーかっこよかった!後期のものもEGGSなんて完成度としては素晴らしいです。
>papa007_さん
そのものズバリデビュー曲じゃないですかっ!なんで知ってるんですかっ!ちょっと古くさいというか、演奏がヘタでアレンジも微妙なヤツです、、(苦笑)でもその初期衝動そのままってのも、私は好きでした。
by nal (2005-02-21 12:51) 

nal

>akioさん
そうそう、好みって根本的なところは変わらないですよね。聞くとホッとしますもん。
>youkiさん
バンプ好きな方がいらっしゃいましたか!ワタシも好きですよ、全部持ってますから。あーゆー無垢で繊細っぽいヤツが好みなんです。「とっておきの唄」なんてスゴイ好き。あと、「ベンチとコーヒー」とか。少し前の「彼女とチョコとコーヒー」の記事のタイトルは、意識して付けました(笑)
by nal (2005-02-21 12:54) 

DB8

ECHOES、車の中でたまに聞きますが何か?(笑)
ってかnalさんとかなり聞く音楽被ってるような希ガス。
スライダースなんて!!堂本兄弟に出てる蘭丸を見る度にorzする自分がいます。
by DB8 (2005-02-21 19:47) 

nal

>DB8さん
あらー!まさか知ってる方が数人もでてみえるとは思ってもみませんでした!ちょっとウレシイ♪ワタシ、結構マニア体質ですから、だいたいのグッズも持ってます(笑)昔のギターキッズはハリーのギターの位置に憧れたもんですよね。←弾けないって(微笑)
by nal (2005-02-22 09:47) 

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