SSブログ

第六章 生物兵器の禁止 [軍縮・不拡散問題入門]

順調に第六章へ。今日もblogに繁栄されない閲覧数が…。so-net blogの故障かな?


軍縮問題入門

軍縮問題入門

  • 作者: 黒沢 満
  • 出版社/メーカー: 東信堂
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 単行本

 

第六章 生物兵器の禁止

第一節 生物兵器禁止の意義

生物兵器が国家レベルで開発製造されるようになるのは、1930-40くらいで特に米ソで開発されたのは人為的な感染症を意図して作られている。

兵器としての生物兵器の基本構成要素は、「撒布に適した」形状に加工された病原体、目標まで送り届ける「運搬手段」である。

その他、効果的な防護手段、目標地域の気象分析能力、専門家、研究施設も重要であり、こうしたシステムの中で生物兵器が生み出されることに留意し、軍縮を行わなければならない。

WWII後、生物兵器開発を推進した主要国は米ソであるが、米国についてはニクソン大統領が攻撃用生物兵器の廃棄、防御目的に限定を決定した。ソ連は国家解体に至るまで大規模な生物兵器の開発を行っていたとされる。

1992年にエリツィン・ロシア大統領は国内においてBWCに違反するような活動を全て停止させた。英国・仏国も冷戦中に生物兵器開発を放棄している。

このように主要国においては生物兵器問題の重要性は失われつつあるが、近年は途上国、テロなどに対する拡散問題、国際的に憂慮されている。

1990年代半ばに国連イラク特別委員会はイラクの生物兵器開発を認めているし、南アフリカの白人政権も開発を行っていた。その他、中国、北朝鮮、イラン、シリア、リビアも疑惑国とされてきている。わが国においてはオウム真理教が炭素菌などを用いたバイオテロを企てていた。9.11テロ後の米国でも炭素菌事件が発生しており、バイオテロの脅威が現実のもであることを印象付けた。

 

第二節 生物兵器禁止条約BWC

生物兵器に対して初めて明文で規制を行ったのは1925年のジュネーブ議定書である。しかしこの条約は生物兵器の保有そのものまで禁止していない。

WWII後、生物兵器は化学兵器の禁止とともに軍縮委員会で議論されたが、西側諸国が分離アプローチを提唱し、米ソが支持したことから生物兵器禁止条約への流れが出来上がった。

第26回国連総会決議を経て、1975年生物兵器禁止条約が発効、現在加盟国は150カ国以上にのぼる。

 

内容

BWCは1条(一)で「防疫の目的、身体保護の目的その他平和目的による正当化できない種類および量の微生物剤その他の生物剤またはこのような種類および量の毒素」を

「開発せず、生産せず、貯蔵せず若しくはその他の方法によって取得せずまたは保有しないこと」を締約国に義務付けている。

第二開催検討会議では、近年発達する遺伝子組換技術、バイオ技術の発展を鑑みながら、こうした分野にもBWCが適用されることを確認している。

また1条(二)では「敵対目的のために又は武力紛争において使用するために設計された兵器、装置または運搬手段」についても開発、製造、貯蔵などの禁止を締約国に義務付けた。ただし弾道ミサイルの推進装置はこの定義に含まれないと理解されている。

尚、本条から身体防護目的・防疫目的の研究・開発などが除外されているが、「擬剤」のように目的の判断が困難場合がある。

そこで再検討会議では透明性確保のために情報交換を行うことに合意した。

 

締約国が第1条に該当する生物兵器などを持っていた場合9ヶ月以内の廃棄もしくは平和目的利用が義務付けられる(2条)。

他者による移譲、そのた支援も禁止される(3条)。

締約国は自国の憲法の手続きに従った条約の国内的実施が義務付けられている(4条)。

 

但し、BWCはCWC化学兵器禁止条約を異なり、検証措置が存在しない。これは交渉時、当事国が生物兵器の軍事的価値を低く見ていたこと、ソ連などが検証に消極的態度を採っていたことになどによる。

せいぜい、締約国は後に生じた問題について相互に協議することを約束したに留まり(5条)、締約国が他国の義務違反を認めた場合、安保理に苦情を申し立てることができるが(6条)、こうした規定では締約国の義務違反を抑止できなかったことが後に明らかになる。

 

第三節 生物兵器禁止条約の実施

70s~80sにかけてBWC違反が疑われる事件が発生する。ソ連スベルドロフスクにおける炭素の流行、および東南アジアやアフガンにおける毒素兵器使用疑惑である(黄色い雨事件)。

スベルドロフスクについてはソ連は否定したが、後にエリツィンが事実を認めている。

黄色い雨事件では米国がソ連圏諸国は批判したが、ソ連などはこれを否定した。

こうした論争の中、米国はBWCが実効性のない条約ではないかとの疑問を呈した。米ソ両国がBWCに対して不信感を持つことは条約体制を弱体化させる事態である。

生物兵器の懸念が強くなった時代背景と相俟って、再検討会議などの場で条約の強化が取り組まれるようになった。

第二回再検討会議では信頼醸成のために情報交換が提案され、一定の評価が得られたが、提供される情報が不十分であることが問題点として批判された。

第三回再検討会議では検証制度の導入の動きも見られた。1994年条約の実効性確保と履行状況改善に向けて法的文書を協議するアドホックグループの設立に合意した。

ここで問題になったのは、生物兵器の特質を念頭に置いた履行確保措置の確立、バイオ業界などが懸念する企業秘密漏洩の防止、国家安全保障上の機密保護、制度運用に当たる国際機関の権限、非同盟諸国が平和協力を先進国から経済援助を求める手段として悪用しないか、、オーストラリアグループの定める輸出管理措置についての基準がなどが非同盟諸国にも適用されてしまうのではないかといった懸念、である。

アドホックグループの活動は中々進まず、第五回再検討会議(2001年)においても交渉の土台とされたローリングテキストには未だ未解決の部分が多く、交渉国の意見がまとまらなかった。

2003年から2006までの第六回再検討会議では条約強化に関連した事項を順次検討することとされているが、肝心の、条約強化を目的とした協力体制を同構築するか、という部分について合意が未成立である。

 

第四節 生物兵器の禁止の展望

エリツィン大統領がBWCに違反するような計画の停止を命じた後も、米国は懸念を捨てなかった。そこで米英露三国の政府高官は共同声明を発表、条約の完全遵守を確認した。

しかし、軍事施設の訪問に関してこう着状態に陥り、生物兵器施設への総合訪問なども行われていない。

生物兵器計画に利用されるおそれがある汎用装置、微生物・毒素などの国際移転については、オーストラリアグループが、共同管理リストの見直しを行ってきている。さらに大量破壊兵器、運搬手段、関連資材の移転、移送阻止を目的とした「拡散防止構想PSI」を提唱したことを契機に、PSIに基づく国際的協力の構築も開始された。

 

現在BWCの強化に向けた動きに展望が開けない。現状ではBWCの弱体化を防止するために締約国に実現可能な措置を組み合わせていくことが求められる。

また生物兵器に開発・製造を確認すること自体容易ではない。国連は10年以上わたりイラクの生物兵器計画を調査してきたが、秘匿されている生物剤、施設を発見できていない。

検証することが難しい場合、米国など強力な軍事力が強制的に武装解除を行うインセンティブを高めることになる。しかしこうした一方的行動が多国間交渉を通じて行われてきた軍縮・不拡散体制の強化に資するとはいえない。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。