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「銃」 [小説]

中村文則です。彼はこの作品で芥川賞候補になっています(後日別の作品で受賞しました)。当時選考委員の石原慎太郎が「唯一印象に残った作品」と評していて気になっていたんですが、なかなか売っていない。待望の文庫化です。

正直ストーリーはどこかで読んだことあるかなぁと思えるものです。また表現力や緻密さもいろいろ指摘があるように人によっては好き嫌いが分かれるでしょう。でも個人的には非常にのしかかって来る重さを持っている作品だと思います。

私(主人公)はある日「銃」を手に入れます。自殺した死体のそばに落ちていた「銃」を嬉々として持ち帰るところから彼の日常は違った面を持ち始めることになるのです。美しく機能美にあふれた「銃」。道具というものがある目的をもって、思想を持って作られたものであるならば「銃」は人を殺すために作られた一つの道具。初めは好奇心と「銃」の内包する可能性に非常に強く引かれていた(と思っていた)為に気分が高揚し「銃」なしでは生きていけないと思うほどだった彼も、その道具としての「銃」に「使われている」と意識し始めます。きっかけは人を殺そうとしたこと。

ある日猫を撃ち殺したことから一人の刑事に狙われます。彼は「きっと次は人を撃ちたくなる。持っているなら出しなさい。もしくは捨ててしまいなさい」と忠告されます。自分の気持ちを言い当てられた彼は人を撃ち殺すことが「銃」の目的なのであるなら自分はその中にすべてをゆだねなければならないと人を撃つ寸前まで行きます。そのぎりぎりのところで人を撃った先にある「圧倒的な孤独」を感じたとき、「銃」を持つ前の日常に激しい欲求を感じます。と同時に自分が「銃」にとってふさわしくない人間であると悟るのです。

ぎりぎりで踏みとどまって日常に戻る彼。人目につかないところに捨てに行く途中、電車の中でマナーを無視した、彼曰く「人間の屑」にかかわってしまいます。脅しのつもりでおもむろに「銃」を取り出し相手の口に突っ込む彼。相手に「本物じゃねえんだろう」と言われた次の瞬間、最後に「銃」が彼に襲い掛かります。「試してやるよ」

「銃」の目的、思想を現実にした彼は「これは、なしだ」と思うけれど・・・

文庫の解説が非常に的確にこの作品を評しています。

誰しもが持つ鬱積した感情を絶望色で描くこの小説は、読み終わったあと決してハッピーにはなれませんが、この危うさはきっと大なり小なり誰もが持つもので、重い共感を呼ぶのではないでしょうか。

銃

  • 作者: 中村 文則
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫

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