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粋人の隠し湯 [旅の手帖]

            

 

湯の川、谷地頭、大沼、恵山…。

観光名所が連なる函館とその近郊は、

道南屈指の温泉郷としても古くから知られています。

その歴史は、江戸時代にまでさかのぼり、

湯の川温泉で松前藩のお殿様が湯治で病を癒した

…という記録も残っています。

そんな由緒ある湯けむりの街、函館に

食通が集う隠れ湯があるのをご存知でしょうか (・・?

 

JR函館駅から車で約10分。観光旅行のゴールデンコース

である西部地区に隣接する谷地頭(やちがしら)に

その温泉はひっそりと湧いています。 えっ? 谷地頭なら、

公営の立ち寄り湯があるじゃな~い? っていう方も多いでしょう。

しかし、MORIHANAが紹介する温泉は、そこではございません。

ネットの検索で調べても、

あまり情報をたくさん集めることはできません。

ある意味、謎の多い場所でもあるのです…。

 

 

自家源泉から湧き出す湯は強食塩泉で、やや熱め。

潮の香り漂うかけ流しの湯が愉しめる場所は、

閑静な住宅街の一角にあります。

函館の街に北洋漁業の活気が残る昭和47年に

創業した割烹旅館「池の端(はた)」が、そこ。

つまり、天然温泉100%の贅沢な湯浴みは、

宿泊者と会食のために訪れた人だけの特権なのです。

 

                      

創業当時から変わらぬたたずまいの館内の

一角にある浴場は、男女別の内風呂のみ。

今や温泉宿の標準装備ともいえる露天風呂、サウナ、

ジャグジーはありません。小ぢんまりとした浴場にあるのは、

内風呂に惜しげもなく注がれ、あふれ出る湯と

もうもうと立ち上る湯けむりだけ。シンプルの極みです。

濃密な温泉が流れ出す浴槽や床には

湯の花が堆積し、波状の模様を描き出して…。

鍾乳洞を思わせるその景色は、まさに秘湯です。

 

鉄分を含んだ赤茶色の湯は、肌触りが練り絹のように滑らか。

トロリとした湯に全身を委ねていると、

瞬く間に汗が流れ落ちて、体の芯からポカポカに。

額や頬を伝う大量の汗とともに、

体内に滞った毒素までもが出ていくようです。

湯上りの肌は、むきたてのゆで卵のようにツルツル。

女っぷりもぐっと上がった、ような気がするから、

嬉しいじゃありませんか (*^^)v

 

      

 

函館の粋人に愛されてきた秘湯を満喫した後のお愉しみは、

道南の旬の食材を使った月替わりの懐石料理。

宿泊用の和室とは別に設けられた、1階の個室でいただきます。

 

「池の端」の懐石料理は、創業以来、板場を守ってきた

料理人歴45年の料理長が丁寧な仕事を施して、仕上げています。

料理の美味しさは、地元でも定評があり、結納や法事、祝い事など、

家族の特別な日の会食の場として利用する人が多いのだとか。

また、お忍びでやってくる著名人も多いのだと、事情通の地元の人が

こっそり教えてくれました。

 

宮本武蔵をこよなく愛する料理長がめざしているのは、

質実剛健な料理。 食べられない飾りや瓶詰めの添え物を

一切、使用しないのが、料理長のポリシー。

その代わりに、繊細な包丁仕事を施した京人参や大根、

牛蒡、ウドなどの野菜で、季節感が演出されています。

普通の懐石に比べて、野菜が多いのが印象的でした。

 

冷たいものは冷たいまま、温かな料理は熱々で。

タイミングよく次々と繰り出される料理は、ボリュームもほどよく、

いつの間にかすべて、お腹に収まってしまいます (^^ゞ

食べ終えた後に感じるのは満腹感というよりも、

胃も心もほっこりするような満足感でした。

緩急をつけた味付け、絶妙な間合いもまた、

日常では味わえぬご馳走。 普段の暮らしでも真似てみたい

非日常の知恵が、11品のコースにたっぷりと詰まっていました。

 

 

 

3月の献立は、旬のヤリイカを使った握りから始まりました。

細く切ったイカの上には、塩とレモン汁が振ってあり、

イカの甘みと柔らかさがジワッと口の中に広がります。

続いて、前浜産・南茅部産、2種類の真昆布のみで

仕上げた風味豊かなだしと、帆立を叩きくず粉を打ったもの、

菜の花、大根を組み合わせた、早春の趣のお椀。

椀物は、料理人の技量の見せ所とよく言われますが、

滋味あふれる味わいと粋な演出に、

なるほど45年のキャリアがキラリと輝いていました(^^

 

         

お椀の後、さまざまな料理が1~3品ずつ、登場しました。

その中でも、最も印象深かったのが、焼き物(↑)。

この魚、サワラではありません。実はコレ、北の庶民の味でもある

ホッケなんですよっ! 特大の開きでお馴染みのあの魚です。

北海道の大衆魚であるホッケを、

より美味しく、洗練した味わいにしたいと料理長が

西京漬けにして、美しく串を打って焼きあげたもの。

ある意味、意表をついたこの一品を、

ロケで宿泊していたとある著名な俳優さんが大絶賛。

以来、宿泊者用の夕食の定番料理になったそうです。

味噌のまろやかな味わいと脂ののったホッケの旨みが

出遭った一品は、まさに料亭の味。 作り手の愛情と仕事次第で

大衆魚もここまで立派に出世してしまうのです(^^

 

  

  ↑こちらは、タラバの脚で菜の花を巻き、

  ウドを添えた、サラダ。あえて白い器に

  盛ることで、食材の色や質感が一層、映えて。

 

             

              ↑帆立の香り焼きに添えられているのは、かつらむきし

              さっと、炊き上げた大根。甘味噌とおろし柚子を

              つけて味わう、お洒落なふろふき風に仕上げて。 

 

 

                    

食事用個室の床の間や館内の廊下などには、

さりげなく、季節の花が飾られていました。

初夏から秋にかけては、近くの野山で摘んだ

野草や花をたっぷりと竹籠の花器に生けて、

部屋や廊下に飾るのだそうです。

 

こうした生け花をはじめ、掛け軸、香炉、調度品などは、

その月の献立に合わせて変えているそうです。

このため、毎月末は献立としつらえを変えるため、

宿泊も食事もお休みになっています。こうした表舞台には

決して出てこない、手間隙かけた仕事の数々もまた、

粋人に愛される味を支えているのでしょう。

 

創業当時から、建物はほとんど手が加えられていません。

ですから、館内にはどこかノスタルジックな昭和の香りが

漂っています。 設備も当時のままですから、多少は今の時代に

マッチしないところもあります。しかし、それを補って余りある魅力、

もてなしの心がこの宿にはありました。

宿泊は2食付で16,000円。安くはないけれど、湯の川の

大型観光ホテルに普通に泊まるのとそれほど変わりません。

市電と徒歩を利用して、元町観光や夜景見物も気軽に楽しめる

立地も魅力的です。 暖かな時期なら、立待岬への散歩もお勧めですよ♪

 

こんな大人の宿を拠点に、

今年はひとクラス上の函館の旅を、ぜひ…。

 

割烹旅館「池の端」/函館市谷地頭町33-6

  ℡0138-22-3877  毎月末は、休業

  懐石料理(コース)は 6,000円~12,000円・要予約

 

           

 

             ☆彡★☆彡★☆彡★☆彡★☆彡

追 記

 

創業当時から施設がほとんど変わっていない「池の端」。

1階のフロアだけは、若干、リフォームされていて、

美しい灯りの演出が施されています。コメントにも書きましたが、

オーナーの息子さんは建築家で、長いこと欧州、英国で仕事を

されていたとか。リフォーム・プランはその息子さんが手がけ、

和のしつらいにモダンな灯りを多様。

昭和モダニズム香る空間こぼれる、美しい陰影が

訪れたゲストを非日常の世界へといざなうのです。

これもまた、この宿の見どころ、魅力の一つです。

 

 

                  

 

 

 

 

 


nice!(10)  コメント(13) 

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コメント 13

nicolas

はぁ~一泊二日、させていただきました~( ̄。 ̄;)
ホント、そこに行ったような気分にさせてもらえる感じ・・・
美味しそうな、ヤリイカ!!
ウドの香りも漂ってきそうです・・・うっとり・・・

温泉も、伊香保のような鉄分含んだいいお湯。
・・・・って、MORIHANAさん、きむたこさんにパンチな記事ですね・・・
殺生なお話。(-ω-;)ウーン
せめて、きむたこさん、入った気になって読んでね。。。くすん ( ノω-、)
by nicolas (2006-03-13 22:17) 

knacke

↑この記事、顔面にグーはいりました。(号泣)
入った気に・・・、入った気に・・・、泣。
さっきシャワー浴びたんだけど、ご機嫌斜めなのか、
はじめっからぬるかった!(寒)
お食事・・・、もーね、息たえだえよ。
白いご飯片手に持って、見た方がいいよね。
見ながら食べるの。ご飯が進みそうです。(号泣)
by knacke (2006-03-14 07:12) 

ナツパパ

↑きむたこさんさびしそうですね。なんだかかわいそうです(もらい泣き)
 
 今月末は、函館でカシオペアから飛び降りるか、帰りの飛行機をキャンセル
 してJRで帰京するか....ついに追い詰められました(涙)
by ナツパパ (2006-03-14 09:00) 

MORIHANA

にこちゃん>むふっ…、お気に召しまして(・・?
でもダメェよん、読んで行った気分になっているだけじゃ。
函館には古物屋さんもポチポチあるから、ぜひ、遊びにきてねん。
新緑の頃、最高に素敵なテラス席のあるカフェ&パティスリーもあるのよね(^^
つくづく、HAKODATEという街は、素敵な所です。うひっ♪

きむたこさん>毎度、ごめん…。 ワタクシのせいで、ホームシックになったら
どうしませう (._.) でも、ほらっ、あともう少しがんばれば、北欧も素敵な
季節がやってきますよ。 新緑に白夜、美しい湖水の景色。
ベリーなんかも美味しい、らしいし。 もうちょっと経ったら、今度はワタクシが
羨望のまなざしを送ることになるに違いありません。

ホントに、ドラえもんの「どこでもドア」があったらいいのにねぇ (^_^;)

ナツパパさん>なんだか、ワタクシ、今回の記事で益々、悪い人になっている
…ような気がしてきました。 極悪非道(・・? 
でもせっかく、海峡を渡っていらっしゃるなら、寄り道するしかないでしょう(^^
わざわざ、来るのは大変ですけれど、素通りはねぇ。後悔の種ですよ。うふっ。
(…って、また悪魔の囁きですね (^^ゞ )

でも、本当にこの旅館は、まさにいぶし銀のような輝きをもった
函館でも稀有な場所だと思います。よく歴史の街と言われていますが、
なかなか、こうした古きよき時代をしのばせてくれる場所って少ないんですよ。
こういう料理やサービスの価値は、本州の方のほうが分かってくださるのでは
…と、思います。 いつか、機会があったらぜひ、お訪ねください。
by MORIHANA (2006-03-14 10:02) 

Baldhead1010

時間ができたら、予定も立てず人づてに聞いたこういうところに泊まって、ゆっくりした時間を過ごしてみたいものです。
時間と金がふんだんにあれば、一月ぐらいはこういうところをさまよってみたいですね。
by Baldhead1010 (2006-03-14 11:09) 

MORIHANA

Baldheadさん>同感です。 既にいくつか、お気に入りの
宿や街があって、時間のあるときにひょいと出掛けようと
家人とも話しているのですが、なかなか、現実には出掛ける
ことができずにいます。 コレまで仕事でお世話になった方々を
訪ねて、1ヶ月くらいのんびりと道内を放浪するのが、私たちの
夢でもあるのです(^^ とりあえず、2泊の予定で出掛けることから
実現しないと駄目ですね。仕事なら、2泊くらいはいつもしているんです
けれどねぇ。 私用となると途端に予定表がフリーズします(~_~;)
by MORIHANA (2006-03-14 11:18) 

sacro-bosco

おお、池之端ではないですか…うっとり♪
名前は知っていたけれど、行ったことないです。グッスン(T_T)
きむたこさん同様、顔面にグー入りました。
あのホッケがこうなるとは…。
湯の川の上の方に住んでいたので、谷地頭は遠かったわ…
って、言い訳してみる。
by sacro-bosco (2006-03-14 12:18) 

はちみつ

ここに来るたびに、北海道に行きたくなります(T-T)
北海道は豊かですねえ。
美味しい料理と、素敵な温泉宿。
行きたい。というより、必ず行きます!
行く時は、MORIHANAさんのブログを読み返して、
メモをぎっしり書いて行くのです..._〆(゚▽゚*)
by はちみつ (2006-03-14 15:00) 

tulip

うわー!、ここ、絶対行ってやる!。コドモを大人しくさせるのが課題ですが(子供の宿泊不可っぽいですね)
それにしても毎回毎回見目麗しき記事にクラクラ〜。Amazonに「食」とか「旅」のアフィリエイトがあれば、MORIHANAさん、結構小金持ちになっちゃいますよ絶対!(あ、プロの方でいらっしゃいますもんね、あたりまえか。失礼失礼)
by tulip (2006-03-14 16:03) 

hanamiya-okinawa2005

おお!函館美味しいもの特集の後は温泉(^o^)丿
谷地頭公共温泉行った事があります♪いいお湯でした!ちょっと地元のご老人の社交温泉地だったのでリラックスできなかったような記憶もあるけど^_^;
それに比べて池之端はオシャレですね~温泉&懐石最高!
by hanamiya-okinawa2005 (2006-03-14 21:07) 

barbie

ホタテの照り焼きが最高!サウナも露天もいらない。こういう旅館に泊まって、おいしい懐石をいただいて・・・命の洗濯をしてみたいものですな(^_^)
by barbie (2006-03-15 13:03) 

MORIHANA

sacroさん>確かに、車で生活していない限り、
湯の川方面と谷地頭、元町エリアは遠い。生活圏が
違う気がしますね。 今度、函館に行くことがあったら、
ぜひ、訪ねてみてください。 学生時代には出遭えなかった
函館の顔を見ることができると思います(^^

はちみつさん>ぜひ、ねっ♪ お勧め旅行プランの
ご相談もどうぞ、お気軽に。記事にしていないとっておきの
場所もこっそり、教えちゃいますよ~(*^^)v 
まずは、メールでご相談くださいませ。

tulipさん>この宿は、食事の時には一組ごとに専用の個室に
通されますから、子供連れでも大丈夫ですよ。ほかの客さんに
気兼ねすることなく、ゆっくりと家族の時間を楽しむことができると思います(^^
たまには、息抜きしましょう。ねっ♪
ぢつは、ブログ旅部門の真鍋かおりを狙っています…なんてね(爆
記録と記憶に残る旅…。それをこの場所で実現したいです。

はなさん>市営温泉は、朝6時だか、7時から開く、
地元のお年寄りの憩いの場、らしいですね(笑)。
この宿の温泉は、ぐっと小規模ですが、外来の入浴のみは不可なので、
とっても落ち着きますよ。池の端の1階フロアは、イギリスで仕事をしていた
建築家のご子息が照明・内装デザインをしていて(リフォームで)、
なかなか、洒落た雰囲気に仕上がっています。トップ写真のような
洒落た灯りの演出も実はね、見どころの一つなのです。
無理をせず、できる範囲できっちりと手直ししている
…ってところにも、オーナーのポリシーを感じさせられます(^^

barbieさん>帆立の横にさりげなく添えられている大根!
これはねぇ、絶対、barbieさん好みの味だと思うのね。柚子と白味噌の
風味が絶妙なの。ここの懐石は、どちらかというと、京風というよりは
関東風かも…。味が濃いとかそういうことではないのだけれど。
全体の印象がね。 でも、京育ちのbarbieさんも納得のお料理だと
太鼓判。 まさに、お忍び気分で命の洗濯するには、もってこいの
大人の隠れ家ですよ。 いつか、秘密のオフ会でも開きましょう…(*^^)v
by MORIHANA (2006-03-16 11:01) 

ムンチョバ

б~( ̄。 ̄;A  いやぁ、いいお湯でした♪
by ムンチョバ (2006-03-28 16:34) 

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