「決着?」東シナ海ガス田問題 [国際法・国際関係]
今日は長い間続いた東シナ海問題を国際法から見た結論を見てみたいと思います。
本件紛争がICJにおいて審判された場合の結論はどうなるのでしょうか。ICJの判例を分析すると、これまで義務的でないとはのべてきたものの、向かい合う国の境界紛争である本件紛争において、日中中間線が暫定的な線として引かれると考えます。そして、その後に関連事情が考慮されることとなると思います。
よろしいでしょうかあくまで「暫定」です。まちがっても決定してませんし、原則ですらありません。
地理的要因として、海岸線の距離による均衡が問題となるとおもいます。
リビア・マルタ等、諸判例においても境界線を島側に動かす要因となっている。中国側も大陸と島という関係からくる不均衡を主張しているようにおもいます 。
しかし、これらの判例において問題となったのは一つの孤立した島と大陸の関係の話です。
判例では言われていないので、試験になりますが、日本のように島々が鎖状に連なっている場合、これを一つ一つの島ごとに考えるのではなく島々を全体として捉えるべきであるとも考えることもできるように思います。
これまでの判例で海岸線の距離による均衡が問題となっていたのは、大陸(でかい島)とひとつの小さな島で、中間線は小さな島が欲張りすぎだろう、ということでしたが、日本の場合では少し事情がことなってくるのやも知れません。
この点は判例でも言明されておらず、新たに考慮されるべき点であると考えます。
非地理的要因としてはガス田の問題があります。
ICJは石油・ガスが「事情により」考慮されることを認めています 。
しかし、同時にそれは「すでに知られたか容易に確認しうる」ものでなければならないことも述べているのです。
資源の存在に依拠しすぎると、後に別の資源が発見された場合に事後的にICJの決定が妥当ではなかった、ということになりかねず、ICJはこれを危惧していると思われます。
従って、ICJが資源についての考慮を明確にするのはなかなか無いように思います。
しかし、まったく無視するとは考えられません。とくに春暁ガス田に見られるようにガス田は確かに存在しており、それが両国にまたいでいる場合、かつ、当該ガス田がどこまで伸びているかが不明の場合が問題となります。
現時点で春曉ガス田がどこまで日本側に伸びているのかが明確ではありません。
しかし、本件紛争最大の問題であるガス田を無視して判断はできそうにありません。ICJは明示的に言及するかはともかく、問題となっているガス田をどちらか一方に独占させることは無いように思います。かかる判決は衡平を達成できないように考えるからです。
すると、あまり中間線を東に移しすぎるとガス田を中国に独占させることになってしまう危険があるので、中間線が大幅に移ることは内容に思います。
安全保障も殆ど考慮されることは内容に思います。歴史問題などは論外です。
国際法違反?
ところで、境界画定についての考察は以上のとおりで終了ですが、これと平行した別の問題として中国は国際法に違反しているか、ということが問題となります。たしかはじめにも問題を提起したように思います
もし違法であれば日本は中国の行為を対抗措置等によって是正するための法的根拠を得ることになります。
中国が日本の主権を侵害した、日本が主張するのは難しいように思います。
日本では中国が開発しているガス田が日本の主張する大陸棚までつながっているから、一方的な開発を認めることはできないという主張をするものがいます。(中川前経産相の「ストロー」論など)
しかし、実際問題として、果たして本当にガス田が日中にまたがっていて、中国が現在開発してるのはまさにそのようなガス田であるのか、ということについては不明確な点が多いというのが実情のようです。
国際法の一応法ですから、違法を立証するには、客観的な証拠が必要になります。実際町村前外務大臣は違法の立証は現時点で困難という見解を示しています。
これは今まで日本側で十分な調査を行ってこなかったことが問題、ということになるのかもしれません。
つまり、蓋然性は高いものの、日本は科学的な調査がいまだ不十分に行ってこなかったがゆえに、それを科学的に立証できていない、ということです 。
また、ガス田が日中の境界線をまたがっている、という蓋然性についても、エーゲ海大陸棚事件では、行為の違法性は境界画定の後に論じられることであるとしており、現時点で蓋然性を根拠に中国の行為の違法性を立証するのは困難であると思われます 。
しかしながら、中国はこの海域についてかなりの調査を行っています。とすれば、現在開発しているガス田がどのような範囲に分布しているかはわかっている可能性は高いでしょう。
中国は春暁のガス田は日本の主張する中間線より東側にはない、と主張していますが、もしガス田が中間線をまたがっていることを知りながらそうした主張を行っているのであれば、そのとき、信義則上の違反を免れないと思います。
加えて、国連海洋法条約は境界画定ついて、合意を最も重要視し、そのための交渉を求めている。中国の一方的行為は国連海洋法約83条などに規定されている誠実交渉義務に違反する可能性があるでしょう。
ということで東シナ海ガス田問題を国際法からみる、ということを国際法から見る、という企画は終了です。マニアで無駄に長い議論でした。
境界画定において明確な結論を得ていませんが、おそらく国際法廷に行けば、10キロ以上は日本側にずれるのではないでしょうか。
僕が言いたいのは、だから中国に譲歩しようよ、ということではありません。
こうした客観的な情勢を踏まえたほうが良い、ということです。よく国際法廷いってょうが良い、中国は国際法を無視している、ということを言う人は見ますが、以上のようなことは知ってて述べているのでしょうか?
このへんのことも考えてほしいですねー。
そういえば、二階経産省が訪中するそうで。どうなるのでしょうか。
以上終了。
こんにちは。記事を読ませていただきました。お伺いしたいのですが、排他的経済水域を決定する場合に、両国が合意によって定めるのが原則だと思うのですが、この根拠となっている海洋条約の条項は何条があたるのでしょうか?教えていただけませんか?
by 自由 (2006-03-12 15:25)
2以上の国家の排他的経済水域の境界画定は国連海洋法条約74条、
同じく大陸棚の境界画定は国連海洋法条約83条になります。
合意の場合はどのような境界にしても問題ないです。
国連海洋条約の第五部(排他的経済水域)、第六部(大陸棚)にそれぞれ規定がありますので、
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/7009/m0008330.htm
を参照されると条文の日本語訳を見ることができます。
by mof (2006-03-14 08:00)
教えていただいてありがとうございました。どうしてマスコミはこのことを殆ど報道しないんですかねー テレビに出てくるコメンテーターがいかに勉強不足でいい加減か良くわかる事例です。
by 自由 (2006-03-15 19:03)
トラックバックさせていただきました。よろしければ御一読ください。
by 自由 (2006-03-23 12:16)
TB有難うございます。読んでみました。コメントはそちらに書き込ませてただきます。
by mof (2006-03-23 13:17)